明石家さんま&松尾貴史&水田伸生インタビュー『IMM THEATERこけら落とし公演 斑鳩の王子‐戯史 聖徳太子伝‐』

写真左より 松尾貴史・明石家さんま

明石家さんま4年ぶりの主演舞台『IMM THEATERこけら落とし公演 斑鳩の王子‐戯史 聖徳太子伝‐』が2024年1月に上演される。今回の公演は、さんまが命名した新劇場「IMM THEATER」のこけら落としとなる公演だ。さんまが聖徳太子役を務め、中尾明慶、山西惇、温水洋一、八十田勇一らさんまの舞台でおなじみのメンバーが脇を固める。さんまが、松尾貴史、演出の水田伸生とともに、公演の見どころを語った。

 

――さんまさんが聖徳太子を演じるというだけでもビビビッとくる公演ですね。

さんま 「ビビビになります? アララでしょ。『さんま御殿』を始めた頃に、人の声を聞き分けるようなイメージを持たれていたようで『聖徳太子みたいなやつやな』と言われたことはちょこちょこあるんですよ。それで、監督(水田)と(脚本の)輿水(泰弘)が、あいつに聖徳太子をやらせて苦しめようということだと思います。」

水田 「前回の『七転抜刀!戸塚宿』が終わってコロナになってしまいましたから、輿水さんにもなかなか会えなかったんですが、やっと会えるようになって、そうしたら彼から『歴史上の人物はどうでしょう』と提案があったんですよ。その話の延長線上で『あっ、そうだ。師匠(さんま)は奈良だ』と、聖徳太子の話になったんです。師匠にはそのイメージもあるので、プロットを書いてご相談申し上げたという経緯でした。」


――さんまさんは最初に聖徳太子を描くと聞いて、どう思われましたか?

さんま 「歴史上の人物でいうと、僕は顔は織田信長なんですよ。挿絵とか見ていただいたら分かると思うけど。昔、コンピューターがはじき出した織田信長に一番近い芸能人で、ダントツで1位だったんですよ。それを受けて、あるドラマで豊臣秀吉を柳葉敏郎さんがやるとなった時に、監督から織田信長を演じて欲しいとリクエストがあったんです。それで、ヅラ合わせに行ったら、監督が足軽に変えよったんです。似てるのに、ドラマになると僕は織田信長じゃないというのにすごくショックを受けたんですが、その後に木村拓哉が映画でやり、たけしさんが映画でやり、織田信長じゃなくてよかったなと(笑)。今はそう思っています、本当に。」


――松尾さんはさんまさんが聖徳太子を演じると聞いたとき、どのように思いましたか?

松尾 「ありとあらゆる、そこら辺に散らばっているものを全て材料にされる方なんで(笑)」

さんま 「ゴミ拾いみたいな(笑)」

松尾 「いやいや、サスティナブルな人やから(笑)。ぴったりじゃないかなと思いました」


――作品のキャッチコピーに「おしゃべり怪獣が10人の声を聞き分ける?」とあります。

さんま 「聞き分けられないですよ(笑)」

松尾 「聞き分けられるというより、聞き逃さないという感じ(笑)」

さんま 「10人のミスを聞き逃さない(笑)。仕事上はそうかもわかりませんね。聞き分けられないけど、そういうことにして(笑)」

 


――松尾さんは今回初めてこの座組に入られますが、やはり、さんまさんはミスを聞き逃さないといった印象ですか?

松尾 「ちょっとしたことを時間差でしつこく突っ込んでこられる(笑)。そこが油断も隙もない。あの時のあれ間違ごうてたんや、って時間差で気付かされる恐怖がありますね(笑)」

さんま 「長いセリフが多いんで、(松尾は)ずっと練習してるんですけど、(さんまが)こっちでこそこそ話してたら、それ、全部聞いてるんです。練習しながら、我々の会話を聞こうとしていただいているのか、入ってくるのか(笑)。そういうのはあります。」

松尾 「全然、集中できないです(笑)。僕は集中力ないので、おもろい方にいってしまう(笑)」


――松尾さんは今回、複数の役を演じるそうですね。

松尾 「ちょっとした役も入れると、4つくらいあります。」


――お話しいただける範囲で、どんな役があるのですか?

松尾 「メインで演じるのは、蘇我馬子で厩戸の奥さんのお父さんです。(さんまが演じる聖徳太子の)義理の父親になりますね。それからヘンテコ神様(笑)。あとは一瞬出てくるような役もありますね。」

さんま 「元々、物まね名人やから(どんな役もできる)。うらやましいよね。」

松尾 「いやいや、(物まねするにしても)元が分かってないですが(笑)」

 


――このようにお二人が楽しく演じられると思いますが、水田さんはそんな稽古場をどのように感じていますか?

水田 「全員がこの状態ですから(笑)。芝居の稽古なのか、雑談の会なのか、境目がないところが特徴だと思っています。」


――今回の脚本は、さんまさんに当て書きされているんですか?

水田 「いえいえ、そういうわけでもないです。」

さんま 「もちろん、当て書きしている部分もちょっとはあるでしょうけども。ただ、皆さまにお願いして、さんま流で行ってもらうようにはさせてもらってます。」


――さんま流というのは?

さんま 「笑いの作り方です。お笑いっていろいろ作り方があるんで。ただ、結局は、お笑いは緊張の緩和だけなんで、そこをさんま流、さんま風にしたい。僕が出るからには。それに合わせていただきたいというだけのことですね。」


――笑いたっぷりの舞台になるのだと期待していますが、物語の見どころも教えてください。

さんま 「確実な事実が残っていない時代が舞台なので、どんな言葉を使うのか、その言葉をお客さまが(耳で聞いて)どれくらい分かるのかを苦労しながらやってます。昨日も神の馬を神馬って言うんですけど、みんな(それを聞いて)分かります? その辺のセリフはみんな苦労してますね。あとは、監督と打ち合わせをした中で、(水田が)『どうします、戦争ないんですよ。入れましょうか?』と言うので(笑)、『え?そんな簡単に入るの?』『入れます』と、そんな会話をしつつ(ストーリーの制作が)進んでいったんですよ。いかにこれが本当だと伝えるかをやってますね。」


――松尾さんが最初に脚本を読まれた時は、どんな感想を抱きましたか?

松尾 「これが実際にみんなの口から声になって出たときにどういうムードになるのかなというのが最初の感想です。歴史物だと権力闘争や権威を奪い合う姿が物語の軸になるであろうと思っていたので、生身の役者がそれをどういうふうに作り上げていくかというのは、楽しみではありました。実際に当時どうだったかということに関して言えば、誰も知らないわけですから、お客さんが物語を楽しむことに差し障りがない程度に違和感を最小限にするのが大事かなと思っています。」

水田 「今、松尾さんと師匠がおっしゃったように、結局人間ってそんなに進歩してないなというのが分かる物語になっていて、そこが悲しいですよね。今も地球上で大きな戦争が二つ行われていますけど。日本書紀に書かれているこの時代は、暗殺の歴史なんです。大笑いして、お正月に楽しい舞台を観ていただきながら、最後はこれから先、地球上はどうするべきか、少しだけ皆さんが持ち帰ってくださればと思います。」

さんま 「こんなこと言うてますが、そんな気持ちは主役は全く持ってない(笑)」

 


――今回の公演は、さんまさんが命名された新劇場のこけら落としということですが、改めて劇場に対しての想いを聞かせてください。

さんま 「僕は、本当はとっくにテレビに出ていないと思っていたので、舞台をこれから多めにやっていきたいと思っていたんですよ。テレビも言葉の拘束がどんどん厳しくなって、やりたいこともできない時代になってきてるので。とにかく好きな笑いを自分なりの表現だけで思い切りやって、文句を言われない劇場を作りたいと思っていたら、会社から『作ってくれ』ということになって、それで今回の劇場になりました。IMMは『生きてるだけで丸もうけ』の略なんですよ。本当は(その略だと)IDMなんですけど、IDMは所ジョージさんが先に使ってしまっていたんで、IMMにすると。そこで、ジミー大西が『生活が苦しい』と言うので、『おまえ、絵を描け』と言って劇場のロゴを作ってもらいました。それから、若い女の子たちが写真映えするような看板にしたいということになって、またジミーが『お金がない』と言うので『おまえ、絵を描け』と。なので、今のところ、ジミーだけは助かってます(笑)。客席は、700人くらいですが、それもこちらからリクエストしました。細かい笑いは、1000人を超えると苦しくなったり、違う演出になるので、700人くらい人というのが僕は非常にやりやすいんです。」


――なるほど。そうした劇場のこけら落としを担うことに、水田さんはプレッシャーはありますか?

水田 「これは本当に震えます。でも、師匠が付いてますから。」

さんま 「本当に良い劇場ですよ。」

水田 「ええ。皆さんも舞台上から一度、客席をご覧になるとびっくりしますよ。」

さんま 「ステージから客席を見ると、僕の顔になってるんですよ。お客さんは一生、見れないので、これを見るために入場料取ろうかって吉本が…(笑)。なんちゅう会社やと(笑)。でも、劇場が空いている期間にはジミーの絵の個展や、我々の仲間で絵のうまい人たちの個展をなるべくやりたいと思ってますし、その時には客席も見れるようにしたいなと、本当に思っています。」


――松尾さんは役者としてこけら落としの舞台に立つことにはどんな思いがありますか?

松尾 「自分がどうというよりは、ただただ幸運だなと思います。ありがたいことですね。縁起物ですから(笑)」

 


――ところで、さんまさんと松尾さんは長いお付き合いですが、舞台でご一緒されるにあたってはどんな思いがありますか?

さんま 「キッチュ(松尾の旧芸名)の映画監督の大島渚さんの物まねが大好きで、(昔は)何回も振ったことを覚えてますね。そこから物まねを捨てて…」

松尾 「いや、捨ててないですよ(笑)」

さんま 「そこから芝居の方に進んでいって、よく色々な舞台を見に来てたので、お芝居が好きなんだなと。今回も稽古場でセリフを覚えている様子を見ていると『ああ、芝居好きやねんな』と思いながら、みかんを食べている自分が情けない。」

松尾 「ははは(笑)」


――さんまさんは過去のインタビューで「1週間前にセリフを入れる」とおっしゃっていましたね。

さんま 「1週間前どころか3日前に入れば一番、生きたセリフになると思うので、僕はそういう作り方をするんですよ。生意気ですけれども、そうしたい。そっちの方が現にいいんです。我々が飽きてしまうんですよ。セリフに飽きるのが一番怖い。飽きないところで全部入れたいというところですね。」


――それぞれの舞台への臨み方の違いについては、どのようにお考えですか?

さんま 「キッチュはきちっとやりたいところもあると思うんですけど、僕の方が芸能界もキャリアが上ですから、『おまえは嫌だろうけども、これで行く! 俺はこれや!』と。合わせていただくよう、今日もチャーハンおごりました(笑)」

松尾 「おいしかったです。カニがゴロゴロ入っていて(笑)」


――松尾さんは、そんな先輩の下でやられてみていかがですか?

松尾 「『この台本は一言一句たがわずに正確に発音してください』という方もいらっしゃいますが、僕もいつも、初日に間に合えばいいというくらいの覚えるペースなんですよ。」

さんま 「ああ、キッチュもそうなんだ」

松尾 「そうなんです。台本に書かれていることはその場で思い付いたように言うというのが僕は昔から好きなもんですから。なので、この作品の空気はきっと僕の体質には合っているのだと思います。水田さんがどう思っていらっしゃるかは分かりませんが(笑)」

 

取材・文・撮影:嶋田真己