絵本『あらしのよるに』の読み聞かせと⾳楽を組み合わせた親⼦で楽しめるスペシャルイベントが、2026年1月12日(月祝)に開催される。人気絵本シリーズ「あらしのよるに」は、ヤギの”メイ”とオオカミの”ガブ”の種族を超えた友情が描かれている不朽の名作で、これまでもアニメ化されたり、何度も舞台化されたりと、様々な形で幅広い世代に愛されてきた。今回は、300インチのスクリーンに映し出した絵本の世界を、メイ役の中越典⼦とガブ役の永⽥崇⼈による読み聞かせと、⽠⽣明希葉の⾳楽と歌で彩るイベントとして観客に届ける。出演者の3人に、本作へ挑む思いを聞いた。
──イベントに出演が決まった時のお気持ちと、意気込みをお聞かせください。
瓜生 率直に「やったー!」と思いました。この本が大好きで、自分の子供にも読み聞かせていたので、決まった瞬間にまず子供に自慢をしました(笑)。
中越 子供の小学校の図書ボランティアに参加して読み聞かせをやっているのですが、絵と少ない文字数で進められていく世界観や雰囲気によって、自分のイメージがどんどん広がっていくのがすごく楽しいですし、こうした読み聞かせのイベントはきっと子供にとっても素敵な時間になるんじゃないかなと思いました。演出もつけてもらって、音楽や照明もある中で読み聞かせをするのは初めてのチャレンジなので、自分自身が一番楽しみにしているかもしれません。
永田 この作品は小さい頃に読んだことがありますし、小学生ぐらいの時にアニメ映画化されたのを見て、その映画の主題歌が今でもずっと好きなんですよ。それくらい思い入れがある作品ですし、名作ということでプレッシャーもありますし、不安な気持ちもありながら、すごくチャーミングなガブという役を演じられることが嬉しいです。楽しんで演じられたらなと思っています。
中越 ガブ、いいですよね! だってもう絶対チャーミングですもの。
──中越さんは、どんなところがガブの魅力だと感じていますか。
中越 やっぱりギャップですかね。怖いと思われてる人が実はものすごく優しくてチャーミングだと、すごく魅力的じゃないですか。メイとの掛け合いも面白いんですよね。ガブを演じるのは絶対的に楽しいんじゃないかなと思います。
──それを聞いて、ガブ役の永田さんはいかがですか。
永田 はい、すごいプレッシャーですね……(笑)。
中越 こんなにおいしい役で面白くないってことはないよね。
永田 やめてください(笑)! 急に怖くなってきました……。
中越 (笑)。でもこの間、先輩の俳優さんたちに「とても素敵な本があって、ものすごくプレッシャーを感じているんですが、どうしたらいいんですか」って相談したんです。そうしたら、「面白くやろうとしても、力が入ったら面白くならない。本が面白いのなら、真面目に一生懸命やれば面白くなるようにできているから」と言われて納得しました。
永田 本当にその通りだと思うので、一生懸命やるだけですね。
──中越さん演じるメイの魅力はどんなところでしょうか。
中越 絵本の中では、メイの気持ちが描かれている部分が少ないんですよね。ふわふわっとした可愛らしい雰囲気だけど、最後の方にメイの気持ちが明確に分かる描写があって、実はこんな思いを抱いていたんだ、とハッとしました。でも基本的にはふわふわで柔らかいイメージですよね。ガブがメイのお尻を見たときに「美味しそう」って思うシーンがあるんですけど、あそこがすごく好きです。絵本のイラストが、お尻と尻尾しか描かれてないんですけど、もうかわいくて。私は犬を飼ってるんですけど、やっぱりお尻と尻尾がすごくかわいくて、プリプリ歩いてる愛おしさがすごく分かるので、それを出せたらなと思います。
──瓜生さんは音楽と歌でご参加ということですが、どのような形になるのでしょうか。
瓜生 生歌で歌うのと、お二人が読み聞かせをしているときに、雷の音とか擬音とかをピアノでやってみようかな、と思っています。歌は、現時点では3曲用意していて、最後は子供たちとも一緒に歌えるようなフレーズがある曲を作れたらいいな、と構想中です。
──中越さんと永田さんは、瓜生さんの音楽と歌にどのような期待をされていますか。
中越 瓜生さんの音楽と声って、ものすごく心に染み渡ってきちゃうんです。私が『ダブリンの鐘つきカビ人間』という舞台に出演した時も瓜生さんが曲を作っていらして、心を持っていかれるというか、スッと入って来ちゃって、それにすごく影響されて心が揺れちゃうところがあったんです。だから今回も、瓜生さんの曲に感情を持っていかれないように注意したいなと……いや、持っていかれていいのかな?
瓜生 (小声で)いいんじゃないですか?
中越 いやでもね、泣いちゃったらいけないからね。あくまでもメイでいたいなと思います。
永田 曲を聞かせていただいたんですが、すごくグッとくるところがありました。詞の中に出てくるひらがなが美しいなと思う瞬間があったり、あとは英語が入ってる歌詞が出てきたり、それもお子さんにとってすごくいいものになるなと思いながら聞きました。
瓜生 英語に関しては演出の登米さんと相談して、今の時点では分からなくても、大人になった時に「あ、これってそういう意味だったんだ」と、2度心に染み渡ったらいいよねという話をして、英語のフレーズも入れてみました。
──この作品の魅力をあえて一つ挙げるとしたらどこでしょうか?
瓜生 ハラハラ感と、ほっこり感のバランスが絶妙なところが魅力だと思います。絶対に仲良くなりえないだろうと思う二人って、現実世界でもあるじゃないですか。でも何かを感じて惹かれ合って関係が構築されていく、その過程は何ものにも代えがたいですよね。それをこのお話の中で体感できて、大事な人に思いを馳せるような時間になるんじゃないかなと思っています。
中越 すごく哲学的なところもあって、何も見えなくても誰かと繋がるという、魂と魂が結びつく瞬間があるんだ、と学ぶものがあります。二人が離れてしまうのか離れずにいるのかというハラハラ感もありますが、本来の友達のあるべき姿が描かれているな、と関係性を羨ましいと思ったりもします。
永田 やっぱり「友達最高!」これに尽きるなと思います。この歳になって学生時代の友達のことをより思い出すようになって、本当にありがたかったなと思うことがたくさんあります。友情って何にも変えられないじゃないですか。そういうものがふんだんに入っている作品だと思うので、僕も「友達大事やぞ!」と思いながら作品に取り組みたいなと思っています。
──ガブとメイのような、何かお友達との印象的なエピソードがあったらぜひ教えてください。
瓜生 小学校で一緒だった男の子がすごく絵がうまい子で、私も割と絵が得意だったので、ちょっと張り合っている時もありました。私は小学校の途中から音楽の方へ進んで、彼は絵を極めていって、お互いものづくりをするライバルでありながら、多分お互いちょっと好きだったんですよね……いや、どうだろう、私だけだったかもしれない(笑)。中学、高校は別々だったんですが大学で再会して、でもお互い「やっぱり友達だよね」という感じでずっとそのままの関係が続いていきました。彼は今も絵に関係する仕事をしていて、たまに「元気にしてるかな」とか「作りたいもの作れてるかな」と思い返すだけで、なんだか気持ちがフワッとなります。お互いものを作る同志という感じがあって、今もすごく応援している存在ですね。
中越 子供が幼稚園に行き始めたとき、最初は「ママ友」という世界にちょっとビクビクしていたんですけど、子供に繋いでもらったママ友との出会いに今は感謝しかないです。子育てしていく上で、なかなか他の人にはわかってもらえないこともすぐに理解し合える、言葉で伝えなくても通じ合える関係です。最初は連絡先を交換するのにも慎重になっていたんですが、いざ交換したら一緒にクラブに行く仲間になりました(笑)。それぐらい気が合っちゃって。そんな宝物のような友達をもらえたのは本当に子供のおかげです。
永田 僕は同じ日に同じ病院で生まれた幼馴染がいるんですよ。彼とはもうソウルメイトというか、常に何をやるのも一緒でした。家族同士も仲が良くて、一緒に遊園地に行ったりもしました。僕はちょっとヤンチャだったので、好きな女の子にもいじわるしちゃっていたんですが、彼はイケメンな上にすごく優しくて、だから悔しいことに僕が好きになる子はみんな彼のことを好きになるんです (笑)。彼のところには最近双子のお子さんが生まれたのでおそろいの服をプレゼントしたり、今も仲良くしています。
──「親子で楽しむ」というキャッチフレーズがありますが、どんなふうにこのイベントを楽しんでもらいたいですか。
瓜生 ここまでいろいろお二人の話を聞いていて、この『あらしのよるに』は性善説のお話なんだなということに気づきました。人を信じる気持ち、どんな人か分からないけど信じてみるということや、相手の気持ちを慮ることとか、これをきっかけにして親子で「友達って裏切っちゃったら悲しいし、優しくしたら嬉しいよね」とか「信じてもらえたら嬉しいよね」「約束守るって嬉しいよね」というような会話をするきっかけになったらいいなと思っています。子供たちには、生きていることでたくさん素晴らしい友情があるよということを伝えていきたいです。
中越 この作品の中にはいろんな精神論が入っていて、誰かの気持ちに寄り添う瞬間があって、勇気をもらえたりすると思います。子供たちが、ただ笑うだけでもいいし、「暗いの怖い、劇場怖い」って泣いて帰るのもありだし、「素敵な音楽」「ガブかっこいい」「メイちゃんかわいい」とか何でもいいんです。子供も大人も何かを感じたり刺激を受けたりしてくれたらいいなと思います。
永田 このイベントは、どう観るかは本当に自由、というところがすごくいいなと思っています。大きなスクリーンに絵本のイラストが映し出されて、読み聞かせもあって音楽もあって、どこに注目して見るかは自分で決めていいというのがすごく贅沢ですよね。演劇ってどうしても、ちゃんと観ないといけないとか、子供が騒ぐから連れて行けないとか思ってしまいますが、ここでは子供がおしゃべりしてもいいし、途中で退席しちゃってもいい。それって結構すごいチャレンジだなと思います。僕自身も、例えば一生懸命読んでるのに客席から「イヤー!」とか言われたらどう反応していいか分からないですし(笑)。でもそういうことも楽しみながら、唯一無二の空間になるんだろうなと思っています。
瓜生 お子さんたちに問いかけるコーナーがあるので、その中で奇想天外な答えを言われてどうしたらいいのか分からなくなったら、二人の顔を見て助けを求めますから、お願いしますね(笑)。この座組の中で音楽は、鍋におけるスープだと思うんです。お二人の言葉がメインの具材で、音楽はその間を埋めるスープとして、温めておきますから。
永田 わぁ、心強いですね。
中越 ありがとうございます。
瓜生 でも温める火が消えたらお願いします(笑)。
中越 消える時があるのね(笑)?
瓜生 あるんです。お子様の回答で「どうしよう」ってフリーズする時が。
永田 うわあ、これまたプレッシャーですね。
中越 大丈夫だよ! 私たちは演出家さんを信じて読めばいいのよ。だから瓜生さんは火を消さずにグツグツしていてください(笑)。
瓜生 そうですね。あとはスープがなんとかします(笑)!
取材・文/久田絢子
