ローチケ演劇部presents はじめてのミュージカル「今月のあの人の“今キニナル”」 第9 回ミュージカル『キンキーブーツ』:ヨーロッパ企画 永野宗典

演技を越える演技に感動

僕がミュージカルにハマったのも最近の話なんですけど、きっかけはこの前まで上演されていた『キンキーブーツ』(※)を観てからですね。これは俳優の技術力やおもてなし精神、全てにおいて衝撃的な作品でした。

※『キンキーブーツ』…小池徹平・三浦春馬W主演で2016年に日本初演、2019年4・5月に再演を果たしたブロードウェイミュージカル。靴工場の跡取り息子チャーリーがドラァグクイーンのローラに出会い、差別や偏見を捨て、ドラァグクイーン専門のブーツ工場として再生する過程が描かれる。

 

中でも三浦春馬さん(ローラ役)の芝居は本当に圧巻で!眉毛の動き一つ、たったそれだけで千人以上のお客さんに感情を伝えるというか。物凄い求心力を持った役者さんだと思いました。

もちろんショーアップされたダンスや歌も素晴らしいのだけど、僕的に特に印象に残ったのは『”Not My Father’s Son”』のシーン。それまではドラァグクイーンのローラが派手な衣装で男を挑発したり、ダンスを踊ったりして、高飛車にふるまうような演技をされているんです。お客さんも笑かすし、まるで振り回すみたいに客席を沸かせていて(笑)。

でもローラが自分の過去の話をする『”Not My Father’s Son”』というナンバーになると、 それまでのアクティブでゴージャスな場面から一変、動きも少なく、舞台上がとてもシンプルになるんですよね。ローラは派手な衣装やメイクを全て剥ぎ、男性の姿で切々と歌う。それまで自分を過剰に演出していたローラが、そのシーンではごく自然の涙を見せる。三浦さんのさりげなく涙を拭う“生理的”で細やかな芝居に、僕もなんだか胸を打たれちゃって。

俳優がやるべき感情表現や身体表現を、でっかい劇場でも映えるようにいい意味できちんと計算されていて、もはや演技を越える演技だと思いました。素直に感動しましたね。


≫『キンキー・ブーツ』公式HP(※公演は終了しています)

 

こういったミュージカルの表現の振れ幅の凄さに感化されて、実は僕もミュージカルのボイストレーニングのレッスンを受けてみたりもしているんです。 普段、自分の劇団では割と素の状態に近い動きを求められるのですが、演劇的に効果的なパフォーマンスをもう一回見直して、それを身に着けることで自分の劇団の公演にも面白いことが起こったりするのかな、と思って。
そう言えば(ヨーロッパ企画主宰の)上田も、ミュージカルでやれていないネタがあるって言ってたな。結構興味あるみたいだから、将来うちの劇団でミュージカル公演が実現するのかも…?■ミュージカルの魅力

ミュージカルってチケットが高いんですよね。そのハードルは一つある気がします。でも生歌を聴けたり、公演によっては生演奏もあったり。それは普段じゃ味わえない贅沢な時間ですよね。劇場はやっぱり特別な非日常を味わう空間であって然るべきだと思いますし。 ミュージカルなら歌うシーンも派手だし、演出効果も豊かで、舞台表現の魅力がめちゃくちゃ詰まっている気がするんです。その分感動も大きい。だから演劇初心者の方にとっても、ミュージカルは舞台の良さをダイレクトに味わえるジャンルなんじゃないかなと思っています。

 

■こぼれ話

――もしミュージカルに出演できるなら、何の作品に出たいですか?

『ビリー・エリオット』(※)…ですね。Blu-ray も買うくらい好きな作品なんですけど、あと30歳若かったら演じてみたかった(笑)。炭鉱のおじさん役なら挑戦できるかな。


――ミュージカルにハマっていることをまだ公言していないとか?

まだレッスン始めたばかりで何もできないので、小出しにしている感じですね(笑)。でも言える場をこうやって頂けたので、よかったなと思います。


――『ヨーロッパ企画』では20周年を迎えたのに、また一からですね(笑)

はい、また下積みが始まりました(笑)。新しい俳優の道で。

 

※『ビリー・エリオット』…『リトル・ダンサー』の邦題で上映された映画(原題:『Billy  Elliot』、監督:スティーヴン・ダルドリー)をミュージカル化した舞台。炭鉱の町で生まれた少年・ビリーが、苦しい社会情勢や家族の反対の中、バレエダンサーを夢見て奮闘する姿が描かれる。日本では2017年に初演され、2020年夏の再演が決定している。
≫『ビリー・エリオット』公式HP

■永野宗典
’98年、ヨーロッパ企画旗揚げに参加。以降、全本公演に出演。外部の舞台や、ドラマ・映画への出演にくわえ、ラジオパーソナリティとしても活動しているほか、脚本・演出家としても活動の幅を広げている。
映像監督としては、「悲しみは地下鉄で」「タクシードライバー祗園太郎」などを脚本・監督。また、劇作家・演出家として、「永野宗典不条理劇場」の名義で、不条理劇を上演している。

・ヨーロッパ企画公式HP:http://www.europe-kikaku.com/

・永野宗典 公式Twitter:https://twitter.com/uranagano

 

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