新内眞衣 インタビュー|「新・熱海殺人事件 ラストスプリング」

劇作家つかこうへいの十三回忌特別公演となる「新・熱海殺人事件 ラストスプリング」が、東京・紀伊國屋ホールにて上演される。演出を岡村俊一が務め、木村伝兵衛部長刑事には2017年より幾度も同役を演じている味方良介、ヒロインの水野朋子婦人警官には乃木坂46を卒業したばかりの新内眞衣、熊田留吉刑事には「あずみ」「フラガール」など岡村演出作品の常連ながら熱海は初挑戦となる高橋龍輝、犯人大山金太郎には小劇場から2.5次元作品など幅広く活躍する一色洋平が演じる。2021年1月に初めて水野朋子を演じ、今回再び同役に挑む新内は今、どのような心境なのだろうか。話を聞いた。

――再び、水野朋子を演じることになりましたが、どんなお気持ちですか?

前回を終えたときは、またやれるかとか全然わからない状態でしたし、またやれるとは思っていませんでした。でも、コロナ禍で打ち上げとか何もできなかったので、いつかみんなで集まりたいね、なんて話はしていたんですけど…最近になって、また出演できると聞いて驚きました。前回一緒だった、荒井敦史が伝兵衛をやっている公演も見に行ったんですよ。(能條)愛未ちゃんとかも出ていたので。前回の公演が終わった時は、荒井や味方(良介)の伝兵衛が、ほかの子が演じる水野朋子とやっていたら絶対に嫉妬すると思っていたんですけど(笑)、意外と客観的に、すんなり観ることができました。

――前回、出演にあたってお話を聞いたときは「怖い」「まだ事の重大さに気づいていない」なんておっしゃっていましたが、今は?

そうでしたね(笑)。その時はまだ台本も来ていなくて、どんな感じになるのかな?とまだフワフワした感じだったんですよ。でも今回は2回目なので、頑張らなきゃ、と思っています。

――前回の手ごたえはどのような感じでしたか?

私はみなさんより千穐楽が早くて、ほかのみなさんは3~4公演残っている感じだったんです。だから、なんとなく終わった!という感じよりも、みんなは続くから頑張って!って気持ちでした。なんだかあっという間でしたね。でももう、全部が大変でした。そもそも、みなこさん(愛原実花)とダブルキャストってだけでもう、プレッシャーじゃないですか。つかこうへいさんの娘さんですよ?すごいところと並んでしまった、って感じはありました。

――稽古の中で、自分なりの演技プランなどは出せた?

ダブルキャストだし違いを出そうとか、そういう余裕すらなかった気がします。荒井とかは、味方の真似をしないようにしようとしていたのを見ていて、なんかもうバチバチでした。それで、味方からも荒井からも「みなこさんばかり見ているとそうなっちゃうから、あんま見るな」って言われた気がしますね。自分の世界というか、自分の水野を作っていかなきゃいけなかったんだな、とは思っていましたけど、余裕はなかった。終わってみて、ちょっと客観的に見て、自分がこうだったんだ、と見えてくるようになった感じがします。やっているときは、本当に夢中だった。あの時間だけ、別世界でしたね。

――水野朋子という女性はどういう印象ですか?

すごくいい女だな、って思います。最後は結局、自分で選択するじゃないですか。最後の最後まで、やっぱり引き留めてほしいとかのいじらしさはあるんですけど、結局は自分で選択していく。だからこの後も、自分の人生を切り拓いていくことができる女性なんだろうな、と思います。あと私、伝兵衛の演技を見るのがすごく好きで。袖にハケた後、水野が見ていないところを見れているわけじゃないですか。そこになんかロマンを感じていました。水野の知らないところで、こんなやりとりがあったのか…という。私、楽しんでますね(笑)。大変でしたけど、やっぱり楽しかったです。

―「熱海殺人事件」を経験して、お芝居の楽しさや魅力をどのようなところに感じましたか?

やっぱり、全力って美しいんだな、というのはすごく思います。前回、多分私は10公演くらいやっていたと思うんですけど、1回も慣れとかなかった。回数を重ねていくことって、そういう慣れてくることってあると思うんですけど、毎回新鮮だし、毎回全力でしたね。

――全力のモチベーションを持ち続けることって大変だと思いますが、それをやり遂げることができた理由は?

私にとって、乃木坂46の外での舞台でヒロインを演じるというのが初めてでしたし、周りの環境がすごく良かったんですよね。みんな優しかったし、挑戦しようと思ったことがあっても受け止めてくれる感じがしていました。安心感がありましたね。仲良くさせてもらっていました。みんなから「(ライバルなんだから)あんまりみなこさんと仲良くしすぎるな」ってずっと言われていましたけど(笑)。石田(明)さんや演出の岡村(俊一)さんからも言われていました。でも、仲良くなりたかったというか、お話したくなっちゃったところはあります。みなこさんは本当に優しくて、わからないところとかを「こういう感じでやるのもアリだよ」とか、すごく相談に乗ってくださいました。

――今回はダブルキャストではなく、お1人で演じますが、いかがですか?

相談に乗ってくださったことを生かしていきたいですね。でも、大変だなって思いました。ダブルキャストでやっていると、稽古も同じ役の人を見ている時間があるんですよ。自然にセリフも入ってくるし、覚えるのは早かったなと自分でも思うんですよね。体力的にも、今回は座っている暇は1秒たりとも無いくらい(笑)。なので、ダブルキャストの時の方が心の余裕や体力の余裕はあったかもしれません。

――「熱海殺人事件」という作品自体の魅力はどのようなものだと感じていますか?

つかさんが亡くなられた後も、上演したいと思う人たちがいて、こんなにも長く続いていく。もう50年にもなるそうなんですよ。きっと形を変えても変わらないものがあるんだな、と思いますね。きっと今でも、伝兵衛と水野みたいな関係の人は絶対にいるし、金太郎みたいに、アイ子ちゃんを守るために罪を犯す人もきっといる。永遠に誰かの心に刺さるから、ずっと続けられている戯曲なんだろうなと思います。

――乃木坂46として最後の舞台も、卒業して最初の舞台も「熱海~」になりますね。ご卒業されて、周囲の雰囲気やご自身のお気持ちは変わりましたか?

結構、あんまり変わらないんじゃないかな。こういう舞台のお仕事は、生活の中を飛び出してやっている感覚なんですよ。乃木坂にいるときは1年の流れがなんとなくあって、夏にツアーがあって、握手会をやって、っていうのが決まっていて、舞台とかのお仕事でそこから飛び出している感じなんですね。だからこそ、新鮮な空気というか、冒険心みたいなところがあったんです。今は今で、日常生活の中から、やっぱり飛び出して冒険している感じ。舞台という新しいお仕事、新しい世界に飛び込んでいく、っていう意味では感覚的に同じかもしれません。

――今後のビジョンとして、やってみたいことは?

事務所の方からも、すごくいろいろな提案をしていただけているので、乃木坂にいるときにはあんまりやれてこなかったことを探しながら、活躍の場を広げていけたらいいなと思います。私、結構保守的って言われるんですよね(笑)。何々やりたい!とか、あんまり言えないタイプなんです。今を生きるのに必死すぎて、あんまり浮かばないっていう方が正しいかもしれない。憧れの人とかも、それを思うとその人になろうとしちゃう気がして…。

――自分の世界を大切にしているタイプ?

あ、すごくマイペースだと思います。自分の嫌なことはしないですね。よく後輩とかにも言っていたんですけど、例えば今、ここにお茶のペットボトルが5種類並んでるじゃないですか。この中から選ぶのもいいけど、今日がほうじ茶の気分だったら、私はここにないほうじ茶を買いに行く、っていう人です。家に豚汁があったとしても、今日はスンドゥブが食べたい!と思ったら、スンドゥブを作っちゃう。自分が今どうしたいのか、何に興味を持っているのかを大事にしてあげないと、ブレが出てきちゃうんですよね。こっちの方が楽だから、こっちが人気だから、とかで選びたくない。私がどう思っているかをいちいち自分に聞かないと、それこそネットの声とかに左右されちゃうようになっちゃうんじゃないかな。

――周りの声は聞こえてくるし、聞くんだけど、最終的には自分がどう感じているかが一番大事、ということですね。稽古の時の自分なりの過ごし方やルーティンなどはありますか?

前回の時は、毎日スタバに行ってコーヒーを買っていました。今回も毎日買っているんですけど、飲む暇がなくて(笑)。終わってから、飲み干すような感じになっています。コーヒーが好きなんですよね。換気のために何分かに1回、ちょっとした休憩時間ができるんですけど、コーヒーが飲みたくなったら岡村さんをチラチラ見るんですね。そろそろ換気しませんか~?って。でも、岡村さんは集中しているから全然こっちを見てくれないんです(笑)。

――それくらい、稽古が白熱しているんですね。岡村さんの演出ってどういう印象ですか?

つかさんの舞台って、言葉が裏腹なことばかりなんですよ。本当はこう思っているけど、言葉ではこう言っている、みたいな。だから、わからないところも出てくるんですけど、それをひとつひとつ追体験させてくれるんです。例えば、金太郎の独白の中で、風が強くてタバコに火がつかなかったことが、どうしても思い出せないんです、って言うんですけど、そのセリフのために、1回タバコに火をつけてみて、私が遮って「つかなかったね」みたいな感じで笑いあうところを1度体験してみるんです。それからそのセリフを言うと、全然厚みが違うんですよね。自分の中でも納得感が出る。そういうところをとても大事にされていますし、稽古のスピードはめっちゃ速いんですけど、すごく丁寧にやっているんだと思います。岡村さんは「俺はつかさんの研究家だから」っておっしゃっていますが、確かに、と思うほど、それを全身全霊で伝えてくださる。本当にすごいなと思いますし、そんな時間がすごく楽しかったりするんですよね。前回は出てこなかった引き出しが出てきて、まだ引き出しがあるの!?ってなっています(笑)。

――楽しみにしています。最後に公演を楽しみにしているかたに意気込みを聞かせてください

本当に素敵な舞台なので、ぜひお越しいただきたいです!自分にとって水野朋子という役は、大事な役になりました。一度演じて、水野を知っているからこそより演じる怖さも感じています。1回目は挑戦する楽しみが大きかったですが、今回はそれを知っているからこその怖さですね。観てくださるお客様の期待値も上がっていると思いますし、1回目よりもちょっと恐れている私がいますが、とにかく稽古をやるしかないので、頑張ります!

ライター:宮崎新之