【連載】第9回「ボクには下校のチャイムが聞こえない」

2018.09.25

「ゴジゲン」の目次立樹(メツギリッキ)です。
やってきました「ボクには下校のチャイムが聞こえない」!!

前回は主宰・松居大悟との新境地を描きました。

今回は、劇団員の善雄善雄(よしおぜんゆう)との愛の交流を描きます。
なかなか下校できない大人たちに贈る、甘酸っぱくない、むしろ饐(す)えたテイストのコラム、スタートです!!

 

劇団員の善雄善雄とは10年来の友人だ。
ゴジゲンが今年で10周年なので、私の俳優人生はこいつ抜きには語れない。
性格は極めて温厚。
礼儀正しく、それでいてユーモアのセンスも持ち合わせている。
さらにゲーム王、料理王、撮影王などなど多くの肩書を持つ多才な彼は、一家庭に一人いると重宝されることうけあい。
顔も伊勢谷友介に似ていると専らの噂で、もはや女性に好かれる要素しか見当たらない。
しかし、彼には長らく彼女がいない。
そしてそれはおそらく彼を愛と名づけられた悪意によっていじる僕らゴジゲンメンバーの責任であろう。

 

そんな彼からある日こんなLINEのメッセージが届いた。
どうしたんだ、よしおぉぉぉぉぉ!?

かつてこんなしおらしいよしおがあったろうか?
あったとしたら、あいつが髄膜炎で緊急搬送され、生死の境をさまよい、枕元に立つ白い人影を見た、あの時以来だろう。
これはよっぽどのことだぞっ!
私はすぐさま電話をかけた。

「よしお、大丈夫か!?」

すると受話器から、今にも消え入りそうな彼の声が聞こえてきた。

「目次すまん…。おつかいを頼みたいんだが…?」

「よしお、皆まで言うな。おとなしく待ってろ」

私はすぐさま用事をキャンセルし、彼の住むマンションへと急いだ。

 

読者の皆さんは、彼みたいな状況で誰に助けを求めるだろうか。
あなたが男なら女性の手厚い看病を受けたい、そう思うはず。
白くか細い手でぎゅっと何かを絞る彼女、滴る水音、そして優しいねぎらいの言葉とともそっと額に乗せられるひんやり冷たいタオル…

「もうがんばりすぎだよぉ…。体のことも考えてあげて」

心底弱った体と心にしみわたる温かさ。
良薬。
そう、女性の心のこもった看病こそが何よりの薬。
しかし彼は、白くか細い手ではなく、私の褐色のいかつい手を選んだ。
一縷すら滴ることをゆるされないほど固く絞られたタオルとよく通るバリトンボイスを。

そうか、よしお…おまえにはそんな女性もいないのか。(おそらくおれらのせいで…)

私とてこんなに無防備に腹を見せられるのは悪い気はしない。
他を頼みにせず、どんなドツボにハマろうがひたすらに孤独を好みに生きてきた私はこういうアプローチに弱い。
そしていつか自分も、人知れず鍛え上げた孤高の腹直筋を惜しげもなく他人に預けてみたい、そのぐらい他人のテリトリーに裸の自分を晒してみたい、そんな願望を自らの内に確認した。

 

私は彼のマンションの階段を全速力で駆け上り、部屋に飛び込んだ。
そこには魂の抜けた彼の容れ物があった。

「よしお!生きてるかっっっ!?」

彼の容れ物はコクリとうなづいた。

「よかった…。よしお生きてた…。」

そして彼は弱々しく体温計を取り出すと、その数値をなんとも言えぬぎこちない笑顔で私に示した。

40.2度だった。

「よしおぉぉぉぉぉっ!!!」

そして彼は控えめにねだった。

「目次、すまん…おかゆを買ってきてもらえるか?」

気付いたら私は部屋のドアを蹴破って外に飛び出していた。
そして全速力で自然食品のお店へと駆け出した。
今の奴は胃が弱っている。
しかし、滋養をつけるなら玄米。
無農薬ならなおよし。
まかせろよしお。
おれはこういうことにかけてはゴジゲンの中でも右に出る者はいない。
無農薬で玄米のおかゆ、これであいつの笑顔が見られる。
「よしお」の一言でこんなにも強くなれる自分がいた。

 

私は再び彼の部屋のドアを開いた。

「よしお、買ってきたぞ!」
「ありがとう…目次」

よかった、よしおまだ生きてた。
私はほっと胸を撫で下ろした。

「今食べるか?今食べるんだったらレンジで温めるが…いやレンジはよくない。鍋に出してー」
「目次すまん…」
「ん?どうした?」
「フルーツとゼリーを買ってきてもらえるか?」
「お…おう。おやすい御用だぜっ!」

私は今度は丁寧に部屋のドアを開けて外に出た。
そして、今度は普通のスーパーマーケットへと足を向けた。
わりとふつうの速度で。
なぜさっきまとめて言ってくれなかったのだろう…。
そんなことを思うほど俺のケツの穴は小さくない。
なんせおれは「よしお」の一言で強くなれる男だからだ。

「よしお、買ってきたぞ!」
「ありがとう…目次」

よかった、よしおけっこう生きてるわ。
私は再び胸を撫で下ろした。

「これ冷蔵庫いれとくぞ?すぐ食べれるようにフルーツはバナナとカットパインにしといたぞ。ゼリーは桃とみかんとー」

冷蔵庫に食材を詰め込む私の背中に、弱々しいよしおの声がかかった。

「目次…すまん。」
「ん?善雄どうした?もしかして次は、高級フレンチが食べたいなんて言うんじゃないだろうな、ハハハ。」
「いや違うんだ、TSUTAYAに漫画を返してきて欲しいんだ。」

そうして渡されたTSUTAYAのバッグの中には大量のエロ漫画が入っていた。
彼に彼女がいない理由がわかった気がした。

 

ゴジゲン新作公演「君が君で君で君を君を君を」チケット発売中!
東京公演は2018年10月3日~14日@下北沢駅前劇場、福岡公演は10月19日~21日@北九州芸術劇場で上演します!
アフターイベントも盛りだくさん!
京都では上映会とイベントを開催!
今年の夏に「君が君で君を」というタイトルで映画化した、今一番ホットな今作品をお見のがしなく!

 

おわり

 

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