南極『ゆうがい地球ワンダーツアー』こんにち博士×端栞里×門田宗大×佐伯ポインティ インタビュー

9月4日(木)より南極の第8回公演『ゆうがい地球ワンダーツアー』が開幕する。本作はさいたま彩の国芸術劇場との提携公演で、大人も子どもも超視覚的に楽しめる“ビジュアル演劇”を新概念に掲げて創作。高校生以下割引をはじめ、未就学児の託児、大人と小学生のペアチケット割を設けるなど、観劇アクセシビリティにおいても工夫が凝らされている。合言葉は、“どきどき、わくわく、ちょっとこわい!”。「子どもの頃から死ぬことが異様に怖かった」と言うこんにち博士が「死」をテーマに、不死身の異星人による死ぬための、しかし誰も死なない地球旅行をスペクタクルに描く。

南極の新たな代表作として話題を呼んだ前作『wowの熱』からガラリと変わって、今回は端栞里、古田絵夢、井上耕輔、ユガミノーマル、瀬安勇志の劇団員に加え、門田宗大、岡本ゆい、藤井憂憂、ミワチヒロ、佐伯ポインティの5名が外部出演として名を連ねた。稽古後に感じる本作の、そして南極の演劇の魅力とは? 作・演出を手がけるこんにち博士、主人公を演じる端栞里、南極の演劇に想いを馳せる門田宗大、舞台初出演となる佐伯ポインティの4名に話を聞いた。

「太っているキャラもいていいはず!」by佐伯ポインティ

―劇団員のみで取り組んだ前作『wowの熱』から一転、今回は個性豊かな客演のみなさんも出演されます。まずは、企画の経緯や作品の着想からお聞かせいただけますか?

こんにち博士(以下こん) 今回のコンセプトは子どもから大人まで楽しめる演劇。独自の概念として“ビジュアル演劇”と銘打って、多少難しい台詞があっても視覚的な魅力で存分に楽しめる作品を目指しています。その上で、「物語のテーマは子どもを対象にした演劇では扱われにくいものにしたい」という思いがあり、「死」をテーマにしました。というのも、僕が幼少期に「死ぬこと」が異常に怖かったんですよ。だからこそ、そこを土台に演劇を編んでいきたい思いがありました。楽しさにちょっと怖さもプラスして、大人も子どももギョッとするものを作っていけたらと思っています。

 私もずっと子どもに向けた演劇をやりたいと思っていました。個人的な目標の一つとしても「NHKのEテレに出る」を掲げているくらい関心があって…。お姉さんじゃなくて、キャラクターの方で出たいんですよね。オフロスキーとか、絶妙に可笑しなキャラクターが自然にいていいなあって思うんです。これはEテレを見ていても、今こうして稽古をしていても思うことなんですけど、自分の身近に小学生がいないから、このノリにどこまで乗ってくれるのか、どれだけ反応があるのか、演劇をどういう体で見るのか、といった生の反応が全くわからないから、みんなで探り探り作っているんですよね。でも、その過程がすごく楽しい! 子どもっていろんなことを豊かに受け取ってくれるから、私自身も未知の世界になりそうで今から開幕が楽しみです。

―子どもに向けつつ、対等な眼差しで創作されていることが伝わる劇団員トークでした。たしかに子どもにとっての「死」は壮大でありながら身近だったりもしますし、思いの外多くのことを受け取ったりもしていますよね。俳優陣も個性豊かな面々ですが、キャスティングの決め手は?

こん 岡本ゆいさん、藤井憂憂さん、ミワチヒロさんの3人は過去作にも出てもらっているのですが、門田(宗大)さんとポイちゃん(佐伯ポインティ)は今回が初めて。門田さんは南極のイメージと近しい存在という風に勝手に思っていて、「お芝居のムードやビジュアルのマジカルさなど、持っている雰囲気が南極の演劇に合うな」と思ってオファーさせてもらいました。ポイちゃんはその逆で「南極と一緒にやった時のイメージが未知数で新しい扉が開けそう」っていう気持ちがあったんですよね。

佐伯 経緯を話すと、舞台から俳優をやりたいという話をテレの大森時生さんに話したら、「南極が合うんじゃない?」と言われたのがキッカケです。南極の演劇は面白くて大好きだったので、思い切って、こんちゃん(こんにち博士)に連絡して「出たいです!」って伝えたんですよ。「次の公演がちょうどタイミングいいかも」ってなって…。

こん その時のポイちゃんのプレゼンがすごく説得力があるものだったんですよ。「こんちゃんはキャストに当て書きをしていると思うんだけど…」っていう切り出しから始まって、「でも去年の『バード・バーダー・バーデスト』は多様な恐竜の高校生たちの話だったのに、太っているキャラクターが一人も出てこなかったよね。太っている子も出てくるべき!その方が豊かだと思う!」みたいな感じだったんです。

佐伯 南極の持つ面白さって、一つの世界にいろんなキャラがいることだと思うし、それはいろんな俳優がいるということだと思うんです。だから、「そこに太った人がいないなら自分がいきます」という感じで手を挙げたんですよ。そしたら、こんちゃんが「それはたしかにそうだ!」って…(笑)。元々漫画編集者をやっていたこともあって「自分が面白いと思う作品の一部になりたい!」っていう気持ちがすごく強くて、俳優ならそれが可能なのでは、と思ったんですよね。

こん いやあ、あれはめちゃくちゃ納得させられましたね。

門田 僕も『バード・バーダー・バーデスト』で南極の演劇を初めて観ました。タイミングを逃していてやっと観劇が叶ったんですよね。2年にわたって出演していた『ハリー・ポッターと呪いの子』のマルフォイ役が終わったばかりの頃で、「この先どうしようかな」と少し元気をなくしていた時期だったんです。気持ちが沈んだ時は大抵演劇や映画を観て救われたりするのですが、2年という時間があまりに重く、何を観てもなかなか気持ちを取り戻せなかったんです。そんな中、『バード・バーダー・バーデスト』でやっと抜け出せたんですよね。めちゃくちゃ救われました。帰りの車内でいつまでも涙が止まらなかったことをすごく覚えています。

こん 門田さんにそんな風に言ってもらえて、すごくうれしいです。

門田 佐伯さんも仰ってましたけど、僕も南極の持っている空気感自体がすごく好きなんですよね。子どもっぽいわけでは決してないのですが、童心を刺激するワクワクがあって、自分の好きな世界観とドンピシャなんです。だから、出演が本当に嬉しかった。

こん 門田さんのお芝居は所属劇団であるエリア51でも拝見していたんですけど、どの演技でも幼さが感じ取れるところが魅力的だなって個人的に思っていたんです。それもまた演技が子どもっぽいとかそういう意味ではなく、大人の芝居をしている時も根底にあるあどけなさが表情や佇まい、仕草の中に垣間見える感じがあってすごく好きだったんですよね。なので、門田さんがそういう角度で南極にシンパシー感じてくれているのは僕もすごく嬉しい!

死ねない異星人が「死」を求めて地球にやってきて…?

―佐伯さんと門田さん、それぞれの南極との出会いや稽古場に来るまでの歩みも垣間見える素敵なエピソードです。この流れでぜひ皆さんがどんな役柄を演じるのかも教えて下さい。

佐伯 小学校の頃に行った修学旅行で動物園のシロクマに一目惚れして動物園の寒いエリアのちっちゃい冷凍庫みたいなところにずっといる、という役です!(笑)

こん 基本的には異星人と地球人が出てくる話なんですけど、そのツアーの道中でさらにいろんな未知なる生き物に出会う、という構成になっているんですよ。ポイちゃん演じるポウもその一人です。

佐伯 イメージで言うと、映画の『ジュラシック・パーク』とか『ジュマンジ』とかの、危ない世界の中になぜか住みついて、、外を知らないまま大人になっちゃった感じのキャラクターなんですよ。でも、自分もずっと実家でYouTube撮ってたんであんまり変わらないかなって…(笑)。実家の部屋もすごく狭いですけど、「狭そうな部屋で狭いと思わずに楽しそうに過ごす」のが得意なので大丈夫だと思います! 職業柄、自分の世間的なイメージのデフォルトも大体四角の中に収まっているのですが、こう見えて座った時の感じとか意外とこじんまりできるので、その様子も是非生で見てほしいですね。

こん たしかに、こうやって改めて聞くと、なんか、あえてそうしたみたいに、よくできたキャラクター造形ですね(笑)。全然意識していたわけではなかったんですけど…。

佐伯 そう。それもすごいわかる、絶妙なラインなんですよ。「こんちゃんの無意識に自分が取り込まれるとこんな風に出力されるのかー!」っていう驚きがすごくあってワクワクしました。「南極の演劇に自分がいたらどんなキャラクターかな」って思っていたので嬉しかったですね。あと、ユニークな設定ではあるんですけど、子どもならではの利発さを感じるキャラクターでもあって、そのギャップも面白いなって思いました。

―佐伯さんの動画は背景も賑やかで楽しそうなので、冷凍庫がポウによってどうカスタムされるのかも含めて楽しみになりました(笑)。門田さんはどうでしょう?稽古を拝見した限り、前作のエリア51『あれ、なんかディレイする涙』とはまた全く違う役どころですが…。

門田 そもそも星から違うんですよ(笑)。僕は「シネナイ星」から地球に突然転がり込んできたシネナイ星人のラクダを演じます。不死身で、「死」を感じにくい星で育っているがゆえに「死」への興味や憧れが強いんです。そんな中で「地球はとても有名な、“死のある国”で危険がいっぱいあるよ」という触れ込みを聞いてやってきたんですよね。キャラクターとしては『ドラえもん』で言うとのび太くん、『クレヨンしんちゃん』で言うとまさおくんという感じ。頼もしい主人公という感じではなく、結構こわがりですよね?

こん そうですね。でも、「強いこと」に憧れてはいる、みたいな…。

佐伯 もしかして、「一人だけ恋をしている」というのも、まさおくんとの共通点じゃない?

こん あ、それで言ったらのび太くんも!

 たしかに!

門田 そうなんです。恋もします(笑)。

こん そんな風に不死身の異星人たちが「死」の理想像を掲げながら、地球のいろんなところをツアーして個性豊かな生物に出会っていくんですけど、そもそも異星人が転がり込んだ場所が栞里演じる主人公・星少年の家なんですよね。

 星少年は10歳の人間なんですけど、「人が死ぬこと」に強い興味があるんですよ。だから、「死」を求める異星人を案内するガイドとしては打って付け。なのですが、実際は自分の好きに動いているだけでガイドをしていないのではないか、という…(笑)。そういうキャラクターです。あと、異星人のイメージってアニメやイラストなど色々あるけど、本来は人間が想像し得ないものなんじゃないかなって思うんです。自分が想像できる範囲外のもの、絶対に私の想像しているものじゃない。そう信じながら人間を演じています。

―ツアーメイトの中に死ぬ体の人と死ねない体の人がいる。その段階から惹きつけられるものがありますね。劇場のあの円形の空間との親和性も見どころになりそうです。

こん 今回こうして提携公演が実現したのですが、元々「さいたま彩の国芸術劇場の小ホールで演劇をやりたい!」という思いはあって、その理由は「劇場のフォルムが宇宙船みたいな形だな」って思っていたからなんですよね。だから、自ずと異星人が出てくる話になった。もう一つ、今までと大きく違うのはやはりサイズ。今までは、劇場のサイズに南極の物量が収まりきらなくて葛藤の末切り捨てる、みたいなことが多かったんですけど、今回はむしろ「もっと埋めないと!」ってなっているんですよ。

 毎日事務所で小道具や美術を作っているんですけど、今の段階ではまだまだって感じですよね。

こん そう。でも、その感覚がすごく楽しい! いくら物を大量に作っても余っちゃって、劇場をもっと埋めたい気持ちが新鮮というか、足し算って久しぶりやなって(笑)。

 たしかに! 私はちょうど8月に『ほぐすとからむ』という作品で初めてさいたま彩の国芸術劇場の小ホールの舞台に立ったんですけど、劇場に入ったその瞬間から本当にワクワクするような空間なんですよね。あの場所で南極の演劇が出来るのがすごい楽しみです。

佐伯 来週からの稽古で通えるのがすごい楽しみ!

門田 劇場で稽古できるのは、やっぱり嬉しいですよね。

こん 宇宙船みたいな形だとか、照明が一気に暗くなるとか、奥の大きな扉が開くとか、やっぱり劇場の特別な機構って子どもに限らずワクワクしますよね。そういう演劇の初歩の面白さを丁寧に活用しながら作っていきたいと思います。

「“絶対無理”を実現してしまう南極のバイブスが好き」 by門田宗大

―前作『wowの熱』、そして今日の稽古を経て、南極の稽古場でのアイデアの多さに改めて驚かされました。いろんな人から折々の色や角度のアイデアが飛び出し、それにみんなで一回取り組むという風景にもグッときますし、それ自体が「人と人とのコミュニケーションの豊かさ」でもあるとも痛感させられます。最後に、みなさんが今、日々の稽古で感じていること、今後の稽古で挑戦したいことをお聞かせ下さい。

佐伯 観客の一人として南極の作る世界観や笑いが大好きだったんですけど、いざ創作に参加したら、「こんな風に作っていたのか!」という驚きの連続でした。脚本が稽古や演出によって肉付けされ、イマジネーションが湧いているのを目の前で見られる。「こうやったらもっと面白くなるかも」という提案自体が聞いていて楽しいし、それで実際にどんどん面白くなるってすごいことですよね。あと、こんちゃんって、演出の伝え方が面白いんですよ。擬音語もいっぱいで、なんか、さらっとコミカルに動いて伝えてくれる。漫画というか人間コンテみたいな?

門田 身体能力も高いですよね。あと、表現技法もめちゃくちゃ豊かだから、言葉だけでは分からない動きとかもダイレクトに伝わる。

こん コンテっていうのはたしかにしっくりくるかもしれないです。俳優さんもいろんな個性とスタンスの人がいるから、「こういう風にやって」と具体的に言われるのが合わない人もいるし、逆に言ってほしい人もいるじゃないですか。だから、演出方法自体は一人一人によって変えたりします。もちろん、「こうやったらもっと面白くなるかも」は都度みんなに共有するんですけど…。

佐伯 でも、見ていて楽しい演出はやっぱりいいですよね。脳から映像を直接出力できないから、なんとか自分の体を駆使して音と動きでやっている。こんちゃんはそんな感じがする。なんか、脳を見せてくれている感覚になるんですよね。だから、演出家というか、「ああ作品をおもろくする変な人が来た」って毎回思っちゃう(笑)。

門田 あと、「こういうことがやりたい」と伝えてくれる時の言葉がセリフみたいに光ってて、ニュアンス的には「海賊王に俺はなる!」みたいな言葉がどんどん出てくる感じ(笑)。その姿を見ていると、「無邪気さ」じゃ片付けられない、純粋で強いものを感じるんです。言語化が難しくて、今パッと出てきたのが「無邪気さ」だったんですけど、やっぱり純度の高い無邪気さがこのチームの、そして劇団の魅力なんだろうなって思います。

こん あんまり意識はしていないというか、半分ボケのような感じで言ってみていることもあったから、そんな風に見えていると思ったら嬉しいし、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。劇団員だけの稽古でも「普通に演出つけてもつまらんかな」とか「ちょっと空気がかたいな」って思った時に、それ絶対無理やろってことをわざと言ってみるみたいな、劇団内コントみたいな瞬間があるんです。その延長を少し丁寧めにやってみた、くらいの気持ちもあったりします。

 いや、でもその「絶対無理やろ」みたいな演出を「絶対無理やろ、と思いながらボケで言ってる方のやつやなあ」とは思いつつ、いざ劇団員でやってみたら「意外といけるやん、面白いやん!」ってなって、そのまま採用することが結構あるんですよ(笑)。だから、言うだけ1回言ってくれることで作品の可能性は広がっている。それって、メンバーとしてもキャストとしてもすごくありがたいです。

門田 そうですよね。いざ稽古に参加させてもらってつくづく感じます。普通だったら諦める、絶対無理って思ってしまうようなことに真剣に取り組んでいること、しかもそれを実現させてしまうこと。僕はその南極の熱量とバイブスが本当に好きなんです。

こん 今改めて痛感しているんですけど、南極の現場って「1回やってみよう」って言ってくれる人たちの集まりやと思うんです。僕がポロッと言ったことでも、「それは無理」と即答するのではなく、こうして客演さんもスタッフさんも含めて、みんなで「もしかしたらできるのではないか?」を真剣に考えてくれる。それが何よりあ大きなことだと思います。今回もそんな風に稽古をしながら、新たな“ビジュアル演劇”を作っています。子どもに届けたい作品なので当然子どもの目や耳は意識しつつ、同時に子ども騙しにはならないように。ただ子どもに優しいだけの作品を作っても心には残らないと思うんですよね。なので、“どきどき、わくわく、ちょっとこわい!”。そんな仕上がりにしていけたらと思います。

文/丘田ミイ子