梅沢富美男劇団 梅沢富美男・研ナオコ特別公演 三山ひろし特別出演│取材会レポート

2023.05.18

梅沢富美男、研ナオコ、三山ひろしの豪華共演で繰り広げる芝居、歌、舞踊のステージ「明治座創業150周年記念 梅沢富美男劇団 梅沢富美男・研ナオコ特別公演 三山ひろし特別出演」が、東京・明治座にて上演される。

第一部は借金取りに悩む宿屋を舞台にした人情芝居、第二部は「夢の歌謡オンステージ」、第三部は「華の舞踊絵巻」と、盛りだくさんの内容で明治座の創業150周年を華やかに彩っていくという。果たしてどのようなステージとなるのか、話を聞いた。

――まずはそれぞれに、今回の公演への意気込みをお聞かせください

梅沢 研ナオコさんとはもう、10年以来ずっと一緒にお仕事させていただいていますので、刺激もなにも無いんですけどね。今回は、三山ひろしさんも参加していただけるということで、どんな化学反応が起きるのか楽しみにしています。男性の歌い手の方とご一緒するのは、前川清さんとか、何人かあるんですけど、今回は本格的にお芝居も一緒にできるということで、非常に楽しみにしていますね。

 私は、いつも通りのお芝居をやらせていただいたら、とっても楽しい舞台になるんじゃないかと思っています。三山さんが参加されるということで、どんなふうに面白くなるか。いつもと違う感じなるでしょうしね。

三山 私はもう、明治座150周年という節目の年に加えていただいたということが、まずもって嬉しいことでした。そのうえ、梅沢さんの劇団に入れていただいて勉強させていただく時間を頂戴できるのはありがたいこと。先輩方のステージを見て学びたいと思います。芸は見て盗め、とよく言われるんですけども、できるだけ先輩方の姿を見て、たくさんのことを吸収して、また自分の舞台にも活かせるよう頑張りたいです。

梅沢 いやいや、今回は三山さんがいたから決まったようなお話ですよ。私と研さんじゃ決まらないですから(笑)。座長だなんだってなっていますけど、盗まれるような力もないですしね。三山さんが女形やってもしょうがないでしょ(笑)。

 そっちじゃなくて、お芝居の方で、ってことでしょ。

梅沢 いやいや、私がやるような役(借金取りの十兵衛)なんて、やらないほうがいいですよ!研さんだってババア役なんだから、これもやらないほうがいい(笑)。でもね、今回のお芝居も3日間寝ずに考えたようなもんだから、絶対に面白くなると思いますよ。

三山 いやもう、本当に恐縮です。とにかく、しっかりと先輩方の背中を見ながら頑張ります。

――第一部のお芝居は、どんなお話になっているんでしょうか?

梅沢 これはもう、人情芝居です。強い人が弱い人を助けてあげる、悪い人が居たらそれをやっつけてあげるという。説明すると簡単な話になっちゃうんだけども、それを四の五の言ってもしょうがない。研さん演じるお玉が宿屋をやっていて、旦那さんが亡くなっちゃうんですよ。それで、旦那さんが金を私が演じる十兵衛に借りてたんです。

それでお玉には16歳になる娘のお花が居てね。これを、小川菜摘さんがやるんだけども。この娘さんに私が横恋慕してるんです。金が返せねえんだったら、娘をよこせ、と。それを聞きつけた清水の次郎長さんが、私をやっつけるわけです。そのやっつけ方にもいろいろありますから、まぁ面白くなりますよ。

 もう、大衆演劇の最たるものですよ。

梅沢 これで私は勲章を狙いますよ。

 本当に狙ってます?じゃ、言っときますね。

梅沢 言っといたら嫌でしょうよ(笑)。そういうのはダメだと思うなぁ。

――(笑)。すでにやり取りが笑えてきてしまいますね

梅沢 今みたいにね、自然に笑えるお話なんですよ。筋はさらっとお話できるようなものなんですけどね、その筋を膨らませるのが役者の腕ですから。ぜひ、声を出してワハハと笑っていただきたいです。

 ぜひ、声を出して笑ってほしいですね。

――そんなお2人とお芝居することになりますが、三山さんはお芝居の面ではどのようにしたいと思っていらっしゃいますか?

三山 やはり座長がなんといっても1番ですから、座長のおっしゃっていることや動きなどをしっかりと見て、座長の動きに合わせて自分が動けるように態勢をいつでもとっておかないといけないな、と思いますね。

梅沢 僕は劇団の座長なだけで、今回の公演の座長はもう、三山さんですよ。ただ年食ってるだけですからね(笑)。

三山 僕は座長公演をたくさんやってきたわけではないですし、経歴もまだまだなので…梅沢さんのお姿を見て頑張ります。

梅沢 大したもんですよ。明治座で座長をやって、また呼ばれているなんてね。

三山 いえ、まだまだですから。僕は15年しか歌ってきていないんですけど、その中でもこの公演期間の1カ月はとても素敵な1カ月になるんじゃないかと思っています。

――今回は、明治座創業150周年記念の公演となります。明治座という劇場についてはどのような想いをお持ちでしょうか?

梅沢 こんなことを言うと偉そうに聞こえてしまいますけど、僕は36歳の時に明治座にはじめて上がったんです。そこから37年間、ずっと明治座で公演をやらせていただきました。明治座はね、日本のトップの劇場ですよ。舞台役者は最終的に明治座に上がるのが花なんです。私の母親もそういう想いでした。

母親に一度も褒められたことはなかったけれど、36歳の時に明治座の舞台に母を上げたとき「お前を産んでよかった」と言ったんです。それくらい、母にとっては夢の舞台でした。格式の高い舞台だったんです。そんな劇場の記念公演に読んでいただけるなんて、これで舞台に上がれなくなってもいいくらいの力を入れてやりますよ。名誉なことですから。

 私は梅沢さんにくっついていくだけなのでね。私は歌を歌っているだけの人間ですから。特に私は、演歌でもないし、歌謡曲でもない、どこにも属さない歌手なんで、なかなかそういう舞台に上がる機会がなかったんですよ。

梅沢さんとが初めてです。1カ月がこんなにきついものなのかと、はじめて知りましたね。それでね、それに慣れちゃうと、他行くと物足りないんですよ。自分のコンサートだと1日1回公演でね。梅沢さんとは昼夜の2回公演で、お客様の表情もまた違うんですよね。ファン層も変わってきたような気がして、すごくありがたいと思っています。

三山 私は田舎が高知で、私を歌手にしたいと思っていたのは祖母だったんです。歌手になるんだったら、みんなに見てもらえるような大劇場で歌えるようにならなきゃいけないよ、と言われて、25歳で田舎を出ました。そんな自分が、伝統ある明治座に立って、歌ったりお芝居ができたりすることは、本当に夢のようなことなんです。

そして、せっかく出させていただいて、期待をかけていただけているわけですから、それに応えたいという気持ちもあります。1つ1つに気持ちを込めて頑張りたいですね。

――梅沢さんは人情芝居にこだわっていらっしゃるとお聞きしました。何かきっかけがあったのでしょうか?

梅沢 きっかけは震災からなんです。2011年の震災の時、それまでは僕もいろいろなお芝居をやってきました。新劇チックな時代劇とかね。それが、震災があって支援に行った浪江町で、80代のおばあちゃんに「おばあちゃん、頑張って」と声をかけたんですよ。そしたら、「梅沢さん、私は死にたいよ」って返ってきて。その方は、息子さん夫婦とお孫さん2人の4人を亡くされていました。

もう、神様も信じられなくなっていたんだと思います。「私の命を差し上げますから、4人のうちの1人とでも交換してくれって、神様に言いたい」――

その言葉に、61歳のジジイは絶句してしまったんです。そしたら、そこでおばあちゃんのお世話をしていた中学2年生の女の子が「おばあちゃんダメよ。せっかく助かったんだからみんなで頑張って生きていきましょう」って、背中をさすりながら言うんです。その子も、お父さんとお母さんを津波で亡くされていました。その時、日本の人情ってすごいって思ったんです。女の子のお父さんかお母さんが教えたのかもしれない。教えていなかったのかもしれない。でも、彼女の中に確実に人情という、日本人が一番大事に持っている心があったんです。それで、これからは気取った芝居はやりたくない、人情芝居だ、と決めました。その子に教えられた、と思いましたね。

今も、コロナ禍でボロボロじゃないですか。そういう時に、笑ってもらおう、豪華なものを見てもらおう、いい歌も聴いてもらおう。そういう贅沢な演劇だと思っていますね。

――日本人ならではの人情を大切にしたお芝居なんですね。一方で梅沢さんと研さんの思わず笑ってしまうようなやりとりも楽しみなところです。笑いの部分についてはどのようにお考えですか?

梅沢 お笑いほど難しいものはないよね。その点、研さんはお笑いのツボをわかっていらっしゃる女優さん。悔しいくらいですよ。一緒にやっていて、僕らは笑かすためにいろいろ一生懸命にやっているのに、研さんは登場しただけでも笑いが起こるんですから。舞台に上がればライバルですからね、ササっと登場して笑いをさらっていくと無性に腹が立ちますよ(笑)。僕は喜劇役者、コメディアンではないですけど、300年に1人出るか出ないかの役者ですからね。舞台の上では誰にも負けないつもりですよ。

 私は役者じゃないからね。梅沢さんはほんとにすごい人だと思っていますよ。本当に何をやっていても面白いんです。普通にやっているんですけどね。それで、歌もうまいじゃないですか。そのうえ、女形であんなにキレイなお顔になるんです。こんな人、もう日本にはいないかもしれない。いや、海外にもいないですよね。貴重な存在ですよ。勲章貰ってもいいと思います(笑)。

梅沢 歌も踊りもお芝居も、全部パッケージで、全部やるからね。小川菜摘さんも、ぜひよーく見てください。めちゃくちゃキレイですから。めちゃくちゃキレイにしちゃうんです。

 私が演じるばあちゃんもキレイだもんね。

梅沢 もうすごいですよ。ネイルバリバリにして出てくるんだから(笑)。そういうところも、お客さんは喜んで見てくれていますね。嬉しい話が合ってね、研さんと地方にも回っているんだけど、忘れ物で多いのが“杖”なんだそうで。芝居や歌を見て、気分も上がって元気になるから、つい置き忘れちゃうんでしょうね。

――それくらい元気が貰えるステージなんですね!三山さんは次郎長をこんなふうに演じたいなどのビジョンはありますか?

三山 清水の次郎長さんのかっこ良さは、広沢虎造さんの浪曲を聞いたときに感じたものなんですよね。とっても粋で、最後にバーンと投げるようなイメージはあります。ですが、やっぱり座長のお芝居の中でどういうふうに演技を教えていただけるのかがとっても大切だと思っています。今から自分はスポンジになったと思って、一滴も残らずすべて吸い取る気持ちでやっていきたいですね。

――研さんや三山さんは歌手でいらっしゃいますが、お芝居と歌とで、何か心構えの違いはあるのでしょうか?

 心構えは一緒なんですよね。お客様の前に立って、何かを伝えるというのは同じ。ただ形が違うだけですから。私は歌という幹を持っていますから、その上での枝でお芝居をやらせていただいている感じですね。役者ではないですから。でも、役者じゃないからって手を抜くわけにはいけない。もっと頑張らなくちゃ、という気持ちもすごくありますね。梅沢さんと一緒にやることで、お芝居って本来はこうじゃなきゃ、というのがすごく勉強になります。それは、今でもそうですね。

三山 歌の世界でも、演じながら歌うこともありますが、やはり自分の人間性が出たりするんですよね。そういうこともあるので、本当に一生懸命にやるしかない。ただそれだけですね。

――2部の歌謡オンステージはどのようなものになるんでしょうか?

梅沢 もちろんそこも僕が演出しました。誰がトリだとかケツだとか関係なく、ご自分の得意な歌をお2人にガンガン歌っていただこうと思っています。もう2人がうまいですからね、そこで私が歌う必要なんてないですよ(笑)。ヒット曲は1つしかないですしね。

 私は…だいぶカットしますよ。ヒット曲が多いもんで、申し訳ない(笑)。梅沢さんは個性というか、それぞれのいいところを出してくれるのでありがたいです。

三山 お客さまの喜びが一番嬉しいことですから。みなさんの笑顔が私たちの喜びにもなりますし、しっかりと歌をお届けしたいと思います。

――そして3部「華の舞踊絵巻」では、梅沢さんの踊りも楽しめるんですね

梅沢 そうですね。それに今回はオープニングで明治座さんのお祝いの踊り「娘三番叟」も踊らせていただきます。豪華な衣装ですよ!

 働けど働けど、衣装に…(笑)。

梅沢 本当にね。カツラを含めたら1人100万円くらいですから。それを10数人ですからね。小川さんの分も作りましたし。

研 私の分はありません。そこは出ないから。

梅沢 当たり前ですよ、そんないい衣装着せられない!

――(笑)。そろそろお時間となってしまいました。最後に公演を楽しみにしていらっしゃる方にメッセージをお願いいたします

三山 明治座さんの150周年という長い歴史のある舞台に立たせていただけることことが本当にありがたいですし、そのうれしさをそのまま、お客さまに楽しんでいただけるように、お祝いムードいっぱいでお送りしたいと思います!

 私はとにかく気楽に遊びに来ていただけたら。きっと楽しい気持ちでお帰り頂けると思うので、本当に構えずに来ていただけたら嬉しいです。

梅沢 日本にある劇場の中でも、日本橋浜町にある明治座が最高峰だと思っています。でも、お客さんに「明治座って敷居が高いのね」なんて思ってほしくないですから。檜舞台もかまぼこ板でも、板には変わりないので、どんな舞台でも関係なく、お客さんに喜んでもらって、イヤなことを吹き飛ばすようなムードで返っていただければ、僕はそれだけで十分です。

母親にもね「お前は見せもんだからね、お客さんに見てもらっているんだよ。見せてるんじゃない」といつも言われてきました。それだけは守って73歳まで役者を続けてきたので、その集大成を見ていただければと思います。そして、三山さんと研さんの歌も楽しんでもらって、あっという間の3時間を楽しんでください。

取材・文/宮崎新之