八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露『當る午歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』初日開幕レポート!

【昼の部】より 『鷺娘』八代目尾上菊五郎

冬晴れとなった12月1日(月)、京都・南座で松竹創業百三十周年 京の年中行事『當る午歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』が待望の初日を迎えた!今年は、尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎襲名披露、尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露の公演となり、例年にも増して華やかな公演となっている。
劇場正面を飾る古式ゆかしいまねき看板が来場者を出迎え、賑々しく、初日の幕が開いた。
初日の公演レポートを昼夜それぞれでお届けする。

昼の部レポート

『玉兎』尾上菊之助

昼の部の幕開けを飾ったのは『醍醐の花見』。ご当地・京都は醍醐寺で豊臣秀吉が催した一世一代の宴を題材とした演目。中村鴈治郎演じる豊臣秀吉、中村扇雀演じる北の政所をはじめとした一同が、桜を愛でながら次々に舞い踊る。歴史上の人物たちが居並び、満開の桜が咲き誇る舞台に、会場は華やかな雰囲気に包まれた。

続いては、味わい深い義太夫狂言の名作『一條大蔵譚』。吉岡鬼次郎を片岡愛之助、その妻・お京を中村壱太郎、常盤御前を中村七之助、一條大蔵卿を松本幸四郎が演じる。源氏の忠臣である鬼次郎夫婦は大蔵卿の館へと潜り込むと、遊興にふける常盤御前の姿を目にし、苦悩する。しかし、鬼次郎の忠義心を前にして、常盤御前はその本心を語り始め、続いて阿呆と思われていた大蔵卿の本性も明かされていく。竹本の三味線に乗って語る台詞術や、本性を顕す“ぶっかえり”など、時代物らしい見どころの連続に、会場全体が引き込まれた。

続いては、尾上菊之助の襲名披露狂言となる『玉兎』。大きな月の中から杵を携えて現れた兎は、「かちかち山」を題材に、狸や老爺、老婆など、さまざまな人物を踊り分ける。菊之助の可愛いらしい兎の踊り姿に、客席も和やかな雰囲気に包まれた。続く『鷺娘』は八代目尾上菊五郎の襲名披露狂言。一転して銀世界の厳かな雰囲気の中、白無垢姿で現れた菊五郎扮する鷺の精は、恋の苦楽を踊る。やがて激しい雪の中、恋の責め苦に苛まれ妄執を見せる姿に、会場全体が圧倒され、惜しみない拍手が送られた。

昼の部最後の演目は、近松門左衛門のドラマ性溢れる名作『平家女護島』より『俊寛』。片岡仁左衛門演じる俊寛は、絶海の孤島、鬼界ヶ島に流罪となった身。ある日、中村隼人演じる丹波少将成経と中村莟玉演じる海女・千鳥の結婚を祝っていると、都からの赦免船がやってくる。都に帰れると思い喜ぶ一同だったが、坂東彦三郎演じる瀬尾太郎兼康は、千鳥の乗船を拒否。俊寛は自らの代わりに千鳥を赦免船に乗せるよう訴え、瀬尾と決闘に。やがて俊寛が討ち勝つと、中村勘九郎演じる上使・丹左衛門尉基康は俊寛の心情を慮り、千鳥の乗船を許す。一人島に残ることを決意した俊寛は船を見送るものの、名残惜しさに悲痛な叫びをあげるのだった。象徴的な幕切れに会場は感動に包まれ、割れんばかりの拍手で幕を閉じた。

夜の部レポート

【夜の部】「口上」左より)歌六、愛之助、七之助、勘九郎、幸四郎、菊之助、八代目菊五郎、仁左衛門、鴈治郎、孝太郎、進之介、扇雀、梅玉

夜の部の幕開きは代表的な「曽我狂言」の一つ『寿曽我対面』。中村梅玉が工藤左衛門祐経、曽我十郎を片岡孝太郎、曽我五郎を片岡愛之助が勤める。血気盛んな五郎と一本芯の通った十郎、そして懐の深さをみせる工藤のやり取りや、歌舞伎の様式美にあふれた舞台に観客は引き込まれる。尾上菊之助演じる鬼王一子菊若丸が現れると客席からは大きな拍手が沸き起こり、祝祭劇に相応しいひと幕となった。
続いて、襲名ならではの一幕である『口上』。舞台上に裃姿の出演俳優が居並び、片岡仁左衛門からの紹介に引き続き、八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助からご来場者へご挨拶。

八代目尾上菊五郎「この度尾上菊五郎の名跡を八代目として襲名することに相成りましてございます。初代は京都・東山の生まれでございまして、清水寺の音羽の瀧にちなみ、音羽屋を名乗るようになりました。由緒ある南座の顔見世興行で、親子揃っての襲名披露が叶ったのも、皆さま方のおかげでございます。いずれも厚く厚く、御礼申し上げます。襲名のうえは、初代より大切にしてきた“伝統と革新”の精神を胸に精進してまいります。皆様のご指導ご鞭撻のほどを何卒お願い申し上げ奉ります」

尾上菊之助「ご当地初の御目見得でございます、尾上菊之助にございます。この度、祖父、父も名乗っておりました、菊五郎の家にとりまして大切な名跡となる菊之助を六代目として襲名することと相成りましてございます。みなさまへの感謝の気持ちとともに、立派な歌舞伎俳優になれるよう、より一層精進してまいります」

客席からは“音羽屋”の大向うが響きわたった。

続いて、八代目菊五郎の襲名披露狂言として上演する音羽屋ゆかりの演目『弁天娘女男白浪』。八代目菊五郎の弁天小僧菊之助に松本幸四郎の日本駄右衛門、片岡愛之助の忠信利平、中村勘九郎の南郷力丸、中村七之助の赤星十三郎と豪華な顔ぶれが揃う。菊之助の「知らざぁ言って聞かせやしょう」から始まる名台詞や、五人男の“ツラネ”といった名場面の数々に客席は大いに魅了された様子だった。
そして夜の部の掉尾を飾るのは、古風な振りを残す常磐津の舞踊『三人形』。坂東巳之助、中村壱太郎、中村隼人がそれぞれ奴、傾城、若衆を勤め、賑やかな廓のさまを描いていく。顔見世らしい華やかな舞台に万雷の拍手が送られ、観客は笑顔で劇場を後にした。

本年の吉例顔見世興行は12月25日(木)までの上演となる。師走の古都を彩る歌舞伎の祭典にご期待あれ!チケットは好評販売中。詳細は下記公演概要欄内「チケット情報はこちら」からご確認ください。
※12月17日(水)は休演