ヨーロッパ企画25周年ツアー「切り裂かないけど攫いはするジャック」東京取材会レポート

2023.08.28

写真左より 上田誠・永野宗典・諏訪雅

旗揚げから25周年を迎えるヨーロッパ企画が今年も本公演ツアーを開催。「切り裂かないけど攫いはするジャック」は19世紀ロンドンの街を舞台にしたミステリーコメディとなっている。メモリアルイヤーに合わせ、カフェや映画などさまざまな展開を行ってきた中、どのような本公演となるのか。話を聞いた。


――まずはヨーロッパ企画25周年を迎え、どんなお気持ちでいらっしゃいますか。

上田 最初は、僕が大学1回生の時に諏訪が同じ演劇サークルにいて、学園祭で劇をやろうって誘ってもらったんですよ。25年前ですけど、本当に25年前と思えないくらい、昨日のことのように鮮明にしゃべれる(笑)。ずっと一緒に居て、続いているからだと思うんですけどね。今回の25周年でもこの3人で動いていることが多いですし、今でも当時と同じようにやいのやいのとやれているのが喜ばしいことだなって思っています。

諏訪 ほんとに、どういう現象なんですかね? 25年前のことなのに、昨日みたいな感覚で…上田くんに劇を作ってほしいって電話したんですよ。上田くんの実家の工場に電話して、代わってくださいってお母さんに言って。その状況を考えると、確かに25年前なんですけど(笑)。続けようと思って続けたわけでもなく、ゆっくりゆっくり形を変えて、また戻ってきて、というのを繰り返して25年をやってきたような気がしますね。またこれから新しい25年が始まっていくといいなと思っています。

永野 学園祭で旗揚げしたんですけど、その時から上田くんの台本が遅くて(笑)。書きあがった分だけ稽古に持ってきて、やる、っていう形でした。今でもそういう作り方をしているので、どんな作品なんだろう?と楽しみに待ち続けています。今、新作の稽古をしていますけど、どうするんだろう、どうなるんだろう、というワクワクを保ったまま来られた25年ですね。だからこそ、25年があっという間のように感じるし、鮮明な記憶があるんだとも思います。諏訪さんから誘われてはいるんですけど、「諏訪さんが永野さんと芝居やりたいんですって」って、上田くんから電話がかかってきてすごくシャイな先輩だったんですよね(笑)。


――25周年イヤーということで、いろいろな取り組みをされています。

永野 昨年秋の本公演の終盤、名古屋のカフェで話し合ったんですよ。25周年で、劇団の現状がこうで…って足場確認みたいなことをしたんですね。それで年末も集まって、そこで毎月1回、3人で集まって生配信する流れになって。この1年は、25周年をどうしようかって話し合っているんですけど、次はどうしよう?っていうのは学生時代からずっとやっているんですよ。今は当時いなかったお客さんとも生配信の場で意見交換しながら考えることができて、今年やるべきこと、やりたいことが見えてきています。祝ってもらいたいから、祝ってもらおう!という企画を考えて、進んでいる真っ最中です。


――京都での「ヨーロッパ企画25周年カフェ」や映画「リバー、流れないでよ」(6月23日公開)など、いろいろな展開が進んでいますね。

永野 そういうことがすごくシームレスに繋がっていて、そこから25周年に本公演ツアーもあって…いつになく濃い劇団活動ができているように思います。


――25周年の本公演ツアー「切り裂かないけど攫いはするジャック」は、どのような作品になっているのでしょうか。

上田 本公演をやるために基本的には集まっている団体というところもあるので、逃げも隠れもできない本公演です。メンバーも変わっていないですから、なるべくメンバーがワクワクするようなものを提案したい。やりまーす!って言って、メンバーが白目むいてたらダメですから(笑)。今回はミステリーコメディです。実は今まで、ミステリーに触れてきていなくて、僕はミステリーを読むのも好きだし、パズル的な脚本を書くからやっていそうなイメージを持たれていたりもするんですけども、隠し玉的に持っていたものなんです。でも、やれ密室だ、凶器はコレだ、みたいな感じではあまりにストイックで、自分としても苦しいかも…と思って、「切り裂かないけど攫いはするジャック」になりました。


――稽古もはじまっているそうですね。

上田 そうですね。ミステリーって作家が1人でトリックを考えたり、仕掛けを作ったりするようなイメージがありますが、僕らは集団でモノ作りをするし、それが好きなので、仕掛けやトリックだけに拘ると難しいんですよね。でも、ジャックものなら、やれそうで。舞台はヴィクトリア朝のロンドン、あなたはミートパイ屋さん、あなたは放蕩貴族、って決めて、エチュードでやっていくと、ロンドンの街角が立ち上がってくるんですよね。ミステリー的なこの先どうなるか、というのを度外視して、謎についてみんなでやいのやいのと言うっていう。そういう集団で作っていくミステリーでありながら、作家としては企みもある、そこが融合した作品になりそうだと思っています。

諏訪 意外とジャックが何者かがすぐにわかるんですよ。中盤には判明する。

永野 そこまでは明らかになっています(笑)。でもまだ見ぬジャックが出てきそうな気配もあるんですよね。

上田 ミステリーの宿命として、結末どうなるんだ、っていうところがどうしても注目されてしまうので。それが怖すぎて、もう冒頭に「私がジャックです」ってセリフからやることも妄想しました(笑)。さすがに謎解きも見たいよね、ってところで、今進んでいます。王道を組み込みつつ、演劇ならでは、コメディならではのミステリーをやりたいと思っていますね。19世紀のロンドンで、都市伝説のような存在に色めき立つ街の人々、といったことを構想しています。永野が警部役で、諏訪がオルガン弾きっていうのはポスタービジュアルの通りですね。

諏訪 オルガン弾きは確定? なんか、確定してるっぽいです(笑)。適当に振ってるのかな?って思う節もあるんで、わからないんですよね。

上田 いやいや、そんなことないですから(笑)

永野 僕は警部役で行くんですけど、群像でみんな推理しているのがもう邪魔くさくてしょうがない(笑)。シャーロック・ホームズとかの映画を観て刑事っぽく演じようと思って「可能性が2つあります」とかそれっぽいことを言いたいんですけど、言う隙間がない!この群れの中でどう振る舞えば…と考えています。

諏訪 エチュードがとにかくうるさくて、みんな(笑)。まくしたてるように、セリフで言いたいことを全部言うから。あ、ヨーロッパ企画ってこういう感じだったなぁ、ってすごく思います。

上田 真面目な話をすると、ミステリーって最初に材料がザザッと出てきて、それがロジカルに閉じていって終了していくもの。演劇ってそうじゃなくて、要素がどんどんと出てきて散らかっていく様子が面白かったりするところがコメディなんです。その形を使いながらちゃんとミステリーが両立しないかな?というのが今回の狙いではあります。

諏訪 ここからもうずっと、俺らは推理劇というパターンもあるか(笑)

上田 めちゃくちゃ可能性ありますよ。25年これまでやってきて、ここから25年、なかなか同じやり方では食べていけないでしょ。でも推理モノなら…

永野 確かにファンも多いですね。「切り裂きジャック」は歴史的に初めての劇場型犯罪といわれていて。当時、大衆紙や新聞などが印刷されて出回って、巷を賑やかして、事件の恐ろしさだけじゃなくもてはやすような声もあった。それはこの群像劇ともマッチしている気がしますね。


――11月には京都・南座で舞台「きっと、私UFOを見た。」も上演されますね。こちらは諏訪さんからの提案だったとか。

諏訪 25周年って言ってるけど、どんどん自分たちで動かなきゃいけないんだということに気付いてから、一生懸命に動いて、カフェとかも企画したんですけど、それでもまだまだ25周年なんだから、もっと大きな企画を、という声もあって。それで、めちゃくちゃ急遽決まった感じでしたね。

上田 何をそんなに慌てているんだ、って言う感じかもしれないですけど、やっぱり、お仕事をいただくこともあるし、本公演も毎年のルーティンでもあったりするので、ありがたいことに放っておいても1年が埋まってしまうんです。25年の今年もそこは同じなので、自分らで主体的に劇団を動かしていくっていう動きをやろうって聞いて、そこで慌ててやっているところはあるんですよね。

諏訪 25周年を逃して、ここを逃したら次はいつだ?っていう感じもあるので、逃したくなかったんですよ。それがまさに南座の公演で、僕らにとっては第1回公演のアンサーとなるようなタイトルで。

上田 南座でやるんだったらSFやりたいな、って思って。25年をさかのぼっていくようなところもあって、1日しかやらないので、オンライン配信もありますし、たくさんの方に観ていただきたいです。


――25年、やってこられた原動力ってなんでしょうか。

永野 上田くんに初めて会った時から、もうすでにクリエイターで。ゲームも作っていたし、戯曲も作っていて、面白いもの をたくさん作る人だったんですよ。そこが本当に変わっていない。彼の思いつくアイデアが面白かったからじゃないかな。

諏訪 そうなんですよ。ヨーロッパ企画で上田さんとやるまで、大学で演劇をやっていたんですけど、何をやっても全然手ごたえが無くて。もう辞めようかな、くらいの感じだったんです。最後に、上田さんに何か書いてもらいたいな、とお願いしたら、別に芝居が上手いわけじゃないのに、セリフが聞こえたらウケるみたいな。もう、めちゃくちゃウケるんですよ。そこに新たな感覚があって、やめられなくなった。上田さんの書いたセリフを読みたいとか、上田さんの考えたコメディがやりたいだけですね。

上田 そういう部分では僕は逆で。中学高校と自分でゲームを作ったり、演劇もやって、音楽も作って、とやってたりしていたんですけど、何かパッとしなくて。ヨーロッパ企画で2人と出会って、それで面白い感じになってきたんですね。ポップなものを創れている気がしてきた。チームでやると、ちゃんと届くものになるんだ、というのが原動力になっていますね。


――25年経っている今でも新鮮に感じていることなどはありますか?

永野 エチュードってやっぱり難しいな、と(笑)。上田くんがお題を提示してくれて、それ自体が面白いんだけど、それ以上の提案を役者としてエチュードでしていきたいから、そこは年々、難しくなっている気がしますね。緊張が高まっているというか、ハードルが上がっているというか。年に1回、夏に集まって、それまで自分がどんなことをしてきたのかを試される場でもあるので、自分が今どんな武器を持っているのかも気付かされるんです。25年経っても、常に刺激を求めあう場だなと感じています。

諏訪 年1回の本公演がサイクルなんですが、やっぱりそうなのか、というのが…稽古初日には台本が1枚もない(笑)。毎回、そっかそっかと思い出します。でも普段は事前に、世界観を聞いたりとか普段から飲みに行ったりしている中で結構しゃべっているので、次にどんなことを考えているのかとかはよく聞いているんですよ。でも今回は25周年ということもあって、そんな時間もあまり無くて急に稽古が始まった感じ。上田さんの頭の中も全然聞いていなかったので、本当に台本1枚も無くて、稽古の場で「そんなこと考えていたんだ!」っていうのを聞くので、こうやって始まる感じは新鮮な感じがしています。ミステリーとの距離の取り方も上田さんっぽくて新鮮に感じていますね。

上田 やっぱり毎回エチュードが発見しやすいんですよ。役者さんに材料をお渡ししてやってもらう時に、この人はこれがめちゃくちゃ得意なんだな、とか、こんな役にハマることができるんや、みたいな発見が毎回ある。もちろん、なかなかハマらないこともあるんですけど、今回はそれがピタピタとハマっていってる感じがしますね。稽古前は役も曖昧だったりするんですけど、今回はそれぞれが新しい分野をやっていて、そこは新鮮でした。あと、諏訪さんが「舞台が街角で、そこで推理を繰り広げていくんだけど、路上っていう場所はグッと深まっていくようなところは作りにくい」っていうことを別のインタビューに答えていたんですよ。すごく何気なく言っていたんですけど、そんなところまで見てるのか!と驚きました。そういうのを聞いて、確かにそこだ!って思う感じとか、そういうところは面白いですね。


――ヨーロッパ企画ならではの作り込み方で仕上げられる本公演、楽しみにしています! 本日はありがとうございました。

 

インタビュー・文/宮崎新之