PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『 海をゆく者』|小日向文世 インタビュー

歳をとっても楽しそうに舞台に立てるんだと思わせたい

アイルランドの気鋭劇作家コナー・マクファーソンの代表作「海をゆく者」。PARCO劇場開場50周年を迎え、初演から14年、再演から9年ぶりに上演される本作に初演から出演している小日向文世は、再々演の知らせに胸を躍らせる。

「嬉しかったです。ただ、再演のときに、次にやるときは絶対に1日に2回公演を組むのはナシにしてって言ったはずなんですけど…今回もしっかりありますね(笑)。初演はセリフを入れるので精一杯、再演は緊張しつつも意外と楽しんでいた気がします。大変なことは忘れちゃうんですかね。当時のメンバーが同じように年を取って、また舞台に立てることが嬉しいというのが、率直な気持ちです」

5人のキャストのうち、小日向のほか浅野和之、大谷亮介、平田満と4人が続投。新たに高橋克実が加わり、日本を代表する名バイプレイヤー5人が揃った。演出を担うのは、栗山民也だ。

「高橋君は前にやってた吉田鋼太郎君とは見た目が真逆で、それだけでも新鮮。でも、新たに入って大変だと思います。ただ、自分よりも緊張して大変な人がいると思うだけで、こっちは少し気が楽になる(笑)。みんな知っているメンバーだから、助け合って楽しく初日が迎えられそうです。それに、栗山さんの中ではもう出来上がっているので、本読みを終えたら、すぐ翌日には立ち稽古。そして、圧倒的に稽古時間が短いんです。栗山さんは的確な指示を与えたら、『じゃあお疲れ』と、次の稽古場に行ってしまったりするから、自主稽古して、次の日に見てもらうと、『言ったところができていない』とか、しっかり覚えてるんです」

酒浸りの男たちがクリスマスイブに命運を賭けたカードゲームに興じていくという本作。その物語の魅力と演じる楽しさを、こう語る。

「再演でかなり練り込まれていて、もういじる場所がないくらいになっている気がします。新たな表現を見つけようというよりは、それぞれの組み合わせ、動きを忠実に再現したいと、今は思っています。男ばかり5人、それもどうしようもないオヤジたちが、クリスマスイブに唯一の楽しみのカードをやっているんです。本当によくできたいいお話なんですよ。決して恵まれてはいない男たちだと思うんですけど、祝福というか…大きな存在の温かな眼差しを感じるんです。それも、クリスマスの朝を迎える頃にね。しかも、全員がお酒好きで、どんどんベロベロに酔っぱらっていく。そこが面白いんですよ。もちろん芝居で酔っていくわけで、70歳にもなろうとする男たちが一生懸命に酔っぱらいを演じるという、その姿を楽しんでほしいです」

20代からこれまで、芝居と向き合ってきた小日向。ただ、その向き合い方も若い頃とは変わってきた。

「年を取っても大していいことない、悔しいなと思っていたんですけど、唯一、若いときよりも気負いがなくなるのはいいことかな。もちろん演出家に応えたいとかは思うけど、ここで一発勝負して名を馳せたいとかはないから、若い頃の緊張感に比べたら穏やか。ここに女の子の1人でも入ったらいいとこ見せたいとか出てくるかもだけど、今回はおっさん5人だから(笑)。歳をとってもあんなに楽しそうに舞台に立てるんだって、思わせたいです」

インタビュー&文/宮崎新之
Photo/篠塚ようこ

※構成/月刊ローチケ編集部 10月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

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【プロフィール】

小日向文世
■コヒナタ フミヨ 
ドラマ「下剋上球児」、「イチケイのカラス」「緊急取調室」、映画『コンフィデンスマンJP 』『大名倒産』『湯道』など、数多くの話題作に出演。