木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』 中村橋之助+上村吉太朗インタビュ-

写真左)中村橋之助、写真右)上村吉太朗

世界中に多くのファンがいる名作ゲーム『ファイナルファンタジーⅩ』を原作に、同ゲームのファンでもある尾上菊之助が新作歌舞伎としてたちあげる。主人公ティーダに菊之助、ヒロインのユウナに中村米吉が扮するほか、二人を取り巻く個性的なキャラクターたちを演じる出演陣として中村獅童、尾上松也、中村梅枝、中村萬太郎、中村米吉、中村橋之助、上村吉太朗、中村芝のぶ、坂東彦三郎、中村錦之助、坂東彌十郎、中村歌六といった豪華な面々が顔を揃えることも大きな話題だ。共にユウナをガードする仲間となるキャラクターを演じることになった、ワッカ役の橋之助とリュック役の吉太朗に製作発表会見の直後、この作品への想いや演じる役柄について語ってもらった。

 

――製作発表会見、お疲れさまでした。会見に出席して、ここで新たに知ったこともあったのではと思いますが。

橋之助「BGMに和楽器のアレンジが入るという話を、先ほど菊之助さんから伺いました。僕、ゲーム音楽をそのまま使うのかもしれないと思っていたんですが、三味線などの和楽器でアレンジされると聞きましたので、その点もすごく楽しみになりました。それにしても吉太朗さんは、めちゃめちゃ緊張していましたね(笑)」

吉太朗「めっちゃ緊張しました(笑)。こういう会見に出席することが初めてだったものですから。しかもご一緒するのは大先輩方ばかりですしね。僕の場合は関西にずっといるので、なかなか詳しいお話を聞く機会も少なくて、今日聞いたほとんどの情報が初耳でした。本水、使わないんですね。水中シーンとかはどういう表現の仕方になるのか、どういう演出になるのか、とても気になります」

 

――あえて本水を使わない、というのはちょっとビックリしました。

橋之助「確かにね」

吉太朗「どうやって表現するのか、とても楽しみです。水があるように見せるとおっしゃっていましたけど、どうするのか」

 

――映像も駆使するんでしょうけれど。

橋之助「だけど歌舞伎は、もともとないものをあるようにという技法がすごく多いですから。きっと菊之助お兄さんの頭の中で、歌舞伎としての見せ方と、この近代テクノロジーというものをかけあわせた何かが浮かんでいるんでしょう。僕が演じるワッカがやることになるブリッツボールも、こうやって表現しようというお話が少しずつ見えてきてはいるので。そこも、楽しみのひとつです」

 

――ボールを使うゲームの表現、どうやってやるんでしょう。

橋之助「具体的なことは、観てのお楽しみです(笑)。今まで培ってきた表現方法を使いつつ、新しく取り入れる技術も使いつつ。いろいろな引き出しから少しずつ取り出していく感じですね」

――もともと『ファイナルファンタジー(以下、FFⅩ)』というものは……。

吉太朗「僕は、全然知らなくて」

 

――吉太朗さんはこのゲームと、ちょうど同い年なんだそうですね。

吉太朗「そうなんです。周りにも『FF』をやっている友達もいなくて。このお話をいただいてから僕も一度プレイさせていただいたのですが、自分が演じるリュックというのはすごく重要な役だなと思いました」

橋之助「『FFⅩ』は、僕もこれまで一度もプレイしたことはなかったんですが、周りにはやってる人がちらほらいて。うちのお弟子さんにも、それこそ梅枝お兄さんほどではないですが大ファンで何周もやっている人がいますし」

 

――では、その方に聞けばなんでも教えてもらえそうですね。

橋之助「はい、既にいろいろなことを聞いています(笑)。ワッカというキャラクターについてだけでなく、このゲームの進め方や仕組みなども教わりました。とはいえ、自分としては今のところ攻略本も使わずに、感じたままプレイしてみている最中です」

吉太朗「今、どこらへんですか」

橋之助「まだ、ブリッツボール」

吉太朗「ハハハ! 大丈夫ですか、そこでいまだに止まっているんですか」

橋之助「だって、ワッカにとってブリッツボールは重要ですからね」

吉太朗「勝てるまで、何試合もブリッツボールをやり込んでいるんですか」

 

――ストーリーが進まないですね(笑)。

橋之助「そうなんです。だけど稽古開始までには、ちゃんと物語の後半までやっておくつもりです。吉太朗さんは、もう最後までやったの?」

吉太朗「やりました、やりました。ひととおりクリアしましたよ」

 

――その『FFⅩ』というゲームを歌舞伎化するということに関しては、お二人はどう思われましたか。歌舞伎との共通点などを感じる部分もありますか。

橋之助「昨今はいろいろなものが歌舞伎化されているということもあるので、僕としては逆説的に特に歌舞伎との共通点は探しすぎなくてもいいのかなと思いました。『FF』自体にある、人間の価値観とか雰囲気というものは、この原作が日本のものであるからこそですし、もともと歌舞伎っぽいテイストを感じるところはたくさんあるんですけどね。でもその共通点があるからというよりも、今、2023年の歌舞伎が『FF』とどう融合するか。僕自身のことであれば、ワッカがどう自分と融合していくかというところに重きを置いて考えていきたいと思っています」

吉太朗「僕も歌舞伎を意識するというよりは、女形で出るということを意識しているというか。不安ももちろんあるんですけどね。今回は特に、米吉さんだったり、梅枝のお兄さんだったり、芝のぶさんだったり、素敵な女形さんとご一緒できますし。それに新作歌舞伎というものに、僕自身はあまり経験がないんです。基本的には、古典の演目に出していただくほうが多いので。ですから、みなさんにたくさん教わりながら、はしゃぎすぎないよう、やっていきたいです(笑)。それにしても、この座組って新鮮ですよね」

橋之助「確かに、新鮮な顔合わせだね。古典でもこの座組って、なかなかない顔ぶれで、このメンバーで新作歌舞伎をやるのは、とても貴重な機会です。きっと菊之助のお兄さんが、誰がどうということではなく、このキャラクターはぜひこの人にやってほしいという想いを重視してキャスティングされたのではないでしょうか。実際のところ、僕もこうして直接お兄さんからお電話をいただいて出ることになるというパターンは初めてのことですし」

 

――他では、ありえないことなんですね。

橋之助「ないですね。その分、お兄さんの想いを強く感じます」

吉太朗「僕は、御園座に一緒に出していただいていた時に楽屋に呼ばれて。「『ファイナルファンタジー』をやろうと思っているんだけど」と言われ、「ふぁいなるふぁんたじー? それはなんですか?」って(笑)」

 

――電話じゃなく、直接お声がけがあったんですか。

吉太朗「はい。楽屋で言われて。でも「リュック? カバンですか?」って(笑)」

橋之助「リュック、めちゃめちゃ可愛いじゃん!(笑)」

吉太朗「めちゃくちゃ、ギャルですよね」

橋之助「あんなに可愛くなれるんですか」

吉太朗「いやあ、ただただ心配です(笑)。可愛くなれるよう、がんばります。そして、にぎやかし担当ですからね」

橋之助「そうだよね。イメージじゃないから、きっと恥ずかしいよね」

吉太朗「恥ずかしいです。「どうもー、リュックでーす!」、みたいに明るいキャラなので」

橋之助「吉太朗くん本人は、どっちかというとクールだし、落ち着いているから」

 

――では、そういう意味でも挑戦なんですね。

吉太朗「はい。これを機に、新しい自分を見出せたらと思います」

 

――橋之助さんは、ゲーム版のワッカの声に似ていると言われませんか。

吉太朗「うんうん。僕も「めっちゃ、ワッカや!」と思います。似てますよね」

橋之助「ホントに? 実はまだ配役が発表になる前、ゲームをやっていた友達から「ティーダに似てる」って言われてて」

吉太朗「あ、そう言われるとティーダにも似ているかも」

橋之助「当時、まだ僕はプレイしていなかったから、ティーダが主人公だと知らなくて。そういえば、菊之助お兄さんは僕っぽい役があるって言っていたな、それがティーダなのかななんて思っていたら、ティーダって主人公じゃん!って、あとで気づいて。じゃ、それは絶対違うよ、と(笑)」

吉太朗「ハハハ」

橋之助「結局、ワッカ役だとわかってからは、よく「橋之助くんっぽい」とか「似てるところの多い役だね」って言われています。先日の撮影でワッカの扮装をしてみたら、なんだかふだん友達と飲んでいる時の僕みたいでした」

吉太朗「アハハハハ!」

 

――では、自然に演じられそうですね(笑)。

橋之助「そうですね。だからよけいに、橋之助だから、歌舞伎だから、というよりも他の外部公演のストレート・プレイであてがきされた時のような気持ちで臨もうかな、と。楽しく、おおらかに、ワッカらしくと思っています」

吉太朗「僕も、扮装された時の写真を見たんですけど、めっちゃワッカでしたよ!」

橋之助「あれはもう、小学4年生くらいの時の僕、まんまなんだよね」

 

――では最後に、お客様へお誘いの言葉をいただけますか。

橋之助「まずはやはり、このメンバーの顔ぶれですよ。なんといっても、歌舞伎界の精鋭のお兄さん方がいて、若手もいて。ふだんから歌舞伎をご覧になっている方は、この座組の豪華さを、ひしひしと感じていただけると思います。とはいえ、初めてご覧になる方や、IHIステージアラウンド東京という劇場も初めてという方は、もしかしたらチケット代の価格設定に「おっと、ちょっと待て!」となるかもしれないのですが。だけど半日たっぷり時間をかけて歌舞伎を観るという経験であったり、初めてこの劇場の演出をご覧になるという未知の体験ができることで、自分の引き出しが増えるかもしれませんし、ふだんの公演を観る以上にさまざまな方向からの刺激や発見があると思うんです。ここは、百聞は一見に如かず、です。きっとコスパはいいはずです! とにかく、特にこの舞台はナマで観るということが一番の魅力ですから、ぜひ劇場でナマで観てほしい。さっき会見でもお話がありましたが、豊洲の近隣ホテルとコラボしたり、キッチンカーなどもあるらしいので、豊洲で1日楽しめる、その点も、僕の推しポイントです(笑)」

吉太朗「ホントですね、実体験することは人生においてとても大切だと僕も思います。そして、ふだん歌舞伎をご覧になられているお客様ももちろんですが、僕たちと同世代の方たちにもぜひこれを機会に歌舞伎というものを知ってほしいですし、それと同時に『FFⅩ』の世界もたっぷり楽しんでいただきたい。どちらにも素敵な魅力があるので、それに直接触れていただきたいです」

橋之助「そして、にぎやかし吉太朗をぜひ劇場で!」

吉太朗「そうです、ふだん見られない、にぎやかな吉太朗をぜひ(笑)」

橋之助「でも本当に僕も吉太朗くんも、新たな扉を開く可能性を大いに秘めているのが、この公演ですから。僕たち自身もまだ気づいていないところが、いっぱい見つかるかもしれません!」

吉太朗「本当にそう思います、どうぞお楽しみに!」

 

取材・文/田中里津子撮影/会田忠行