「ボクの穴、彼の穴。 The Enemy」 宮沢氷魚&大鶴佐助 インタビュー

左:宮沢氷魚 右:大鶴佐助

 

『豊饒の海』(2018年)で出会い、『ピサロ』(2020年)でも共演した“親友”にして“同世代のライバル”でもある宮沢氷魚と大鶴佐助。彼らがちょっと不思議な味わいの二人芝居『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』で、この秋、みたび同じ舞台に立つ。この『ボクの穴、彼の穴。』は、松尾スズキが初翻訳に挑んだことでも話題になった絵本を原作に、2016年にノゾエ征爾が翻案・脚本・演出を担当して舞台化したもの。4年ぶりの再演となる今回は宮沢と大鶴という新キャストを得て、コロナ禍で先の見えにくいこの現実の情勢をも踏まえつつ、“穴”に潜んで“見えない敵”と戦う孤独な兵士たちの物語を装いも新たに紡いでいく。プライベートでも親交が深い宮沢と大鶴に、改めてお互いの魅力やこの作品に対する想いなどを語ってもらった。

 

――『ボクの穴、彼の穴。』への出演依頼を聞いて、まずどんなことを思われましたか。

宮沢「僕と佐助くんは今回で3作目の共演になるんですけれど、これまであまりがっつり絡む場面はなかったんですよ。なので今回ようやく1対1でぶつかり合う、演じ合うことができるというのがとにかくすごく嬉しかったです。そして、このタイミングでこの作品をやれるということにすごく意味があるとも思っていて。新型コロナウィルスのことだけでなく、世界的にもいまだに存在する人種差別のことや、大きな災害だってすごく多いですし。これは、そういった問題とも向き合える作品だと思っているんです。」

大鶴「氷魚ちゃんと2年前に『豊饒の海』で出会うまでは僕が大体の現場で最年少で、共演者は先輩ばかりだったので、同年代の俳優と一緒に芝居をやる経験があまりなかったんです。それが氷魚ちゃんと出会い、すぐに打ち解けて。この先も何かいろいろ共演する機会があるんだろうと思っていたら、『ピサロ』でまた一緒になったんですけど、がっつり絡むシーンはなくて。それが今回やっと、しかも二人芝居でたくさんセリフもある作品で、氷魚ちゃんと絡めるなんてとても贅沢だなと思いました。まあ、そうは言っても絡むようで絡まなかったりもして、いろいろある芝居ではあるんですけどね。」

――共演できることがわかって、すぐお互いに連絡を取り合ったりされたんですか。

大鶴「僕は、その時ちょうど別の二人芝居をやっている最中で、その初日に行く途中の駅のホームでマネージャーから電話があって、なんだかテンションが上がり過ぎちゃって(笑)。「これ、氷魚ちゃんにすぐ連絡していいんですか?」って聞いたら「ちょっとそれはまだ、共演側の状況がわからないので……」って止められて。」

宮沢「そうですね、その時点では僕はまだ聞いてなかったと思う。」

大鶴「だから、そのあとで二人芝居を配信で観たよと氷魚ちゃんから連絡があったんですけど、その時にもう、言いたくて言いたくてウズウズしていたんですよ。」

宮沢「僕のほうは、その何日かあとに事務所に呼ばれて「実は二人芝居のお話があります、相手はよく知ってる人です」って言われて。誰だよと思ったら、佐助くんだった(笑)。ちょうどその佐助の二人芝居を見たあとだったから「僕も佐助とできるんだ!」っていう喜びがあったのと同時に、実際に見ていてすごく大変そうだなとも思っていたから、ちょっと怖さとプレッシャーを感じましたね。だけど、二人芝居なんてなかなかやる機会はないと思うので、こんなに光栄なことはないです。」

――二人芝居の経験者としては、佐助さんが先輩ですね。

大鶴「一回やっただけですけどね(笑)。」

宮沢「アハハ。」

大鶴「だけど前回は姉との二人芝居で、演出家もいなかったし。それが今回は素晴らしい脚本があり、演出家としてノゾエさんもいてくれて、さらに氷魚ちゃんと一緒なんですから。やっぱり二人芝居は姉弟とやるより、仲がいい普通の友達とのほうがいろいろ言いやすいんじゃないかなとも思うんですよ。作り上げていく際のディスカッションも、同性のほうがやりやすそうだし。実際、どっちに転ぶかはやってみないとわからないので、その点でも楽しみです。」

――いろいろ教えてもらえそうですね。

宮沢「そうですね。こういう先輩がいて、とても頼もしいです(笑)。」

――演出のノゾエさんとは、既に何かお話をされましたか。

宮沢「ビジュアル撮影の日にご挨拶はさせてもらいましたが、これといってまだ作品の詳しい話はしていないです。稽古開始まで時間があるのでそれまでに、各自で考えておいて稽古場でいろいろと意見を交換することになるんじゃないかと思います。」

大鶴「僕はノゾエさんが書かれた脚本の舞台に出たことがあるので、何度かお会いして話をしたことはあって。でも、ちゃんと演出を受けるのは初めてなので、どういう演出をされるのか、とても興味がありますね。」

――初演の脚本を読まれたそうですが、どんな印象でしたか。

大鶴「個人的に思うのは、この本も今の僕たちも、目に見えないものに怯えていて、どんどん疑心暗鬼になっていっているという状況が一緒なんですよね。疑心暗鬼になると結局、自分の壁をどんどん作っていってしまう。そしてこの本の場合は、お互いに相手のことをモンスターだと信じ込んでいるんだけれど、本当のところはどちらもこの戦争が終わればいいと思っているのがすごく矛盾していて、でもそれが成り立っているところが面白い。今回の上演台本は多少変わるのかもしれないですが、いい場面だなと思ったのはラスト近くでお互いの穴に行き、荷物の中に家族写真を見つけた時に初めてモンスターにも普通に家族がいるんだと気づくところ。また逆に、マニュアルを正しいと思って決めつけていくことには怖さをすごく感じました。」

宮沢「どの時代でもプロパガンダというものがあって人を洗脳することが、特に戦争においてのひとつのテクニックでもあって。それは戦争に限らず、普段の生活でもそうなんですよね。今回の新型コロナウイルスに関してだって、メディアや国が100%の情報を流しているかというとそうでもないし。都合のいいようにいろいろ操作をしてきたというのは、これまでもずっとあったことで、それはもしかしたら今後もなくなることはないのかもしれない。そんな場所で、最初は洗脳されている二人が、やがてお互いが同じ人間であり、それもいたって普通の生活を送っている二人だということに気づくんですね。学級委員長をしていたことがあったり、コンビニが大好きだったり。本当に、普通で平凡な二人なんです。そこも、この作品のひとつのミソというか、大事なところなんじゃないのかなと思いますね。」

――舞台上でお互いのお芝居を見てきて、役者としてはどんな印象を持たれていますか。

大鶴「『豊饒の海』の時は、氷魚ちゃんのことをすごく真っ白で、純粋で、いい意味で余白がいっぱいあるように見えていましたね。これからどういう役を演じて、どんな役者になっていくんだろうなあって思っていたんですが、『ピサロ』では神様の役でしたから。これがとても神々しくて、「ああ、神様までできちゃうんだ!」と思いました(笑)。とはいえ、今でもまだまだいっぱい余白があるように見える、頼もしくて、良きライバルだなと思います。」

宮沢「嬉しいですね。僕の、佐助に対する第一印象は一生忘れないと思うけど、初めて稽古場でお会いした時、ものすごいいかついサングラスに真っ赤な靴下で、黒いプリーツのパンツ姿だったんですよ。なんだか大御所の俳優みたいな風貌で、若いのにオーラもあって「なんだ、この人は? この人と2カ月間一緒にいれるんだろうか」と思って(笑)。そうしたら目が合って「あっ、宮沢くん!」って声をかけてくれて、実際に話したらとてもフランクで優しかった。今、佐助も良きライバルだと言ってくれましたけど、その思いは僕も同じですね。ただ、二人ともタイプが全然違うので、きっと演じる役はかぶることはなくて。そういう意味では役者としてのライバルでもありながら、今後もきっと共演する機会がすごく多い同世代の役者のひとりだろうなと思っているんです。そういう関係性を持てる人って他にいないのですごく大事にしたいですし、プライベートでもとても仲のいい、大好きな俳優のひとりです。」

――今回の作品の中では敵同士の役でもあるので、もしも敵になった時「ここは叶わないな」と思うのはどんなところですか。

大鶴「身長ですかね。」

宮沢「アハハハ、そうかあ! だけど、日常で敵同士になるというのはどういうシチュエーションだろう。すごく仲が悪くなってしまったら、ということかな。」

大鶴「でもなんか見えないところで、いろいろな戦法を張り巡らせてきて、僕は気づかないうちにやられちゃいそうな気がする。」

――緻密に作戦を練ってきて?

宮沢「ああ、そういうところはあるかも。表では目立って大きな攻撃はしないんだけど、裏で細かく引きずり落とそうとするみたいな?(笑) いやいや、難しいですね。でもやっぱり佐助は生まれた時から、というか生まれる前から芝居する環境下で生まれて育っているので。そういう意味ではたぶん、人生のほぼすべてが芝居だろうから、そこは僕が絶対勝てないところだろうなと思います。芝居を愛する気持ちとか、あとからどんなに芝居を学んで好きになったとしても、生まれ持った素質というものでは勝てそうもないし。まあ、全然別なので勝とうとも思っていないし、僕は僕だし、佐助は佐助だから、それぞれ自分なりにやるしかないんですけれども。」

大鶴「なんだか僕だけ、アホみたいな答えを言っちゃったじゃない(笑)。」

宮沢「じゃ、僕もアホみたいなことを言っておこうか。こんなに赤い靴下の似合う人はいないので、その点では僕は絶対に勝てないです(笑)。」

大鶴「ありがと(笑)。」

――とりあえず、敵になることはなさそうなお二人だということが良く分かりました(笑)。

宮沢「だと、いいんですけどね。この先、何があるか。」

大鶴「ね。わからないですから。」

――プライベートでも、お芝居の話をされているんですか。

大鶴「もう、芝居の話ばかりです。」

宮沢「うん。何を話していたか、いつも半分くらいしか覚えてないですけど(笑)。でもたとえば「俺はこう思うんだ」とか「こういう風にしようよ」っていうことではないんですよ。「なんとなくこうだと思うんだけど、どう思う?」みたいな、あくまでも意見を交換する場という感じです。」

――ではここでちょっと、お互いの好きなところを具体的に挙げてみていただけますか。

大鶴「まず、声がいいですし。目もすごく綺麗ですよね。芝居をやっている最中に目を見ると、すごく綺麗な目をしているなーって思います。嘘をついていない、というか。」

宮沢「いやあ、うれしいな。僕は佐助の、肌、ですかね(笑)。毛穴がないんですよ。」

大鶴「あるわ!(笑)。」

宮沢「卵みたいにつるつるの肌の持ち主なので。あと結構、本番中とかは僕はジャージとかゆるい格好で現場に入っちゃうんですけど、佐助はたまに全身セットアップとかで、気合を入れて劇場入りしてくる時があるんですよ。それ見ると、カッコイイなあ~って思う。」

大鶴「ああ、そういうこともあったね。」

宮沢「でもそれって大事なことだなと思うんですよ、長く本番が続くと途中でモチベーションを保ちづらくなることがあるんだけど、そんな時に自分でちょっとエンジンをかけるというか。そうやって、うまく自分をコントロールしているんだろうなって思って。」

大鶴「そんなたいそうな(笑)。単にその日、自分の着たい服を着るとテンションが上がったりするじゃないですか。ちょっと今日はお洒落しようかなとか。そういう気分の問題ですよ。」

――お二人が出演されていた『ピサロ』もコロナ禍の影響で公演が途中で中止になってしまったこともありましたし、自粛期間なども経験し、そして今、この作品に向き合うことになって。改めて、舞台に立つことについて、どんな想いがありますか。

大鶴「やっぱり、このお話をいただいた時は本当に嬉しかったんですが、僕らだけでなくこれまでの間に多くの方や団体が公演できなかったりしていて。お客さんだって、東京に出て来ること自体が怖いと思っている方もいるでしょうし、それでも足を運んでくれる人もいることを考えると、僕らも一層の責任を持たなきゃいけないと思います。ただ上演するだけでなく、自分たちも絶対に感染してはいけない、劇場から感染者を出してはいけない、と覚悟を決め気持ちを引き締めてやらなければいけないなとすごく思います。」

宮沢「そうですね。今までは出演する作品が決まっても、もしかしたらできないかもしれないなんて不安に駆られたことは一回もなくて。それが今こういうことになって、実際に今、僕の中で100%できるかというとまだわからない状況ですしね。それでも僕たちはもちろんやるつもりでいるわけですが。それができるのが、もはや当たり前ではないんだということは今回、すごく感じています。舞台に立てるのは、ある意味すごく恵まれていることで。それって出る側の僕たちもですけど、観てくれるお客さんたちの中にも、そういう風に感じている人って多いと思うんですよ。今までは普通に観られていた舞台が観られない状況下になっていますからね。それでもやっぱり演劇というものは、人間にとって必要なものだと思うんです。そこに今、僕たちは携われているわけなので、責任というものも今まで以上に感じています。」

大鶴「面白いかつまらないかはみなさんに判断していただくことですが、そんな状況でも「観て良かった」と思っていただけたら、すごく嬉しい。そのためにも僕たちは、お客さんへの感謝の気持ちを持ちつつ、お芝居を全力でやるしかないと思っています。」

宮沢「これからもまだまだ手探りは続きますから、なかなか心の底から「よっしゃー!」ってなれない自分もいるんですが。わからないまま突き進んでいる感じもあるけど、でも何もせずにはいられないので。今回こういう形で二人芝居ができるというのは、ある意味では前進なので、ちょっと小さな光が見えたような感じではありますね。」

――その小さな光を大切にしながら、ぜひとも初日を迎えたいですよね。

宮沢「そうですね、両手で大事に包み込んで、消されないように。」

大鶴「うん、絶対に消さないようにしなきゃなと、すごく思いますね。」

 

取材・文/田中里津子