劇団☆新感線の高田聖子が立ち上げた演劇ユニット“月影番外地”。その第7弾となる新作『暮らしなずむばかりで』は、このユニットにはお馴染みの脚本家(にして演出家でもある)・福原充則が脚本を担当し、演出家(にして女優でもある)・木野花が演出を手がける注目作だ。出演には、50代にしてひとり暮らしを始めた<能見>を演じる高田のほか、宍戸美和公、森戸宏明、信川清順、田村健太郎、そして能見の隣室に住む謎めいた男<庄司>にはこれが“月影シリーズ”初登場となる松村武が扮することになった。稽古開始はまだ先とはいえ、福原からはあらすじなど詳細が書かれたプロットが送られてきているとのこと。それをもとに高田と松村に、今作への想いや予想していることなど、ヒントになりそうなことを語ってもらった。
――久しぶりの“月影シリーズ”ですね。脚本は、このユニット四度目の参加となる福原充則さんです。福原さんには、どんなことをリクエストしたんですか。
高田 最初のうちは、たとえばモチーフはこういうものにしましょうとか、いろいろ話していたんですけれど。結局のところ、おまかせになりました(笑)。
松村 ハハハ、そうだったんだ。
高田 だから、私たちも今は台本が完成するのを楽しみに待っている状態です。
――プロットを読んでの感想としては。
高田 このプロットを読んだ限りでは、今まではずっと迷路のようなところを明日が見えないままでみんなでぐるぐるしていて、とにかく小さな明かりに向かって行こうとする物語だったような気がするんです。でも今度は自力で限界突破していく感じなので、ちょっとまた新しい展開のステージになるんじゃないかと期待をしています。
――そして今回、松村さんが初参加されることになりました。
松村 はい、そうなりました。
高田 松村さんには実はずっと前から、キャスティングをする時に何度もお名前は挙げさせていただいていたんです。ですから今回、やっと満を持して出ていただけることになったというわけですね。もう、既にあちこちから褒められていますよ、よくぞ松村さんをキャスティングした!と。
松村 ハハハ、うれしいですね。
高田 もう、ずっとお忙しいからなかなか機会が合わなくて。今回もある意味、無理やり“月影”のために身体を空けてくれはったんです。
松村 いえいえいえ(笑)。やっぱり、この“月影シリーズ”にはいい役者さんが揃うというイメージがあるし、もちろん常に面白いというイメージもありますし。だから、そのユニットに呼んでいただけるなんてすごく名誉なことだと思い、1にも2にもなく「出たいです!」と返事をしました。このシリーズには、何公演か前にうちの劇団の藤田記子が出させていただいたんですけど(『どどめ雪』2016年)。あの時、ものすごくジェラシーを感じてしまったんです(笑)。
高田 アハハハ。いいじゃないですか、藤田さん、素敵だったでしょう?
――だからこそ、よけい悔しくなったりして?
松村 そうそう(笑)。
――だったら俺だって出たいと?
松村 出たい!と思っていました。
高田 ありがたいことです(笑)。
――松村さんはプロットを読んでどう思われましたか。
松村 ちょっと、僕が演じるのは謎が多くて、まだ全然わからないんです。だけど福原くんの脚本に出るというのも初めてのことなので。どういう風に書いてもらえるのか、とても楽しみです。
高田 福原さんは、松村さんのことをどんな風に思ってはるんでしょうね。
松村 ねえ! この間、福原くんと話をしたんだけど、昔からうちの劇団(カムカムミニキーナ)の芝居を観てくれているそうなんですよ。90年代くらいからだというので、えっ、そんな前から?って驚きました。
高田 ほう。
――それぞれの役柄は、あて書きをされるんですよね。
高田 きっと、福原さんなりのあて書きになると思います。いつも「福原さんって私のこと、そんな風に思ってはるんだー」って思いますから。
――ピッタリ当たっていることもあれば、自分としては意外に思うこともある?
高田 いや、きっと自分のどこかにそういう部分があって、それを見つけてピックアップして書かれているんだと思うんです。私の場合は、所属する劇団自体が華やかだったり、激しいタイプでしょう。その中で、さらに激しい役柄を演じることになることも多いし。そういうイメージがあるから、劇団以外の作品でもパワフルだったり、どこか突出しているような、飛び道具的な役が多かったりもするんですけど。でも、福原さんが書いてくださる私の役柄はなぜかちょっと可哀想な女性であることが多くって(笑)。
――確かに(笑)。
高田 「私って、そんなに可哀想に見えてるのかなあ」って思いつつ、妙に納得する部分もあったりします。
――実はそういう面を持っていることを見抜いたのか。
高田 あの、ぐりぐりした目で。
松村 きっと見られているんだよ(笑)。
――松村さんもどういう人物にあて書きされるのか、楽しみですね。福原さんの書く作品の魅力については、どう感じていますか。
松村 まず、どうなるかわからない話だということ。これってすごく大事だと思うんですよ。こんな感じの話かなと予想しながら観るのではなくて、どう転がっていき、何が刺さってくるかがわからないまま進んでいく物語になっている。それが福原くんの書く作品に共通して見られる特徴で、そこが面白いんですよね。もちろんセリフもカッコイイんですが、それよりも僕は「どうなっていくの、これ?」っていう話の流れに一番ひきつけられるんです。
高田 確かに、そうですね。山場もどこなのか、わからない。少しずつ答え合わせをしていくみたいになっている面白さもありますが、それがすべてという訳でもなく、とにかく私達はずっと見続けるわけです。
松村 そうそう、そうなんですよ。
高田 先のこととか、そういうことを思う余地すらないまま、とにかく見続けないといけない。
――物語について、必死についていこうとしながら。
高田 交わるというか、とにかくその渦中に入れるという魅力がある。そして素敵なセリフでもって煙にまかれもするんだけど、思いがけない瞬間にすごく感動できる。
――驚きが、ある。
高田 ありますね。
松村 なんだか急に来るんです。素敵なのを、言うよー、言うよー、ハイ!っていうタイミングではなくて突然、エッ!?という瞬間にガン!と来るから。
――それで、よけいに刺さるのかもしれませんね。
松村 そうなんです、こっちは油断していたりするのでね。
――今更ですが、木野さんに演出していただくことについてはいかがですか。
高田 木野さんはもう、年々パワーアップしていて。こんな言い方だと偉そうに思われたら困るけど、どんどん自由になっていっているように思うんです。今回も、またさらに自由度が大きくなっていそうですね。
――3年経った分。
高田 ええ。最近、木野さんは演出家としてもそうですけど、女優としてもものすごく脂がのってきていて溢れ出ているくらいですから。艶やかな感じがすごくする。さらなる、愉快なことが起こるかと予想しております。
松村 愉快なことか!(笑)
――やはり毎回、なにかしら愉快なことが必ず起きますか。
高田 そうですね、起きますね。
――女優さんとして共演する時と、演出を受ける時とでは人間関係が変化することもあるのでしょうか。
高田 いや、大きくは変わりません。でも役者同士で共演している時は、いつも少し不安げです(笑)。
松村 ハハハ、そうなのか。
高田 「大丈夫かしら…」って言いながら。「いつも反省している」とか「お風呂で泣いている」とかおっしゃるんだけど、それでもやはりものすごく陽の気を放ってはりますね。演出家の時には、そういう泣き言はおっしゃりません。
松村 ハハハハ!
――まさに月影先生ですね(笑)。
高田 かなり陽気な、月影先生です。
――松村さんは、木野さん演出を受けるのは。
松村 演出を受けるのは初めてです。だけど木野さんもよく、僕らの劇団の芝居を観に来てくれて、その後の飲みの場で忌憚のない意見を、いいことも厳しいこともバシッと言ってくれていましたから。そういう場でも、本当に陽気なので(笑)、なんかずっと話を聞いていたい気持ちになるんですよね。ホント、一緒にいて楽しい人なんです。だから自分もいつか、木野さんの演出を受けたいと思っていたので、今回はそれがようやく叶うことになり楽しみしかないです。結果的にどうなるかはわからないですけど。ものすごく怒られることになるかもしれないし(笑)。厳しいところを突いてこられる可能性があるなということは、覚悟しています。
高田 なかなか、人から怒られることも少なくなってきましたからね。
松村 そうそう、貴重な機会ですよね。
――やはり、怒られるんですか?
高田 怒られますよ。
――即答ですね(笑)。
高田 だけどそうやって厳しく指摘してもらえるなんて、なかなかないことだから。長くやっていると、無意識でどうしても雑になってしまうところがあるから。
松村 うん。自分ができていないこと、苦手なことを、うまく隠す能力がついてくるんですよ。自分ができないところにいかないようにする、道順みたいなものを巧妙に自分で作っていたりするんです。場合によっては、特に問題にならない部分なのかもしれないんだけれど、木野さんはきっとそういうところを突いてきはるんやろなって感じがする。
高田 そういうことです。
松村 「今、そっちに曲がったね、なんで?」って(笑)。
高田 すぐ、バレるんです(笑)。
――木野さんの目はごまかせない。
高田 そうですね、絶対にごまかせません。
――松村さんはご自身も演出をされるわけで。演出家を演出するというのも、やりにくいことがあったりしそうですが。
松村 だから、そういう風には見えないように「こっちも一役者ですから!」という佇まいを持つように心掛けてはいます。でも逆に、それはもしかしたら僕の役者としてのひとつの欠点になっているかもしれないので。そういうところでも、突いてきはるかもな、って思っています。
――あまり突かれたくはない?
松村 突かれたくない面もあり、でもそこはあまり鍛えていない部分でもあるだろうから。そういうところを気持ちよく鍛えてもらえたらいいな、という漠然とした期待もありますね。その結果、ボロボロになるのかもしれないけど。
高田 ボロボロになったらボロボロになったで、そこを見てみたい気がします。
――高田さんの女優としての魅力は、松村さんの目にはどう映っていますか。
松村 実は僕ら、同じ県の出身なんですよ。
高田 そう、奈良県生まれなんです。
松村 しかも二駅しか違わなくて。
――近所なんですね(笑)。
松村 ちょっとしゃべっただけで落ち着く、地元の人のイントネーション。佇まいも、いかにも奈良の人やなあって感じがする。なのに、ご一緒するのは初めてなんですよね。
高田 そうなんですよ、本当に。
松村 昔からそのことはわかっていたのにね。舞台は拝見しているんだけど、たぶん一緒に飲んだりしたこともないんじゃないかと思う。
高田 そうね、ないかも。
松村 だから、ようやく!という気持ちがあります。長いこと芝居をやっていると、大概どこかのタイミングでご一緒できるものだけれどその機会がなかったので。ウチの劇団の藤田が出た『どどめ雪』を観に行った時、改めて新感線に出ている時とは全然違う佇まいで舞台に立っている姿を見て「この人こんなにすごい女優さんなんや、“月影シリーズ”では、そういうところを出してくんねんな」って思ったんです。もちろん、新感線での聖子さんも大好きですけれどもね。新感線とカムカムは全然違いますけど、フィジカルで勢い重視なところは意外に似ているところがあって。
高田 かなり、同族だと思いますよ(笑)。
松村 そういう面を見せながらも、細やかな感情を作っていくような作品と、そのどっちもやるというところはぜひお手本にしたく。今回、こうして胸を借りる形で共演させていただくことになりました(笑)。
高田 我ながら、私は俳優としてすごく幸せな形だと思うんですよ。同業の仲間たちからも、よく羨ましがられます。そういう極端な劇団に所属して、劇団では主にやらないようなことを、常にやれる場所があって行き来できるわけなので。本当に幸せなことです。
――両方を、どちらも楽しめる。
高田 自分はきっと固まりやすい人間なんだと思っていて。でもそうやって行き来できるからこそ、ガチッと固まらずにギリギリのところをやらせてもらえているのではないかと。
――そういう意味でも、大事な場所ですね。
高田 本当に、そう思います。
――共演者については、それぞれいかがですか。今回のキャスティングの狙いなどは。
高田 毎回のことですが、好きな人ばかりを集めさせていただきました。理想的な形ですね。宍戸さんは『ジェットの窓から手を振るわ』(2010年)にも出ていただきました。「またやりたい。」とおっしゃってくださっていて、嬉しかったです。動物電気の森戸さんは私が以前から大ファンでして、機会があればと思っていたんです。たむけん(田村健太郎)は“月影シリーズ”には何度も出てくれていて信頼しています。清順も、私は大好きな女優さんで。“月影”には初参加ですが、前に『身も心も』で共演させていただいて、その時からすごくいいな、面白いなと思っていたんです。そしてこれも毎回そうなんですが、上品な役者さんを揃えております。
松村 上品、なんですか。
――そこがポイントなんですね。
高田 じゃ、出てない人は品がないのかというと、まったくそういうことではないんですけど(笑)。なんというか、人として美しいところを求めている人たちだと思うんです。お芝居をしているところを生で見ると、その人となりはダイレクトに伝わるものですから。
松村 うんうん、確かに。
高田 自分でもお芝居を観に行った時、その人の生命体としての美しさだったり強さだったり、人によっては澱んでいる部分が魅力だったりもしますけど、そういうところをすごく感じるもので。
――滲み出るものですよね。
高田 そういう滲み出るものが上品な方、というのが決める時のポイントでもあります。
松村 その話は今、初めて聞いたんですけどね。でも、そうか。確かにいつも“月影”のキャストの顔ぶれを見ると、いい俳優が揃っているなあって思っていたのは、上品というキーワードがあったからなのか。うん、今しっくり来ました。上品という言葉が指すものは、曖昧ではあるけど。だけどなんとなく、わからないでもない。自分も、そこに入れてもらえて良かった(笑)。
高田 アハハハ。いやいや、そういう上から目線でいるわけでもないんですけど、そこが私が素敵だと思う基準なんです。
――では最後に、高田さんからお誘いの言葉をいただけますか。
高田 なかなか世の中も落ち着きませんけれども、マスクをつけていない人の表情を近くで見る機会もすごく少なくなっていますからね。特に濃密なザ・スズナリという空間で、まさにパンツを脱いだ状態のような(笑)、ある意味、裸になっているような人達の姿をぜひ観に来ていただきたいと思っています。もちろん、いろいろなことに気をつけて、安全に上品に裸になります!(笑) ぜひとも安心して劇場にお越しください!
取材・文/田中里津子