坂本冬美、泉ピン子 インタビュー|明治座 坂本冬美35周年記念公演 泉ピン子友情出演

写真:岩村美佳

演歌歌手の坂本冬美が2021年にデビュー35周年を迎える。それを記念し、明治座にて「坂本冬美35周年記念公演 泉ピン子友情出演」を上演、橋田壽賀子の脚本、石井ふく子の演出による第一部の芝居「かたき同志」と、第二部「坂本冬美オンステージ2021 艶歌の桜道(うたのはなみち)」を届けていく。大きな節目となるこの公演に、どのように臨むのか。プライベートでも仲が良いという、坂本冬美と泉ピン子の2人に話を聞いた。

 

――お2人の共演は、2019年6月の前回公演以来になりますね。

坂本 なんだか、あっという間ですね。

泉 そしたら、大阪(新歌舞伎座 坂本冬美特別公演/2018年11月)でやったのはもう3年前? ほんと、あっという間ね。

坂本 そうです。その後、明治座でご一緒しました。

泉 あの時は、こんな世の中になるなんて誰が思ってた? こういうことがあるからセリフを覚える気になれないわね(笑)

坂本 確かに、2年前とは思えないくらい。ついこの間のような気もします。

泉 あの時よりは、やっぱり何倍も神経を使うわよね。演劇に対していろいろなご意見がありますけど、やっぱり誰かが先頭を切ってやっていかなければ、本当に無くなってしまう。冬美の楽屋にも行きません! でも、お弁当だけは冬美にお願いしようかな(笑)。卵とウインナーだけでいいの、そういうのり弁みたいなのが好きだから。何も言わないで、土間に置いておいてくれたらいいの。

坂本 はい(笑)。今は楽屋にいらっしゃる方もいませんよね。

泉 ファンの方からの頂き物もたくさんあったんですけど、それも今はできませんから。お菓子には不自由しなかったのよ。

坂本 今はそういうのをお出しすることもできませんからね。そう思うと、2年前からはまったく世の中が変わってしまったんだな、と思います。以前であれば、お客様の入り具合や空席を気にしていたんですけど、今は、お一人だけでも来ていただけたら本当に感謝です。まず公演をさせていただけることに感謝、そしてお客様に来ていただけることに感謝ですね。

 

――35周年という節目を迎えてのお気持ちはいかがでしょうか。

坂本 ピン子さんは55年の芸能生活になるそうなんですが、こういう節目のものをやったことがないそうなんです。

泉 50周年パーティだってやったことないのよ(笑)。冬美の30周年の公演は私も観に行ったものね。

坂本 忘れられないようにじゃないですが、私は歌手ですから5年おきに節目として。とはいえ、通過点でしかないんでしょうけども、あえて銘打った方が、お客様に振り返っていただけるんじゃないかと思っています。

 

――昨年はなかなか活動ができずもどかしい思いもされたかと思います。

坂本 昨年はコンサートが延期になったりして4本だけしか実施できなかったんです。コロナ禍で声を出したりできない中、ファンの方もなんとかキャッチボールをしようとしてくださって、ボードに「頑張って!」とか「冬美ちゃん」とか書いてくださいました。そうすると、その人の声が聞こえてくるんです。間奏で、いつも聞こえていたあの人の声、って私も覚えているんですね。そうやってキャッチボールができる。ですからきっと、お芝居でも笑ったり泣いたりしながらご覧いただけると思います。大きく口をあけて、ガハハ、と笑うことは出来ないかも知れませんが…。

泉 本当はガハハって笑ってほしいですけど。あとは拍手よね。

坂本 そうなんです。コンサートの時も、始まる前に、パン・パン・パン、パン・パン・パン、と聞こえてきたんです。あら、押してるわけじゃないよね、と思ったんですけど、「ふ・ゆ・み、ふ・ゆ・み」ってコールを届けてくださっていたんです。待ってくださっているんだな、と思いました。

泉 コロナ禍になってからの初めてのステージのDVDを送ってもらって観たんだけど、正座してお辞儀をしてたのよね。それを観て、本当に涙が出てきた。気持ちがわかるから。観に来てくださったお客様には、本当に頭が下がります。ありがたいです。

 

――本当にコロナ禍で、エンターテインメントだけでなく世の中が一変してしまいましたね。

泉 でも、本当に怖いです。夫が東京から帰ってくると、悪いんだけど、すぐにお風呂に入ってもらって全部洗ってもらうの。ズボンから何からすぐ洗って、家の中でもマスクはしているし、寝るときも換気扇を回して…本当に神経を使います。今住んでいる熱海にいるとね、ニュースを見なければコロナ禍のことも忘れそうになる。

坂本 熱海のような景色のいいところにいらっしゃれば、そうかもしれないですね。

泉 去年は何にも楽しいことが無かったから、「ブッダのように私は死んだ」が発売されたら、もうファンの後援会に入ったみたいに買いました。いろいろなインターネット通販の使い方も覚えて、特典がついているものをどんどん買って、みなさんに差しあげて。マッサージ師にまであげたんです(笑)

坂本 今回の舞台でも、もちろん2部の歌謡ショーで「ブッダのように私は死んだ」を歌わせていただきますよ。

 

――新曲「ブッダのように私は死んだ」は、サザンオールスターズの桑田佳祐さんによる楽曲ですね。

泉 そうそう前回の公演の最中に、サザンオールスターズのコンサートのチケット2枚あるから、冬美に一緒に行かない?って声をかけたのよ。そしたら「いや、行きたいけど……明日もありますし」って歯切れが悪くて。私も明日はあるわよ、とか思ったんだけど、あの時にもう桑田佳祐さんに頼んでいたらしいのよ。確かに、頼んでいる人間が観に行ったら、セコい感じがしちゃうわよね(笑)。いやしい感じがしちゃう。まだ返事ももらってなかったんでしょ?

坂本 あの時は、こちらからお願いをしただけで、お返事はまだでした。もう、行きたくって、行きたくって、しょうがなかったんですけど(笑)。それがちょうど、一昨年の6月です。

泉 私ならすぐ「今、頼んでいて…」とか言っちゃうけど、黙っていたのよね。私も桑田さんが冬美に新曲を書いてくれたって知ったのは発売の少し前に教えてくれた時。まぁ、バレちゃったら書かないってなっちゃうかもしれないからね。

坂本 桑田さんにお願いしたことは、事務所の社長も知らない状態でしたから。田舎の家族やお友達にも、誰にも言ってなかったんです。スタッフもほとんど知らなくて、本当に3人4人だけ。これだけは秘密に、こっそりと進めました。それで、数か月後に桑田さんのスタッフの方からご連絡をいただきまして、お伺いしましたら、もう既に曲が出来上がっていました。

泉 そういえば、私を口説いた時も、明治座にも誰にも言わないで、個人で口説いてきたんだからね。なんて人を口説くんだ、って言われたらしいよ(笑)。新曲が桑田さん、って聞いた時は「すごいじゃない! どんな演歌?」って尋ねたら、『演歌じゃないんですけど……難しい歌です』なんて言うじゃない。確かに、難しい歌よね。“目を開いたら土の中”だから。

坂本 もう歌えますからね、ピン子さんも(笑)。前回の公演では、ピン子さんにもちょっと歌を披露していただきましたね。

泉 今回は歌わないけど、ちょっと考えていることがあるの。

坂本 そうなんですよ。いろいろ考えてくださっているので、歌謡ショーのほうにもピン子さんに出ていただけると思っています。前回は、絶対に歌わないとおっしゃると思っていたんですけど、譜面を用意したら…

泉 やっぱり血が騒いじゃったのよね(笑)。お芝居もそうだけど、バラエティ色というか。冬美ちゃんのファンが、私のファンにもなってくれているから、2部にも出ないと寂しいなんていう声もあるんです。だから、何らかの形では出ます。お邪魔にならない程度にね。歌は…どうかしら。本当は「ブッダ~」を歌いたいの、でもそれはこの人が歌うから(笑)

坂本 ピン子さんは、私のファンの子の名前まで覚えてくださっているんです。歌謡ショーでピン子さんがトークされる場面があったんですけど、ピン子さんの目の前のお席を“スペシャル・ピン子・シート(SPS)”って若いファンの子たちが呼ぶようになって、「やった!今日はSPSだ!」なんて喜んでいたんですよ。

泉 私はもう、仲間だと思っていますから。応援団だもの。

 

――歌謡ショーでピン子さんがどんな形で登場するか、楽しみです。第一部はお芝居「かたき同志」ですが、今は台本に目を通されているところでしょうか。

坂本 このお正月休み、「かたき同志」の台本を覚えなきゃいけないんですけど、ピン子さんから「今、ちょっとハマっているのがあるんだけど…」って連絡が来たんです。

泉 最近、ネット通販だけじゃなくて、YouTubeもわからなかったけど使えるようになったし、Radikoの聴き方も覚えました。動画配信サービスにも入ったので、「愛の不時着」とか「梨泰院クラス」を観たりしているんですよね。

坂本 『ダメですよ、ピン子さんも覚えてくださいね』ってお返ししたんですけど、ちょっと行きづまるときってあるじゃないですか。ピン子さんのお話を聞いていましたから、ちょっと観てみようかな…なんて思いまして。

泉 そしたら、そのドラマの16話中14話まで観ているって言うんですよ。どう思います? 人に『覚えたらどうですか』なんて言っておきながら(笑)。

坂本 もう、観終えました(笑)

泉 この間、TVのプロデューサーからも勧められたドラマがあって、心が動いているのよね。

坂本 ダメですよ、もう(笑)

泉 でもこうやって取材したりしていると、どんどん追い込まれるから。昨日、東京に泊まって、ちょっとは覚えてきた。

坂本 それが凄いんですよ。私なんか、何カ月もかけて覚えないと体に入っていかないのに、コツがおありなんでしょうね。まして、今回は橋田壽賀子先生の脚本ですから。

泉 「渡る世間は鬼ばかり」の収録は木曜だったんですけど、金・土・日で2時間ドラマも撮っていたんです。だから、切羽つまると覚えられるタイプなのかもね。橋田先生も、お尻に火がついてないから、まだ書けてないっていうタイプ(笑)。でも書き出すと、書いちゃうのよ。

坂本 私はもう、まったく違うタイプです。準備して準備して……という感じじゃないとできない。

泉 そうね。だから、この人はきっちり台本どおりにしてくると思う。でも、「かたき同志」は2人芝居みたいなところもあって、お互いのセリフをオウム返しみたいにしていくから。忘れたら、どうすりゃいいんだろうね(笑)

坂本 目くばせですよね、どっち?って(笑)

泉 まぁ、どうにかなるか、2人だったら。この話は、私が20年以上前にやっているのよ。まだ細かったころ(笑)。その時も同じ、おかめ役だったけど、相手が冬美ちゃんになるからまったく違う感じにはなるかな。また似合うでしょ、冬美ちゃんがこの、お鶴役に。キレイでいい女ですよ。

坂本 最初、「かたき同志」をやるって決まった時に、役を逆にしても面白いんじゃないかっていう話もピン子さんからあったんです。

泉 でもよく考えたら、おかめの恰好をこの人にさせられないでしょ(笑)。やっぱり呉服問屋でキレイな恰好しているお鶴じゃないと。写真を見ると、やっぱりこれが良かったなって思います。親2人はかたき同士だけど、あぁそうだな、と思えるんですよ。子離れしなきゃいけないな、とか。橋田先生の作品には、嫌な奴はいませんから。

 

――ステージでの華やかなお衣装も楽しみにしていますが、今回はどのようなものをイメージされていますか。

泉 (昨年の公演写真を見て)なんでこれ、妃殿下みたいな恰好してんの?

坂本 もう、妃殿下って(笑)。前回、着た衣装で、中にもう一枚着ていましたんでちょっとボリュームがあるんですよ。

泉 迎賓館にでも呼ばれたのかと思った(笑)

坂本 ピン子さんはこの時に次の支度していらっしゃったから、見ていないのかも知れませんね。

泉 今回は(新曲ミュージックビデオで着てた)スリップ?

坂本 あれは着ませんよ、ピン子さん(笑)。ちょっと背中出しすぎているから、ご年配の方が引いちゃいます。今回はお着物などを着て、あまり衝撃的なものはやめておきます。35周年記念ですからデビュー曲の「あばれ太鼓」からスタートして、王道の演歌などたっぷりとお届けしたいですね。ほかの方の曲も1曲くらい、この時代だからこその、いい歌をお届けできればと思っています。大好きな1曲です。

泉 誰の曲なの?

坂本 それは内緒です(笑)。楽しみにしていてください。

泉 こんな時代だから、来てくれた人に本当に笑って帰っていただきたいね。

坂本 本当にそうです。元気が出たと思いながら帰っていただきたいです。公演が終わった後も、きっとこのような状況が続いてしまうと思いますから、少しでも元気を持って帰っていただけたらと思います。

 

インタビュー・文/宮崎新之