昨年第29回劇作家協会新人戯曲賞を受賞した海路(みろ)が主宰を務める、劇団papercraftによる第10回公演『空夢』が、2024年4月26日(金)~5月6日(月・祝)にすみだパークシアター倉にて上演される。
これまでも独特な世界観の中でリアルな人間模様を描いてきた海路による新作は、「同級生の街」が舞台で、婚約したばかりの同級生の2人をよそに、誰かが街に一人多いことに気づき、「一人多いので一人減らさないといけない」ということになる物語だ。
婚約した男女を、世界的ダンスパフォーマンスグループ s**t kingz(シットキングス)のメンバーで俳優としても活動の幅を広げている小栗基裕と、ドラマ・映画・舞台で俳優として活躍するほか、バラエティ番組でもその存在感を示している坂ノ上茜がW主演で演じる。
いずれも海路作品への参加は初となる小栗と坂ノ上、そして作・演出の海路に話を聞いた。
──海路さんは昨年、劇作家協会新人戯曲賞を『檸檬』で受賞されました。受賞した時のお気持ちをお聞かせください。
海路 (賞を)取れたらいいなとは思っていましたが、取れるとは思っていなかったので、最初はあまり実感がなかったですね。
──最終審査員による選評の中で、特に平田オリザさんは絶賛のコメントをされていました。
海路 審査員の皆さんのコメントはどれも嬉しかったのですが、僕は以前から青年団が好きで、自分がセリフを書くにあたって平田さんが提唱された現代口語演劇を勉強したので、特に平田さんからのお言葉はすごく嬉しかったです。
──昨年からアミューズの所属となりました。所属を決めた理由は何だったのでしょうか。
海路 「作る」ということに対してのバイタリティがすごくある会社で、これまでずっと自分1人でやってきて、自分の弱かったところとか、1人じゃできなかったこととかをサポートしていただけるということだったので、それならば、と所属することになりました。今後は舞台に限らず映像など活動の幅を広げていけたらいいなと思っています。
──本作のストーリーはどういったところから想起されたのでしょうか。
海路 ふと「1人いない」という言葉が浮かんで、そこから都市伝説とか怪奇現象みたいな「同級生が何回数えても1人多い」というシチュエーションが面白いんじゃないか、と思って広げていった作品です。
──今回のタイトルにはどういう意味があるのでしょうか。
海路 夢という概念について興味があって、夢に関する言葉をいろいろ探していたら「空夢」という言葉と出会ったんです。見てもいないのに見たようにして語る夢、という意味なんですけど、それがすごく文学的というか、その先に1個世界が見えた気がして、このタイトルでやってみたいなと思って決めました。
──小栗さんと坂ノ上さんは、脚本を読んでどのような感想を持ちましたか。
小栗 まずあらすじを読んで、それから脚本を読んだときに、「あ、そういう方向なのか」とちょっと驚きました。読む前はもっと日常に近いものを想像していたのですが、その印象がガラッと変わりましたね。あくまでも会話のやり取りは日常なんだけど、でも世界はめちゃくちゃ非日常で、というギャップだったり、狂気だったりにゾワッとしつつも、これがどんなふうに作品として形になっていくんだろう、とすごく楽しみだなと思いました。
坂ノ上 読後感がすごくて、未だに「これはどういうことなんだろう」と考えてしまいます。脚本に余白があるからこそ、自分で考えるものがすごく多い作品だと思いましたし、これから稽古でいろいろコミュニケーションを取りながら詰めていったときにどうなるんだろう、とワクワクした気持ちになりました。
──「同級生」というワードが非常に印象的な作品ですが、なぜこのワードを持ってきたのでしょうか。
海路 同級生の距離感みたいなものが、自分の中でおもしろいなと思ったんです。社会人になってから出会う方々との距離感と、同級生の人たちとの距離感が結構違う気がしていて、それって今自分たちが生きているこの世の中におけるシチュエーションとマッチする部分もあるんじゃないかな、と思いました。
小栗 確かに同級生って、何とも言えない距離感ですよね。同じ学校とか同じクラスだった、というだけなのに何か不思議な繋がりがあるというか。
坂ノ上 学生の頃って、学校が社会でしたよね。同級生同士だと横社会というか。でも大人になったら縦社会になって、だから全然距離感が違って独特なのかなと思います。
海路 この作品では、何かを「言えてしまう」というところをキーワードにしていきたいと思っています。同級生だから言えてしまうという関係とか、「言う」ということそのものを大切にしたいという感じですね。普段生きているときは「言わないようにする」ことの方が多い気もするんですが、関係性によってはその辺の感覚が弱いこともあるな、という自覚が自分の中にあったから、そこをテーマと絡めながら見せていければと思います。
──小栗さんはs**t kingz(シットキングス)として活動されているので、舞台に関しては豊富な経験をお持ちですが、今回ストレートプレイに初挑戦となります。
小栗 今回はダンスがない……ですよね?
海路 今のところは、はい(笑)。
小栗 ダンスがない舞台というのは初めてなので、すごく楽しみです。やっぱりダンスがあるとそこに頼ってしまうところもあるので、それがないという怖さを感じつつも、そこから離れて新しい境地に立てたらいいなというワクワク感もあります。やったことのないことにはどんどんトライしていきたいですし、お芝居は学びが無限にあるので、そうやって新しいことを知れるのがやっていて楽しい理由なのかな、と思います。
──坂ノ上さんは今回が3回目の舞台出演とうかがいました。
坂ノ上 舞台はまだ慣れないですが、初めて舞台に出演したとき、稽古期間を取って一つの作品に時間をしっかりかけられることが贅沢だなと思って、もっと舞台をやりたいと思っていたら、昨年の『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』、そして今回と続いているので、まだまだ慣れないなりに時間を使いながらも作品、そして役と向き合っていくのがすごく楽しみです。
──お2人は、今回の座組は全員初めてご一緒する方たちとのことですが、やはりそういう現場は緊張しますか。
小栗 緊張しますね。でも、そういう場に飛び込むのはワクワク感があって好きです。
坂ノ上 私も緊張はするんですが、なるべく顔に出さないようにしているので、今回の顔合わせのときも平然を装って行こうかなと思っています(笑)。
──海路さんの作品のお稽古場はすごく和やかで雰囲気がふんわりしている、というお話しをよく聞きます。
海路 お芝居をするにあたって、こうしてみたいとか、これわからないとか、そういうことを何の差し障りなく言えたり聞けたり相談できる環境にしたいなと常に思っています。それが結果的に良い作品作りに繋がると思っているので、演出家としての居方というのは意識していますし、今回も硬い空気にならないようにできたらなと思っています。
小栗 海路さんの稽古場ではこれをやります、みたいな独特なものって何かあるんですか。
海路 えー何だろうな……あ、お菓子をまいています(笑)。
小栗 お菓子! それはありがたい(笑)。餌付けされるんですね(笑)。
坂ノ上 お菓子楽しみです(笑)!
──今回の脚本を書くにあたり、物語の立ち上げ方などで何か意識したことはありましたか。
海路 昨年の作品だと『檸檬』と『人二人』という2作品は対極のイメージで、『檸檬』は人間関係だけにフォーカスを置いたようなミニマムな作品なのに対して、『人二人』は起きている事象をひたすら追わせていくというような作り方をした作品なんです。今回の作品はその中間というか、事象を追いつつも、ミニマムなものを描くというチャレンジをしました。あと、劇団の初期の作品はいい意味で演出のことを何も考えていない脚本だったなと思って、最近の作品は演出的にできるかどうかを自然と考えながら書いていたところがあった気がして、だからあえて昔の脚本のように演出をあまり意識しないで書いてみました。
小栗 『人二人』を見たときに、音楽の使い方もすごく印象的だったんですけど、いつもああいうふうに音楽を使うんですか?
海路 使うときと使わないときがあります。音楽が作品に及ぼす影響力っていうのは常々すごく感じていて、ダイレクトに感情を伝えちゃうから、そこのバランスというか見定めを間違えないようにとは思って演出しています。
──最後に、公演を楽しみにしている皆様へのメッセージをお願いします。
坂ノ上 まだまだ私達もこれからどうなっていくのかな、というドキドキとワクワクの中にいますが、それぞれのチャレンジの場所になりそうだな、と思いますし、それを一人ひとりが乗り越えた先に、きっと新しいものが作品として出来上がるんじゃないかなと思うので、気になる方は劇場に観に来ていただけたら嬉しいです。
小栗 今はまだ見えていないことも多いので、稽古が始まってからもう1回取材してほしいです(笑)。もしかしたら今言っていることが「あれはちょっと違いましたね」ってなってる可能性もあるので(笑)。でもその分ワクワクが大きいので、稽古場でいっぱい時間を過ごして、皆さんとの絆も深めつつ、作品との絆も深めつつ、口コミが広がるくらい面白いものにできたらと思います。頑張ります!
海路 今回の作品は今までの作品に比べて、世界との関わりみたいなところを見せたくて、丁寧に作っていきたいという気持ちもあるので、今までの作品の面白さをちゃんと残しつつ、また1個新しいチャレンジをしようと思っています。そういうところも含めて、人間の汚さとか、不条理な世界とかを楽しんでいただけたらと思いますので、劇場でお待ちしています。
取材・文/久田絢子