木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』初日前会見レポート

世界的にファンが多い名作ゲーム『ファイナルファンタジーⅩ』が、自らもこのゲームに魅了されたと公言する尾上菊之助の企画・構成によってこの春、歌舞伎化される。脚本は八津弘幸、補綴は今井豊茂、演出は金谷かほりが菊之助と共同で手がけるということでもジャンルを越え注目が集まっている、このビッグプロジェクト。その初日が開幕する3月4日(土)の直前、IHIステージアラウンド東京の舞台上にメインキャストが集合し“初日前会見・公開フォトコール”が決行された。その模様をレポートする。

 

木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』の初日前会見、登壇者は尾上菊之助<ティーダ>、中村獅童<アーロン>、尾上松也<シーモア>、中村梅枝<ルールー>、中村萬太郎<ルッツ、23代目オオアカ屋>、中村米吉<ユウナ>、中村橋之助<ワッカ>、上村吉太朗<リュック>、中村芝のぶ<ユウナレスカ>、坂東彦三郎<キマリ>、中村錦之助<ブラスカ>、坂東彌十郎<ジェクト>、中村歌六<シド>の13名で、それぞれカラフルかつ大胆な舞台衣裳をまとってステージに登場。

 

まずは、“眠らない都市・ザナルカンド”で生まれ育った前向きで感受性豊かな主人公の少年ティーダ役として紹介され、早速「ザナルカンド・エイブズのエース、ティーダッス!」とゲームのキャラクターさながらの口ぶりで楽しげに挨拶する菊之助。「2020年から始まったこのプロジェクトが、いよいよ初日を迎えます。原作のゲームの世界を尊重しつつ歌舞伎の世界と融合させ、ダイナミックで美しく、心に届くメッセージをお届けしたいと思っております。『ファイナルファンタジーⅩ』は日本のみならず、世界にもファンの方がたくさんいらっしゃいます。世界へ向けて、互いを思い合い、愛し、諦めない心、前向きな姿勢、亡くなられた方への鎮魂、そして未来を、元気をお届けしたいです。演出の金谷かほり先生始め、ここにいらっしゃる出演者のおひとりおひとりのお力添えのもと、一場面一場面作ってまいりました。ぜひ、劇場にお越しください!」と、企画発案者らしく熱く語った。

さらに中村獅童と尾上松也もキャラクターの決め台詞的に「伝説の剣士、アーロン!……劇場で待ってるね♡」「エボンの老師となりましたシーモアです。……絶対面白いよ、観に来てね♡」とそれぞれ自己紹介しながら会場の笑いも誘う。続いて全員が役名を名乗って、それぞれが挨拶を終えると質疑応答のコーナーがスタート!

各自、主なやりとりは以下の通り。

――まずは菊之助さん、今回、シーンの再現度がかなり高いと伺っておりますが、特にお好きなシーンなどはありますか

菊之助 名シーンのオンパレードになっておりますので、絞るのはなかなか難しいんですけれども。私が関わってるシーンで考えますと、というか、ほとんど関わってるんですけれど(笑)、たとえばブリッツボールの試合の場面や、ユウナと心を交わす“マカラーニャの森”のシーン。そして最後に父親であるジェクトと心を交わすシーンにも、ぜひ期待していただきたいと思っております。原作ゲームをお好きな方は「このシーンをこう再現してくれたんだ」という感動を味わっていただけると思いますし、歌舞伎ファンの方にも「ここは名場面だね」と思っていただけるよう、歌舞伎ならではの音や立ち回りを工夫しております。

写真中央)尾上菊之助

――また今回、立ち回りや殺陣など派手な見せ場も多いとのことですが、獅童さんいかがでしょう

獅童 ファイナルファンタジーの世界観に、歌舞伎の醍醐味でもあります立ち回りや踊り、さらに音楽でいうと長唄と義太夫といったものが融合しております。歌舞伎を観たことのない方から歌舞伎の上級者の方まで、揃って楽しんでいただける舞台になっているのではないかと思っております。

写真中央)中村獅童

――唯一のステージアラウンド経験者でいらっしゃる松也さん、おすすめのポイントやこの劇場ならではの見どころなどをお教えください

松也 僕も久しぶり出演させていただきますけれども、改めてこの劇場の面白さを実感しております。お客様が、より没入感を味わい物語世界に浸っていただける劇場なんですね。客席が回ることによって、登場人物の移動や場面転換の間もお客様が一緒になって移動しているような感覚になれるんです。僕個人としては、特に前編最後の“シーモアバトル”の場面などはまさに、この劇場の特徴を活かした立ち回りになっていると思いますので、ぜひ楽しんでいただきたいですね。

写真中央)尾上松也

――本作には、ひとつの軸として家族の物語があります。この壮大な物語の中でそれぞれの家族の姿をどう表現されていますか。まずは、リュックの父親役・シドを演じられる中村歌六さん
歌六 私たち親子は、他の二組の親子さんたちと違って、それほど複雑な関係はなく、ただひたすらに娘のリュックを可愛いがり、また姪のユウナも可愛いがりますし、もう心配で心配でしょうがないと思う、そういう感じです。ごくごく普通の親子関係、叔父姪関係を築いていけたらと思っております。

写真中央)中村歌六

――続いて、坂東彌十郎さんはいかがですか

彌十郎 主人公・ティーダの父親で、非常に子供に対しては不器用なところがある、ジェクト・パパです。(大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時と同様に)今月もパッパと呼んでください。よろしくお願いいたします(笑)。

写真中央)坂東彌十郎

――ユウナの父・ブラスカ役の中村錦之助さんはいかがでしょうか

錦之助 私が演じますブラスカは、もうこの世にいない人間なんですね。性格は私そっくりで家族思いで、娘思い。こんな聖人君子みたいな人物はいないんじゃないかと思うくらいで、これはまさに錦之助そのものでございます。ぜひ、錦之助の姿をブラスカに重ね合わせてご覧いただきたいです(笑)。

写真中央)中村錦之助

――本作では原作を尊重しながらアレンジされた衣裳も、大きな見どころとなりそうです。坂東彦三郎さんもかなり再現度が高いですが、キマリの衣装のこだわりはどういったところでしょうか

彦三郎 キマリだけに限らず、ご覧いただいているようにみなさんファイナルファンタジーの世界観を壊すことなく、歌舞伎の要素をちゃんと落とし込んでいる衣裳、メイクとなっています。関わってくださったスタッフの方々に、本当に拍手を送りたいです。すごくいい再現ができていると思います。ゲームの中から三次元へと具現化されたんだなと感じておりますし、その中でみんなで魂を込めてやっていけたらと思いますので衣裳だけでなく、全体をくまなく見ていただければと考えております。

写真中央)坂東彦三郎

――中村梅枝さん、ルールーの衣裳は艶やかな和装アレンジとなっていますね。こだわりのポイントはいかがでしょうか

梅枝 ルールーは原作では真っ黒なドレスを着ておりますけれども、舞台では少し紫色にもなっているところがあり、そこが私は気に入っております。この裏地も照明が当たると、とても綺麗に光るんですよ。

写真中央)中村梅枝

――中村芝のぶさん演じるユウナレスカは、原作では非常に際どい姿で登場されますが、現在身にまとっていらっしゃる衣裳に関しての想いはいかがですか

芝のぶ ゲームでは非常に薄着と申しますか……(笑)、やはり歌舞伎の女形としてはあの通りで登場するのはちょっと無理かなということで、デザイナーの方が第二形態、第三形態を混ぜたようにして本当によく考えていただいたと思います。よく見ていただくと、ユウナレスカの全てが詰まっているような衣裳になっておりますので、そのあたりもぜひご覧いただけるとありがたいです。

写真中央)中村芝のぶ

――続いて、中村米吉さんにお伺いします。“異界送り”の場面のプロモーションビデオを公開後、SNSでも大変大きな反響がありました。本番ではどのように再現されるのでしょうか

米吉 あのPVを大変多くの方に見ていただきまして、その見ていただいた数だけ多くの方が関心、ご興味をお持ちなんだと思うとありがたいと同時に自分がしっかり務めなければいけないと、ちょっと怖さも感じている次第でございます。PVのほうでは映像と私の踊りとを融合させたものになっておりますが、舞台ではこの劇場の舞台機構と映像と音楽、あらゆるものが詰まっております。そして最終的には、私はこのステージの上には立っていない……というような状態になりますが、果たしてどうなっているかは、ぜひ劇場でご覧いただけたらと思います。

写真中央)中村米吉

――中村橋之助さんには、ゲーム本編でも印象的な球技ブリッツボールに関して伺います。このスポーツは今回、どのように再現されているんでしょうか

橋之助 歌舞伎ってかなりぶっ飛んだ表現になっていることも多いですが、その歌舞伎のぶっ飛び加減を面白く使った演出になっております。立師の山崎咲十郎さん、尾上菊次さん、中村獅一さんが色々工夫して考えてくださって、菊之助のお兄さんのティーダも、萬太郎お兄さんのルッツも、僕のワッカもそれぞれに見せ場があります。歌舞伎作品をオマージュさせるような演出もありますので、歌舞伎をご覧になったことがある方は「ああ、あれをこうやって持ってくるのね」と見つける楽しみ方がありますし、歌舞伎をご覧になったことのない方は「ゲームをこうやって歌舞伎でやるとここまでぶっ飛んだ演出になるんだな」という部分を楽しんでいただけるのではないかと思います。

写真中央)中村橋之助

――中村萬太郎さん、今回は歌舞伎初心者にもわかりやすい新作歌舞伎だと伺っておりますが、冒頭で歌舞伎講座もなさるそうですね

萬太郎 そうなんです。演出の金谷さんから「オオアカ屋さんには最初にお客様とお友達になっていただきます!」というご指示をいただきまして。簡単ですけれども冒頭で、歌舞伎の決まり事などを解説させていただきます。

写真中央)中村萬太郎

――先月お誕生日を迎えられた上村吉太朗さんはゲームの『ファイナルファンタジーⅩ』と同い年とのことですが

吉太朗 僕もこのゲームは、今回初めてさせていただいたんですけれども。そもそもゲーム自体は好きで、普段からしているほうです。今回、みなさんに新作歌舞伎としてこの世界観をご覧いただいて、そのあとでゲームをまたもう一度プレイしていただいたら、さらに面白く感じられるかもしれません。その上でプレイしたあとに、もう一度舞台をご覧いただければより面白さが倍増するのではないかと思います。

写真中央)上村吉太朗

その後の公開フォトコールでは、まずオープニング映像が巨大スクリーンに映し出された。ゲームのオープニングを彷彿とさせる幻想的なザナルカンドの情景からは、壮大な物語の始まりを感じさせられ、早く本番の舞台を観たいというワクワク感に満たされた。


続いて公開されたのは、クライマックスの一部と思われる“シーモアとの戦い”の場面。客席の回転に合わせて場面が次々と展開していく中、ユウナと政略結婚しようと企むシーモアに、戦いを挑むティーダ、アーロン、ワッカ、リュック、キマリ、ルールーたち。キャラクターの特徴を活かした技や道具を使ったバトルになっており、敗れたキャラクターにリュックがポーションを与えると元気が回復したりするシーンも。殺陣の最中には和楽器によるゲーム風音楽が流れ、附け打ち(厚い附け板に日本の拍子木を打ちつけて音を出す、歌舞伎特有の効果音)との融合も新鮮味があり、背景となる映像も迫力満点。まさに360°回転する、このIHIステージアラウンド東京という特殊な劇場でなければ表現できないダイナミックなバトルシーンが味わえた。


さらにテレビやインターネットで公開されて大好評だった米吉演じるユウナによる“異界送り”の場面では、美しいメロディーが流れる中、夕焼けの浜辺からスピリチュアル的なムード漂う空間へと変化していき、浮遊する魂たち、浮遊するユウナ……ミストスクリーン等大掛かりな舞台効果も駆使しており、これは歌舞伎史、演劇史に残る伝説の名シーンとなりそうだ。

また、劇場ロビーのカフェでは『ファイナルファンタジーⅩ』のコラボメニューのほか、お弁当や各種ドリンクなども販売するとのこと。劇場外ではキッチンカーも日替わりで開店しているため、前編と後編の間の休憩時間の心強い味方にもなるはず。

兎にも角にもこれがラストシーズンとなるIHIステージアラウンド東京、そしてこの劇場初の“歌舞伎”である『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』の上演は、4月12日(水)までとなる。のちのち語り草になる公演であることは間違いなし、ぜひとも、この機会をどうぞお見逃しなく!

 

取材・文/田中里津子
写真/ローチケ演劇部