『ブラッケン・ムーア ~荒地の亡霊~』岡田将生 インタビュー

初舞台(『皆既食』2014年)でいきなり蜷川幸雄演出の洗礼を受けて以降、『ウーマン・イン・ブラック』(ロビン・ハーフォード演出、2015年)、『ゴーゴーボーイズゴーゴーヘブン』(松尾スズキ演出、2016年)、『ニンゲン御破算』(松尾スズキ演出、2018年)、そして今年春の『ハムレット』(サイモン・ゴドウィン演出)まで、それぞれに個性と才能溢れる舞台作品に取り組み、それを糧に俳優として着々と成長し続けてきた岡田将生。これまで舞台出演はほぼ年1本のペースだったが、この夏は今年2本目の舞台『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』に挑むことになった。岡田にとって演劇への想いは格別、深く熱いものがありそうだ。


岡田
「舞台に初めて立たせていただいた時から、舞台ならではのライブ感とか、お客様と共有できる時間、伝えたいこと、伝えられなかったことなどが自分にとってものすごく勉強になって。それから舞台の仕事をだいたい1年に1本のペースでやらせていただいてきましたが、自分の中で100点と思ったことは実はこれまで一回もないんです。大千穐楽を迎えるたび、ちょっと後悔している自分がいるんです。もちろん充実感、やりきった感はありますが、どうしても演出家が求めていることや、キャストみんなで作り上げてきたものをすべて正確にお客様に伝えるのはなかなか難しいことなんだなと、公演が終わるたびに痛感していました。だからこそすぐにでも、次の舞台をやりたいという気持ちになるんです。つい最近までやっていた『ハムレット』が終わった時も、やはり同じでした。でも今年は間を空けずにこの舞台に挑めます。1年に2本舞台に立つのは自分にとって初めてのことなので、『ハムレット』で経験したことをすべて注ぎ込む覚悟で臨むつもりです」

 

この『ブラッケン・ムーア』という作品はイギリスの劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルによる戯曲を、数々の演劇賞を受賞し最も注目される若手演出家のひとりである上村聡史が演出する、緊迫感溢れるサスペンス劇だ。舞台は1937年のイギリス、ヨークシャー州。裕福な炭鉱主であるハロルド・プリチャードの屋敷に、かつて仲良くしていたエイブリー一家が訪ねてくる。10年前、ハロルドのひとり息子で12歳だったエドガーが“ブラッケン・ムーア”と呼ばれる荒れ地の廃坑で事故死したのをきっかけに彼らは疎遠になっていたのだが、いまだにふさぎこむエドガーの母・エリザベスを励まそうと久しぶりにやってきたのだ。しかしその夜、エイブリー家のひとり息子でエドガーの親友でもあったテレンスはエドガーの霊に憑依され、うなされて叫び声をあげる。テレンスはエドガーが何かを伝えようとしていると言い、事故現場のブラッケン・ムーアに向かう。すると徐々に、10年前の事故に隠された真実が浮かび上がってくる……。

 

台本の面白さはもちろんのこと、この作品で上村の演出を初めて受けられることにも非常に魅力を感じたと、岡田は言う。

岡田「本当に面白い脚本です。会話劇なんですけど、最初はホラーなのかとも思いました。僕は以前、二人芝居でホラーをやらせてもらっているので(『ウーマン・イン・ブラック』)、あまり同じような作品は避けたいなという気持ちがあったんですが、読み進めるとホラーとは全然違って。ここに描かれているのは、人間の愚かさであり、想像力であり、その無限の可能性を感じさせられる脚本でした。上村さんの演出したものは『炎 アンサンディ』と『大人のけんかが終わるまで』を拝見していますが、ものすごく緻密にお芝居を演出されている印象があります。初めてご一緒するのでまだハッキリとはわかりませんが、きっと上村さんの演出が加わることで台本を読んだ時の自分の感覚とはまた違うものになりそうな気がしていて、楽しみです」


今回、岡田が演じるテレンスは台本のト書きで“尋常でないほどハンサムでカリスマ性がある”と描写されている青年。劇中、エドガー少年が憑りついて別人のようになる難役でもある。

岡田「テレンスが22歳だということにも、ちょっと…?と思いましたけど、その“尋常でないほど~”というト書きを読んだ時には「なんだこれは?」と思って、そこに丸をつけました(笑)。この役はたぶん、いろいろな演じ方があると思い、この役を演じたいという気持ちがより強くなりました。僕はこの役は二役だと思っていて、ふだんのテレンスと、エドガーが憑りついた時とで、頭を切り替えてやることができたら面白くなるんじゃないかな、と。でもとにかく、まずは稽古に入って上村さんがどういう演出をされるのか。確実に緻密に作られるんだろうと思うし、そのためにもたくさん話し合いもするだろうし。そういう時間がのちにお芝居に活きてくるので、いろいろみんなでアイデアを出し合って、じっくり話し合って作っていけたらなと思っています」


共演には、エドガーの母・エリザベスに木村多江、テレンスの母・ヴァネッサに峯村リエ、テレンスの父に相島一之、炭鉱夫と医者役に立川三貴、家政婦役に前田亜季、そしてエドガーの父・ハロルドに益岡徹という演技派ばかりが揃い、この少人数で濃密で深い人間ドラマを描いていく。

岡田「僕は今回で舞台はまだ6本目なので、経験値としてはまだまだなので、技術的なところで盗めるところは盗みたいですし、いろいろ教えていただきたいなと思っています。僕が何をやったとしても全部受け止めてくださる方々のように思います。特にこの物語では、登場人物たちの関係性がすごく複雑でそこが非常に興味深く描かれています。テレンスはおそらく頭が良く探求心がすごくあって、益岡(徹)さんが演じるハロルドとは真逆の人間なので、そういう意味では対立関係になるのもすごく面白いんじゃないかと。決して怖いだけの話ではなく、サスペンスドラマとして、その真実の奥にあるものを、しっかりと届けたいと思います」


また、この公演の本番中にちょうど30歳の誕生日を迎える岡田にとっては、まさに大きな節目の舞台となる。これまでさまざまな作品、演出家、共演者、スタッフらとの幸せな出会いを経て、キャリアを重ねてきた岡田は果たして、どんな30代を目指すのだろうか。

「この作品中に30歳を迎えられることは、すごくうれしく思います。これを含め、いつも舞台では意外と攻めた役をやらせてもらえる機会がすごく多くて。20代での経験を活かしつつ、30代ではさらに果敢にいろいろな役柄にチャレンジしていきたいです。台本を読んだ時に自分が感じたことを、観ている方々と共有できた瞬間ってものすごくうれしいんです。それが100個のうちのひとつだけでも共有できると、その作品をやってよかったと思える。全部が全部そうなるわけでもないですけど、これからも自分の感性に素直にやっていきたいですね。あまり絞らずに、自分の新しい面を出せるような役柄にもチャレンジしたいし、みなさんの記憶に残るものをやっていきたいです。もちろん、この舞台もシアタークリエという劇場に再び来た時に「ああ、この劇場ではあの作品を見たな、あれは良かったな」と思ってもらえる作品にしたいんです。きっと、この作品にはお客様の心に深く突き刺さるセリフ、物語があると思うので。そのくらい素晴らしいものをお届けするつもりですので、ぜひともみなさん、劇場にお越しください!」

 

取材・文/田中里津子