伝統芸能に親しんでいる方以外は、聞く機会が少ない邦楽囃子の魅力を大勢の人に伝えたい!
そんな想いを込めて、2010年、邦楽囃子演奏家の望月秀幸と望月左太寿郎が始めた邦楽囃子音楽ライブ『お囃子プロジェクト』が14回目を迎える。
太鼓の鋭い音、小鼓の低くて深い音色、大太鼓の稲妻のような激しい響き。すべての空気をひと吹きでで変えてしまう能管や、優しいハーモニーの竹笛。それらのお囃子が奏でる古典音楽の世界に酔いしれつつ、サックス、アコーディオン、ウッドベース、チューバ、ギター、韓国打楽器、ラテンパーカッションと、多種多様の素晴らしいプレーヤーをゲストに迎え、古典はもちろん、洋楽、ポップス、ジャズ、アジア、中東、演歌、民謡とジャンルを問わないさまざまな楽曲をお囃子アレンジで楽しめる異色かつ唯一無二の邦楽ライブ。
今年の元旦にNHK Eテレ「新春眼福! 花盛り~古典男子によるニッポン芸能いまのカタチ~」、今月半ばには同じくNHK Eテレ『にっぽんの芸能』への出演など、目下活躍の場をひろげている彼ら。古典芸能の魅力を新たな捉え方で、誰でも気軽に楽しんでいただける“お囃子エンターテイメント”として展開している二人に話を聞いた。
――『お囃子プロジェクト』を始めたきっかけは?
望月秀幸(以下秀幸)「『お囃子プロジェクト』を始めたきっかけは、歌舞伎でも演奏会でも2次的存在というか脇役みたいになりがちな「お囃子」を主役にしてできるイベントがないかなというのを2人で話して立ち上げたのがきっかけですね。それからお客様と向き合っていくうちにどんどん企画が出来上がっていったというもので、第1回からすると今では大分内容がちがうものになりました。」
望月左太寿郎(以下左太寿郎)「そうですね。第1回、2回に関しては大分手探りな部分が多くて共演者に助けられている部分がかなり多かったですね。」
秀幸「第1回でドラムとパーカッション二人編成のニトロン虎の巻(2011年にNITRONに改名)にゲストに来てもらって一緒にライブをやったんです。僕らは古典の世界でしか演奏したことがなかったんですけど、彼らはすごくお客様をのせて最後は全員スタンディングになるほど盛り上がって。それが一番衝撃的で、すごく悔しかったですね。」
左太寿郎「お客様も彼らのことを知らない人たちばかりだったんですけど、みんなの心をつかんでいくっていうパワーというか、それはすごいものを持っていらっしゃいましたよね。」
秀幸「そこで僕たち、お客様を喜ばせるっていうことをひとつもしてきていないから分からないねっていう話になって。」
左太寿郎「古典の演奏会というのはどうしてもお客様に向き合うというよりは、演奏者が自分たちと向き合うものを観てもらう、鑑賞してもらうという方向性が強いのでエンターテインメントの要素が少ないというか。それは別に悪いものではなくて、僕たちが追求していかなくてはいけないところなんですけど、それ以外に単純に楽しめたり、興味を持ってもらうための手段としては、こうした新しい企画というのは大事なんだと思います。」
――楽曲は何を予定されているのでしょう?
秀幸「多少変更する可能性がありますが「東京ラプソディ」、郷ひろみさんの「バイブレーション」などを予定しています。昭和60年代~80年代の名曲が多いんですけど、邦楽の音色に合いやすいですね。あとプロレスの曲は昔からいまもすごく良く合いますけど(笑)」
左太寿郎「昔から合いますけどって、昔からってどの昔からですか?(笑)」
秀幸「あと西城秀樹さんの「ギャランドゥ」はもちろん入れてますし。今回のためにオリジナル曲も作りました。尺八をメインとしたラテンの曲です。お囃子の演奏家が作るラテンの曲。寿司屋が作るラーメンみたいな感じのイメージですね(笑)」
――前回から変わる部分や、こうしていきたいというようなことはありますか?
秀幸「こうしたらもっと喜んでもらえるかなというような変化はありますが、テーマはあまり変わっていなくて単純に聞いてもらって面白いものをやります。たくさんの人が知っている曲を多く選曲したり。」
左太寿郎「そうですね。世代的なものもありますし。昭和歌謡ってみんながしっくりくるような曲が多いので年代問わずだと思いますけれど、特にお囃子プロジェクトに来てくださる年齢層の方には絶大な人気があると思います。」
秀幸「あと古典の曲も。僕らはこういうイベントをやりながら古典のものにも興味を持ってもらいたくて、いつも1曲古典だけのものをやるんですよ。昭和歌謡の中に紛れて1曲だけ古典をやるとやっぱり引き立つというか、そういう効果も使わなくてはいけないなというのは勉強になりました。」
――若いお客さんにも見てもらいたいというのはありますか?
左太寿郎「それは思いますね、もちろん。」
秀幸「開場から開演までの間の小鼓の体験コーナーも人気だよね。」
左太寿郎「前回(vol.13)から実施させていただいて、実際に触ってから公演を見ると感覚が変わるみたいで僕らとしてもありがたいですし、喜んでもらえるのかなぁと思いますね。」
――バンドメンバーはどういうメンバーなんですか?
秀幸「メンバーは最初ニトロン虎の巻とやらせていただいた後、ホーンセクションみたいな人たちにゲストできてもらって一緒にやったら面白いかなって思って、行きついたのがサックスの鈴木広志さんでした。彼からホーンセクションよりもサックスとアコーディオンとチューバの組み合わせの方がバランスがいいし、いろんなことができるから面白いって言ってもらって、そこから年に1回とかのペースでやっていたんですけど異なる編成でもやろうっていうことになって。」
左太寿郎「最初は鈴木さんに編成を決めてもらって、そのメンバーをベースにいろいろと入れ替えていった感じですかね。サックスの代わりに尺八とか、アコーディオンのかわりにギターを入れたりとかいろいろ試しながらこのメンバーになりました。」
秀幸「みんな『お囃子プロジェクト』のことを分かってメンバーを選んでくれるので対応できる人が多いよね?スコアも満足なものを作らないんですよ僕ら。最初作ったんですけど、スコアがあるとつまらないっていう感じになったんですよね。みんな自由にやりたいって。」
左太寿郎「この人たちは自分たちで作っていってくださる人なので、あんまり決められてても面白くないというか、彼らは専門家なのでその音に関してはその人たちに任せた方がっていうのがあって。」
――当日はやっぱりアドリブが入るんですか?
秀幸「入りますね。3回公演やると毎回ちがいます。」
――お囃子にアドリブもあるんですか?
秀幸「お囃子隊はアドリブでうつ楽器はあるよね?」
左太寿郎「たまにありますけど。ある程度決まったフレーズというか、パターンというかはあるんですけど、その中で自分の好きなように打っていたりします。『マスターオブ着到』の大太鼓なんかはほとんど決まっていないですね。」
秀幸「うん、大太鼓は決まっていない。完全アドリブ。」
左太寿郎「打つ人によって全然変わりますし。」
秀幸「サンバのフレーズ打つ人いるよね、たまに。着到で(笑)」
――今後のお囃子プロジェクトとしての目標は?
秀幸「海外だよね?」
左太寿郎「海外に行きたいっていうのも、日本の中だけでやっていると逆に国内にいる方は見ていただけなくて、海外で注目されたものは見たりっていうのがあったりして、そういう意味では一度海外に行ってっていうのは有りかなと思っていますね。」
秀幸「外国の人のアンケートを見てみたいですね。いつもアンケートに必ずダメなところを書いてくださいっていうんですよ。そこでどういうダメ出しを書くのかを見てみたくて。こういうのをやったらウチの国ではウケるよみたいな、どういう風に書くのかを見てみたい。」
――最終的には古典の世界に足を運んで欲しい?
秀幸「そうですね、古典に興味を持ってもらいたいっていうのはもちろん。それを大元でやってきていますから。」
左太寿郎「僕らそれが無くなったら大分方向性が変わっちゃうのかなと思いますし。」
秀幸「この会から古典に行ってみようかなって思っていただくのを目標にしようねっていうのが強くあったんですけど、いろんなジャンルをやっていくうちに僕らも楽しくなってしまって。そっちをお客様も求め出しちゃって、いかんぞっていうところもあります(笑)」
「お囃子プロジェクトvol.14 」は9月3日(火)、9月4日(水)、東京・ヤマハ銀座スタジオで開催。
取材・文・写真/ローチケ演劇部