
清水邦夫の伝説的戯曲を注目の若手演出家・稲葉賀恵の演出で上演!
若手からベテランまで確かな実力を持つ俳優陣が集結し開幕!
10月11日(土)、東京・IMM THEATERにて、『狂人なおもて往生をとぐ―昔、僕達は愛した』が開幕しました。
挑発的、熱狂的でありながらも、美しい詩的なセリフが印象的な数多くの伝説的戯曲を生み出した劇作家・清水邦夫。本作は、1969年に安部公房の推薦で俳優座公演のために書き下ろした作品です。劇作を始めて約10年経ち、劇作家として一本立ちするのにふさわしいものを追い求めていた清水邦夫が新しい世代の作家としての地位を確立した、まさに転機の一作と言われています。
演出は、2022年に上演された『加担者』と、安部公房作の『幽霊はここにいる』の演出で第30回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞するなど、今最も注目を集める演出家・稲葉賀恵が務めます。若者が熱をもって物事に向き合うことが難しい時代と言われる現代。狂気の中にも不思議と人を引き付ける力強い魅力を持つこの戯曲を、現代の演出家が手掛けることにより、人は本来何を求めているのか、この戯曲の熱の正体は何なのか問いかけます。
娼家の女主人のヒモで、逃れたくてもその優しさから逃れられずにいる主人公・出を演じるのは、ドラマ、ミュージカル、ストレートプレイと様々な分野で活躍する木村達成。娼家に集まる登場人物たちが始める家族ごっこの中では長男を演じることになる青年をどう演じるのか、期待が高まります。
共演には、ドラマや映画、CM、舞台と多岐にわたり活動し、24年には第37回高崎映画祭で最優秀主演俳優賞を受賞、近年は舞台での評価も高い岡本 玲、『王様戦隊キングオージャー』の主演で一躍脚光を浴び、本作がストレートプレイ初出演となる酒井大成、舞台を中心に活躍し、18年には自身が企画・プロデュース・出演するソロユニット「カリンカ」を旗揚げし精力的に活動する橘 花梨、「大人計画」に所属し劇団公演のみならず、外部の舞台や映画・ドラマと数々の作品で幅広い役柄を演じてきた伊勢志摩、長年にわたり活躍し続け、近年はNHK 連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』や舞台『千と千尋の神隠し』など話題作への出演が続く堀部圭亮と、確かな実力を持つ俳優陣が集結しました。
今よみがえる、伝説的で熱量あふれる舞台にぜひご期待ください!
コメント
演出:稲葉賀恵
ついに本日『狂人なおもて往生をとぐ』が開幕します。
演劇は作っては壊し作っては壊す作業が常にあります。真剣にごっこ遊びに没頭する稽古場ははたから見ればかなり滑稽な景色に映るかもしれませんが、この座組は文字通り異常なほどになりふり構わずごっこ遊びに没頭してきた気がします。
堀部さんの清潔さの中にある魅力的な変質、伊勢さんの明快さの中にあるたおやかな母性、酒井さんの少年性の中にある初々しい爆発力、橘さんの愛嬌の中にある秘めやかな色気、岡本さんの理知性の中にある驚くほどの野性、木村さんの聡明さの中にある切先の鋭い狂気
この俳優陣とがっぷり清水邦夫の台詞と格闘し、今の物語として創作してまいりました。
私たちが創り上げる現代の寓話劇をぜひ刮目していただけると嬉しいです。
出(いずる)役:木村達成
初日を迎えるという晴れがましさを残念ながら感じることができずにいます。まるでこの作品の登場人物たちのように、愛する喜びや楽しさを感じたのも束の間、急に不安や怒り、焦りに襲われます。そしてこたえが出ない。ただ、初日を迎えるということで救いを感じるのは、お客様が観てくださること。劇場に共にいてくださる方々がいらっしゃることをこれほどありがたく感じたことはありません。実は、たぶん皆さまに自分のものがたりとして感じていただける、考えていただける作品ではないかと思っています。“出”は、登場したとたん迷惑、できれば近寄りたくないとおそらく皆さんが感じるだろうと思います。でも、どうしても放っておけない。そのうち彼の話す言葉の一つ一つに嘘が全くないことに引き寄せられてしまうはずです。2時間20分ノンストップ、ぜひ目撃をしにいらしてください。劇場にてお待ちしています。
愛子役:岡本 玲
ここまで、光を探しながら森の中を歩くような日々でした。掴めたと思った瞬間に迷子になったり、たまに毒キノコにあたってもがき苦しんだり。でもそのたびに、作品や愛子の輪郭が少しずつ見えてきた気がします。ようやくここまで辿り着けたことが、いまはただ嬉しいです。「正解を探すよりも、いまこの瞬間に出会っていこう。」戯曲の言葉の力が大きいからこそ、その纏ったものを丁寧にはがしながら、飾らずに進もうとする稲葉さんの姿が心強かったです。愛子は、弱さと強欲さ、そして家族への愛情が入り混じった人。難しさもありますが、演じていて楽しいです。家族という逃れられない関係、愛憎、それぞれの時代の中で人が生きることの痛みや希望が静かに感じられる作品だと思います。登場人物たちの姿が、観てくださる方の心にどこか触れる瞬間があれば嬉しいです。劇場でお待ちしています。
敬二役:酒井大成
いよいよ公演が始まります。舞台に挑戦するのは初めてなので緊張しています。震えています。でも、楽しめたらと思っています。お稽古では、基本的な事から自分が想像もつかなかった事まで、稲葉さん、そして共演者の方々から多くのことを学ばせていただきました。令和世代、昭和世代、その間の世代。世代の対比ができるところは見どころだと思います。舞台セット、小道具、照明、音も。全部魅力的です。自分なりに色々と試行錯誤しながら準備して参りました。是非楽しみに待っていてください。
めぐみ役:橘 花梨
台本を読むたびに、そして稽古を重ねるたびに、発見と反省の連続でクラクラしながら今日まで来ました。まだまだこの作品を面白がって、最後まで挑戦し続けていきたいと思います。はじめての立ち稽古の際に、今この場では何が起きているのかということを、稲葉さんやみなさんと丁寧に確認しながらシーンを作っていきました。あの時間を設けていただいたおかげで、自分自身理解がぐっと深まりました。この作品は、人間の欲や色気をたーんと浴びられる作品だと思います。なんだか滑稽で醜くて、でも美しいんです。わたしが演じるめぐみという役は、いまを生きるエネルギーに溢れています。このド根性精神と逞しさがとても好きです。56年前の戯曲ですが、令和の時代にリンクする部分もかなり多く、そこを取りこぼさず大切にしたいと思っています。お客様がどんな風に感じてくださるのか、すごく楽しみです。どうぞ目撃してください。
はな役:伊勢志摩
通し稽古をすればするほど内容が明確になり自分も乗ってくる、という演劇特有の楽しさを今、味わっています。早くみなさまに観ていただきたい思いと、もっと稽古したいという思いの狭間でございます。稲葉さんの演出方法は「沢山話す」なのです。伝えたいエネルギーに満ちていて擬音語とか擬態語が溢れまくっています。私も日常生活がそんな感じなので、勝手に共感しています。登場人物全員が尋常ではないのですが、私の演じる「はな」は同世代の女性ならば意外と共感してもらえるのではないかと。かなり異常な女ですけど「わかる奴だけわかればいい」ということですかね。確かに、お客様がただただ気持ち良くなるような芝居ではないかもしれませんが「なんだこれは」と引っかかりを持っていらしていただけたら。探究心を持って観ていただけたら。絶対に面白い舞台だと思います。
善一郎役:堀部圭亮
稽古の際に伺った演出助手の田丸一宏さんの知人の方のお話しというのが、とても興味深いものでした。詳細は割愛しますが、特に「キャラメルママ(おばさん)」が印象的でした。 この作品を演じる上で、時代を捉える為の大きな助けになりました。開幕を前に、いつもそうなのですが、どれだけ準備をしても「これで充分」とはなかなか思えないものなので、自分に「あれ以上はできなかった、やれることはすべてやった」と言い聞かせています。今回、劇場入りしてからの舞台稽古の期間を長く頂きました。なかなか無い機会、とても贅沢なことだと有難く思っています。善一郎は、自身の思想信条と時代の変化に翻弄された人なんだろうと思います。決して強い人でないが故に、とても正気でいられなかった。本当は弱くて脆い人。そんな善一郎が劇中にふと見せる優しさが、演じていてとても哀しく、好きだったりします。1969年に書かれた作品ですが、個人の考え方や価値観と社会との繋がりなど、今に置き換えても共感できるものだと思います。ご覧いただく皆さまの心に残る作品になれましたら、幸いです。
【物語】
ピンクの照明が妖しげに光る娼家。大学教授と名乗る初老の男「善一郎」はここの女主人「はな」の客である。
そして青年「出」は女主人のヒモで、ここから逃げようとしているが、彼女の優しさから逃れられない。
この娼家には若い娼婦「愛子」もいて、彼女の客である若い男「敬二」もやって来る。
やがて彼ら5人はまるでここが一つの家族であるかのようなゲームを始める。
初老の男が父親、女主人が母親、ヒモの青年が長男、若い娼婦が長女、その若い客の男が次男。
ところがその家族ゲームとは……。
舞台写真