TAAC 公演『世界が消えないように』│タカイアキフミ(脚本・演出)、永嶋柊吾、松本大、三好大貴 インタビュー

写真左から)三好大貴、永嶋柊吾、松本大

公演ごとにキャストを集め、日常の営みから微かな希望や愛を見出すTAAC。次回作はTAAC初の再演舞台となる『世界が消えないように』(2021)。急性アルコール中毒で友人を失った大学生たちの“その後”を描く物語だ。コロナ後を見据える今、再演でどのように進化を遂げるのか?前作にも出演した永嶋柊吾、松本大、三好大貴に、作・演出タカイアキフミを交え、再演への意気込みを聞いた。

――『世界が消えないように』を描こうと思われたのは?

タカイ 急性アルコール中毒で亡くなる大学生の飲酒事故って年に何回かニュースになりますよね。仲間内でそういう事故が起きたとき、亡くなった人の周りにいた仲間たちはそのまま友だちで有り続けるのかな?と気になったのです。

――確かに事故のニュースは聞きますが、周囲の人のことはわかりません

タカイ 「事故」はニュースになるけど、その後はわからない。残された人たちはどのように過ごしているのだろうか?脚本を書くにあたっていろいろ裁判資料などを読みましたが、結局、周囲にいた人たちがその後も友だちであったかどうかは書かれてはいません。

――登場人物は5人。不慮の事故で仲間を無くした大学生たちの物語です

タカイ 仲間を亡くした大学生たちが卒業旅行に行き、その過程でお互いが抱えているものが浮き彫りになっていきます。そんな中、世の中はコロナに覆われてしまい、彼らは卒業式で会うことができなくなってしまって……。「消えるもの」と「消えないもの」、そして「その後」を描きたいと思ったのが『世界が消えないように』を書いたきっかけです。

――初演は2021年です。手応えはいかがでしたか?

タカイ 公演をした2021年の4月は長く続いていた緊急事態宣言が解除されていた時期で、お客さまも僕らもエンターテイメントの灯火を絶やしたくないとの強い思いで上演したように思います。その結果、「観た後と前とでは他者に対する眼差しが変わって見える」とか「登場人物5人が忘れられない」という意見を受け取りました。そういう意味ではお客さまに希望というか心に残るプラスのイメージを残せたかなと思っています。

――役者のみなさまはいかがですか?

永嶋 みんな歳も近いし、仲良くなれたので、自分の経験としてやってよかったなって思います。

三好 僕がやったのは急性アルコール中毒で亡くなる和田世界という役なんですけど、初演を終えたあとにいちばん多かった声は「飲みすぎないでください」とか、「仰向けで寝ないでください」というもので、めちゃくちゃお客さまから心配されました(笑)。

――お客さんが和田世界という役と三好さんを重ねてみるほど感情移入されていたんですね

三好 『世界が消えないように』という作品の魅力でもあると思うんですけど、目の前で5人の人間が泥臭く生きていくのを突き詰めるので、出演者の誰かに自分を重ねたり、こんな友だちがいたなって思われたんだと思います。

――松本大さんの本業はミュージシャンです。2021年の『世界が消えないように』が初舞台だったんですよね?

松本 そうです。それまではまったく芝居はやったことがなかったです。

――どういうきっかけで?

永嶋 松本大を誘ったのは僕です。ずっとミュージシャンとしての松本大の姿を見てきて、彼に芝居をやらせたいと思っていたんです。

――いきなり舞台の誘いはびっくりされませんでしたか?

松本 まあ、表現だし、できなくはないだろうってかなり強気の姿勢でOKしました。

永嶋 あんとき、めちゃくちゃカッコよかったよ。

松本 そういうとき一発で決めたほうがカッコいいって思っちゃう人間なんですよ。お芝居をどうこうというよりも、求められた場所で何ができるか、自分に何ができるかの興味があったので。バンドマンですけど、自分が置かれてる状況で、どういう願いがあって曲を書くのか、どういう反応があって、どんな怒りがあって、曲や歌、声色になるのかとか。(永嶋)柊吾に誘われたとき、自分自身がどんな反応をするのか、どのくらいの反射神経で動けるのかに興味がわいてやってみようと思ったんです。

――再演はなぜこのタイミングだったのでしょうか?

タカイ 『世界が消えないように』は僕にとっても大切な作品なので、もう一度コロナの状況や世の中の情勢を踏まえてアップデートしようと思いました。あと、出演者たちの年齢が30歳を迎えるようになってきて、大学生役をやるならこのへんが限界かなと。

――オリジナルキャストでの再演は嬉しいです。よく全員が揃いましたね

タカイ そこはいろいろ僕なりの作戦で順番に声をかけていきました。

三好 詳しく聞きたいな(笑)。

タカイ まずは柊吾くんに声をかけて。「柊吾くんもOKしてるからさ」って。そこからみんなに。

永嶋 僕のなかではいい思い出なので、やらない理由はないし、「全員揃うならやるよ」でした。そうしたら全員が同じことを言っていたみたいで(笑)。

――熱い絆ですね

永嶋 そんな熱いタイプじゃないのが集まっているんですけどね、フフ。

松本 僕はめちゃくちゃ渋ってましたけどね。体裁上、「全員が揃うならやる」って反射神経で返したんですけど、言ったあとすぐに「あー」とか「えー」とかいって逃走気味になっていたところを柊吾に呼び出されて、「やるか、やらないか、どっちか決めーい」って(笑)。

――物語のキャラクターたちとリンクするようなエピソードですね

松本 ちょっと話がずれるんですけど、最近作りたいと思っている音楽がちゃんとメロディを作るものではなく、喋っているような、ともすれば怒号にも聞こえるものを作りたいと思いはじめていて、そこに必要なのは音楽的な知識じゃなくて、演技力だなと思っていたというのが、出演を決めたひとつではあります。

――再演の見どころは?具体的にどこがバージョンアップするのでしょうか?

タカイ 前回は良くも悪くもキャラクターっぽいお芝居になっていたと思っていて、そこに現実よりもわかりやすい希望があったり、祈りがありました。それは2021年にとっては必要だったと僕は思っているんですけど、一方で、「現実的じゃない」「こんなピュアな気持ちは持っていない」という意見も初演のときに多少ありました。それは確かにそうだという部分もあり、2023 年になって僕たちもようやくしっかり未来を見据えて生きていかないといけない状況になったので、しっかり地に足がついたリアリスティックな物語にしたいと思っています。

――舞台となる劇場も違いますよね。今回は「下北沢 小劇場B1」です

タカイ はい。前回は劇場の構造上、プロセニアムという1面舞台でしたが、今回は2面舞台になるので、その意味ではより覗き込んでこの5人の世界を見ていただけるような形にもなりますし、舞台美術にも力を入れていますので、そこも見ていただきたいところです。

――演じられる役柄についてはいかがですか?皆に見せている顔とは違う一面をそれぞれが抱えていますが?

松本 初演のときは僕が演じる麻生航太郎と松本大の境目があまり自分のなかにはなくて、その境界線をあえて持たずに行動していたんですけど、今度は麻生航太郎という役に飲み込まれてみよう、違う自分になってみようと思っています。初演を踏んだからこそ自分のなかにあるカッコつける精神や見栄っ張りなところが外れた感覚があるので、自分のしょうもない部分だったり、グズグズした部分をその外側に出そうと思っています。

永嶋 役を、自分が寄るのか、こっちに寄せるのかで言ったら、きっと僕は……どうなんだろう?どっちでもないかな。でも、僕が演じる河原井空に関していえば、過去に災害にあった体験を表現にするにあたって、当事者の方や影響受けた人たちに失礼のないように誠実にやろうとそこは見たり、調べたりしました。基本的に心でやっていれば、そうなるって信じています。とはいえ、実際にやるときは、色々考えていても忘れちゃうので。考えないでもできるようにできればとは思っています。

三好 再演の稽古も数日やったんですけど、捉え方が全然変わりました。今回は共演者のみんなやお客さまに、いろんな見え方で和田世界を見てもらえればいいかなと思っています。自分の身近にいる奴に見えてもいいし、器が大きい奴、小さい奴、でも、なんとなくこういう奴がいたらちょっと嬉しいなと思われるキャラクターを演じられたらいいなと思っています。

松本 三好さんの和田世界は前回とぜんぜん印象が違うと思う。今回は三好さんのハートフルな感じと、和田世界のキャラクターが融合してるなって思う。世界は先にいなくなっちゃうけど、それでも世界が中心にいるとして、動いていける感触はありますね。

――みなさんの変化はありましたか?

タカイ この2年、それぞれとは個別に会っていましたが、全員で会うのは久しぶりだったんですが、僕としてはみんな変わらないなと思いました。作品はアップデートしようと思いますけど、この座組の空気感は変わらない感じですね。

松本 当時、公園で飲んだことあったよね? みんなで距離とってさ。オレ、新しいインプットの為に、やったことは忘れるってことをするんだけど、『世界が消えないように』をやっていた2ヶ月くらいのことはめちゃくちゃ覚えてる。みんなの印象が強かったのかも。

永嶋 ハハ。みんないい具合に自分勝手だからね。

三好 同級生感って言うとあれですけど、昔、みんなで深夜の学校に忍び込んだみたいな共犯関係がある気がします。初演のときにはなかった、なんとなく気持ちが通じるような感覚が今はあります。再演の稽古を開始してから、「こいつ今、ちょっと面白いんだろうな」っていうのが空気でわかるようになっています。謎の絆がある気がします。

――タカイ演出の魅力は?

永嶋 タカイさんは事前に“見たい絵”があるんで、そこに向かっていけばいいんだろうなという気持ちでやらせてくれる。組み立ての最初の部分をとてもわかりやすく提示してくれます。あと、歳も一緒ですから、一緒に作ってる感覚のほうが強いですね。

――公演直前の今のお気持ちと、劇場に足を運ぶみなさんにメッセージをお願いします

写真左から)三好大貴、永嶋柊吾、松本大

松本 僕はタカイくんの作品にしか出演したことがないですけど、表現の一種として、写真表現のモーションブラー(動いている対象を撮ったときに起こる歪み)のような印象を持っています。ファーストインプレッションは、現実的な話なんだけど、それを見続けることによって、いつの間にか現実ではなく残像を見続けているような感覚になっていく。それがこの舞台の面白さであり、自分たちもワンダーに飛び込んでいける面白さなんだと思います。楽しみにしていてください。

永嶋 死が大きなテーマとして1個ありますけど、観終わった後に観た人の気持をグッとあげるんじゃなく、支えてあげられるような、心に寄り添うような空気のものになったらいいなと思っております。ちょっとでも気持ちをラクにして帰って欲しいですね。

三好 5人の男たちが舞台で息づいている姿を見てもらって、自分のなにかしらの部分だったり、身近な存在だったり、町行く他人のことだったり、なにかひとつでも肯定して、前より少しだけ愛せたりしていただけたら嬉しいなと思います。ぜひ、僕たちを観に来てください。

タカイ 2年前の初演はただただ消えないようにと願ってた世界でした。それから2年を経てどうしたって消えてしまった世界だとか、場所だとか、人間関係とかあると思います。でも、僕たちはその先を生きていかないといけない。そこにほんのちょっとした光りや何かがあれば、生きていける糧になると思います。今、5人と一緒に稽古をしていて、みんなが僕を支えてくれているというか、この作品を信じてくれているので、それは僕のなかの大きなエネルギーになっています。進化した『世界が消えないように』をお見せできると思うので劇場でお待ちしています。

――ありがとうございました

取材・文/高畠正人