「蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く」味方良介×石田明×北野日奈子 インタビュー

十三回忌追悼公演 つかこうへいLonely 13 Blues「蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く」が7月18日(月・祝)まで東京・紀伊國屋ホールにて上演中。

本作は、2022年7月10日に没後12年を迎えるつかこうへいの最後の追悼公演「つかこうへいLonely 13 Blues」のうちの一作。本作と「初級革命講座 飛龍伝」が、つかのホームグラウンドである紀伊国屋ホールにて連続で上演されている。演出は岡村俊一。

東映京都撮影所が舞台となる本作で、スター俳優・銀ちゃん(倉岡銀四郎)を演じる味方良介、その子分で大部屋俳優のヤスを演じる石田明、ヒロインの小夏を演じる北野日奈子に、稽古場にて話を聞いた。

「俺と味方、会ってない間もどれだけLINEしてるか知らないでしょう!?」(石田)

――開幕まであと一週間というタイミングですが、お稽古はいかがですか?

味方 この作品はもともと2年前(2020年7月)に上演するはずだったのですが、そのときは世の中が乱れに乱れているときだったので、試行錯誤して新たな形の朗読劇として上演しました。そのときは時間もなかったですし、(朗読劇なので)「人間同士のぶつかり合い」みたいなものも表現しにくいところがあったのですが、今回はしっかりと時間を使って、一人ひとりのキャラクターや脚本の構成を、みんなで話し合いながら稽古を進めています。ここ一週間くらいでやっと、本来の稽古の時間に辿り着いたなと思います。

――「やっと本来の稽古の時間に辿り着いた」というのはどういうことですか?

味方 この3週間、かなり大変な道のりだったんですよ。僕や石田さんは何度もつか作品に出演しているのでまだ慣れているところもあるのですが、それでもけっこう大変でした。演出の岡村さんが持っているイメージと、つかさんがつくった世界と、僕らが板の上に立って演るうえでの感覚が噛み合うように整理するのは、なかなかハードなことで。北野ちゃんなんて初めてのつか作品ですし、この独特な世界観の作品づくりはさらに大変だっただろうな。

北野 最初はわからないことがたくさんあったのですが、ここ最近でなんとなくわかってきたし、それを自分のものにできている感覚が少しずつ増えています。ずっとすごく緊張しながらやっているのですが、皆さんと稽古を重ねていく中でその緊張も少しずつとけてきました。

――緊張というのは?

北野 自分が人見知りなんだなと気付きました。

石田 このカンパニーは特に男性ばっかだしね。

北野 皆さん共演経験があって仲がいいので、転校生のような気分で入りました。でも、演技について無知だった私が、皆さんのエネルギーや、教えてくださる言葉によって少しずつ学ぶことができていて、「きっとこの経験は今後ずっと忘れない思い出になるんだろうな」と思いながら毎日過ごしています。「乃木坂46」を卒業して初めての現場がここで、ありがたいです。

――石田さんはいかがですか?

石田 そうですね、毎日しんでます。

――(笑)

石田 本当にね、つか作品に参加するたびに老いを感じるというか……こうやって人間はパワーを失っていくんだな、と思いますよ。そして味方の無限の強さに圧倒されます。

味方 ははは!

石田 しかもこの作品、「一作品」ぶってやってますけど「二作品」ですからね!?

――「蒲田行進曲」と「銀ちゃんが逝く」の。

石田 そうですよ。だからしんどいに決まってるんですよ!

味方 二作品をキュッとさせてるからね(笑)。

石田 よう考えたらおかしい話ですよ!

味方 脳みそもついていかなくなるよ、そりゃ。

石田 (同じ役ではあるけれど)人生を二つやるような感覚なので。これまでも、身体がついていかんことはあったんですけど、ここまで脳みそがついていかんことはなかなかない。だから余計にパワーを使っています。

――脳みそをどういうことに使っているのでしょうか?

味方 ヤスならヤス、銀ちゃんなら銀ちゃんの“ルート”が2本、平行線で走っているみたいな感じなんですよ。

石田 二作品は書かれた時期も違うので、つかさんの思考も変わっているんですね。

――あ、なるほど。

 問題提起されていることも違うし、抱えているものも違うし、言いたかったことも違うし。だから同じ登場人物でも、「蒲田行進曲」ルートと「銀ちゃんが逝く」ルートでは人格がちょっと違っていて。それを一つの作品にしているから、「あれ、さっきと言ってることが違ってきちゃうな」ということが起きるんですね。そこをどう繋いでいけばいいんだろうってグルグル考えるんですけど、そこで僕のルートがうまく繋がっても、石田さんもそこを通らないといけなくなるわけで。

――そうですよね。相手のルートも変わってきちゃいますよね。

味方 そこでどうするのか、ということを考えています。北野ちゃんから見ているときっと、僕らは作品をすごく理解して演じているように見えてるでしょ?

北野 見えてます。

味方・石田 (首をブンッと横に振る)

一同 (笑)

石田 俺と味方、会ってない間もどれだけLINEしてるか知らないでしょう!?

味方 ははは!

石田 「これはどういうこと?」「これはどうする?」

味方 こんなにLINEしないよね(笑)。

石田 ただのツレみたいになってる(笑)。

――そういう悩みはこれまではなかったのですか?

味方 『熱海殺人事件』もいろんなバージョンはあるんですけど、僕らがやってきたバージョンはわかりやすく起承転結があって、話が一貫していたんです。だからとにかく、人のワードだったり感情だったりを逃さず紡いでいけば、きちんと走れました。でも今回はそこがまだ難しい段階です。

石田 『蒲田行進曲』という作品のパワーが強いというのもありますよね。そもそもいい作品じゃないですか、わかりやすくて。それを再構築していく、というのはなかなかの作業です。しかも普通は「起・承・転・結」なんですけど、今作は「起・承・転・起・転・結」なんですよ。

味方 (笑)

石田 だから油断すると全員倒れてしまうんじゃないかというような。

――そこで大事になるのは何ですか?

味方 「人間力」がすごく大事です。もちろんこれはお芝居なんですけど、でも「演じる」ということをした瞬間にどこかが破綻してしまう。心でやっていかないといけないんです。だから、「ここで怒る」「ここで泣く」「ここで笑う」なんてことを決めうちで走ってしまうと、もう無理。“その日、その瞬間”の中で、バトンをもらって、走って、みたいなことを続けていかないと、どうしてもノッキングしちゃう作品です。そのためには、さらけ出していかなきゃいけない。

――そうですね。

味方 つかさんの作品はもともとそういう要素が多いと思うんですね。「銀ちゃん」「小夏」「ヤス」ではなくて、「味方」「北野」「石田」みたいなことで成り立っている作品が多い。今作は特にそこが強いなと稽古をしながら感じています。

「一生懸命立っていても動かされちゃうような感覚があります」(北野)

――そういう稽古場で、北野さんはどんなことを受け取っていらっしゃいますか?

北野 これまで私がやってきたお芝居は、どちらかというと、既にあるお芝居をコピーするようなイメージというか、決められたように台詞を言って、動いて、というふうにやってきたんですね。でも今回は、相手の台詞によって自分の心の動きが変わるので、その瞬間、覚えていたはずの台詞が出てこないとかもあって。

石田 いいことだね。

北野 あ、ほんとですか? 「どうしよう」みたいになるんですけど(笑)。でも日々、自分の知らなかった心の動きがあるので、これが皆さんの持つパワーなんだなと実感しています。なんか、自分の軸を保ってられないような感覚なんです。一生懸命立っていても動かされちゃうような。

石田 実は今回、僕は稽古に合流するのがちょっと遅れたんですけど、味方が「北野ちゃんは大丈夫だと思う」という連絡をくれたんですよ。この人、そんな連絡してくるような人じゃないので。

味方 (笑)

石田 でも本当にスタートダッシュがすごかった。これだけ台詞が入っていて、これだけ声を出せる方ってレアなんです。

味方 (つか作品を)初めてやるときってわからないことが多いから、考えることをやめてしまう人も多いんですよ。じゃあそこで、何度もやっている僕らがどう影響を与えられるか、というような段階は毎回あるものなんですけど、今回はそれがいらなかったです。真っ直ぐ作品の稽古に入れたので。これは安心だなと思いましたね。

――舞台経験が多いわけではないですし、つか作品も初めてで、女性ばかりのグループにいた北野さんが。

味方 急にこういうカンパニーに入って。

石田 嫌だよ!

味方 俺も絶対やだ(笑)。

石田 まず俺が初めてつか作品をやったとき、まじで嫌でしたから。

北野 (笑)

石田 なんでそんなみんな大きい声で喋るのよ、なんでそんな早く喋るのよ。

味方 みんな客席のほう向いていっぱい喋ってね(笑)。

――北野さんご自身はどういうところに苦労されましたか?

北野 稽古が始まる前の、台本を一人で覚えている最中は「なにを言っているんだろう」という感じでした。一生懸命覚えるんだけど意味がわからない。その状態で稽古に入ったので、台詞を喋る度に岡村さんから「その心は?」「どういう気持ちで言ってる?」と聞かれていました。ただ、わからないことは岡村さんも話してくださるので、そこで初めて小夏さんの気持ちを知って。ただそれが、私が経験したことのない気持ちなんです。恋愛をしてこなかったツケがここで回ってきたなっていう。人生が全く違うから、何もかもが理解できなかった。でも今は、小夏さんとして立っている時間は、「この台詞を喋るとこういう気持ちになるな」というところまで来れました。だから楽しいです。

「やる度に怖い」(味方)

――ご自身の役のどんなところに面白みを感じていますか?

石田 僕の役は、前半は今まで僕がつかさんの作品でやらせてもらったことを濃厚にすれば乗り越えられるんですけど、後半になると自分の得意ジャンルじゃないことばかり起きるんですよ。そこができるようになったら強くなるなと思って、楽しんでいるところです。新たな成長のチャンスかなと思いますね。

――得意ジャンルじゃないことばかり起きる、というのは?

石田 2020年に朗読劇というものを挟んだから生まれたものなんだと思うのですが、押してダメなら引いてみな、とはまた違うベクトルのことが多いので。すごく勉強になります。これもできるようになってしまったら、僕へのオファーが止まらん気がしますね!

――(笑)。北野さんはどうですか?

北野 小夏という役は、小夏の気持ち次第で、例えば階段落ちまでのみんなの心情も変わってくるようなところがあるというか。それがどれだけ重要なことか、どれだけ大変なことか、というのが変わってくるんだ、ということを最近学びました。だから私の小夏次第で、この作品の重みが変わってくるのかなと思っています。

――それはすごく重い発見ですね。

北野 この作品は、観てくれた方の人生に影響を及ぼすくらいのパワーがあると思うんです。だから、観てくださった方一人ひとりの感想を知れたときに、「心を動かせた、楽しい」みたいな感覚になれるんじゃないかなと思っています。

――味方さんはどうですか?

味方 銀ちゃんを演じるってこと自体が嬉しいことですし、ありがたいことなんですけど、僕の中ではそれよりもやっぱり、この出演者たちで「蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く」をやるってことが一番嬉しいし楽しいことで。つかさんの作品で出会った僕らが、つかさんの十三回忌に、この作品をやるってすごく大きな意味を持つでしょうし。「新・幕末純情伝」(’16年)で出会ったときは右も左もわからなかったけど、今こうして当時のメンバーや新しく加わったメンバーで、この作品やれる。これは僕の中でひとつの大きな区切りでもあって。そんな今、銀ちゃんを演じるからこそ、独りよがりになっちゃいけないと思っています。みんながいるから倉岡銀四郎がいるし、倉岡銀四郎がいるからみんながいる。

――はい。

味方 だから今は、言葉を発する度に、「これでいいのかな」「大丈夫かな」ってすごく考えています。僕一人がただ叫び続けて走り続けても作品はできないし、相手の言葉を聞くことで僕の言葉が出てくる。それを、“歌う”んじゃなくて、心で喋る、心で開放するっていうことを心がけています。だからやる度に怖いですし、「どうなっちゃうんだろう」とか、本当に「死んじゃうんじゃないか」とか思う。「通し稽古始めます」って言われた瞬間に「やだなあ」って(笑)。

石田 マスク有りでやるような芝居じゃないですからね。マスクなくてもしんどいのに。

味方 マスクのせいでねえ!

石田 立ってられへんときがありますから。

味方 酸欠になっちゃうからね。だから怖いです。そこはきちんと制御しながらですが、きちんと人のために死ににいきたいなと思っています。

ライター:中川實穗