『漂う、傍観者ども』│演出家・福士誠治 インタビュー

俳優・演出家である福士誠治と、HIGHcolors主宰の劇作家・深井邦彦が初タッグを組む『漂う、傍観者ども』。今回が7回目の演出となる福士に、東京・下北沢OFF・OFFシアターで繰り広げる4人芝居の見どころや演出家としての思いを聞いた。

――今回、深井さんとの初タッグです。きっかけはなんだったんでしょうか?

事務所企画でもあり、僕も今年演出をしていないので何かやりたいなというのがありました。新納(多朗)さんから深井さんの脚本が面白いと聞き、ぜひ書いてくださいという流れで実現しました。

――完成した台本を読んで、どんな印象をうけましたか?

超絶会話劇でとにかくセリフが多い。観た人が色々な印象を持つ脚本だなと。人それぞれが持っている何がいい・悪いなどをすごく繊細に書いてくれていて、深井くんが持つ死生観、生きることに対しての思いが詰まっていると感じました。だいそれたことを言うつもりはありませんが、生きるとか死ぬとか、そういうところを感じてもらえたらいいなと思う素敵な脚本ですね。

――キャストの皆さんの印象はいかがですか?

新納さんは一番年上で、ものすごくリアリティのあるお芝居をしてくれます。すごく真面目で、自分のお芝居に関するプランがある方。とても素敵な俳優さんです。

清水優くんは昔から友達で、お芝居が上手いことも知っているんです。自分なりのプランニングを持ってきてくれるので面白いですね。もちろんブラッシュアップは必要だけど、台本を自分なりに読んで色付けしてきてくれる。

丸山優子さんはすごく声がいい。セリフを喋る時に音が外れないイメージがあります。例えば、「この流れの中で前の人がこうきたから、こう返すかな」っていう時も「こうしてみてください」と頼んだ時も外さない。感情を露わにしなくても感情が飛んでくるような感じで芝居の強さに助けられています。

片山萌美さんは耳がいいなと思います。僕が「こういう感じがいいな」といったニュアンスをすぐ変換して自分のものにして芝居に反映してくる。思い切りもすごくいいので、いい意味で色々言いたくなる、期待値がすごく高い女優さんです。

――演出7回目となります。演出をする上で大切にしていることはなんですか?

やっぱり稽古の時間ですね。集中するところは集中して、休憩もとって、終わったら帰るというメリハリは元々持っています。あと、現場の雰囲気。できるだけ風通しの良い現場にしたいし、嫌な緊張感はない方がいいと思うんです。クリエイティブなことをするうえで、柔軟な発想や意見交換ができるようにしたい。だから基本的に怒らないです。心がけているというか性格ですね。

――稽古の手応えはいかがでしょう

4人しか出ないので、一人ひとりのカラーがぶつかり合っている瞬間が多いです。それをOFF・OFFシアターという小劇場でやる。お客様も生々しさみたいなものは感じられると思います。もちろん演劇的要素は用いますが、とても派手なことができるわけではない。シンプルな小さい劇場で、この4人が一生懸命生きているような感じになると思います。

――今回、演出プランはもう固まっていますか?

今まではコメディー要素だったり、一瞬コントのような笑いを取ったりというのが多かったのですが、今回は深井さんの戯曲で、言葉の持つ面白さもあるけど、何よりも会話劇というところ。本当に細やかに言葉が羅列されているのが1番の難しさですね。先程も言ったように4人が見えるようにしたいです。社会的に何かオブラートに包みながら生きていたり、「こういうときはこうするのが普通」という先入観がありますよね。この4人は自分なりのルールが多分あって、それがぶつかり合う。人間のフィルターを少し外して見せられたらいいのかなと。全員駄目人間ですからね。駄目なところを寄せ集めて、会話の中で導いて行けたら。

――台本を読みましたが、おっしゃる通りみんな駄目人間です。一方でそれぞれの言い分に納得もしてしまいました。福士さんは誰に共感しますか?

僕は駄目人間じゃないので(笑)。

――すみません(笑)

正直、誰にでも共感します。新納さん演じる堀田さんは親なので少し遠いところはあるけど、誰かを信じて行動するのはわかります。清水くん演じる店長の事情、丸山さん演じるパートさんの親の介護も今の時代ですよね。そして片山さん演じる子を持つ母親の強さや世の中への不満。みんなが持っているものを分散したような4人だと思います。

――本作の見どころを教えてください

今まで僕が手掛けた作品は「家族っていいよね」「お母さんに感謝しよう」とか、わかりやすいテーマがありました。でも今回は、「これだ」というものが僕の中にはあるし稽古中にも作っていくけど、観ている方がその通りに受け取らなくてもいいと思っています。多面性のある作品になりそうですし、お客様が「本当にただの駄目人間4人の話じゃん」と思っても仕方ないと思う。でも、少しでも共感してくれて、今いる場所や環境も悪くないと思ってもらえたら嬉しいですね。色々考えられる脚本になっているので、作品が持つ力と演劇的な会話劇を楽しんでいただけたら嬉しいです。

――ちなみに、小劇場の魅力はどんなところに感じますか?

お芝居する人のエネルギーを直接もらえるという意味で、小劇場は贅沢な空間だと思います。ステージと客席が一体になるような作品もあれば、覗き見しているような作品もある。その中で俳優さんの表情やエネルギーをもらえるのは小劇場ならではだと感じます。好きな作品に当たるととてもラッキーな気がするんですよね。あと、OFF・OFFシアターは舞台上に楽屋があります。今回楽屋部分を見せることはないと思いますが、小劇場らしくていいなと感じます。

――俳優と演出家、両方を手がける中で変化はありますか?

元々プレイヤーをしていたところから演出もするようになって、演出家さんの感性のようなものをもっと多面的に受け止めたくなりました。セッションするときに僕の意見も持つけど、演出家さんの意図やお客様に何を見せたいかをより考えるようになりましたね。自分の立ち位置も「表現者」がしっくりくるようになりました。僕は音楽もやっていますが、ジャンル問わず色々表現することで間口が広がった感じがします。「これが絶対」というより、そこから違うものを発見した方が面白かったり。

――演出家として今後挑戦したいことを教えてください

音楽ありきの作品をやってみたいですね。エンターテインメントが好きなので。翻訳じゃなく、日本で作るミュージカルみたいなものは、作曲家の方とコラボしてやってみたいです。すぐにとはいきませんが、言っておかないと叶わないので。

――最後に、皆さんへのメッセージをお願いします

「漂う、傍観者ども」というタイトル含め、どんなふうに皆さんに感じてもらえるのかなと思っています。近年、大変な時期もあり、外に出て作品を見る機会に「自分の環境や境遇に対する不満を忘れて楽しもう」みたいな部分もあると思います。でも、この作品は存分に持ってきてもらっていいかなと。自分の持つ思いをそのまま持ってきて、共感したり反発したりして、観終わった後に小さくてもいいので何か変化があったら嬉しいです。

インタビュー・写真/吉田沙奈