音楽劇「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -case.剥離城アドラ-」のプレビュー公演が12月15日(日)、市川市文化会館 大ホールにて上演された。
原作は、三田誠の小説「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」。魔術師たちの総本山・時計塔を舞台に、現代の常識でははかり知れない、魔術の世界で引き起こされる出来事に、ロード・エルメロイⅡ世が内弟子のグレイとともに立ち向かっていく姿を描いた魔術ミステリーだ。
2019年7月から9月にかけてテレビアニメ「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン) Grace note-」がオンエアされたが、今回舞台化される「case.剥離城アドラ」は、アニメ未放送。原作ファンの間でも人気のエピソードだけに、キャスト・スタッフたちが謎の渦巻く悲愴な世界をどのようにして舞台に立ち上げるのか、上演前から大きな期待が寄せられていた。
まず驚かされたのが、魔術の表現に用いられるマジックやイリュージョンの数々。冒頭、誰もいないロード・エルメロイⅡ世(松下優也)の部屋から帽子やジャケットがひとりでに浮かび上がったかと思うと、衣類が次々と組み合わさり、まるで透明人間が服を着たような光景に。
そこへ飛び込んできたのは、フラット・エスカルドス(納谷健)とスヴィン・グラシュエート(伊崎龍次郎)だ。ふたりはロード・エルメロイⅡ世が教鞭を執る現代魔術科「エルメロイ教室」の生徒で、突然授業を自習にしたロード・エルメロイⅡ世を心配して訪ねて来たらしい。しかし部屋に忍び込むや否や、ふたりめがけて銀色の物体が襲いかかる。まるでバッティングセンターのように銀色の物体を打ち返すフラットとスヴィンの様子を紗幕に映像を投射することで表現。驚きのマジックと、映像と俳優のコラボレーションで、開始からわずか5分と経たないうちに、観客を魔術と神秘の世界へ引き込んでいく。
授業を休んでロード・エルメロイⅡ世が向かったのは、剥離城アドラ。城の主人である魔術師ゲリュオン・アッシュボーンが先月亡くなり、その遺言を公開するという。招待状に導かれてやってきたのは、一癖も二癖もある魔術師たち。遺言状には、天使の名を当てた者にこの剥離城アドラの遺産をすべて委ねると書かれていた。天使の名とは何か。なぜこの面々が招かれたのか。いくつもの謎を抱えたまま、禍々しき剥離城を舞台に血塗られた惨劇が巻き起こる。
宝石魔術の名門エーデルフェルト家の次期当主ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト(玉置成実)が宝石を宙に浮かび上がらせたり。占星術師(アストロロジャー)・フリューガー(松田慎也)がナイフを使って壁の中の隠し扉を見つけたり。創意工夫を凝らしたマジックと映像が、人知を超えた魔術の世界を舞台上に甦らせる。
一方で、この物語が持つ人間ドラマにスケールと奥行きをもたらしたのが、随所に登場する歌だ。「音楽劇」と銘打つ通り、本作では重要な場面で音楽が用いられる。作曲・和田俊輔の得意とする壮大な旋律は、ダークな香り漂う剥離城アドラの雰囲気にぴったり。特に1幕のラストで全員によって歌われるナンバーは、絶望的でありながら不思議なカタルシスがあって、2幕への期待感を高めてくれる。また、2幕中盤でグレイ(青野紗穂)によって歌われる葬送歌は心洗うような神聖な調べ。透き通るメロディと青野の清らかな歌声が、目の前で起きた悲劇をより強く印象づける。こうした歌とドラマの化学反応は、舞台ならではの醍醐味。劇場で直接体感することで、訪れた観客までもが剥離城アドラに導かれた招待者のひとりのような感覚になるはずだ。
キャスト陣もハマり役揃い。長身の松下優也にはロード・エルメロイⅡ世の長い黒髪がよく似合い、トレードマークの葉巻を吸う姿も絵になっている。自分だけ体力がなくて森の中でへたり込んだり、この中で戦ったら死ぬのは自分ひとりだと言い切ったり、一見万能そうに見えて妙に人間臭いところもロード・エルメロイⅡ世の魅力。そんなロード・エルメロイⅡ世を端正な松下が演じることで、得も言われぬ愛らしさが生まれていた。特に印象的だったのは、終盤。胸の内に抱えた過去の傷や、決して自分は天才ではないというコンプレックスなど、ロード・エルメロイⅡ世の影の部分を心に突き刺さるような歌声でエモーショナルに表現した。
また、青野紗穂も2.5次元作品は初挑戦となるが、グレイの持つ感情を表に出さない寡黙な雰囲気をよく掴んでおり、その佇まいはグレイそのもの。他にもライネス・エルメロイ・アーチゾルテ役の浜崎香帆などアニメでCVを務めた声優の声質に出来る限りのリスペクトを払った役づくりをしているキャストも多く、アニメファンにとっても「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」の世界を地続きで楽しめるつくりになっている。
東京公演は、2019年12月19日(木)から23日(月)までなかのZERO 大ホールにて上演。その後、大阪公演を12月26日(木)から28日(土)までサンケイホールブリーゼにて。福岡公演を2020年1月11日(土)・12日(日)で久留米シティプラザ ザ・グランドホールにて上演したのち、2020年1月17日(金)から19日(日)まで新宿文化センター 大ホールにて再び東京公演が行われる。
取材・文/横川良明
【キャストコメント】
プレビュー公演を迎えるにあたり、キャストを代表して、ロード・エルメロイⅡ世 役:松下優也、グレイ 役:青野紗穂、化野菱理 役:壮 一帆の3名よりコメントが届きました。
ロード・エルメロイⅡ世:松下優也
毎日ずっとこの作品に向き合って稽古場で稽古していたので、ようやくという感じです。僕の演じるロード・エルメロイⅡ世は、過去に起こった出来事で、色んな重圧を背負っていて、実はすごく人間味あふれたキャラクターというところが魅力だと思います。そして、説明好きなⅡ世なだけあって、僕のセリフ量もちゃんと膨大です(笑)。
作品としては音楽劇なので、和田俊輔さんの素晴らしい音楽達が皆さんを「ロード・エルメロイⅡ世」の世界に連れて行ってくれます。あと、舞台では様々な仕掛けや映像、イリュージョンなど演出がたくさんあるので、そのあたりも楽しみにしていただきたいです。
グレイ:青野紗穂
今回初の2.5次元作品に挑戦させていただけてとても嬉しいです。物語にそれぞれの背負っているものや、願いが入り組んでとても面白くなっているので、一度では無く二度三度、違う登場人物の視点に立ってみていただければ幸いです。私達も魔術の世界に皆様をお連れできるよう精一杯頑張ります!お待ちしてます!
化野菱理:壮 一帆
この作品の大きな魅力の一つが、それぞれのキャラクターのバックボーンがきちんと描かれているところにあり、そのバックボーンを物語の主軸に絡めつつ、語られてゆく事がとても面白いです。また、個性豊かなキャラクターの中で、「普通の輝かしい主役」というのではなく一人浮いているかのように見えるロード・エルメロイⅡ世という“孤高の存在”が、彼の持つ心の傷や背負っているものを内に秘め、それ故にさらに魅力的に映し出されている作品だと感じています。
お客様には、この奥深いストーリーとその世界に身を委ね、一緒に事件を解決してゆく気持ちでご覧いただければ、よりお楽しみいただけるのではないでしょうか。
私が演じる化野菱理は謎めいた女性であり、ロード・エルメロイⅡ世とは別の意味で浮いている存在の化野を、限られた出番の中でどれだけ印象に残るように演じることが出来るかが課題ですので、そこをきちんとお見せしたいと思っています。
©三田誠・TYPE-MOON / LEM STAGE PROJECT