かっこいい、愛されるヒールを演じたい
明治座×東宝×ヴィレッヂによる“三銃士企画”第二弾となる音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』がこの冬、東京・福岡・大阪で上演される。『リチャード三世』×昭和歌謡界をテーマに倉持裕が書き下ろす本作は、昭和30年代を舞台に、芸能界に君臨する「鳴尾一族」を巡る血と運命と復讐を描く。そこで主演の中川大志演じる桜木輝彦/鳴尾定と政略結婚をし、共に鳴尾家に報復を企てるレコード会社の女社長・蘭丸杏を演じるのは、松井玲奈。
松井「蘭丸杏は強い気持ちを持った女性なので、私が物怖じしないようにだけはしなければと思っています。皆さんとお芝居の中でコミュニケーションを取ることが多いので、臆せず向き合っていきたいです。唯一共演経験のある中村 中ちゃんが、今は心の拠り所ですが(笑)」
松井がそう話すのも頷ける。共演者は、中川をはじめ、福本雄樹、浅利陽介、中村 中、山内圭哉、池田成志と、迫力のある俳優ばかり。
松井 「主演の中川さんがどうやってふたつの役を演じわけるのか、舞台上で一体どう表現されるのかは、私も今一番楽しみにしています。輝彦が華やかな歌謡界でスターとして輝いているシーンもありますが、そうじゃない姿もお客様は観ることになるので、そこで生まれるギャップも面白いのではないかなと思います」
昭和の時代に、レコード会社の女社長にのぼりつめ、政略結婚までして鳴尾家への復讐に手を染める蘭丸杏。どうつくろうとしているのか。
松井 「まだつかみ切れてない部分も多いですが、ただ強いだけではない人物にできたらいいなと思っています。彼女にもきっと弱い部分はあるので、そこを見つけて、人間味を出していきたい。主人公側の人間ですが、立ち位置的には悪役かなと思うんです。共感は得られないかもしれないけど、『かっこいいな』とか『あの役が出てくると舞台上が楽しくなるな』とか、そんなふうに愛されるヒールはいるので、そうなれたらいいなと考えています。あと、彼女は登場の仕方にインパクトがあるので、最初の台詞や立ち姿から、どんなに恨みや情念を持ってそこに立っているか、ちゃんと伝わるようにしたいです」
音楽劇である本作は、松井にもソロ曲がある。
松井 「脚本からイメージしていたものとは全く違うタイプの曲でした。その場面で起きていることと曲の感じが、ちょっとちぐはぐな印象があるんです。でもそれによって、歌を聞いたお客さんたちが恐ろしさのようなものを感じてくれたらいいなと思います」
倉持裕の演出を受けるのは『神の子どもたちはみな踊る after the quake』(’19年)以来となる。
松井 「倉持さんは淡々とした方で、実はいまだに何を考えていらっしゃるのかつかみきれないところがあります。今作のような激しい戯曲を書かれることも想像できないですし。ただ、前回はすごく静かな舞台だったので、今回はまた違うお芝居を倉持さんに提案していきたいですし、倉持さんがどんな演出をつけてくださるのかも楽しみにしています」 本作を「ホラー映画のような面白さがある」と松井。
松井 「ホラー映画って思いもよらないところで驚かされたりしますが、そんな感じで、復讐の念がどこから飛んでくるのかわからない。思いもよらない転がり方をするので、そこも楽しんでいただければ」
インタビュー&文/中川實穂
Photo/篠塚ようこ
※構成/月刊ローチケ編集部 10月15日号より転載
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
松井玲奈
■マツイ レナ 最新の出演作には、『オクトー〜感情捜査官 心野朱梨〜』『少年のアビス』など。主演映画「よだかの片想い」が公開中。女優として多くの作品に出演するほか、小説家としても幅広く活躍。