木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』 坂東彦三郎・中村梅枝インタビュー

写真左)中村梅枝、写真右)坂東彦三郎

東京・豊洲の360°回転劇場で初めて行われる木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』。これは世界中にファンが多い名作ゲーム『ファイナルファンタジーX』を原作に、尾上菊之助を始め歌舞伎スターが一堂に会する、貴重かつ豪華な舞台となる。菊之助扮する主人公・ティーダと、中村米吉扮するヒロイン・ユウナと共に旅をする個性的な仲間たちは、それぞれキャスティングが発表されると早くも「原作のキャラクターにピッタリ!」と話題となっている。その中から、キマリ役の坂東彦三郎とルールー役の中村梅枝に、作品への想いを語ってもらった。

 

――人気ゲームである『ファイナルファンタジーⅩ(以下FFX)』を歌舞伎化するにあたり、歌舞伎との親和性や共通点などを感じる部分はありましたか。

彦三郎「そもそも『FFX』は日本人、日本の会社が作った物語ではあるので、情愛の部分であったり、心の根本にあるものは日本の“わびさび”なんですよね。だから感動できるものがあるのではないかなというのは、実際にゲームをプレイしていて感じました」

梅枝「まあ、それはそうですね。僕は『FF』シリーズのゲームは、そのほとんどをやっているのですが、特に『FFX』の一番の特徴が、美しいところだと思っているんです。プレイステーションからプレイステーション2にハードが変わって、映像的に綺麗だということももちろんですが、ストーリーもすごくことこまやかで、日本人らしい美意識を持って描かれていると感じていたので。その点、なんでも美しく表現するというのが演劇としての特徴でもある歌舞伎とは、うまいことマッチするのではないかなと思います」

 

――梅枝さんは既に『FFX』を5周やられているとのことですが。

梅枝「たぶん5周以上、やっていると思うんですけれどもね。だいたいこの『FF』シリーズは、一度クリアするとレベルが高くなった状態でニューゲームができるので」

 

――そうすると、また見える世界が変わるんですね。

梅枝「そうなんです。だから、基本的にどの『FF』も2周は絶対するんです。『FFX』の場合はその後のリマスター版が出た時にも1周し、コロナ禍に入った時にもう1周して、さらに今回の舞台のお話をいただいたタイミングでも1周したので。だから確実に5周はしている、と」

 

――ことによると、もう何周かしているかも?

梅枝「かも、しれません(笑)」

 

――すごいです。梅枝さんはもともと、ゲーマーなんですか?

梅枝「ゲーマーですね」

 

――そういうイメージがなかったので、とても意外でした。彦三郎さんは特にゲームはやっていなかったのに、今回の舞台のために『FFX』に挑戦しているということなんですか。

彦三郎「そうですね。たぶんハードで言うとプレステ2くらいまでしか持っていなかったし、基本的に野球ゲームとサッカーゲームとパズルゲームしかしないので(笑)。だけど、既にプレイしていた梅枝さんや米吉くんから「実際にプレイしないと感じ取れないものがある」と言われたので。攻略本を読んだり、YouTubeで動画を見ただけでは感じられないから自分でプレイしろ、と」

梅枝「やっぱり、原作があるものに挑む以上は、ちゃんと原作そのものに触れておくことは大事ですから。勝手に解釈してやることも可能だし、それで面白くできるのならいいのかもしれないけれど、特に『FF』シリーズって世界中にファンがいるゲームなので、その人たちを裏切るわけにはいきませんから」

彦三郎「うんうん、確かにね。その強い想いは、しっかり感じています」

――また今回は歌舞伎化することだけでなく、それを上演する場所がIHIステージアラウンド東京という特殊な劇場で上演するということも大きなチャレンジなのではないかと思うのですが。

梅枝「いや、もう本当にそうですよね。僕たちもまだ、実際に立ったことがないので、実際にどうなるのかは、行ってみないと想像が難しくて」

 

――まだ行ったことはない?

梅枝「僕は、観に行ったことはあります。それこそ、松也さんが出ていた『メタルマクベス disc2』を観に行きました」

彦三郎「僕はまだ実際に見ていないですが、でも今回は稽古期間がしっかりあるので」

梅枝「そう、早い段階から劇場で稽古させていただける予定なので、その点は大丈夫かなと思っています」

 

――それぞれの役柄についてですが。現時点で、どういうキャラクターでどう演じたいと思われていますか。 

彦三郎「原作では、無口で威圧的。それをどう舞台の上で表現するのかは……うーん、まだちょっと想像できないな。ガードするのは、全部で7人だよね」

梅枝「はい」

彦三郎「その中でのパワーバランスというものも難しいし、ゲームと違って視点が変わるのではなく、視界の中にいることになるしね。ただ、衣裳を着た感じでは、存在感と威圧感は既にかなりあるので。でも、逆にそれが邪魔になりそうな気もするんだよなあ(笑)」

 

――そんなに強烈なビジュアルなんですか?

彦三郎「結構、しっかりキマリになっていますからね。いろいろ難しいことはあるかなとは思いつつ、でも柔軟にやっていくつもりです」

 

――確かに、実際に稽古が始まってみないと見えてこない部分が多そうですね。

彦三郎「それもあるので、とりあえず早い段階でフル装備して舞台に立ってみないと。靴も相当な厚底のものになりそうなので、走れるのかなとか、階段が昇れるのかなとか、立ち回りできるのかなとか。もちろん、それで動けるように身体は作って臨みますが。まだ想像の世界なので、現時点では正直なところ「わからない」としか言えませんね(笑)」

梅枝「ふふふ。僕が演じるルールーは、言ってみればおねえさん的存在なので。特にこのパーティーメンバーの中では冷静沈着で、懐の深いところもある。種族間の対立みたいなことも『FFX』では描かれているのですが、そういう問題も冷静に見つめて客観的な考えを出せるというのがルールーの特徴でもあると思っています。あと『FFX』の場合は魔法と召喚獣というのがすごく重要なコンテンツ、要素でして、ルールーはまさに魔法を使って戦っていくキャラクターですので、そのあたりもどのような表現になるのか、私はまだ具体的なことは知りませんが、そこも楽しみにしていただけると嬉しいです」

 

――今回は、歌舞伎をご覧になったことがない原作ファンも大勢いらっしゃるのではと思いますが。

梅枝「特に今回の場合は、もう、これは歌舞伎だと思って観に来なくていいんじゃないかと僕は思っているんですけどね」

彦三郎「そうだね。表現の仕方が歌舞伎だということだけで」

梅枝「観終わったあと、ああこれが歌舞伎なんだって別に思わなくても構わないですし。ですから、特別に肩ひじ張らずに観ていただければいいんじゃないかと思います」

彦三郎「もともと歌舞伎というのは、柔軟な演劇ですからね」

――菊之助さんのティーダ、米吉さんのユウナに思うことは。

梅枝「まず、やっぱりティーダには引っ張って行ってほしいなと思います」

彦三郎「そうだね。方向を示してくれるのが、ティーダだから」

梅枝「お客さんも、ゲームプレイヤーも物語の中ではティーダとまったく同じ状況なわけです。この世界はどういう世界なのかを知らないところから始まり、ティーダを通してさまざまなことを知り、そしていつしか共感していく。そういう意味では私たちのこともお客様も、菊之助さんが力強く引っ張っていってくださると思っています」

彦三郎「そしてユウナに関しては、僕らは守る側なのでね。ユウナの心の揺れに敏感過ぎてもいけないし鈍感過ぎてもいけない。特にキマリは言葉を発するわけでもないので、強い意志を持ちつつ、芯がありつつも、自分からユウナに何かをするということはないから、ユウナのことはただ「見守らせて!」という感じでしょうか(笑)」

 

――お客様へ、お誘いのお言葉をいただけますか。

彦三郎「どうしても原作が強烈なものだと苦手意識みたいなものが生まれてしまう場合もあるとは思うのですが、そこは僕らも一歩を踏み出すので、みなさんもまず一歩を踏み出してみていただきたいです。こうして作品にしようとみんなが動いているということは、もちろん「できる!」と思ってのことですから。そこは「信じて、ぜひ!」という気持ちです」

梅枝「本当にそう思います。それにしても、今回の座組はここまでリアルタイムでこのゲームを知らない人が多いとは驚きですよ。僕は単に楽屋で菊之助さんに『FFX』の話を、熱量高めでしゃべっていたら次の日に誘われたという流れだったので」

 

――そうだったんですか!

彦三郎「「やったことある?」みたいな話になったの?」

梅枝「いや、僕のほうから「『FFX』を芝居にされるんですよね?」と聞いたんです。別に、自分が出たいとかそんなんじゃなくて、ですよ」

彦三郎「ただ、そういう情報が入ったから」

梅枝「そうそう。「誰とやるんですか」みたいな話から、まさか自分は出ると思っていないから「あそこの場面はカットするわけにはいかないでしょ?」とか、生意気にいろいろしゃべってしまって」

 

――原作が好きだからこそ、熱が入った。

梅枝「そうそう。そうしたら次の日に「ちょっと出てくれないか」と言われて。「えっ、私も出るのか!」と」

彦三郎「結果的に、売り込んじゃったんだ(笑)」

 

――お声がかかって、うれしかったですか。

梅枝「逆に、ちょっと怖くなりました。どれだけ大きくて、どれだけ愛されているゲームなのかを僕は良く知っているので」

 

――この座組の中で、菊之助さん以外にもここまで『FFX』愛が強い人がもうひとりいたとは。

彦三郎「いや、僕は梅枝さんが一番だと思うよ」

 

――お目付け役、監修みたいなこともできそうですね。

梅枝「本当は僕自身、古典歌舞伎にしか出ないという基本スタンスがあったんですけれどもね」

 

――だから、今回お出になると聞いてすごく驚きました。

梅枝「はい。良く言われます。ですから私が出る以上はちゃんと歌舞伎にもしたいですし、さらにちゃんと原作ファンのことも裏切らないようにものを申していきますので。その点は、どうぞご安心を!(笑)」

 

取材・文 田中里津子

撮影/会田忠行