【ローチケ大衆演劇宣言!】ピカレスク浪漫第一弾「大江戸悪漢衆~序の譚~」│兜獅子丸×龍美麗×坪田塁インタビュー

2023.09.13

目の前で繰り広げられる本格演技の時代劇と華やかな舞踊でいま注目を集める大衆演劇。臨場感あふれる大衆演劇の魅力を存分にお伝えするため、ローチケ演劇部では「ローチケ大衆演劇宣言!」と銘打ってインタビューや初心者向けガイドをお送りしていきます!

最近HOTな大衆演劇に新シリーズが誕生した!悪の道を生きる輩たちが主人公の、その名も「ピカレスク浪漫」シリーズ。脚本は篠原演劇企画の新風プロジェクトで数々の名作を手掛けてきた坪田塁。注目すべきはHIPHOPと大衆演劇との初コラボレーション。HIPHOP界の重鎮K DUB SHINEが音楽・特別出演で参加することも大きな話題を呼んでいる。HIPHOP誕生50周年という節目の年に実現したこの神企画は、大衆演劇界に新たな旋風を巻き起こすのか?第一弾「大江戸悪漢衆~序の譚~」にW主演する劇団鯱の兜獅子丸若座長、スーパー兄弟一座の龍美麗総座長、脚本家・坪田塁の3人に話を聞いた。

――篠原演劇企画はこれまでに「新風プロジェクト」「原点回帰」という二大企画を打ち出していましたが、今回はそれとはまた違うシリーズの誕生なんですね

坪田塁(以下・坪田) 昨年の新風プロジェクト革新で僕が書かせていただいた「円環か螺旋か」。あれは大衆演劇のいろんな劇団から総勢16名の役者さんが集結したんですが、上演後に龍美麗総座長から「今回の登場人物のそれぞれの物語を各劇団でシリーズ化していったら面白いですね」と言われまして。「そんな発想があるのか、いつか各劇団のいろんな方たちとシリーズでお芝居を作りたい」とずっと思っていたんです。それが今回の「ピカレスク浪漫」に繋がりました。タイトルを見ておわかりのように悪党たちが主人公のシリーズです。

兜獅子丸(以下・獅子丸) 僕は今年の4月に篠原演劇企画の社長から「若座長、HIPHOPお好きでしたよね?大衆演劇とHIPHOPのコラボって面白くないですか?」とお話をいただいて。その後、K DUB SHINEさんという凄い方の参加が決まり、脚本を坪田先生が担当されることになったと聞いて、とても興奮しました。全6話のシリーズですが僕はその第一弾「大江戸悪漢衆~序の譚~」に主演して、劇団鯱が下座(したざ:特別公演における世話役的な役割)を務めさせていただきます。

龍美麗(以下・美麗) 僕は中一のときに映画「狂気の桜」を見たことがきっかけでHIPHOPにハマって「いつか大衆演劇とコラボしたい」とあたりかまわず誰にでも言っていたんです。そしたら今回の話が持ち上がって、もともと獅子丸とは親しいし、HIPHOP好き仲間でもあるし、僕も参加させてもらうことになり。蓋を開けたらまさかの脚本が、僕のことをよく知ってくださっている坪田先生。出ていただくのが「狂気の桜」で音楽を担当されていた憧れの人、K DUB SHINEさんということで、身震いするほど喜びました。今回のシリーズでは総合演出も担当させていただきます。

――お2人がHIPHOP仲間だとは知りませんでした

劇団鯱 若座長
兜 獅子丸

獅子丸 もともと「フリースタイルダンジョン」というラップバトルの番組のファンで「知ってますか?面白いですよ」と美麗総座長に話して、そこで初めて総座長もHIPHOPが好きだって知ったんです。もう5年くらい前ですよね。

美麗 そうそう。「もう少し若かったら役者やめてラッパーになってもいいかな」「バトルやってみたいですよね」と言うくらい2人とも好きなんです。役者やりながら片手間にやる、みたいなのはHIPHOPに失礼なのでやりませんけど。やるんだったら命懸けないと!(笑)。

――ポスターを見ても独特の世界観でワクワクします。時代劇がメインの大衆演劇とは一線を画すポップなイメージですね

坪田 僕がずっとあたためてきた構想のひとつに「海外のB級映画監督が日本に感化されて大衆演劇を見て、うわ、これ映画にしたい!と思ったらこういうのを作るだろう」というお芝居のシリーズがありまして。サムライ、ゲイシャ、ニンジャみたいな感覚ですね。それが今回、HIPHOP×大衆演劇のコラボとひとつに結びついた感じです。とにかく「アベンジャーズ」のようにたくさんの悪役たちが登場して、そのひとりひとりが輝いて大活躍していくような、既存の大衆演劇とは違う、それこそカタカナもしゃべってしまうようなイメージ。

もしも僕が外国の映画監督だったら、舞踊ショーに出てくる奇抜な衣装を芝居のほうで使いたくなるだろうな、と思うんです。そういうポップな世界観を大事にしながら手掛けていきたいシリーズです。

美麗 ポスターのファッションコーディネートは僕のアイデアです。せっかくHIPHOPとコラボできて、オリジナルの脚本で斬新な世界観が実現できるのだから、HIPHOPの文化やファッションを取り入れてお互いに歩み寄るのが面白いですよね。本番の芝居に関しては僕もどうなるかわからないので、稽古ですり合わせをしながら皆で自分たちの世界観を作っていきたいと思っています。

――坪田先生は“当て書き”をされるそうですが、お2人は自分の演じるキャラクターについて何かリクエストなどされましたか?

美麗 先生は僕の好きそうな役というか、僕を輝かせる脚本を書いてくれるとわかっているので(笑)、信頼してすべてお任せしています。台本読んだらめちゃめちゃ面白かったんですが、自分が二役だったのにはびっくりしました。

獅子丸 僕は実は坪田先生にお会いするのが今日が初めてなんです。なのでいただいたものを一生懸命やる、という感じです。

坪田 獅子丸さんとお話するのは初めてですが、以前、僕が美麗さんに書いた「くぐつの絲」の再演バージョンに出ていただいて。僕の中でもかなり特殊な脚本で人形師という難しい役をやっていただいたんですが、そのときのお芝居の印象が素晴らしかったんです!あれ以来、僕の中で獅子丸さんは信頼できる役者さんのひとりです。今回は「獅子丸さんにやっていただくなら間違いなくこれ!」という役を当てているのでとても期待しています。

獅子丸 ありがとうございます!頑張ります!

――全6話のストーリーは最後までもうできあがっているのでしょうか?

坪田 大枠ではなんとなくできていて、それをもとに引き算で1話から構築している感じです。僕はなるべく役者さんに当て書きをするタイプですが、大衆演劇は旅役者の集まりなので、シリーズを作っていく上で、誰がどこでいつ公演しているかという問題が絡んでくる。メインの登場人物が9人として、そのキャラに合わない役者さんが出てきても困るので、今のところ12人から15人くらいの人物を考えておいて、その都度役者さんに当てはめていく…というふうにできたらいいな、と思っています。このあたりは大衆演劇らしいフレキシブルな対応が必要になりますね。どうなるんでしょうね~そういう意味ではまったく先が読めない(笑)。

美麗 僕が思うに、お芝居の内容にしても演出にしても、対応力のある役者さんじゃないと相当厳しいんじゃないかな(笑)。それについていけるのが大衆演劇の役者のすごいところでもありますが。来年の6月までの間に9か月かけて6話を完成させる予定です。僕はそのたびに全国どこで公演していても東京に出てくることになりますが、演出もHIPHOPも好きだから苦ではないですね。

――「大江戸悪漢衆~序の譚~」のあらすじを言える範囲でお願いできますか?

坪田 ざっくりでごめんなさい。白浪五人男のようなお話の前夜。その中の2人が出会うまで、みたいな物語。よく知られているみたいなキャラクターたちが集まる話を、皆さんが知ってるようなストーリーではない方法でお届けします(笑)。そして美麗総座長の二役はちょっと面白いことになっているので楽しみに!

美麗 なんだかよくわからないけど面白そうってことはわかりますね(笑)。

脚本家 坪田塁

――シリーズタイトルにあるピカレスクについての見解は?

美麗 もともと僕たちが大衆演劇でよく演じてきた清水の次郎長も国定忠治もすべてアウトロー。悪党だけど正義、ダークヒーロー。HIPHOPも反権力というか、黒人の人たちから生まれた文化なので根底は同じだと思うんです。その二つが嚙み合ったら面白いものが生まれそうですよね。ピカレスクシリーズは大衆演劇とHIPHOPをコラボする上で最高の形。「声なき人たちの叫び」みたいなことをテーマにやりたいです。「善と悪なんか簡単にひっくりかえるんだよ」って。

獅子丸 HIPHOPはもともと不良のコンテンツ。大衆演劇には悪を体現するキャラクターが豊富にいるし、物語の素材もたくさん転がっている。両者はすごくマッチすると思います。

美麗 僕と獅子丸は普段が誠実なので悪に憧れてるんですよね。

獅子丸 えっ?(笑)。

坪田 ふざけんな、と突っ込んでいいですか?(爆笑)。

――K DUB SHINEさんが参加されることになった経緯を教えてください

坪田 篠原演劇企画の社長から「今回のコラボのためどなたかご紹介を」と言われたとき、僕の周りでこういうのを楽しんでくれそうな人といったらK DUB SHINEさん一択だったんです。HIPHOP界の重鎮ですが、大物が面白がって一緒にやってくれたら後が楽だな、という思惑もありました(笑)。K DUB SHINEさんと僕には以前から『ラップミュージカルの上演』という夢があるんですが、なかなか実現せずにいた。そんなときにこのお話が浮上して、大衆演劇はミュージカルではないけれど舞踊で踊っているし、HIPHOPの言葉を駆使するパフォーマンスと大衆演劇の独特の芝居が融合したら、これは面白いことになるんじゃないか?とひらめいて。怒られてもいい、ダメもとで!とドアをノックしてみたら、意外とあっさり「やるよ」という返事をいただけて…ありがたかったですね。ちなみに今年はHIPHOPが誕生して50年という節目の年なんです。50年前の8月11日に誕生したらしい。そんなときに大衆演劇とのコラボが実現するなんてどんぴしゃですよね。

美麗・獅子丸・取材現場にいた全員 おお、そうなんですか!すごい!(大興奮)。

――K DUB SHINEさんは音楽を担当されるだけじゃなくて出演もされるんですよね?

坪田 はい。どんなところにどんなふうに出てくるのかは秘密です(笑)。でもこれは言ってもいいかな。美麗総座長と獅子丸若座長はお芝居の中でラップをします。僕が書いたセリフをK DUB SHINEさんにリリック化してもらって、それをお2人にやってもらいます。

――それは楽しみですね!

坪田 HIPHOPはブレイクビーツといって、音楽のある部分をループさせることによって出来上がっていくものなんです。俗にいうBGMとは違うのですが、K DUB SHINEさんには今、お芝居の中でかけられるようなトラックの制作をお願いしています。今日、お2人に会うことをお伝えしたところ「こちらも格闘しています」というメッセージを預かりました。

獅子丸 ありがとうございます!僕たちも闘います!

美麗 それは嬉しいなあ。本当にありがたいですね。

――美麗総座長はK DUB SHINEさんにもう会われたんですよね?

スーパー兄弟 総座長
龍 美麗

美麗 はい。中一からの憧れの人を目の前にしてしばらく無言で放心状態でした。そのあとお酒の力を借りまして、ほぼ愛の告白に近いような感じで「好きです」と伝えました。痛いファンに見えたと思います(笑)。でも途中からは真面目なお話もして「HIPHOPの根底にあるものを理解してるかい?」という質問をされて。急にテストされたみたいでびびったんですが、前から思っていたことを言いました。「アウトローの文化を持つ者同士としてコラボして伝えられるものを伝えていきたい」と。「そこまでわかってもらえているなら大丈夫だね」と言っていただけてほっとしました。HIPHOP好きでよかった~と思いました。

――お客さんの中にはそのような特性を持つHIPHOPになじみがない方も多そうですが

美麗 それは僕も考えています。6話あるので徐々にメッセージ性を強くしていく予定です。一発目から自己満みたいなものを打ち上げても誰もキャッチできないと思うんですよ。初回はとにかくわかりやすくして「HIPHOPすげえ、大衆演劇すげえ、二つあわさったらかっこいい!」みたいにできたらな、と。僕は普段の口上挨拶でも言うんです。『今日の芝居、見てもしもわからなかったら“なんかよくわからんかったけどすげえ”となってくれたらそれでいい。得体の知れない感動を味わって、深く考えずにただ楽しんでもらえたらいいんです』って。後から深いメッセージ性に気づいたほうが、どんどんはまるきっかけになったりもするんですよね。初回でどれだけお客さんとK DUB SHINEさんの心を掴めるか!とにかくそれが大事なので(笑)。

――最後に意気込みをお願いします

坪田 新風プロジェクトでもなく、原点回帰とも違う新しいシリーズが始まります。皆さんと一丸となって成功させるようがんばっていきますので、ご興味持たれた方はぜひ見てください。できれば6回見て欲しい。ぜひ6回お越しください!ピカレスク浪漫シリーズは悪役を描き続けていきます。「大江戸悪漢衆」の評判がよければ「浪速悪漢衆」ができるかもしれません。続いていくといいなと思っています。

美麗 僕は中一から舞台で使う音楽以外はHIPHOPだけを聞いて生きてきた人間です。仲間がいなくてひとり悶々としていたところに獅子丸が現れ、2人で「HIPHOPかっこいいなあラップいいよなあ」と言っていたら、このお話をいただけました。第一弾の主演と演出を任された者として、とにかく頑張ります。最終的にはいろんな人たちから「大衆演劇ってCOOLじゃん!」といわれるように。このコラボを一発限りで終わらせないように。大衆演劇ファンにもHIPHOPファンにも喜んでもらえるような作品にしたいです。

獅子丸 とにかく一作目なので「失敗できねえぞ」と自分を鼓舞しています。俺らがこけたら全部こけちゃう、という責任のようなものがありますから。そのプレッシャーをいい力に変えて、HIPHOPであるからには反骨の精神で頑張っていきます!劇団鯱は今、大衆演劇で流行りはじめているイケイケギャンギャン(通称イケギャン)という言葉を作った劇団です。海のギャング鯱を劇団名に掲げているくらいですから、舞台の上の治安の悪さが売りものです(笑)。こんな劇団は他にないです(笑)。下座を担当するのは大変な部分もありますが、きっと成功させてみせます。

美麗 間違いない!良いこと言った!

獅子丸 ほめられました(笑)。

――篠原演芸場の畳の上に座るお客さんの層も変わりそうですね

坪田 HIPHOPのお客さんもいらっしゃいますからね。K DUB SHINEさんのファンの方たちも今から楽しみにされているそうです。

美麗 嬉しいなあ。HIPHOPそのものが今、若年層に広まりつつあるんです。それに乗っからせてもらうというか、若い人たちに大衆演劇の存在を知ってもらうという意味でも、今回の公演はすごくいいことだと思います。ひとりでも多くの方に新しい扉が開く瞬間を見ていただけますように。

インタビュー・文/望月美寿