日常へのニッチな眼差しと鋭い違和感を武器に独特の会話劇を生み出す画餅と怒涛のボケ数と高純度な物語の二刀流で攻める東京にこにこちゃん。「笑い」へのこだわりが込められたいずれもの作品はこれまでも多くの観客を魅了してきた。それぞれの主宰である神谷圭介と萩田頌豊与、そんな二人の交点には、昨年急逝した劇作家・鎌田順也率いるナカゴーの存在がある。その立ち上げメンバーの一人であり、双方の新作に出演する俳優・高畑遊を交えて、画餅と東京にこにこちゃんの見どころからナカゴーの演劇と鎌田順也の劇作が与えた影響までをボーダレスに語ってもらった。
東京にこにこちゃんは新作を、
画餅はナカゴー作品を上演へ
――9、10月とそれぞれ新たな公演を控えていますね
神谷 頌豊与くん、緊張してる?めっちゃ居心地悪そうだけど。
萩田 綺麗なオフィスに来るとどう振舞っていいかわからなくてこうなるんですよ。でも、前回も綺麗なオフィスにインタビューを受けにきた時にタイトルが決まったんです。というわけで東京にこにこちゃんの新作タイトルは『RTA・インマイ・ラヴァー』です。なるべくみんなが手をつけていないものを題材にしたい、という気持ちがあって、今回はリアルタイムアタック=RTAというゲームを題材にした純愛劇になる予定です。
高畑 RTAっていうのはどういうゲームなんですか?
萩田 「とにかく誰よりも早くゴールする」というスピードを競う競技なのですが、その構造を物語に落とし込んで、“ある男の人生のRTA”を描こうと思っています。最速である場所にまで行かなくてはいけない目的や最速でその子と恋をしなくてはならない理由を物語に据えていけたらと…。
神谷 へえ〜!じゃあ、笑いとしてもそのスピードの構造を使っていくということ?
萩田 RTAってバグを使ってボス面や裏面に飛べたりするんですよ。そういうバグも何かしらの笑いに変えられたらと思っています。
高畑 ってことは、私もバグ役になるかもしれない?
神谷・萩田 あはははは!
萩田 高畑さんには前作で物語にがっつり組み込んだ役をやっていただいたのですが、今回は思う存分ボケ倒してもらえたらなと思っています!他にも過去にナカゴーに出ていらした野上篤史さん、藤本美也子さんも初めて出て下さるのでドキドキしています。
――新反応が楽しみですね。画餅はまさにナカゴー作品を上演するのだとか!
高畑 ナカゴー主宰の鎌田(順也)くんが生きている時から、「交ざる機会があったらいいね」という話はしていたんですよ。
神谷 鎌田くんは劇作家として高い評価を得ていたし、多くの人がナカゴーの影響を受けていたので、それゆえにやりたい人がいても手を出しづらそうだなと思ったりもしていました。メンバーみなさんの気持ちを想像しつつ、高畑さんと色々話す内にやれたらいいねという風になって…。
高畑 それこそ団員も鎌田くんから多くの影響を受けていたので、神谷さんからお声がけいただいて希望をもらったような気持ちでした。鎌田くんの築いたナカゴー作品を絶やさないでいてもらえるのはありがたいです。
神谷 僕自身も自分で書いた作品ではないものに挑戦したい気持ちもあったので、それが鎌田くんの作品であるならこんなに嬉しいことはないです。ファンの方がどう思うのかな、というプレッシャーもなくはないのですが。
高畑 大丈夫です。鎌田くんは「ナカゴーにファンはいない、いても30人くらい」と言っていたから!(笑)
かつてナカゴーは映像創作集団だった?!
それぞれのナカゴー観とその歴史
――高畑さんは画餅と東京にこにこちゃんの過去作品にも出演されていますが、神谷さんと萩田さんお二人の面識は?
神谷 初めて会ったのは、それこそナカゴーの公演を観に行った時でしたよね。
萩田 そうです。『ていで』を桃尻犬の野田(慈伸)さんと観に行って、その時に野田さんが紹介してくれたんですよ。
神谷 東京にこにこちゃんの前作『ネバーエンディング・コミックス』のアフタートークにも呼んでもらったり、『画餅の市』ってイベントに来てくれたり、観劇後に飲みに行ったり。その後も何かと交流はありましたよね。
萩田 でも、思えば、こんな風に互いの演劇や笑いについての話ってしたことなかったかも。
神谷 そうだね。ちなみに、頌豊与くんはナカゴーには影響受けてるの?
萩田 笑いの下地に関してはナカゴーにしか受けていないと言っても過言じゃないです。最初に観たのは『牛泥棒』。知り合いもツテもない中で観に行ったのですが、立てなくなってしまうくらい笑いました。あの衝撃は忘れられません。
神谷 僕ももちろん好きだけど、自分の作品がその影響にあるかと言われたら違うかも。「自分にはできない演劇」なんですよね。でも、こんな感じで笑わせたいのかな、っていう目論見の品みたいなものは似ているかも、と勝手に思ったりはしていました。東葛スポーツとナカゴーとテニスコートで一緒にいとうせいこうフェスに出たりしていたので、謎の同期感もありました。他の演劇とは全く種類が違う、演劇の真ん中にいない団体としてのシンパシーみたいなものを感じていたというか…。
萩田 真似できないですよね。あの間の取り方や言葉のぶっ込み方、例えば、カオマンガイという食べ物一本で10分引っ張るとか。ああいうことやりたいとは思うのですが真似はしません(笑)。黒子で出ちゃうとか、ネタバレしちゃうとか、そういう表面的なことはトレースしようと思えばできるんですけど、そこまではしないようにしています。
神谷 そりゃそうだよね。影響がありながらも、頌豊与くんなりのDNAの組み替え方があるんだなって腑に落ちました。
――ナカゴーのメンバーであり、画餅・東京にこにこちゃんにも出演をしている高畑さんはそれぞれどんな印象をお持ちですか?
高畑 画餅に出演した時はナカゴーに出ている時にやっているような感じではなかったけど、そんな自分をみんなが「面白い」って言ってくれたことがうれしくて、すごく感動しました。東京にこにこちゃんは観たことがなかったけど「劇団地蔵中毒と仲いいからきっといい団体だろう」と思って引き受けたんですよ。「友達の友達は友達!」みたいな感覚でしたけど、その直感は当たっていました。いつも真剣ないい現場です。
萩田 それこそ高畑さんとのファーストコンタクトがまさに地蔵中毒の公演だったんですよね。僕は当日スタッフに入っていたのですが、その時に「お釣りが足りなくなった!」と大騒ぎして楽屋に駆け込んで「ちゃんと覚えておくので1000円貸して下さい!」って助けを求め、その時にバッとお札を渡してくれたのが高畑さんでした。
神谷 本番前の役者に借りに行くんだからよっぽどパニックだったんだろうね(笑)。
高畑 そうだった!ザ・スズナリで上演した『『母さんが夜なべをしてJavaScript組んでくれた』の時でしたね。
萩田 ナカゴーも観ていたし高畑さんのことはずっと大好きだったから、こんな出会い方は本当に嫌だったんですけど…(笑)。でも、その後『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!』に出演いただいて、以降、東京にこにこちゃんのいつメンになっていただき、夢みたいです。
神谷 今思うと、僕も地蔵中毒のコント菩薩で高畑さんと共演してから結構色々話すようになった気がします。ナカゴーもだけど、意外と地蔵中毒も接点に絡んでいるんですね。でも、頌豊与くんがスタッフをやっていたのは知らなかった。身長的に気付きそうなもんだけど…。天井とか当たらない?
萩田 他の団体の手伝いでもオペやったりしていたんですけど、192cmなので当たる天井や壁も普通にありますね。
高畑 鎌田くんもオペや当日運営やってたんですよ!超初期の頃には出演もしていました。頌豊与くんは出演したことはないんだっけ?
萩田 一番最初だけ出ましたけど、一言だけ言ってはけました。この大きさの僕がいっぱい出てきたらいよいよ邪魔なので(笑)。
神谷 それは、そのシーンで出る人が他にいないから自分でやるかって感じで出たんですか?
萩田 いや、自分で書いて出演することに憧れていたんです。だから、神谷さんは本当にすごいなって思います。ちゃんとご自身の使い方もわかっていて面白いし、最高だなって。
神谷 それで言うと、僕は「自分が書いて、自分が出て、自分で笑いをとる」っていう座長芝居みたいなことには抵抗があったんですよ。自分でおいしいところに当てていけるんだから、当然一番有利なわけじゃないですか。だから、そういう出方をしないようには気をつけています。
萩田 そうですよね、自分が笑いをとるセリフを自分で書けるわけですからね。でも、その塩梅や間を一番発揮できるのが自分で、そこで確実な笑いが取れるんだったら「絶対出た方がいい」とも僕は思うんです。神谷さんはそれが出来るからすごい。僕は出ないですけど(笑)。
神谷 元々出る側だったし、今も俳優として客演させてもらうこともあるから、その辺の違いもあるかもしれないですね。でも、画餅ではあくまでも掛け合いが良くなるようにとか、俳優さんそれぞれの個性が立つ塩梅でとか、役割としての調整に労力を使っています。ホスト側でいなくてはと思うのですが、そうなると今度はどんどん出番がなくなっていくので、そのウエイトを他の人に少し任せつつ関係を作れることが大事で、座組のみんなには毎回すごく助けられています。
萩田 鎌田さんはどういうスタンスで出演するのをやめられたんですかね?
高畑 鎌田くんの場合は物理的に手が空かない、体が足りないで出なくなったんですよ。音響・照明・当日運営を全部自分でやっていたから。
神谷 すごすぎますよね…。でも、僕、ジョンソン&ジャクソンの公演に俳優として出演している鎌田くんを観たことがあるんですけど、めちゃくちゃ面白かったです。
高畑 そうなんです!ナカゴーって、初期は口立てで作っていたんですよ。だから稽古でも鎌田くんが動きや口調をやって見せてくれるんですけど、それが全部面白くて上手で…。「もうお前が一人でやれよ!」ってみんなでなっちゃうくらいの面白さでした。
神谷 でも、そんな鎌田くんの口立てを最終的にはみんなが再現できるようになるってことですよね。
高畑 そう。最初は本当ロボット芝居のごとく言われた通りやって、そこから徐々にそれぞれの個性が出ていくような感じで…。
神谷 それがまたすごいですよね。
高畑 でも、それは初期の頃で、劇場でやるようになってからは本を書くようになりましたけどね。元を辿れば、鎌田くんは演劇というより映像がスタートだったんです。ナカゴーも最初はショートフィルムみたいなのを撮る集団だったんですよ。鎌田くんが古い映画がすごく好きで…。
萩田 ナカゴーに歴史あり、ですね。
高畑 無駄なこともいっぱいやってきましたけど、その全てから影響を受けてきましたね。
いなくなってから「聞いておいたらよかった」って思うことが本当にたくさんあって。でも、生きていても話してくれないかもしれないし、それこそ鎌田くんも招いてこんなインタビューは実現できなかったかも。そういう場が苦手でしたから。
ナカゴー、画餅、東京にこにこちゃん
似ていないけど、通じているもの
――そんな中で九龍ジョーさん編集の『Didion03』での碇雪恵さんによる「繊細に裏切って」は鎌田さんの素顔が垣間見える貴重なインタビューでした。多くの人に影響を与えた鎌田さんですが、神谷さん、萩田さんは同じ劇作家としてそのどんなところに個性を感じますか?
神谷 いつかスズナリでやって、その後には本多を目指して…って演劇すごろく的なことをかつてはみんながやっていたけれど、いつからかそういう動きが弱まったんですよ。「面白ければどこでもいい」と。鎌田くんはそのスタンスの流れの突端で最たるところだと思っています。だって、北からこっちには来ないんだから!(笑)。
高畑 たしかにずっと北区でしたね。
神谷 その代わり、そっちにちゃんと人を集める。「なんちゅうストロングスタイルなんだ!」と思っていました。東葛スポーツとかもそうですけど、演劇っていう文化のそれまでの流れに乗っからずに面白いことをやっている人たちっていう印象があって、僕もできればそういうことをしたいです。ただ、そういう人たちって強烈な印象や影響を与えているとは思うけど、それが後世にとってどう出るのかまではまだわからない。「鎌田くんだからできた」というところがとても大きいとも思うから。
萩田 僕は鎌田さんの人間性もまるで知らないし、一方的に好きなだけだったので人となりは語れないんです。でも、ナカゴーの作品は「笑い」を完全な軸としていて、物語ではなく笑いで一点突破していくって、やっぱり凄まじい体験だったんですよね。それを60分飽きさせずに貫くかっこよさ。僕はナカゴーの、鎌田さんの「笑い」に完全に憧れて続けていますし、以降の人たちの笑いにも影響を与えていると思います。
神谷 それだけ「笑い」に惹かれているのに、お笑いではなく演劇の道を選んだのは何か理由があったんですか?
萩田 ピクサーやディズニーとかの物語からの影響が同じくらい重かったんです。一方で「笑いと物語は一緒には生存できない」って思っていました。だからこそ、その二つを生存させるにはどうしたらいいんだろう、といつも思いながら演劇を作っていますね。
神谷 勝手なイメージだけど、鎌田くんは演劇をやっているというより、演劇で行うことのパロディ性がすごく強くて、それによって「笑い」を作っているような気がします。笑いの作り方のカウンター力がめちゃくちゃ強いんですよね。
高畑 画餅と東京にこにこちゃん、そしてナカゴーも「笑い」のテイストはそれぞれ違うけど、祭そのものではなく祭の後を描いているところというか、光を当てる視点には通じるものがあると思います。ナカゴーも含めてそこに独自の品を持っている作品に私自身もすごく惹かれるんですよね。
――なるほど!そう言われると、画餅の会話劇のニッチな視点や東京にこにこちゃんのキャラクターの哀愁にも通じる話な気がします。
高畑 そう、哀愁なんですよね。事件は起きても起きなくてもよくて、描きたいのはそこじゃなくその後だと。片手をあげて「おー!」って言って終わる演劇もあるけど、そうじゃない人、景色に様子にスポットを当てているんですよね。虚しさとか切なさとか、そういう哀愁をやっている。そこには通じる部分があるのではないかと思います。
神谷 たしかに、「おー!」って言ってなかった人にスポットを当てている感じはあります。普段焦点の当てられない場所や出来事を出したくてやっている。そんな気がしますね。
高畑 なんかね、東京にこにこちゃんと画餅はサザンと佐野元春って感じがする。いや、桑田と佐野って感じ。私は両方大好きですよ。
神谷・萩田 あははは!
萩田 このタイミングで最後に聞きたいんですけど、高畑さんが仰る通り、僕と神谷さんの笑いの組み立て方とかやり方ってほぼ真逆だと思うんです。好きですか?僕のこと。
高畑 直球!
神谷 好き嫌いとかではなく、東京にこにこちゃんも「自分はやらない演劇」なんですよ。「思い切ってぶっ込んでしっかり笑いをとる」っていうストロングスタイルじゃないですか。そこに気持ちよさがあるのだろうなと思っています。
萩田 神谷さんが言語化してくれたら、そうなんだって思えてきますね。聞いてよかった…。
高畑 東京にこにこちゃんは思いついたことをどんどんその場でやるんですよね。自分のお芝居を見て稽古場でボケとかを足されると、やっぱり嬉しいですよ。思い浮かぶ「何か」が自分にあるんだな、と思えるというか。
神谷 前作『ネバーエンディング・コミックス』の高畑さんの先生役も新しかったし、好きでしたよ。笑いの旗を振ったまま、ドラマに引っ張り込めるって強い武器じゃないですか。画餅の『ホリディ』の予告編でも高畑さんの一言を使わせてもらっているんですけど、やっぱり痺れるんですよね。
萩田 痺れますよね。大好きです。
高畑 嬉しいです。私もですけど、今回東京にこにこちゃんに新たに出演する加藤美佐江さんは画餅の前作『ウィークエンド』に出演されていましたよね。そういう接点もある!
萩田 そうです、画餅はいつも最高に面白いから、いい役者さんを積極的にパクっていこうと思っています!
神谷 すごい、意図的に宣言してきた!
高畑 私もどちらも出ます!公演期間はかぶっていないので、どちらも是非お楽しみ下さい〜!
取材・文:丘田ミイ子