木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』製作発表会見レポート

2022年晩秋の某日、都内にて木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』の製作発表会見が行われた。広い会場には演劇や歌舞伎関連の記者だけでなく、ゲーム業界の関係者も多数出席しており、ジャンルを越えた注目度の高さを改めて感じさせられる。

登壇者は尾上菊之助、中村獅童、尾上松也、坂東彦三郎、中村梅枝、中村米吉、中村橋之助、上村吉太朗、そしてSQUARE ENIX取締役の北瀬佳範。まずは、この公演の企画を立ち上げ、演出も手掛けることになっている、主人公ティーダ役の菊之助による情熱のこもった挨拶から会見はスタートした。

尾上菊之助<ティーダ>

「『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』の製作が始まったのは2020年3月、コロナ禍の真っ最中でございました。毎月当たり前のようにあった歌舞伎公演がなくなり、先行きが見えない中で自分の「なんとかしたい」という気持ちをすくい上げてくれたのが、20年前に発売された『ファイナルファンタジーX』でした。この物語の登場人物たちの心は、初めはバラバラです。ところが物語が進むうちに心を通わせ合い、それぞれが持つ葛藤を乗り越えながら成長し、ひとりがみんなのために、みんながひとりのために、互いを思いやり合いながら“シン”という強大な敵に前向きな心で向かっていく、その決して諦めない姿勢はコロナ禍の、そして戦争が起きているこの世界に強いメッセージを届けられるのではないかと思い、新作歌舞伎として製作したいと思った次第です。この想いに、中村歌六さん、坂東彌十郎さん、中村錦之助さんを始め、今日ご同席いただいています中村獅童のお兄さん、そして同輩たちも賛同してくださいました。私自身が『ファイナルファンタジーⅩ』に救われたように、コロナ禍で大変な日本、そしてエンターテインメントの世界に少しでも元気を届けられればなと思っております」

この菊之助の挨拶を笑顔で聞いていた、原作となるゲーム『ファイナルファンタジーⅩ』のプロデューサーで、この舞台の監修を担当する株式会社SQUARE ENIX取締役の北瀬佳範も重ねてコメントを寄せた。

 

北瀬佳範

「尾上菊之助様からこの企画のお話を聞いた時、最初は驚きましたがとにかく非常にアツイ想いを語っていただいて。歌舞伎と、ある意味、芸術分野では最後発でもあるゲームとが融合することによってどのようなものが生まれるかという想いをお聞きするうち、非常に野心的で面白そうな企画だと思いましたので即決してお返事したのを覚えています。菊之助さんからは、実は直接ビデオレターをいただいたんです。しかもそれはYouTubeにアップされたビデオレターでしたので、よりビックリしました。そういう形でのオファーは、ゲーム業界でも受けたことがなかったのですが、話を聞いていると、しっかりとゲームをプレイしていることも伝わってきましたし、テーマやストーリーやキャラクターをしっかりと理解された上で「こういう形で表現したい」と提案してくださっていたので、この『ファイナルファンタジーⅩ』という作品を、今回は自分たちで作るのではなくて第三者に預けて再び蘇らせてもらうわけなんですけれども、預けることに不安も心配もまったく感じておりません。一観客として楽しませていただきたいと思い、ワクワクしています。みなさまも、ぜひ期待してお待ちいただきたいと思います」

 

続いて、この日登壇した出演者それぞれの主なコメントと配役は以下の通り。

中村獅童<アーロン>

「まだ緊急事態宣言が出ていた頃、菊之助さんからお電話をいただきまして。私自身も家にずっとこもっている最中で、これからの自分の生き方であったり、これからの歌舞伎界のことであったり、いろいろなことを考えている時に菊之助さんのアツイ気持ちを聞き、なんとかそれに応えられるようにと賛同させていただきました。演出出演の菊之助さんについていきつつ、一生懸命勤めさせていただきたいと思っています。菊之助さんと共演させていただくのは、実は約10年ぶりくらいなんです。なかなかご一緒する機会がなく、プライベートでもお会いすることがなかったので。だからビックリはしましたけど、声をかけていただいてとても嬉しかったですね。そのアツイ気持ちも、いろいろなことを菊之助さんも考えているんだなということがわかったことも嬉しかったですし。先日行われた衣裳合わせの時も菊之助さんが立ち合ってくださって、非常に楽しくやらせていただきました。お互いに意見を出しながら作っていき、衣裳に袖を通した時は本当にテンションが上がりました。今から上演がとても楽しみですし、なんにせよ新しいものを菊之助さんと作れる喜びが今は一番大きいです」

尾上松也<シーモア>

「私も菊之助のお兄さまから、この『ファイナルファンタジーⅩ』という作品を歌舞伎にしたいというお話を聞いた時は非常に驚きました。それと同時に、コロナ禍におきましても常に前に進もうとするお兄さんの姿勢にとても感動しました。なおかつ私にとりましては大先輩であります菊之助さんから直々にその想いを聞かせていただくということも、非常に嬉しく光栄でしたから、私も微力ながら力になれればということでお引き受けさせていただきまして。『ファイナルファンタジーⅩ』についてはまだいろいろと追究している最中ですが、お兄さんの演出のもと、みなさんに観たことのない歌舞伎体験をしていただけるようにしっかり勤めたいと思っています。演じる役については、正直、『ファイナルファンタジーⅩ』の存在は知ってはいましたけど、ちゃんと理解するまでには至っていなかったんですが、逆に知らないからこそ、そこから知る喜び、楽しみがありますね。そしてシーモアという役として、衣裳に袖を通した時には高揚感が湧き上がってきましたし、この役を演じることがリアルに想像できるようになりました。衣裳さんやかつらを作ってくださったみなさんと話をしていると「本番の舞台ではこうしたらいいんじゃないかな」と自然と想像することができましたし、知らず知らずのうちにどんどん舞台へのボルテージが上がってきているところです」

坂東彦三郎<キマリ>

「私ひとりだけ、登場人物の中では少し色の違う役柄を演じることになりますので、多少不安な部分もあるにはあるのですが、とても素晴らしい共演者が揃っていますので、その方々にも負けずに、菊之助さんの演出にも負けずに、この勢いのあるカンパニーのみなさんと一緒に僕自身もいろいろと考えながら勤めていきたいと思っています。僕は菊之助さんよりひとつ年上なんですが、生まれた時から、育った環境も、教わった教室も、教わった教科書もずっと一緒に過ごしてきたようなもの。ですから彼が新作歌舞伎を作ったり、お正月に国立劇場で上演している歌舞伎で復活狂言に取り組み再構築されていく姿はこれまでそばで見てきました。なので、オファーをいただいた時には『ファイナルファンタジーX』という作品に対しての想いというよりは、彼から誘われたことが嬉しくて、二つ返事というよりもひとつ返事のような状態で「はい、出ます」と言ったくらいです。さらに原作のゲームを知るみなさんにとっては、たぶんキマリのコスチュームはとても気になるポイントだと思うんですよね。先日の撮影では、菊之助さんはたぶん喜んでくれていたと思うんですが「再現度がとても高い」と言ってくださいました。ちなみに米吉さんと松也さんには写真を送ったんですけど、爆笑してくださいました(笑)。キマリとしてハマったのではないでしょうか。でも、その中にもちゃんと歌舞伎の要素はしっかりと入れてありますので、ここから稽古をして歌舞伎のキマリを作っていく中での第一歩としてはまずは大成功かなと思っています」

中村梅枝<ルールー>

「『ファイナルファンタジー』というこの大きなコンテンツの、ルールー役をいただき、大変光栄に思っております。世界中で愛されているゲームですから私自身少し怖くもありますが、ティーダとユウナの旅を少しでも支えていけるように、また原作に敬意を持ちつつ、演じさせていただきたいと思っています。私は、ふだん歌舞伎では菊之助のお兄さんと年間の半分以上はご一緒させていただいていまして、そんなお兄さんから新作歌舞伎のお誘いを受け、私自身も『ファイナルファンタジーX』はリアルタイムでやっておりましたので、非常にありがたいと思い、お受けさせていただきました。既に5周はやりこんでいる原作ファンとして、少しでもお力添えができればなと思っております。ルールーというのは非常に色気のある大人の女性で、お衣裳も色気がありながら、和服、着物の感じもちゃんと残っていて、見た瞬間にルールーだとわかるような衣裳に仕立てていただいているので、私としても非常に満足しております」

中村米吉<ユウナ>

「私が演じさせていただくユウナは、この作品においてまごうことなきヒロインでございまして、このゲームをプレイしながら、こんなにすごいヒロインの役を自分がやるのか、これは心して勤めなければいけないと思った次第でございます。お兄さん方に支えていただきながら守っていただきながら、しっかりとユウナとして舞台の上で立って、旅を続けていけるようにがんばりたいと思います。私も菊之助のお兄さんから直接お電話をいただいて、新しいものを作るのでぜひともご一緒したいと思っているというお話を伺ったのが第一報でございました。『風の谷のナウシカ』を新作歌舞伎でお作りになった初演の時もご一緒しておりましたので、お兄さんがそういった新しいものに意欲的に取り組まれる姿をすぐそばで拝見しておりましたから、今回またその機会をいただけるということは非常に嬉しかったです。そして何より菊之助のお兄さんのティーダと、私のユウナというのは、どこか淡い恋心を抱きながら共に旅をするのですが、恋をしている仲の男女としての共演ということはこれまでもあまりなかったので、そこはちょっと楽しみな部分でもあります。さらにご存知の方も多いかと思いますが、ユウナの衣裳としては上半身は肌を露出しておりますが、さすがにそのままの衣裳にするわけにはいきませんから、そこは工夫をさせていただきまして歌舞伎らしく、さらに豊かな舞台衣裳として素敵なものが出来上がりました。とにかくユウナというヒロインが魅力的であればあるほど、作品がより面白く、より切なくなると思っております。まずはビジュアルの再現度を少しでも原作に近づけるよう、がんばりたいと思います」

中村橋之助<ワッカ>

「僕は今回のお話をいただきまして、そこで初めて『ファイナルファンタジーⅩ』をプレイさせていただきました。ぜひともワッカらしく、楽しく、のびのびと、お兄さん方の力も借りながら、自分自身も楽しみながら、この『ファイナルファンタジーX』の力になれるように一生懸命に勤めたいと思っています。僕も菊之助のお兄さんから直接お電話をいただきまして、お声がけをいただいたことがまずはとても嬉しかったです。そして僕の友人に『ファイナルファンタジーⅩ』の大ファンの子がおりまして、ふだんは歌舞伎公演をまったくといっていいほど観に来たりはしない子なんですけど、僕がまだ『ファイナルファンタジーⅩ』のことを詳しく知らないと言うと「橋之助くんがストーリーを知らないということが羨ましいくらい、とてもいいお話だから。めちゃくちゃ楽しんで!」と言ってくれたんです。おかげで、すごく楽しみだなという気持ちがさらに湧き上がってきたのを覚えています。衣裳に関しても、やはり原作ファンの方がいらっしゃるというところで不安があったのですが、とても歌舞伎らしく仕立てていただきまして。何よりも当日菊之助のお兄さんがいらっしゃってくださって、僕が化粧して衣裳を着てポーズをとるたびに「いいよいいよ、ワッカだよワッカだよ!」とどんどん機嫌が良くなっていっていた様子でしたので、僕も少しずつ安心できるようになってきました。実際に舞台に立ったらどうなるか、今はとても楽しみな気持ちでおります」

上村吉太朗<リュック>

「この作品は、2001年に発売されたと伺っているのですが、私が生まれたのもちょうど2001年でして、なんだかご縁がある作品だなと思っております。リュックも、とても重要なキャラクターだと思いますので大切に勤めたいと思います。菊之助さんからお話を伺った時、僕はまだこのゲームをプレイしたことはなく、周りにもプレイしたことのある友達はいなかったんです。もちろん『ファイナルファンタジー』という世界は知ってはいましたので、まずはすぐにググりました(笑)。「FFⅩ、リュック」で検索したところ、リュックの衣裳もなかなか露出していましたので「こんな格好できるのかな」と少し不安でしたが、いろいろ考えて工夫をしていただきまして。ホットパンツっていうんですか?(笑) そういう、足を出しているような衣裳だったんですけど、それを歌舞伎の衣裳にしていただき、金髪のかつらもかぶらせていただいたのですが、僕、人生で一度も髪を染めたことがないので、今回は金髪の姿をぜひ楽しみたいと思っております(笑)」

 

また、三つの見どころを菊之助が挙げ、それを会場に設置したスクリーンに映した映像を使いながら紹介。その三つの場面とは、“マカラーニャの森”と“異界送り”と“ブリッツボール”の熱戦。菊之助によると「『ファイナルファンタジーⅩ』には見どころも名言もたくさんあるのですが、絞り込ませていただきました」とのこと。

「“マカラーニャの森”、これは前後編の後編にあたる部分になると思いますが、ティーダとユウナが初めて結ばれるというか、初めて心を通わせるシーンなんです。とにかくビジュアルがとてもきれいなんですよね。水の中で二人は心を通わせるわけなのですが、IHIステージアラウンド東京には8mの巨大スクリーンがございますから、映像も使いつつ表現したいと思っております。歌舞伎では本水といって、本当の水を使って立ち回りをしたりするのですが、今回は演出の金谷かほり先生と相談しまして、あえて水を使わずに表現できないかを模索しました。果たしてどう表現するかは、ご期待していただきたいと思います。

“異界送り”は、歌舞伎の表現としてはやはり日本舞踊だと思うんです。ユウナが異界送りをして魂を鎮めていくんですけれども、あの美しく、怖いようにも見える儀式を日本舞踊でどう表現するか。そこは振付家の尾上菊之丞先生に相談しながら、これも映像を使いつつ、歌舞伎の日本舞踊と融合させ、どこまで再現できるのか期待していただければと思っております。

そして“ブリッツボールの熱戦”に関しては、これも水の中でのアクションなのですが、やはりこちらもあえて水を使わずに表現してみようと工夫を凝らしました。お客様にアッと驚いていただけるような、最先端のテクノロジーも使って、百戦錬磨の歌舞伎の殺陣師さんたちにも入っていただき、ブリッツボールの世界観を表現するつもりです」

 

加えて、今回は前編と後編を通しで上演する大長編の舞台となる。そこで「安心して旅を楽しみながら見守ってほしい」という観客想いの菊之助のたっての願いを聞き届ける形で、特別にシートクッションを劇場全席に設置する。さらに休憩時間も楽しめるようにと、劇場ロビー内のカフェやキッチンカーのメニューを充実させ、これが劇場初の歌舞伎ということを祝って外のスペースには賑々しく幟を立てることに。また近隣のラビスタ東京ベイの日帰りプラン、ホテルJALシティ東京豊洲の宿泊プランも用意するというこの一連の特別サービス企画に関して、映像での説明を見ていた松也と獅童も「これはいいですねえ!」「僕たちも利用したい!!」とノリノリでコメントし、会場を湧かせた。

 

劇場だけでなく、近隣の町や施設なども一緒に堪能できる一大イベントとなりそうだ。ぜひ2023年春、東京・豊洲の360°回転劇場、IHIステージアラウンド東京へ!

 

(取材・文 田中里津子)