舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』ハーマイオニー役早霧せいなインタビュー

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が絶賛上演中だ。世界的大人気シリーズの映画により、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう『ハリー・ポッター』。その19年後を描く物語がロンドンで舞台となり、現在世界6都市で上演されている。世界で数々の賞を冠したその舞台を、東京では厳しいオーディションを勝ち抜いた日本オリジナルキャストによりロングラン上演されている。その中で、人気キャラクターであるハーマイオニー・グレンジャーを演じる早霧せいなに話を聞いた。『ハリー・ポッター』を詳しく知らなかったが、ロングランを続けていても飽きることがなく、日々感動しながら、やりがいをもって演じているという。作品の魅力や、稽古の過程、ハリー・ポッターを演じる、藤原竜也、石丸幹二、向井 理、それぞれの個性や、この作品が自分の役者人生に与える影響などについて語ってくれた。

 

――今上演されていて、手応えはいかがですか?

稽古前は初めてのロングランで、体力的なものやペース配分など、メンタル面の不安がありました。4月の稽古から含めると約半年経ちますが、とにかく楽しくて全然飽きない。良い脚本と演出のおかげです。そして、出自がバラバラのキャストですが、同じ目標を持ち、同じものを見て舞台に立っていると強く感じます。海外スタッフチームの皆さんが、チームワークや相手へのリスペクト、エネルギーをもって舞台にいることを叩き込んで、導いてくださったからこそで、やりがいを感じています。

 

――次から次へと飛び出す魔法など、気を付けなければいけないことが多く、大変だろうと思います。

魔法に関して、安全面で気を付けなければいけないことが沢山あります。決まった台詞を言うと発動するきっかけが多く、シビアに守らないと伝えられないことがたくさんあるので、気を遣う部分が違います。そのピリッとしたものは、自分や周りの人たちの命にも関わるので、安全面と共に、鮮度を保つためにも良いのかも。

 

――良い脚本という点について、詳しくお聞かせください。

いつも舞台袖で見ていて、最後のシーンで、「今日も良い話だった」としみじみ思い拍手するんです。舞台上にいても、舞台袖でも、響く台詞が日ごとに違うのは、子どもから大人まで、どの世代にも響く台詞が散りばめられいるから。大人が観たら、思春期だった頃に、お父さんにこう言われた、お母さんにこう見守ってもらっていたと、タイムスリップして想像する世界観。子どもの成長物語でもあるので、子どもなら、その世界に同じ気持ちでどっぷり入っていける。本当に脚本が面白く飽きない、戯曲の良さを実感しています。

 

――親子愛など大人にも響きますね。

魔法界を救った子が、子育てで苦労していて、親近感を感じますね。ハリーは支えたくなるようなキャラクターで、すごく魅力的な役だと思います。

 

――『ハリー・ポッター』シリーズは、日本でも大人気で、特にハーマイオニーは人気キャラクターですが、演じることにプレッシャーはありましたか?

最初は正直、眼鏡をかけた男の子の話としか、知らなかったんですよ。皆様に申し訳ないのですが、ハーマイオニーも魔女のひとりだと思っていたんです。オーディション時には、ハリーの友達だと学んで心して行きました。配役が公式発表になると、女性からお手紙をたくさん頂いて、小さい頃からのバイブルだという方々がこれだけいるんだ、ちゃんとやらなければと思いました。ただ、皆さんが思い描いている、原作や映画のハーマイオニーと、少し違うと思うんです。

 

――年齢も違いますしね。

マグル出身で、いろいろなコンプレックスを抱えながら魔法大臣まで昇りつめたことが、どれだけ大変なキャリアか、女性ならわかりますよね。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』のハーマイオニーは、そんな大変な思いをして存在しているので、エマ・ワトソンの可愛らしいハーマイオニーを想像して来た人には、少し強すぎるのではと、ダブルキャストの中別府葵ちゃんと心配していましたが、「もっと強く怒って」と演出されるので、迷わず心して強くいこうと。見かけじゃない滲み出るキュートさがある。ロン・ウィーズリーを夫にするような奥さんって、やはり強がっているからこそ。その裏には弱さもあり、ロンが支えてくれている。それが彼女の魅力でもあり、強いばかりではない、違う面を見せられる相手がいて、良い夫婦ですね。

 

――稽古から半年間、ハーマイオニーの新しい発見や変化はありましたか?

演出補のコナー・ウィルソンからは、エネルギッシュに、スピード感があって、常に怒っていると言われました。誰かしらに何か怒っていることが多く、まずは、エネルギーをもって誰かに向かうことを、自分のなかに叩き込んで作り、プレビュー公演のなかで、緩急をつけました。強く出るだけでは、その幅も出ないので、いかに緩めるか。

笑いのポイントも、ロンと試行錯誤しながら、夫婦で一緒に作っています。お客さんが入ってからのほうが、反応がわかりやすいので、プレビュー公演で育てていった実感があります。やはり面白かったんだと気づける反応を頂けたことが、確実に自信になりチャレンジできています。

 

――何回観ても楽しめる?

すべての流れも仕掛けもわかっていながら、自分が出ていない時に客席から観て、すごく面白かったんですよ! 一度観ると、絶対に次もまた違う感覚になると思います。

 

 

――海外スタッフチームとのクリエイションの過程で、印象に残っていることをお聞かせください。

演出や動きは、世界で上演しているすべてが共通していますが、誰が演じているかを重視して導いてくれました。山の頂点までどのルートで登ってきてもいいよという自由度がああり、絶対に決まっているものがないから、役者が同じようにスタンプを打てばいいみたいな芝居をせずに済んでいる。鮮度を保てて、トライしてみようという気持ちになれているのは、導き方のおかげだと思います。

 

――それぞれ個性を大事にされるというのは、中別府さんと違う演出をされたりするんですか?

5月の稽古からはほとんど一緒にやっていないんです。演出家のジョン・ティファニーと演出補のデス・ケネディ、コナー・ウィルソンの3名が来てくださって、3人とも好みが違うんです。あるシーンを、「もうちょっと笑ってほしい」と言われて、めちゃくちゃ明るく笑っていたら、別の演出家は「そこまで笑わなくてもいい」と。みんな勘が良い人たちだから、何が多すぎてそう見えたのかを、何となく察知していました。役者の個性を活かした演出になっているところもあります。

 

――それぞれの個性を大切にしてくれたということで、3人のハリーそれぞれの魅力を教えていただけますか?

私はだいたい藤原さんとお稽古していました。石丸さん、向井さんとは、直前に少し合わせましたが、合わせていないシーンも多いまま本番をやりました。今やっと、おふたりに馴染んできた感じもしています。

藤原さんはエネルギーやスピード感ですね。稽古中も、この作品が持つものをキャッチするのが速く、ロン役の竪山隼太君と、彼のペースに合わせていたら、私たちは上辺だけしか作れないから、私たちのペースでやろうと話し合ったぐらい、すごく集中力がある方です。ハリーの暴走しがちなところと、藤原さんの突っ走っちゃう感じが合うんです。それは決して独りよがりじゃなく、周りのためや子どものためにという思いが強すぎて、行き過ぎるところを、周りがちゃんと支えて、彼に良い意味で巻き込まれていく。それが藤原さんの魅力と一致しているんじゃないかと。ハリーの執務室で対峙するシーンは、すごいエネルギーと目力なので、負けないようにしています。そのシーンが終わり扉を閉めて、舞台からはける時に、爽快感を味わいます。こんな役者さんとやれているんだという充実感は、役者人生でここまで強く感じたことはほとんどなく、やはりすごい役者さんだと強く感じています。舞台上で一緒に言葉を交わすのが、日々幸せで毎回楽しいです。

石丸さんは、「優しさを封印して、怒ったお父さんを演じなさい」と言われていますが、やはり優しさが滲み出ている可愛いハリーです。一番年上で、キャリアも一番長いはずですが、もしかしたら一番キュートなハリーかも。困った顔や嬉しそうな表情が見れた時に、こっちも自然に笑顔になります。一生懸命さが可愛いのかもしれないですね。理想のパパになろうとする姿が、石丸さんの優しさとフィットしていて、失礼ですが、すごく可愛くて、支えたくなると思います。

向井さんは、まだ一番一緒にやっていないんです。向井さんの初日を客席で観ましたが、自分が描いているハリー像を繊細に丁寧にやる人なんだと。繊細で、頭のなかでハリーとして考えているんだと、目のお芝居で伝わってくるので、頭脳派ハリーのような気がします。ハーマイオニーとしては、「幼馴染としてちゃんと助けるよ」という思いで、何を考えているのか探りたくなるようなハリーですね。向井さんが一番バランスが良いように感じますが、ハリーが感じているバランスだけに、危うさをもっています。

 

 

――この作品をやることで、ご自身の役者人生にどんな刺激がありそうですか?

宝塚を含めて21年目ですが、宝塚時代にトップまでさせていただいて、そこにたどり着くまでに、新人公演やバウホール公演の主役など、段階を経て徐々に自分のなかで、責任やプレッシャーを抱えながら、舞台に立っていました。トップを終えて、荷を一旦降ろしましたが、どこかでまだ、そのキャリアを経た上で舞台に立ってなければいけない、この舞台に呼んでもらった以上、その期待に応えて、必要なことを必要以上に出すことが私の仕事だと思ってやってきました。

この作品をやっている時に、それがとれたんです。良い意味で、まっさらな気持ちで、宝塚の下級生時代、研3(研究科3年)頃にまで戻れた感覚です。舞台に立つことが楽しく、等身大で、それ以上に背伸びしていなかった、ただ役や作品と向き合って、目の前にいる人とお芝居をして、お客さんに何かを届ける。この感覚が楽しかったんだと思い出せたから、今楽しいのだと思います。

 

――そう思える一番の要因は何でしょうか?

海外チームが作ってくれた、リスペクトし合っている仲間たちであることですね。相手を信頼するところから始まっているので、変に疑う心なく、役と向き合うことだけに集中できている。そして、周りとの信頼関係はすでに作られている安心感があるからだと思います。良い仲間たちとやれて、良い話だったと拍手して終われるのは、やはり良い脚本と演出だからこそだと思います。

 

取材・文/岩村美佳
ヘアメイク/飯嶋恵太(mod’shair)Keita Iijima(mod’shair)
スタイリスト/田中雅美
扮装写真/HIRO KIMURA(W)
舞台写真/宮川舞子