PARCO PRODUCE 2024『オーランド』ウエンツ瑛士インタビュー

演出・栗山民也と主演・宮沢りえが初めてタッグを組む舞台「オーランド」。一夜にして女性に変貌し、時代を飛び越えて愛を求める青年貴族オーランドの姿を描いたヴァージニア・ウルフの傑作小説を、栗山の原案を基に岩切正一郎が戯曲化。共演には、ウエンツ瑛士、河内大和、谷田歩、山崎一が名を連ね、オーランドが出会う様々な人物を4人で演じ分けていくという。本作に挑むウエンツは、どのような想いを胸に作品に飛び込んでいくのか。話を聞いた。


――まずはご出演にあたり、率直なお気持ちをお聞かせください。

最初にお話しを頂いた時、恥ずかしながらこの小説のことをよく知らなかったんです。ただ、栗山民也さんをはじめ、素晴らしい方々と一緒にやらせていただけるということで、絶対にやりたいと思いました。


――物語に触れたときの印象はいかがでしたか。

ファンタジーの部分はあるんですが、完全にファンタジーとも捉えられないような現代にも通じるような言葉や、自分の固定観念に引っ掛かるようなところがたくさんありました。ファンタジーと、そうじゃない部分を行き来するような作品というのが最初に読んだ時の印象です。今って、当たり前のことがいろいろと見直されているタイミングだと思うんですよね。良くも悪くも「本当はこう思っていた」というようなことを、ネットでも書きこめるような時代になってきています。いろんな価値観において、昔から時代を経て良くなっているという認識ではいるんですけど、そこからさらにもう1段階あるんだな、というのをここ数年は感じています。だからこそ、物語の中の一つ一つに引っかかるところがあるんじゃないかと思いました。


――出演の決め手は栗山さんだったとのことですが、栗山さんにどんなことを期待していますか。

僕が仲良くさせてもらっている友達とか、栗山さんの作品を経験している人から、本当に勉強になったとか、新しいステージに行けたっていう話をたくさん聞いていて、羨ましく思っていたんです。でも当然、怖いな、っていう気持ちもあります。現場に行けば勝手に新しいステージに行けるわけでもなく、そこでの努力は当然に必要でしょうし、さらけ出して何かを得るんだと思います。自動的に得られるものではないことは自覚しているので、リスク…ではないんですけど、リスクとリターンのように、しっかりチャレンジしていきたいと思ってます。


――栗山さんの演出する作品の印象は?

作品はたくさん観ています。小池徹平や柿澤勇人が出ていた「デスノート THE MUSICAL」とか。漫画原作なので、そのイメージもありながら、持っているメッセージ性の伝え方や、音楽の使い方は真に迫るものがありましたし、英国に輸出されるようなコンテンツになったのは栗山さんの演出の力もすごく大きいと思っています。作品の持つメッセージをすごく丁寧に届けてもらえる方だなという印象が、そのころからありますね。最近だと、山西惇さんが出ていた「木の上の軍隊」もめちゃくちゃ面白かったですね。


――主演は宮沢りえさんですが、お芝居での共演は初めてですよね。どのような印象ですか。

お芝居の現場ではまだちゃんとお会いしていないんですけど、人としての分厚さを感じますよね。バラエティでは以前に共演したんですが、もう緊張しすぎてそんなに覚えていなくて。板の上での立ち振る舞いに、これまでに生きてきた道というか、積み重ねてきたものが絶対に出てくると思うので、勉強させていただきたいと思ってます。それも技術的にというよりは、どういう日々を重ねてきたのか、というその瞬間瞬間の部分ですよね。出演された舞台作品をいくつか拝見させていただいているんですけど、やっぱり存在感がすごいんです。りえさんが出てきたときの客席の熱の上がり方というか。そのパワーを、僕自身も観たいと思ってしまっています。


――他の共演の方々の印象も聞かせてください。

みなさん、ほとんどが初対面なんです。僕以外はそれぞれに共演経験があるそうなので、だからかなかなか話せないな、と(笑)。でも、そういう時に台本ってありがたいんですよ。必然的に話しかけられるじゃないですか。動きとして、触ることもきっとできる。でも、ウエンツ瑛士個人として行くとなると、急に話しかけられなくなっちゃうので(笑)、台本の力を借りたいと思います。


――作中では複数のいろいろな役を演じることになりそうですね。

正直なところ、どこまで何をやるのかもまだわかっていないんです。とにかく、いろんな形で舞台に立たせてもらうことになると思います。当然、僕もジェンダーが変わることになるんじゃないかな。そこについても、きっと昔だったら、ジェンダーが変わるんだからこんなふうに演じなきゃ、という意識があったかもしれません。でも、僕自身の考えとしても、多分今の時代としても、いろんな性を持っていらっしゃる方がいる中で、こうしなきゃ、を超えて幅広く演じられるんじゃないかと思っています。栗山さんの演出があってのことではありますが、人として、それぞれの役の時に出した言葉がお客さんにどう受け取ってもらえるのか。そこは正直、楽しみです。


――留学経験は作品にどのように活かされそうでしょうか。

どうなんでしょう。全く分からないかも(笑)。自由さという意味では、やっぱり日本人に比べると圧倒的に自由に生きている人が多いですよね。周りの目とかも気にしない。それのどちらがいいか、という話ではないんですけど、羽を広げていた時の自分は忘れずに、向き合っていきたいと思います。こういう形がいいんだろう、と自分で決めず、上下左右になぜそんなに動くのかと怒られるくらいの覚悟で、動いていきたいですね。


――留学を経て、どこが一番変化したと思いますか?

周囲の見る目が変わったって言うことが一番大きい変化ですね。僕自身は、そんなに変わっていないんですよ。バラエティの現場に行けば「お前、なんで出てんの?」ってイジられるんですけど、それも、芝居で留学した、っていう前提があるからで、僕がイギリスに行ったことや、芝居をやりたいっていうことを認識してくれているんですよね。だから、周りが勝手に変わってくれてありがたいんです(笑)。留学自体は大変でしたけど、あれから3年くらいは経って、いろいろ経験して染みついた部分もあれば、忘れている部分もあります。でも、稽古などでふとした時に思い出すこともあって。あの時に決断した自分を、ポジティブに振り返ることができています。


――振り返ってみて、どんなことが今につながる力になっていますか。

今、真っ先に思ったのは、究極そこに居ればいいと思えるようになったことかな。こうでなきゃいけない、こうであるべきだ、もっと伸ばさなきゃいけない、っていろいろ考えていたし、行く前も、帰ってきてからもそれはあるんです。でも留学していて一番言われたのは「そのままで、そこにいてくれたら十分なのに」でした。5年後、10年後にこうなりたいっていう目標は大事だけど、君は4歳からやってきたんでしょ? それをもっと自分の中に落とし込んで、そのままで居るだけで、自分にどれだけのエネルギーがあるのかを自覚しなさい、って言われたんです。日本では、そんな言葉は誰もかけてくれません(笑)。時代的にも移り変わりが激しいし、若い人が出てきたとか、トレンドがどうとかあるけれど、あなたはもう、そんなところからは離れているでしょう?ってね。ただ立っているだけでも何かを伝えられると、自分自身を信じられること。それが、向こうで得られたものの1つかも知れません。


――最後に、公演を楽しみにしている人にメッセージをお願いします。

この作品での男女の移り変わりもそうですし、時代をも超えるというのを見たときに、僕は逆に、本当に自分の好きに生きようと思えました。いろんなことを飛び越えてしまっても、結構感じることは似ていて、そこに大きな差はあまりないんですよね。別の人生だったらとか、この選択をしていたら、とか、たまに考えることってあるじゃないですか。でも意外とそんなに考えなくてもいいんです。そう思うと、ちょっと心が軽くなる。”何も考えない”ことって、あまり良しとされていない時代もあります。でも、何も考えない方が、ちゃんと人に対してまっすぐ正直に接することができるんじゃないか。そのままの”あなた”でいることが大切で、贅肉のようにいろいろと装飾する必要はないんじゃないか、というのが最初に読んだ時の印象でした。この物語が、音楽も入ってこの5人でやった時に、どう受け止められるのか、すごく楽しみですし、みなさんの感想を早く聴きたいです。周りの友達とか、昔から知っている人たちと見て、いろいろ話してみてほしいですね。きっと、それぞれに思うことが違う作品になっているんじゃないかと思います。

 

インタビュー・文/宮崎新之