
10月5日(日)よりKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにてオーストラ・マコンドー『ちゃんと死にふれる』が開幕する。脚本にはオーストラ・マコンドーの主宰・倉本朋幸のほか、倉本も出演した映画『辰巳』の小路紘史監督、劇団員のカトウシンスケの主演映画『誰かの花』の奥田裕介監督も参加。演劇と映画を越境した新たな試みに双方からの注目が集まっている。
物語の舞台は、とある地方の漁師町。娘と暮らしていた父が、行方不明になって9ヶ月後に突如帰ってくる。しかし、本人と同じ姿かたちをしたA Iとしてー。
父・ひろ役を『ケンとカズ』をはじめ多くの話題映画にも出演するカトウシンスケ、娘・安役を映画『ミッドナイトスワン』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、今作で初舞台を踏む服部樹咲、父子と深く関わる葬儀屋の友人役を『辰巳』で高崎映画祭最優秀主演俳優賞を受賞した遠藤雄弥、そして、謎の霊媒師役を会話劇初挑戦となるチャンス大城がそれぞれ演じる。
AIと人間の関わりと、それによって変化する死生観。そして、死者と話せる時代の「弔い」とは? 濃密な4人芝居に挑むキャスト4名に本作の魅力や見どころについて話を聞いた。
フィクションだからこそ “ふれられる”ものを
――まずは本作の出演が決まった時、台本を読んだ時の感触からお聞かせ下さい。
遠藤 ここはやはり劇団員の(カトウ)シンスケさんからと思うのですが、シンスケさん、オーストラマコンドーでは何本目の舞台になるのでしょう?
カトウ もはや数えていないからわからないけど、そう言われてみれば結構な数になりますよね。劇団が15年目だから。でも、これは毎回のことなんですけど、「こういう話になる」って最初に聞いていた構想から大体違う話になるんですよ。だから、今の段階ではまだ内容を完全には信用しないようにしている節があります(笑)。
遠藤・服部・チャンス あははは!
カトウ というのはまあ冗談なんですけど、僕と倉本は同じ歳で、10年以上一緒に作品を作ってきたのですが、今回の台本を読んで「歳を重ねたんだな」としみじみ感じたんですよね。30歳くらいまでは、自分たちのしんどい人生をそのまま演劇にしていたようなところがあったと思うんですけど、倉本も40半ばに差し掛かって、先の短さを意識するじゃないですけど、こうして「死」を扱ったりだとか、人生とともに創作のテーマがシフトしていくことを感じました。同時に、年齢に限らず触れざるを得ない題材でもあると思うんですよね。誰にも当然やってくる「死」というものを1回ちゃんと考えてみる。そういった作品になると思うので、楽しみでもあり、怖くもあります。
遠藤 個人的なお話をさせていただくと、僕とシンスケさんは映画『ONODA 一万夜を越えて』で共演させていただいてから、公私ともに仲良くさせてもらっていて…。先輩でもあるし、今やバスケ友達でもあるんです(笑)。倉本さんとも映画『辰己』で俳優として共演をさせてもらったのですが、演出家の倉本さんとご一緒するのは今回が初めて。「シンスケさんと倉本さんといつか一緒に演劇をやりたい」っていう展望は内々でずっと話していたことでもあったので、今回ようやく形になって、まずすごく嬉しいです。さらに、服部さん、チャンスさんという素敵で才能溢れる方との新たな出会いもあり、このメンバーでやる4人芝居が一体どんなものになるのか、まだ想像がつかなくて楽しみです。
服部 私も『辰巳』が大好きだったので、お話をいただいた時はすごく嬉しかったです。台本には小路さんと奥田さんも参加されていて…。カトウさん出演の『ケンとカズ』もリバイバル上演に観に行ったりしていたので、スクリーン越しに「いいなあ」と思っていた方たちと一緒に舞台ができること、しかも初舞台でご一緒できることが本当に嬉しかったです。
チャンス いやいや、服部さんもそうですし、みなさんバッキバキの演劇や映画で活躍されているすごい人たちなんで、自分はまずは足を引っ張らないようにしないといけないなと…。さっきもちょっと読み合わせをやったんですけど、やっぱり自分はお笑いのコントしかしたことないから、なんかちょっと、なんて言うんやろな、めちゃくちゃ胡散臭いんですよ。まあ霊媒師役なんで、そんなに自然な芝居じゃなくてもええのかもしれないんですけど。正解がまだ分からない状態でいるので、じっくり皆さんにご指導していただきながら進められたらいいなと思ってます。
服部 私、チャンスさんの動画もいろんなところで見ていて…。そんなチャンスさんが霊媒師役っていうのも面白いし、共演が楽しみです。
チャンス 霊媒師役なんて初めてですよ。知り合いにはいるんですけどね。一回「大城さんの家には女性の霊がいる」って言われて見てもろたことがあるんです。普段は岩手県にいる予約の取れない霊媒師の方が「東京行くついでに行きますね」って来てくれたんです。冬で暖房ガンガンにしていたんですけど、「ここにいるよ、触ってごらん」って言われたとこ触ったら、ほんまにそこだけめちゃくちゃ冷たかったんですよ。ほんで、「ここに顔があるから」って言われてね、こうやって(手をどんどん上に上げながら)触ってね。結構大きな人でしたわ、身長。
遠藤 いや、漫談始まっているじゃないですか!
カトウ 役に関する何かの話に繋がるのかなと思って聞いてたら…!
チャンス でもね、こういう経験もね、ちょっと参考にしつつ頑張りたいですね。
服部 どんな霊媒師になるか、楽しみです。私は、これまで演じた役柄も関係しているのか、どちらかと言うと、「無口そう」、「大人しそう」といったイメージを持たれることが多いんですけど、今回はこれ以上喋ることないっていくらい喋り倒しているんですよね(笑)。なので、そこも楽しみにしてもらえたらなと思います。舞台上でどんなお芝居ができるのかを探りたいですし、稽古自体も初めてなので、時間をかけて稽古をする中で自分がどんな風にお芝居と向き合えるのかも楽しみです。
カトウ 「フィクションの力」も一つのテーマになってくる気がしています。「死と向き合い直す」という物語性に対し、演劇を通じて僕たち俳優が自分の傷と向き合い直すことになるかもしれないし、お客様も抱えている何かと向き合い直す時間になるかもしれない。舞台と客席を横断して、近い結果をもたらすテーマの作品なんじゃないかなと思います。結局、個人的な思いに帰属して行くと思うんですよね。その人がこの作品とどう向き合い、何を思うのか。それ以外に大事なことなんてないのかも。現状ではそんな風に思いながら台本と向き合っています。
もし、亡き人が同じ姿のAIとして戻ってきたら…?
――AIと人の関わりと、それによって揺らぐ死生観、変わるものと変わらないもの…。遠いようで、実はとても身近な題材のような気もします。本読みや稽古を通じてみなさんが今感じていることをお聞かせ下さい。
遠藤 それこそ、服部さんはAIネイティブ世代なんじゃないですか? 10代って、あんまり意識せずともAIが生活に入ってきている世代っていうイメージがあるかも。
服部 確かにそうですね。Chat-GPTとか…。
チャンス そう言えば、僕もこの間ちょうどChat-GPTに「チャンス大城は面白いですか?」って聞いてみたんですよ。そしたら、「面白いか面白くないかは別にして、とても癖が強いので、好き嫌いがはっきりしています」って言われて、「なんでそんなことまで知ってんねん」ってドキッとしましたね。
遠藤・服部・カトウ あはははは!
服部 でも、やっぱり見た目が人間のAIはちょっと怖いですよね。安としては「お父さんはまだ生きている」って信じたいけど、いざ消えちゃったお父さんがそのままの姿で目の前に現れて、それがAIだと明かされたら、自分はすごく戸惑うだろうなと思います。でも、最初は拒否していても、一緒に過ごすうちに父のリアルな部分が見えたら、そこにすがりたくもなっちゃうんじゃないかなって…。セリフにもありますけど、「お父さんがいない時よりはマシ」って思っちゃいそう。それで今度は「依存」になってしまって、離れ難くなったりするのかなって。そんな風に「自分だったらどうするだろう?」っていう想像を膨らませながら役と向き合っています。
カトウ 「AIにも人格や感情がある」っていう言説もありますよね。その真相がどうであれ、人間に対して「感情があるように “見せている”」のだとは思うし、それって、僕たち俳優の仕事にも少し通じている気がするんです。例えば、僕自身が死にたいわけではないけれど、お客さんには僕の体が死にたがっているように“見せている”。それそのものは全く違うけれど、果たしている役割にはリンクがあるんじゃないかって思ったりもしましたね。
――AIと俳優の役割の類似性。俳優さんならではの興味深い視点です。遠藤さんは葬儀屋、チャンスさんは霊媒師という、職業としても「死」と深く関わる役柄を演じられますが、お二人はどんなことを感じていらっしゃいますか?
遠藤 例えば、スマホってAIのテクノロジーが発達した一つの結果だと思うんです。僕が小・中学校の時にいわゆるガラケーが普及し始めて、当時はそれすらものすごく驚いていたけれど、今では1人1台のスマホが当然になっている。不思議ですよね。それこそAIを題材にした映画なんかもありましたけど、当時はものすごく遠い話というか、現実との間に相当な距離があった。でも今は「起こり得る話」に感じる。「生活にテクノロジーが馴染んで当たり前のものなること」と「自分の人生において大切な人が死んでしまったこと」。僕は、この二つが掛け合わされることにすごく揺さぶられたし、興味深い着眼点だと感じました。“命の尊さ”は、果たしてAIを使用することと同じ重さになり得るのか…。お客さんがどう感じるのかも含めて、色々な想像を掻き立てられる物語だと思います。
チャンス 僕も想像してみたんですよ。例えば、自分の愛する人がある日突然いなくなって、何ヶ月も経ってからそのままの形でバッて出てきたら…。それはもうしゃあないっすよね。ずっと一緒におりたいですし、ご飯とかもね、AIやし食べられないんでしょうけど、2人分作ったりしてしまうでしょうね。仲良く遊園地に行ったりもしたいし…。それでも、真実と向き合わないとあかん時が来るんでしょうけど。
カトウ でも、霊媒師がそんな風にAIと仲良くしていたとしたら、本物の霊に絶対に怒られますよね。本人にしてみたら別人だから、「浮気」と言われるかもしれない。
チャンス うわあ。それはそうやなあ。そうかあ。難しいなあ。僕にはまだ答えが出せないですね。
――テーマや役どころに対するそれぞれの眼差しや想像力に触れられた、豊かな時間でした。ここから稽古が本格的に始動していきますが、最後に開幕への展望をお聞かせ下さい。
遠藤 映画と演劇、そしてお笑いとジャンルを横断して活躍しているこの面白い座組で、濃密な4人芝居ができたらと思っています。僕個人としても新たな挑戦をさせていただく心持ちでいますので、ぜひ劇場で見届けてもらえたら嬉しいです。
服部 同世代の子たちがこの作品を観て何を考えるのか。私はそのこともすごく知りたいです。自分のことを知ってくれている若い世代のお客さんにも届けられるように初舞台に挑みたいと思います。
チャンス 様々な人間ドラマを演じてきた方々と一緒に、今回は僕もこの深い人間ドラマに参加をさせてもらいます。年齢関わらず、人が死んでしまうニュースを毎日のように聞きますし、誰かを亡くしてのたうち回るぐらい苦しい思いをしている人がいると思います。そういう深いところを考える作品になるのではないかなと思っています。お芝居の面では、初日の稽古ではやっぱり自分だけ浮いていたので、これから頑張ってついていきたいと思います!
カトウ これだけ魅力的な方々に揃っていただいたので、舞台上で豊かな時間が繰り広げられるのではないかと思っています。演劇や映画をやっていると、「フィクションの可能性」についてすごく考えさせられるんですよね。『ちゃんと死にふれる』もまさにフィクションだからこそ触れていける題材。フィクションの力をお客様にも感じてもらいたいし、同時に皆さんの想像力から刺激を受け、ともに人生が豊かになるような演劇にできたらいいなと思っています。
インタビュー&文/丘田ミイ子