新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX|尾上菊之助インタビュー

目指すのは再現ではなく〝融合〟

世紀の名作『ファイナルファンタジーX(以下FFX)』が新作歌舞伎となって甦る。企画は、自らも『FFX』の大ファンだという尾上菊之助。『風の谷のナウシカ』に続き、ポップカルチャーと歌舞伎のコラボレーションに挑む。

「今、古典と呼ばれる作品も、先人たちがその時代のお客様にどうすれば歌舞伎を届けられるかを考えて作り上げたもの。新作歌舞伎を作り続けることは、私にとって先人たちへの恩返しでもあるんです。だからこそ、常に題材を探しているのですが、『FFX』はまさに新作歌舞伎になり得る作品でした」


菊之助にとって、「新作歌舞伎になり得る作品」とはどういった要素を持ったものなのか。その答えに、日本人の心があった。
「仁義礼智信といった古来より日本人が大事にしてきた心が描かれているか。そして、キャラクターがどのような葛藤を抱えているか。この2点です。そういう意味でも『FFX』は2つの要素が盛り込まれている作品で、しかもメッセージ性が強い。1人がみんなのために、みんなが1人のために前進し、それぞれの葛藤を克服していく。その姿を、歌舞伎的な手法を取り入れながら描いていければ」


脚本は、『おちょやん』『家政夫のミタゾノ』の八津弘幸。人間の心の機微を繊細かつダイナミックに描く八津の劇作術に惚れ込み、菊之助自らラブコールを送った。
「八津さんには、ティーダとジェクト、ユウナとブラスカ、シーモアとジスカルという3組の親子の対比を深く掘り下げていただきました。三者三様の親子関係が『FFX』で描かれています。現代も親子の関係は様々。だからこそ、この多様な親子像にきっと共感していただけるのではないでしょうか」


会場は、IHIステージアラウンド東京。8メートルの巨大モニターにゲーム映像を投射するなど、デジタルテクノロジーを駆使した演出が盛り込まれる。
「私自身はアナログなものが好きなんです。江戸時代の人がこの『FFX』を作ったらどうなるんだろうと想像するとワクワクする。だけど、アナログにこだわりすぎることで、現代のお客様の想像を妨げてはいけない。お客様の想像がより豊かに広がっていくのであれば、デジタル技術も積極的に取り入れていきたいです」


今回はIHIステージアラウンド東京という、いつもの芝居小屋とは異なる空間だが、それも醍醐味にしたいと菊之助
は考えている。

「豊洲で1日過ごすにはどうしたらいいのか、いかに『FFX』の世界とのつながりを楽しみながら過ごしていだけるかを、制作チームとアイデアを練っているところです。ぜひ歌舞伎座では味わえないような1日を体験していただければ」


近年、ゲームや漫画を原作とした舞台公演は多い。だが、菊之助が目指すのは決して原作の再現ではない。
「歌舞伎役者は、子供のときからずっと舞台に立ち続け、様々な役を演じてきた経験値がある。幼い頃から培った経験値を活かし、歌舞伎役者が古典の手法で1場1場作り上げていけば、おのずと歌舞伎になる。だから、歌舞伎は古典の世界だけにとどまらず、大きな可能性があると信じています。日本人が大事にしている心を、歌舞伎と現代作品が融合することで、伝わりやすくなる。目指すのは、再現ではなく融合することで、より皆様の心に響く作品にすることです」


インタビュー・文/横川良明 
Photo/山口真由子

※構成/月刊ローチケ編集部 11月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

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【プロフィール】
尾上菊之助

■オノエ キクノスケ
’96年に五代目尾上菊之助を襲名。『風の谷のナウシカ』など新作歌舞伎にも意欲的に取り組む。主な出演作品は、『グランメゾン東京』・『カムカムエヴリバディ』、2023年1月にはNHK『探偵ロマンス』、映画『イチケイのカラス』に出演が決定している。