日本の伝統芸能「狂言」と、今をときめく若手俳優コラボレーションしていくプロジェクト「狂言男子」。今回は、渋谷・セルリアンタワー能楽堂に場所を変え、蟹の精に対峙することになる山伏と剛力を描いた「蟹山伏」、主の口真似をする太郎冠者が客人を翻弄する「口真似」などが上演される。キャストには健人、岩崎孝次が前回に引き続き出演するほか、初挑戦となる佐伯大地も名を連ねた。古典芸能に挑んでいく3人に話を聞いた。
――佐伯さんは今回はじめての出演ですが、出演が決まった時はどう思いましたか
佐伯 「え、できるの?」って感じでしたね。狂言って日本の伝統文化だっていうことは知っていたんですけど、オファーが来るっていうことはできるんだ、と思って驚きました。僕みたいな、狂言に関してはまったくの素人が、取り掛かれるものなのかと思ったんですけど、先生にお聞きしたら小学生に教えていたりもするそうなので、そういうものなのか、とびっくりしました。自分自身は観たことがなかったんですけど、観た人の話を聞いたことはあって、「めちゃくちゃ笑ったよ」って言ってたんですよ。伝統芸能なので難しいイメージがあると思うんですけど、そういう感じなんだ!って思いました。
――健人さんは狂言への挑戦は3回目ですね。
健人 初めての演目なので、新鮮な気持ちですね。狂言を3回やるっていうのもなかなかない経験ですけど、まだ3回目なので、知らない部分もたくさんあります。まだまだ勉強しながらやっていきたいと思います。
――岩崎さんは企画の部分から関わっているそうですが、今回はどのようなものになりますか。
岩崎 今回に関しては、新作を3本ということで新しいものに挑戦させていただきます。これまでも足を運んでいただいている方がいると思いますので、会場もセルリアンタワー能楽堂と新しい場所にして、新鮮な感じで見ていただけるんじゃないかと思います。狂言の演目は160~180くらいあるそうなんですが、僕らは10本もやっていないので、これから毎回、作品を変えたりしていく中で、健人さんのようにどんどん出ていただいたり、今後佐伯さんにも出ていただければ成長過程が見えてくると思うんです。そういうところも楽しんでいただけたらと考えています。
――狂言に触れてみて、どんな発見がありましたか
岩崎 やっぱり細かい所作や足運びですね。移動もすり足でやっているんですけど、方向を変えるときには、足に足をかけてあげるとか、安座のときは一度左足を前に出してからしゃがんで、向きを変えてそのまま足を追い込むとか。そういう所作が非常にきれいなんですよね。扇の広げ方や折り方も、指先に非常に力の入った所作なんですよ。
佐伯 できるかなぁ、俺(笑)
岩崎 あとは、猫背じゃなくなってきました。普段の生活でも正座をするようになったんですよ(笑)。回数を重ねてきて、そこは変わってきたなと思いますね。
健人 僕も最初はこれまで触れて来てなかったことだったので、近寄りがたいものがあったんです。でも、狂言ってお笑いなんですけど、今も昔も変わらないな、って思う部分がけっこうたくさんあるんですよね。だからこそ、いろんな人に見ていただきたいんですよ。最初は行きにくいところもあるかも知れないんですけど、ぜひ勇気を出して見てみて欲しいです。
佐伯 俺は初めてだから、逆に思いっきりできるっていうところはあるかな。みんなの胸を借りるつもりでやっていきます!
――佐伯さんは狂言に出演することで何か周りの反応はありました?
佐伯 最初はやっぱり「マジ?できるの?」みたいな感じですね。でも2言目は「いいじゃん!」って言葉が多いかな。俳優仲間からはそうですね。勉強になりそうとか、観たいって言ってくれる人もいました。今ってテレビとかでも歌舞伎俳優の方がすごく存在感を放っているじゃないですか。だから、役者仲間たちも、伝統芸能を経験することは何か強みになるかもしれない、みたいな気持ちがあるのかもしれないですね。僕自身、狂言を経験したことが何か自分にとっての武器になるんじゃないかと期待もしています。例えば、時代劇をやるときの所作とかね。
――確かに、所作を経験できるのは大きなことかもしれませんね。
岩崎 僕は今回で4回目なんですけど、歩き方を改めて細かく教えていただいているんですね。例えば、太郎冠者と主、山伏の歩き方はそれぞれで違うんです。歩き方も種類があるんですよね。
佐伯 でもよく考えたら、それって当たり前のことなんですよね。ヤクザはヤクザっぽい歩き方があるし、若造は若造っぽい歩き方がある。そうやって型に当てはめていくってすごく大事なことだと思います。
岩崎 そうなんですよ。狂言を経験して、現代劇で役を演じるときも、どう表現するか考えた時に、もうワンステップ考えられるようになった感じはあります。そういう発想が増えた感じはありますね。
健人 前回、山伏をやったときは苦戦したんですよ。最初は太郎冠者をやっていて、身分で言えば低めの役だったので、偉そうにするのが難しくて……。だから役によって所作の違いは感じていますね。
――狂言には独特の節回しがありますが、そのあたりも慣れてきましたか?
佐伯 今はまだ、猿真似状態というか。みなさん上手にやられるんで、いっぱい真似して、盗んでいくしかないですね。
岩崎 何度かやってきた僕らでも、途中でわかんなくなるんですよ。先生に後から「(節回しの)ここが上がってなかったよ」とか言われるんですよね。あとで記録映像で確認すると、確かに上がっていない。でも、やっているつもりなんですよね。セリフが長いときと短いときで、節回しが変わったりするんですよ。
健人 そうそう! 難しいよね。
岩崎 そのパターンにハマんないときもあるので、あれ?ってなるんですよね。どっちだっけ、って考えてしまって、うまく行かないときが今でもあります。
健人 今の台本を頂く前に、(行書で)何が書いてあるかわからない本を先生に読んでいただいて、それを繰り返すっていう稽古をしたんです。昔の方はこうやって練習していたのか、と思ったんですけど、すごく難しかったですね。
岩崎 同じところで詰まっちゃったりね。やっぱり、狂言で使っている言葉を、現代語訳で落とし込まないと、やりにくいなというのは感じます。
――初めて狂言にチャレンジする佐伯さんにアドバイスをするとしたら?
岩崎 本当に、思いっきりやってほしい。先生も僕たちは俳優で、そんなにすぐには出来ないということも分かってらっしゃると思うので。僕たちの色も乗せていただきつつ、楽しんでいただきたい、と言ってくださっているので、ぜひ思い切り楽しんでやってください。
健人 僕は今日の稽古が佐伯さんとは初めましてなんですけど、すでに山伏のイメージができているんですよ。絶対にできる。勝手な僕の思い込みですけど。撮影の時にも、すでに山伏だ!って思いましたもん(笑)
――ハマり役ということですね(笑)。続いて、お話の魅力についてもお聞きしていきたいと思います。まずは「蟹山伏」はどのようなお話なんでしょうか
岩崎 狂言男師では初めて、蟹の精、妖精が出て来ます。修行を終えた山伏が剛力を伴って沢へやってきたときに、たまたま蟹が出てきたので、剛力が今晩のおかずにと捕えようとするのですが、耳を挟まれてしまいます。剛力は山伏に何とかしてもらおうと助けを求めるんですが、山伏が祈ってもさらに強く挟まれるばかりで…というお話です。堂々とした山伏が、最後はおちゃめなことになってしまうので、そういうかわいらしいところを笑っていただきたいですね。蟹に対してのセリフの言い方に注目してください。
佐伯 人間って、どんなに修行しても情けなくて弱い生き物。偉そうに生きていても、怖いものは怖い。そんな蟹みたいなのが出てきたら、怖いもん(笑)。蟹はどうやるの?
岩崎 お面をかぶって、あとは動きで表現する感じですね。
健人 僕は剛力なので、山伏の岩崎さんを慕っていこうかと思います。蟹の精は、今まで、他のお話にも出てきたことが無いし、「狂言男師」でお面が使われるのも初めて。出会ったことの無いものなので、楽しみ(笑)
――では「口真似」はどんなお話ですか?
岩崎 「口真似」は、お酒を飲みたい主が太郎冠者に酒飲みの相手を探してこいと言って、連れてきた客人が酒の癖が悪いヤツだったんですね。1杯飲んだら刀を一寸抜いて、2杯飲んだら2寸抜いて……という男なので、主は追い返せと太郎冠者に言うんですが、「後日あったら気まずいですよね」と返されてしまいます。そこで客人の相手を太郎冠者と一緒にさせて、主は自分の真似をするように太郎冠者に言うんですが、客人に向かって『盃を持て』と言ってしまったり、客人の方を叩いてしまったりと、主の真似がとんでもない方向に進んでしまうというお話です。典型的なボケの話ですね(笑)
健人 僕は「附子」の影響で太郎冠者は知恵が働くイメージがあったんですけど、今回はどうなんですかね(笑)。でも、楽しそうだなという印象はあります。やってみないとわからないですね。
佐伯 ベタなシチュエーションではありますよね。多分、一生懸命やってるんだよね、太郎冠者は。「分かりましたっ!」って感じで(笑)。でも裏目に出ちゃう
岩崎 太郎冠者は純粋なんですよね。言われたとおりにしなければ…!って、それだけを貫いているんですよ。
――純粋で一生懸命だからこそ、滑稽に見えるのかもしれないですね(笑)。最後に、公演を楽しみにしていらっしゃる方にメッセージをお願いします
健人 新しい演目と新しい会場での上演となります。初めて観るというお客様も、楽しんでいただける作品になっていると思います。変に緊張することなく、軽い気持ちでお越しいただければと思います!
佐伯 日本の舞台って、新しい世代がどんどん出てきていて、演者もどんどん増えていると思うんですけど、そういう中で「狂言男師」は新しい切り口で、志を持ってやっていることだと思います。選んでいただいたからには、狂言男師がまた1歩2歩といいものになっていくように、もっと出たい、もっと観たいと思う人が増えるような舞台にしていきたいです。きちっとマジメに頑張ります。
岩崎 狂言を観たことが無いという方がたくさんいらっしゃると思いますが、親しみやすい作品が数多くあるんです。僕たち若手俳優が、狂言への橋掛かりになれたらいいですね。あと、お着物を着て出かける機会ってそんなに多くないと思うんですよ。せっかくの機会なので、お持ちのお着物を着ていただいて、演目を楽しんでいただけたらと思います。今後、2回目3回目と足を運んでいただけるよう、楽しんでもらえるものを作っていきます!
取材・文/宮崎新之