「死んじゃった人がやることだよ」いとうせいこう×ブルー&スカイ対談で紐解く『寸劇の館』のすごさ、おかしさ

ブルー&スカイ作・演出による舞台『寸劇の館』が、1月23日より渋谷ユーロライブで上演される。出演は、池谷のぶえ、吉増裕士、フロム・ニューヨーク(ブルー&スカイ、市川訓睦、中村たかし)、テニスコート(神谷圭介、小出圭祐、吉田正幸)。上演記念特別企画として「ブルー&スカイ過去作品上映会」も開催される。
1994年に結成された「劇団猫ニャー(後に「演劇弁当猫ニャー」)」にて、ブルー&スカイは2004年の解散まで全作品の作・演出を手がけ、その後もナンセンスコメディの作り手として活動を続けてきた。『寸劇の館』の開幕に先駆けて、ブルー&スカイにいとうせいこうが話を聞いた。

 

開催の経緯は「やりませんか」

いとうせいこう(以下、いとう): すごいよ、ブルー&スカイ大特集。素晴らしい。ありがたいことだよな。
ブルー&スカイ(以下、ブルー): そうですね(小声。以下、同じ)
いとう: 死んじゃった人のやることだよ? 過去作上映までやってくれる作家特集だなんて。これ、どういう経緯で決まったんですか。
ブルー: 経緯は「やりませんか?」って言われて。
いとう: まあ、そうだろうよ(笑)。何かをやるときは、誰かが「やりませんか」って言うものだもんな(笑)。
ブルー: 去年1月に『重要物語』に池谷(のぶえ)さんに出てもらって。また、やりましょうというお話をもらいまして。
いとう: 出演者も素晴らしい布陣ですよ。池谷女史にはじまり、吉増さんがいて俺も大好きなフロム・ニューヨークが揃い、ずっと推しているテニスコートもいて。みんなブルーのために集まったんでしょ? どうやって集めたの?
ブルー: プロデューサーの加藤さんが連絡を。おそらく電話……。
いとう: うん、そうだろうな(笑)。

ブルー: フロム・ニューヨークの中村さんと市川さんには僕から個人的に。
いとう: その2人とブルーさんの3人でフロム・ニューヨークだもんね。久しぶりにフロム・ニューヨークを見られるのも、すごくうれしいよ。
ブルー: ありがとうございます。コロナ禍前にやって以来です。
いとう: 吉増、池谷、ブルーで新作もやるの?
ブルー: 寸劇だけではないんですが。映画の『タイタニック』みたいに頭に現代のシーンがありまして、間に船のお話があってサンドイッチに。
いとう: 入れ子構造でね。
ブルー: サンドイッチです。
いとう: 入れ子じゃないんだ。あくまでサンドイッチなんだ。
ブルー: はい、そこに池谷さんが出ます。

いとう: 池谷さんのシーンが枠組で、その中で時代が飛んで。
ブルー: 時代は飛ばないです。
いとう: ……時代は飛ばないんだ。もう『タイタニック』じゃないような……。なんで『タイタニック』って言ったんだよ(笑)。
ブルー: (笑)
いとう: その中にこれまでの寸劇を入れる?
ブルー: テニスコートさんはテニスコートさんのネタをアレンジしたものを。そこには僕も参加します。
いとう: 役者としてね。でもブルーは、フロム・ニューヨークにも出るんでしょ?
ブルー: 出ます。
いとう: 池谷さんと吉増さんのパートには出ないの?
ブルー: 吉増さんと僕の寸劇があります。
いとう: めちゃめちゃ出るじゃん。
ブルー: 結構出るんですよ、僕は。

 

マンションの管理人さんとして

いとう: よっぽどマンションの管理人の仕事が嫌だったんだね。
ブルー: それは本当に……。
いとう: 去年ブルーが、舞台関係の仕事をすべて辞めてマンションの管理人でやっていくんだって宣言をしたんだよね。皆、大騒ぎだった。ブルーがまた訳わかんないこと言い出したぞ。大変なことになった。できるわけがないじゃないか、あの人に管理なんて! って。で、住人の顔を1回も覚えられなかったそうじゃないか。
ブルー: (驚いた表情でなにか呟く)
いとう: 聞いてるよ。ブルーさんの情報は、全部俺のところに入ってくるんだよ。

ブルー: 覚えられなかったのも辞めた理由の一つです。親しくなれない。住民の方は僕が管理人になって…って、コレどうでもいい話ですけど。
いとう: いや、重要な話だよ。
ブルー: 新しい管理人さんになって初めて会った時、住民の方は、大抵は挨拶して名乗っていただいて。で、僕も名乗って。『ああ、後藤(本名)さんですね』ってすぐ僕の名前を覚えられるんですけれど。50世帯くらいあるマンションだったので。最初に挨拶したら2回目以降は当然名乗ってくれないので、この人誰だろう。名前はなんだろうって。
いとう: 常に不安な気持ちで管理人室にいて、何かを言ってくる人がいる。自分はその人のこと何にも知らない。相手が誰だか分かんないのに『この間のアレですが』とか『ネズミが出るみたいなんですけど』とか言われて、それがどこのことだかも分からない。
ブルー: 分からないです。
いとう: その人が住人かどうかさえわからない、と。俺はその人のこと何にも知らないんだっていう、カフカ的な状況に置かれて。
ブルー: そうなんです(声、少し大)。そのカフカ的な状況がなかなか厳しいなって……。
いとう: ま、それが管理人の仕事だからカフカの問題ではないんだけれどね。で、それが何か月くらい続いたんですか?
ブルー: 半年です。
いとう: キツイですね。で、辞めた?
ブルー: 辞めました(笑)。

いとう: 前やってたラブホテルでの仕事の方が良かったかもしれないね、顔を覚えなくていいわけだから。
ブルー: まだ良かったですね。管理人は、ひとりで仕事できるところがいいなと思ったんです。でも近くに質問できる同僚とか社員さんとかがいない。分からないことは電話をすると教えてくれるんだけれど、初めてだからよく分からない。
いとう: よく分からないまま電話も終わっちゃう。
ブルー: そう。
いとう: で、辞めちゃった。
ブルー: 辞めちゃった(笑)。

 

ブルー&スカイ・レトロスペクティブ

いとう: 去年『重要物語』をやって面白かったしお客様も来てくれた。「ブルーはこれからこういう風に活動をしていくんだな。良かったな」って気持ちでいたんです。それが急にすべてを投げうって。何があったの?
ブルー: マンションの管理人を投げうって。
いとう: そっちじゃないよ!管理人は投げうっていいんだよ。お芝居を投げうったのはどうして?
ブルー: 芝居が、書けないは書けないんです。
いとう: そっか。
ブルー: 新しいのはもう何年も。
いとう: それでも『重要物語』は書いたわけですよね?
ブルー: 書けないけど何とか書いた。そういう公演が続いていて。
いとう: 俺も書けない人間として、書けない苦しみは分かるんだ。なーんにも出てこない。書こうとしても書いてること自体が嫌になっちゃうっていうか、うんざりするっていうか。
ブルー: そうです。
いとう: (ポンと手を叩き)「そうか、辞めれば楽になるんだ」ってそこでブルーは気がついたんだ。
ブルー: フフッ。
いとう: なんで笑った?(笑)
ブルー: そういう気づき方ではなかったです。
いとう: ポンと手は打たなかった、と。
ブルー: はい。閃くようにではなかった。
いとう: ごめんごめん、芝居が違ったんだな。ト書きがないから分からなかったよ(笑)。でもとにかくキツかった、と。
ブルー: キツいなと思って。「何かやりませんか」みたいな話もなかったので。

いとう: そんな中、テアトロコントスペシャルとして『寸劇の館』の話がきた。ある意味、新作を丸ごと書かなくても成立する形を提案してもらえたわけだ。ゼロから何かを書くのとはちょっと違いますよね? 過去作の中の寸劇をある意味で編集するものだから。
ブルー: はい。
いとう: しかも過去作品の映像上映まで開催してくれる。
ブルー: (上映される過去作の)内容を覚えていなくて。面白ければいいなと思うんですけど。
いとう: 普通そういう時は、候補作を見返して『これはやめて、こっちに差し替えましょう』とか言ったりもするもんだがな(笑)。
ブルー: 頭だけ見ました。
いとう: お、見たんだ!
ブルー: ついこの間、稽古場で。
いとう: ついこの間じゃ差し替えに間に合わないよな(笑)。でも見たんだね。
ブルー: 面白かったです(笑顔)。
いとう: 面白かったんだ! 良かった、面白かったでしょう? みんなブルーの作品が見たいんだよ。だからプロデューサーが考えに考えて、(手をポンとたたき)「そうだ! 書かないんだったら過去作を上映したらいいんだ!」と。ここは、(手をポンとたたき)いいですか?
ブルー: はい(笑)。
いとう: 上映企画により、俄然『ブルー&スカイ・レトロスペクティブ』の意味合いが強まったわけよ。
ブルー: レトロス……
いとう: レトロスペクティブ。回顧。過去のものから現代のものまで、ブルーの活動をふり返って色々見られますよっていう。
ブルー: ああ!

いとう: 回顧展って、たいてい死んで偉くなってからやるけれどブルーは生きながらにしてそれをやる。ブルーを知っている人もまだ知らない人も、きっと皆「ブルー&スカイって何?」「作家特集を組まれるようなスゴい人なわけ?」と思うわけだ。分かってる?  そのありがたみ。
ブルー: わかってなかったかもしれない。
いとう: ……そうだよな。でも、すごいことなんだよ。

 

森をさまよい『寸劇の館』に迷い込む

いとう: フロム・ニューヨークは何をやるの? ネタバレになるかな?
ブルー: タイトルだけなら。「口止め料」と「前を洗う」。
いとう: あ、「前を洗う」って、下品なヤツだ。いや、下品は失礼だな。洗ってるんだもん。
ブルー: はい、下品を装って(笑)。
いとう: 稽古が大変でしょう。フロム・ニューヨークは芝居が緻密だもんね。
ブルー: 今の時点で3回ぐらい。
いとう: 意外と少ないな。全部で何回やるの?
ブルー: あと2回。
いとう: さすがだ(笑)。市川君も中村君もその中で役者として完璧にシリアスに演じるわけじゃん。ブルーは、テニスコートにも入るんだったね。稽古は?
ブルー: 始まったばかりです。
いとう: 何回やるの?
ブルー: 1回読み合わせをしました。昨日稽古して、今日で……。
いとう: もう終わりかよ! コントだから、そうか。
ブルー: 覚えられるかちょっと不安です。でも新鮮なんですよね。役者として人の書いたものに出るのは。なかなかない。

いとう: 初めてじゃない?
ブルー: 初めてです。笑いメインで、というのは。
いとう: 笑いメインじゃない場合はあった?
ブルー: 客演はあります。最後に客演したのはgood morning N°5っていう好きな劇団で。
いとう: それ以来の客演で、笑いのある作品としては今回が初。
ブルー: それも笑わせるヤツだったんですけれど。
いとう: なんなんだよ、こっちは見どころを引き出そうとしてんのに!(笑)
ブルー: 笑いの質が、ちょっと違います(笑)。
いとう: ああ、質が違うんだ。
いとう: 吉増さんとブルーの寸劇は、どんな感じになるんですか?
ブルー: 新しく作ったものを。
いとう: 新しく書いた!?
ブルー: 書きました。
いとう: おお! そして池谷さんは?
ブルー: 寸劇が4本あって、池谷さんは寸劇を見ているていで、寸劇の間は楽屋にいるんじゃないかと。
いとう: 見ている“てい”で楽屋にいる(笑)。新しすぎるね、池谷さんのあり方が。“てい”ってのは何なのよ。

ブルー: 池谷さんが森で迷って、『寸劇の館』に。
いとう: なるほど。迷い込んで寸劇が始まって、「なにこれ?」って後ずさりして舞台からハケるけれど、実際は楽屋に戻っていくだろうと。
ブルー: 実際は。
いとう: 実際はな。

ブルー: で、寸劇の館を出て村に帰る。
いとう: 村のシーンはあるんですか?
ブルー: あります。そこには全員でてきます。
いとう: なるほどね! 寸劇、寸劇、寸劇で、間で色々な役者が出たり入ったりするんですね?
ブルー: 間…?
いとう: ちがうの?(笑) 池谷さんは、寸劇の館で寸劇を見てるだけじゃないでしょ? 池谷さんは館に着いてすぐに帰っちゃうの?
ブルー: 『タイタニック』でいう生き残った人の……。
いとう: 生き残った人の視線か。で、池谷さんのシーンで、皆が出たり入ったりして絡むんだよね? そうじゃないの?
ブルー: 絡む、とは?
いとう: ちょっと待ってよ(笑)。池谷さんが森をさまよい、寸劇の館に迷い込んで、フロム・ニューヨークの訓睦くんと絡むシーンがあったり、テニスコートの神谷が出てきて吉増さんと絡むとかそうやって入り乱れるんじゃないの?

ブルー: そんなには入り乱れません。
いとう: 入り乱れないんだ。
ブルー: 『タイタニック』でいう頭のシーンと、最後の戻ってきてからのシーン。船じゃないところで皆が。
いとう: 二重構造みたいになって?
ブルー: そこまで二重構造でもないです。
いとう: ないんだ。じゃあ『タイタニック』で言うとどうなの?
ブルー: 船のところが全部。
いとう: なるほど……。まったくわからないな(笑)。
ブルー: あと…チ…カルの・…が。
いとう: なに?
ブルー: プチ・ミュージカルの要素があります。
いとう: 大きい声で、しかももっと早い段階で言えよ!
ブルー: 本当に、プチなので(笑)。

いとう: ブルーさんは好きだもんね。いきなり音楽がかかって踊るみたいなシーンを入れてくるもんね。俺だってやらされた。
ブルー: 昔せいこうさんに出演していただいた『レミゼラブ・ル』(2007年)。
いとう: あれは素晴らしい作品だった。
ブルー: その時に僕が曲を作ったじゃないですか。
いとう: 急に作ったんだよな。急に打ち込みを習って、ピコピコいうようなやつを。
ブルー: オーケストラの音を…
いとう: キーボードで出して。
ブルー: その曲なんですけど、歌詞をリメイクして。
いとう: 『レミゼラブ・ル』の時の曲を? もう完全にレトロスペクティブだよ! 『弁償するとき目が光る』(1999年初演)とか、あの時代のは入らないんですか? ちょっとでも引用すれば「今までのやつが全部入ってます」って打ち出せるじゃない。
ブルー: もう入ってるかもしれないです。でも忘れちゃってるんで、前に書いたの。

 

ブルー待望論から交渉へ

いとう: ブルーファンもブルーファンでない人にも、ブルーさんの世界が一気に見られるブルー祭りだ。
ブルー: 興味を持ってもらえたらいいですね。
いとう: みんなの期待で押し上げて、勝手にお神輿にのせて(笑)。
いとう: KERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)も喜ぶと思う。ふと会った時に俺たちが何の話をするか「ブルーはどうしているんですかね」「管理人みたいだけど」「そうらしいですね」「じゃ」って。そうやって僕らは君に時間を割いてきて。
ブルー: 新しくバイトを始めたら、SNSに上げてちゃんと伝わるようにします。
いとう: いや、バイトの話がしたいわけじゃないんだよ(笑)

いとう: 『寸劇の館』をやったら、また引っ込んじゃう可能性があるということですか?
ブルー: 今のところ次の公演の話はないので。
いとう: 話があればやりたいの?
ブルー: やりたいです。
いとう: ブルー待望論は常にあるわけですよ。
ブルー: はい。
いとう: 年に2回か3回、30分だけ与えられて15分で2本とか、30分1本とかならどう?渋谷のユーロライブってとこで、渋谷コントセンターのテアトロコントという企画を毎月やっているから。バイトの合間に浮かんだアイデアとかやりたいことをやってくださると。
ブルー: ユーロスペースとかユーロライブ、その館内とか周辺で。
いとう: うん。
ブルー: 何かバイトが見つかれば。
いとう: 別に近くなくていいよ。バイト中心じゃないか。
ブルー: ただ……技術がないじゃないですか。音響とか照明とか。そうじゃないもので働き口が。
いとう: バイトのね。
ブルー: どこの劇場でもいいんですけど。
いとう: もぎりとか?
ブルー: そうですね。
いとう: 劇場とか、映画館でも?
ブルー: はい。
いとう: 今はそういう方向に興味が行っているんだな。

いとう: バイトはどこでやっても良いと思うんだよ。電車でくればいいことだから。軽い気持ちで短編より短い小編ってやつを、年に2回30分ずつというのはどう? あのー、俺は今、出演の交渉をしてるんだよ?
ブルー: あ……交渉。
いとう: テアトロコントなら、ある意味で気が楽だよ。他の人も出るから自分でしょいこまなくていいんだもん。ブルー&スカイの新作が見られるならこっちはもう大喜びだ。ブルーにあんまり興味ない人も見るわけだけど、そりゃしょうがないよな。
ブルー: はい。テアトロコント、出させてもらったことあります。
いとう: 人のを見るのは、それはそれで面白いでしょ。
ブルー: はい。
いとう: ぜひやりましょうよ。その時には会場の名前も「寸劇の館」に替えるから(笑)。ブルーに頑張ってもらいたいと思ってるから。
ブルー: ありがとうございます。

 

このすごさが伝わればいい

いとう: まずは『寸劇の館』を成功させることだよな。この対談も動画で撮っておけば良かったな。ブルーのおかしさって言葉じゃ伝わらないでしょう? SNSで動画で発信とかもしたら?
ブルー: お客さんには来てほしいです。けど僕個人が注目されるのは……。
いとう: 嫌なんだ。
ブルー: 見られたくないんです。こういうところを。
いとう: でも舞台に出る時は見られていいんだよね。
ブルー: はい。それは。
いとう: 役者はやりたいんだもんね。とはいえ、お客さんに知ってもらうためにも『寸劇の館』について動画とかで語ったら?
ブルー: 何を語ればいいのかわからない、っていうのもありますね。
いとう: 『タイタニック』のこととかさ。「皆さんどうですか、『タイタニック』はお好きですか」って。好きなんでしょう?
ブルー: 『タイタニック』自体はそんなに。
いとう: !?
ブルー: みたことはあります。
いとう: 何だよ、オマージュでも何でもないのかよ!
ブルー: 何でもないです。
いとう: 本当になんなんだよ!(笑)

 

ブルー&スカイ「本番でやらない場面の稽古風景です。」

 

対談のあとの雑談

いとう: ブルーのおかしさは言語化がむずかしいんだよね。ブルーに最初に会ったのはいつだったろう。
ブルー: 初めてお会いしたのは『絶望居士のためのコント(2000年)』のパンフレット用の座談会。
いとう: KERAとブルーと俺と。
ブルー: あと別役実さん。
いとう: そうだ、華々しいデビューだった。すごいな! 別役さんと喋ったんだもんな。
ブルー: 座談会の記事、僕のところは全部「……(てんてんてん)」でした。
いとう: 喋ってないんだ(笑)。
ブルー: 喋れなかったです。

(イラスト:小出佳祐、宣伝美術:牧寿次郎)

いとう: あの時の芝居がとにかく面白くて、KERAと空飛ぶ雲の上団五郎一座(2002年)をやる時に「絶対ブルーを入れようよ」ってなって。コントと映像を組みあわせた構成にするために、素材として使える中国映画を買ってきて、映像の中で首がバーンて飛んだところから始まるコントをブルーに発注したんだけど、それが大傑作。子供を誘拐されたお母さんがオロオロする前で、刑事たちが「お子さんは絶対に我々が取り戻します。安心してください。だけど万が一のために、ちょっと練習をしといてください」って、白いのに包まれた首を出してくる。池谷さんがお母さん役で泣き崩れるんだけれど、刑事たちは「どうしたんですか、大丈夫ですか」って。
ブルー: 覚えてます。
いとう: ああいうの、またやらないの?
ブルー: 今できますかね。
いとう: たしかにな。あれを笑える時代じゃなくなったのかな。でも俺はブルーの良さが出ていて大傑作だと思った。残虐なシチュエーションかもしれないけれど、そこに悪意がないんだ。「ただ首で書けと言われたから」みたいな発想なの。大抵はついがんばって残虐なものを書いて「どうだ」ってなりがちなんです。特に小劇場は。でもブルーにはそれがない。傑作だった。あれからブルーの作品は、大体見るようになったんだもん。それから自分も『レミゼラブ・ル(2007)』やジョンソン&ジャクソンの『ニューレッスン(2018)』に出させてもらったりもして。僕にとってブルーは、いわば憧れの作・演出家なんですよ。
ブルー: いやいやいや……ありがとうございます。

(観音開きになっていて)

いとう: ブルーさんの人生も山あり谷ありで、今が浮上している時。鯨で言うと、ここでキャッチしとかないと、いつまた深海に潜るかわからない。
ブルー: 2月頭です。
いとう: 2月頭がどうしたの?
ブルー: 沈みます。
いとう: 決まっているの? また深海に?
ブルー: はい。
いとう: ……そうか(笑)。だから皆さん、この鯨を目撃しないでどうするんだって話ですよね。批評家の方々も見逃していたブルー&スカイを見ておけば、ナンセンスコメディの批評にずっと生きるじゃないですか。ブルー&スカイという存在がここにいるんだ! って分かるいい機会。出演も笑いの手練れが集まっている。好きな人たちばっかりで、「呼んでくれればよかったのに」って皆が羨ましかった。でも客席から見るのがやっぱり気楽で一番面白いんだろうな。


ブルー: 今度お願いします。出てください。
いとう: でも潜っちゃうんでしょ?
ブルー: 潜ります。でも。
いとう: じゃあ、またどうにか浮上してくださいよ。
ブルー: はい。あ、……あっ!
いとう: え? 何? 何?
ブルー: 今のところ、声小さかったかなって(ICレコーダーを気にかける)。
いとう: うん。ずっと小さかった。ずーーーっと小さかったよ(笑)。
ブルー: でも稽古の時は、僕めちゃくちゃ声がデカいんですよね。本当はデカくも出せるんです。
いとう: 役者の時は、張り切るもんね。その声の大きさがまたおかしいんだ。「このシーンでそんなに?」って皆が思いながらニコニコ見てる。いいキャラですよ。自信を持って。『寸劇の館』もがんばってください。
ブルー: はい。ありがとうございました。

取材・文・撮影/塚田史香