主宰のタカイアキフミが、公演ごとに様々な表現者に声をかけて魅力的な作品を生み出すTAAC(ターク)。『かわりのない』では、難病の息子に手術を受けさせるために懸命な募金活動を行い、息子が亡くなってしまった後も募金活動をすることで生きる希望を見出す夫婦を中心とした物語が描かれる。本作に出演する荒井敦史、異儀田夏葉、清水優、納谷健、作・演出のタカイアキフミにインタビューを行った。
――1年ぶりの新作として、2018年に2人芝居として書いた『を待ちながら。』をベースに書こうと考えたきっかけ、理由からお伺いしたいです
タカイ 難病の子供をもつ両親が「〇〇ちゃんを救う会」という募金活動をしていて、その最中に残念ながら子供を亡くし、死後にまた募金活動を始めるという話です。この設定は僕の中で思い入れが強いんです。人生における大きなイベントより、その後どう生きていくかというところに目を向けてきたTAACにおいて、象徴的な話だと思っています。かつ、『を待ちながら。』は僕が書いた戯曲としては2本目で。昨年『世界が消えないように』という戯曲を再演し、すごく豊かな時間と空間が流れていることを実感しました。そこで改めて過去の自分と向き合い、今の自分ならどんなものを作れるのかチャレンジしたいと思いました。
――今回のキャスティングの理由、皆さんに期待していることは何でしょう
タカイ 荒井さんの出演作を何作か拝見していて、パッションがある役も静かなお芝居もできる方だと感じていました。TAACでは言葉数が多くない人を物語の中心に置くことが多く、そういった役をやってほしいと思いお願いしました。
清水さんと異儀田さんは、難病を持つ子どもの親役。今回の物語は「重い」印象を持たれがちだと思いますが、どんな環境でもひたむきに生きてくれそうなお二人なので、悲しいはずなのに笑えてしまう、親近感を覚えたり応援したくなったりする人々を演じてくださるんじゃないかと思いました。あと、今回は清水さんだけがTAAC経験者。前回もキャストの皆さんとの橋渡しをしてくれたので、今回も期待しています。
清水 清水さんの類稀な才能が……とか、そういう話はないんですか?
納谷 面倒くさいですね(笑)。
荒井 納谷くん、優さんに厳しいですよね(笑)。
タカイ お二人ともしんどい時にしんどい芝居をしない。それがすごく大事な気がしています。納谷くんとは少し面識がありつつ中々交わらずにいました。今回は彼が今まで演じてきた役と大きく違うイメージだと思います。でも、話していると、こういう役にもチャレンジしてみたいんじゃないかと感じました。イケメンとされる方に気持ち悪いというか、どろっとした役をやってほしいというところでお願いしました。
――キャストの皆さんは、お話をいただいた時にどんな思いを抱きましたか?意気込みも合わせて教えてください
荒井 僕が昔から言い聞かせていることとして、“万人に受けなくても誰かが見ていてくれる”というのがある。フリーになったタイミングで接点がなかったタカイさんからお話をいただき、純粋に嬉しかったです。意気込みとしては、頑張ります!
清水 いいこと言ってたのに急に子役みたいになる(笑)。
一同 (笑)。
荒井 楽しみと不安がありつつ、考えてもわからないのでとりあえず一生懸命やろうと思って稽古に来ています。
清水 僕は2回目で、呼んでいただけるのは嬉しいけど1回目より上に行かなきゃというプレッシャーもあります。数年前に出演した『人生が、はじまらない』では、タカイさんと色々意見交換しながら作りました。今回はお互いもっと切磋琢磨できるんじゃないかと思っています。
異儀田 TAAC作品を見たことがない状態でお話をいただき、重いテーマを扱っているイメージだったので最初は尻込みしました。というのも、私は暗い話が苦手なんです。でも、過去作品を見てとても真摯に作っていることがわかりましたし、「暗い話に救われたり励まされたりすることもある」と聞いて「確かに」と思って。私は韓国ドラマが大好きなんですが、復讐劇などの暗い話から活力をもらったりもするし。誰かの元気になるのかもしれないと思ってお話をお受けしました。
清水 志望動機みたい(笑)。
荒井 僕、絶対落ちてるじゃないですか。「頑張ります」しか言ってない(笑)。
納谷 お話をいただいてすごく嬉しかったです。ただ、「新進気鋭、センスがある人・団体」ってとっつきづらいじゃないですか。TAACさんに憧れがあったぶん恐怖も感じました。でも、現場に入ってタカイさんとお話ししているとシンプルに面白いものを作りたいんだと感じる。どちらかというと職人気質な僕が、コミュニケーションを取りながら作れる過ごしやすい環境で、不安が安心に変わりつつあります。
――台本を読んだ印象、皆さんが演じるキャラクターについて教えてください
荒井 扱うテーマ的にも本当に難しいというのが正直なところです。僕が演じる陽平は刑事で、つまり作中で事件が起きます。刑事とその妻の夫婦の物語と、事件に関する物語の2軸が分離しないようにしなきゃと思いました。
清水 事件は起きますが、それ以上に人間関係のお話だなと感じています。僕ら夫婦だけでは物語は進まないので、他の方からもらったり与えたりというキャッチボールを面白く描けたら。脚本の感想としては、色々な立場で色々な受け答えをしたらおのずとゴールに辿り着くんじゃないかと思っています。
タカイ 目の前の人との関係性だけじゃないんですよね。今回、取り調べ劇でもあって。
清水 別の時空で行われているけど、見る人は同じ空間で捉える。時空を超えたお芝居になればいいなと思っています。また、犯罪は全て悪ではあるけどその中にも善悪はあると思う。皆さんにそれを判断していただけるような人間を作っていきたいです。
異儀田 たゆたっている人、前に進みたいけど進めない人など色々な人がいる中で、この夫婦はすごく行動力があるなと思います。子供が難病だとわかり、アメリカで手術を受けさせるために募金活動をしたり、子供を失った後も前を向くために悪いことではあるけれど募金を再開する。パワフルで生きる力が強いですよね。それが周りの登場人物たちに何か作用したらいいなと思います。
納谷 今作は、理屈では説明できないことが起きて、なんとか穴を埋めたりバランスを取ったりしている人たちの物語で、これを描くタカイさんはすごいなと感じました。今回僕が演じるのはシングルファーザー。ある理由でネグレクトしてしまう気持ちも理解できるし、同じ状況になったら相手を大嫌いになると思う。「こういう人いるよな」と思っていただけたら、作品がグッと深まるのかなと思っています。
――清水さんが「TAACの稽古は合宿のよう」というコメントをされていました。今回の稽古はいかがでしょうか?
タカイ まだ本読みくらいしかしていませんがどうですか?
清水 TAACは短期集中型。その期間でグッと濃くなるのが合宿みたいだと思います。まずはみんなで「どうやったら面白いだろう」と話し合うことからスタートしていますが、みんなが同じ方向を見ていい討論会ができている。前に進むいい稽古ができていると感じます。
荒井 色々な作り方があるなかでも珍しい現場だと思います。それぞれが作ったものをそのまま演出家に見せて判断してもらうこともあるけど、TAACは劇団に近い。この作品のために集まったキャストとスタッフだからか、チーム感がありますね。優さんが言う「合宿」がこれから始まるのかなと思います。
異儀田 みんなが言う通りすごく能動的なチームで、みんながこの作品に関わろうとしています。みんな客演だけど、全員が作品を作っている意識をきちんと持っているのが素晴らしいと思います。
納谷 ディスカッションをしたりコミュニケーションを取ったりする中で、自分の意見を本当に素直に言える環境です。そのぶんプレッシャーや責任感のようなものが増していくので、自分で自分のハードルを越えられるように準備しないと。皆さんとやりとりする時間を楽しみにしつつ、緊張感を持ってできたらと思っています。
――見る人が置かれている状況などで受け取り方も変わりそうだと感じました。それぞれの役や物語全体で、注目してほしいポイントはありますか?
清水 事件が起きて、それぞれが抱えているものが見えてくる物語。抱えているものが日常的じゃない部分もありますが、見ている方に受け入れていただけると思います。悪い人の中にも面白い・楽しい要素はたくさんあるし、その要素が出ている脚本なのかなと。嫌な気持ちにはならないし、誰かに感情移入できると思う。一つの物語だけど、色々な見方ができるんじゃないかな。
荒井 舞台やドラマは人間が綺麗に変わって完結するものが多いですよね。でも実際は人間そんな簡単に変われない。この作品では変化し始めるところが描かれていると思うので、リアリティを持って見せられるように頑張りたいと思います。
見どころとしては、優さんも言っていたように誰かしらに感情移入できると思いますね。僕自身、自分の役にリンクする部分もある。こういった出来事に直面した人は暗い芝居で表現されることが多いけど、僕は「そういう人ほど笑っているよな」とか、「生き物としての反射で恐怖が近くなると笑ってしまう」という表現にしたいなと思っています。ネタバレを防ぐと伝わりきらないので、気になる人は劇場に来てください。
異儀田 サブテキストが豊かなお芝居です。取調室という環境もそうだし、何かを抱えている人しかいない。発する言葉の後ろにたくさんのものが含まれているので、それをどう広げていくか。裏にあるものをどれだけお客様に伝えられるかが見どころだと思います。
納谷 僕の役を通してこの作品を見ると、すごく無関心で無機質な世界に見えることがあります。何かから逃れたくてそうしているのか、そもそもの性分なのか。タカイさんがいつも描いている“その後”は、普段あまり知ろうとしていないし知らないもの。それを覗き見るような感覚があります。荒井さんも言っていましたが、一歩踏み出す瞬間、些細なきっかけが作品における大きなメッセージになるのかなと思います。
――タカイさんにも、全体の見どころをお伺いしたいです
タカイ 5年前の2人芝居からというお話をしましたが、今回は夫婦、警察官と取り調べを受ける人間、医師と患者など全部が対(ペア)になっているなと思います。その連続が社会になっていくと思うので、色々なペアのやり取りが重なって円になっていくような感覚があるといいなと。一方で、納谷くん演じる役はペアが欠落している。募金詐欺の夫婦も子供を亡くしていたり、医師も同じようなことがあったり。6人で様々なペアを成しながら、欠けているものと対峙する物語です。
そして、ある人の物語が違う人に影響を与えていく。色々なところに色々な波が押し寄せていく、演劇的な作品になるんじゃないかと思います。映像的だと言われることが多かったTAACの新たな挑戦ですね。
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします
荒井 これから稽古を進めていくところですが、新宿シアタートップスという劇場とも相性がいいのかなと思います。といっても僕がトップスに立つのは2回目ですが。
一同 (笑)。
荒井 雰囲気がとても合うと思うし、視覚的にも楽しめる作品に仕上がると思うので、本当観に来てほしいです。新宿駅から徒歩5分、地下から行けるので雨の日も濡れません。とても素敵な劇場でこの作品を見ていただけたら嬉しいです。
清水 この物語に出てくる事件が現実に起きたとして、新聞の中では皆さんが見逃してしまうような小さな記事だと思います。登場人物たちもとても身近で、ただ抱えているものがちょっと人とは違う。見ている方にも起こりうる世界ではあるので、それを覗きに来てほしいです。
異儀田 先日誰かが「今は嘲笑う文化だ」と話していました。人の不幸やその人にとっては大きな問題をなぜか嘲笑ってしまう風潮がありますが、演劇はそういった部分にスポットライトを当てて寄り添うものであったらいいなと思います。数時間だけでも誰も嘲笑わない劇場という空間で、お客さんにも温かい気持ちで私たちを覗いていただけたらと思います。
納谷 才能とセンスを持った主宰がいて、実力を持った役者さんがいるわけですから、面白くないわけがない。「演劇が好きならこの作品が気にならないわけがないでしょ」と思います。見逃さないでほしいですね。
タカイ 誰しも生きていると大切な人を亡くしたり、大切な場所がなくなったりする。成長する中で得るものも多いかもしれないですが、それと同じかそれ以上に失っていくものも多いような気がします。そんな中でどう生きるのかという物語なので、どんな人にも当てはまると思いますね。誰がどうなろうがこの世の中は続いていくけど、僕らは一人ひとり生きている人間です。誰か・何かに代わりを求めてもいいし、それでも埋まらない穴を抱えたままひたむきに生きるのも素敵だと僕は思っています。失くしたもの、今あるものとどう対峙するかを深く描いて皆さんの心を動かせたら。劇場を出た後、周りがどう見えるかを楽しみに劇場にきてください。
撮影・文/吉田沙奈