新たな大学お笑い賞レース「笑学祭」│運営代表・神野考祐 インタビュー

大学のサークルでお笑い芸人としての活動を行う「大学お笑い」が熱い注目を集めている。慶應義塾大学のサークル「お笑い道場O-keis」出身の令和ロマンがM-1グランプリチャンピオンとなり、早稲田大学「お笑い工房LUDO」からはキングオブコント優勝者であるハナコ・岡部大やにゃんこスター・アンゴラ村長、明治大学「木曜会Z」からはR-1グランプリ常連のサツマカワRPGやダイヤモンド・野澤輸出……と、大学お笑い出身者がいまのお笑い界を席巻している。そんな中、新たな大学お笑いの賞レースが産声を上げた。それが「ワタナベ次世代プロジェクト 笑学祭(しょうがくさい)2024」。大学お笑いを対象とした賞レースも乱立する中、「笑学祭」はなぜ生まれたのか、どのような賞レースなのか。運営を務める神野考祐さんに話を聞いた。

1年目にして自由な発想のネタが集まる、大学生のお笑い賞レース

──「笑学祭」はどのような経緯で誕生したんでしょうか?

今、大学お笑いサークルに入っていた芸人さんの活躍が飛躍的に増えていまして、それに伴って現役のお笑いサークル人口も増えていると聞きます。そこで、そのお笑いサークルの皆さんを盛り上げていくことで、今後お笑い業界で活躍する人たちを支えたい、その一端を担える大きな大会を開催したいというのが始まりです。

──かつて、ワタナベエンターテインメントさん主催による「笑樂祭」という賞レースがありましたよね

はい。「笑樂祭」という大学生限定の大会を開催していました。2018年に一旦幕を閉じたのですが、近年のお笑いサークルの盛り上がりを受けて、以前よりさらに大学生にコミットした大会にしていきたいと、読みは同じで「樂」を「学」という文字に変え、新たにスタートさせました。(現在、ワタナベエンターテインメント所属の)あばれる君やハナコ・岡部、Gパンパンダ、ラパルフェは「笑樂祭」の決勝進出経験があるんですよ。

──現在(取材は5月中旬)は5月26日に行われる「笑学祭2024」の準決勝戦に向けての予選が終わったばかりですが、神野さんは実際に予選を見てどんな感想を持たれましたか?

普段私はワタナベコメディスクールにて育成を担当しており、これからプロの芸人さんを目指していきたいというモチベーションの人たちのネタを見ることが多いのですが、その養成所生と違うのは、大学生のみなさんはプロになろうではなく、面白いことをやろうという意識の強い人が多いので、枠に縛られない自由な発想でネタをやっている人がとても多いなと思いました。

さまざまな視点から1位を決める大会に

──決勝戦は6月10日に行われますが、決勝審査員の顔ぶれも新鮮ですね

笑いのプロフェッショナルの皆さんにご参加頂けることになりました。審査のポイントがそれぞれ違うかもしれませんが、そこがいいかなと思っています。バラエティ番組の演出家である藪木健太郎さんにはテレビ制作のプロという視点から審査をして頂きたいですし、ハナコ秋山は賞レースのチャンピオンとして審査をしてほしい。Gパンパンダ星野とゼンモンキー荻野には、自分たちも大学お笑いサークルを経験した先輩の目線として審査をしてほしいと思っています。もちろんネタの面白さもポイントのひとつですが、この顔ぶれだからこそ、いろんな視点によって1位が決まる大会になればと。だからこそ、観客の方にとっても面白い大会になるのではないかな、と思っています。

──優勝者の副賞には、決勝と同じ週に開催される『ワタナベお笑いNo.1決定戦』に出られるというものがあるそうですが

優勝特典について、大学生にヒアリングしてみたんです。すると、「お金よりも大きな舞台に立てることのほうが嬉しい」という声が多くて。イメージと違いましたけど、彼らが喜ぶものを、と『ワタナベお笑いNo.1決定戦』でエキシビションとしてネタができる権利を用意しました。

──大学でお笑いをやっている皆さんは、やはり卒業後、芸人さんを目指すのでしょうか

もちろんプロを目指す人もいますが、お笑いはあくまでもサークル活動で、就職活動に活かしたいとか、人生経験としてやってみたいという人も少なくないんです。お笑いをやる目的が多様化しているなと感じます。そんな中、昨年は「えびしゃ」というトリオが大学を卒業してワタナベコメディスクールに入ってきました。スクール在学中に『ワタナベお笑いNo.1決定戦2023』の決勝進出を決め、芸歴1年目でキングオブコントの準決勝進出をした彼らに憧れてワタナベコメディスクールに入ってくる学生も増えていますね。

──ワタナベコメディスクールに入る方々は芸人としての活動を目指していると思いますが、神野さんが見てきた中で、ワタナベコメディスクールに来る人の中でもなにか変化は感じますか?

賞レースへのこだわりが強い人は増えてきたかもしれません。ただ、賞レースをきっかけに、その後の活動の展望はバラエティに行きたい人、YouTubeで活躍したい人と、それぞれで。幅が広がっている気がしています。

迷っている人の背中を押すことができたら

──いまや主要な事務所はお笑い養成所を持っていて、養成所自体も多様化しているように思いますが、ワタナベコメディスクールの特徴はどんなものですか?

ワタナベコメディスクールでは、人間力や個性を活かすことを大事にしています。以前は「ネタの作り方を教える」という、いわゆる教科書の内容を教えるような授業も行っていたのですが、それを10年ほど前に変えました。個性は人それぞれみんな違うので、ひとつの教科書にはまとめられない。その、人間性や個性を活かすという部分はバラエティでの振る舞いに直結するものでもあるので、以前はバラエティタレントとして活躍する芸人が多くいました。現在はそれをネタにも出していこうという方針で、漫才にしてもコントにしても、自分らしさを活かしたネタづくりを1年間教えています。最近はその結果が少しずつ出てきているのかなと思います。

──「笑学祭」の優勝者はワタナベコメディスクールの授業料免除という副賞がありますが、必ず所属しなくてはならない、というわけではないんですよね?

もちろんです。ただ、枠にとらわれないネタをやり、面白いと思うポイントがそれぞれ全然違う大学生を見ていると、ワタナベコメディスクールで教えられることはたくさんありそうだな、と思います。

──第1回となる今年の「笑学祭」エントリー総数は?

530組です。大学生限定の大会って、現時点で年間10ほどあるんです。でも多くはエントリーの上限が決まっていて、挑戦したいと思っても枠がいっぱいで挑戦できない人もたくさんいます。だからこそ、「笑学祭」ではエントリーした人は全員舞台に立てることを魅力のひとつにできたらと。

──実力があってもタイミングでリングに上がれなかった、ということがないわけですね

そうです。ですから、真の大学生チャンピオンが決められる場になっていると思います。

──「笑学祭」の今後の展望を教えてください

回を重ねるごとにエントリー数が増えて、「大学生のお笑い大会といえば『笑学祭』」というイメージが 一般にも根付く象徴的な大会になっていければなと思います。また、優勝者がM-1グランプリやキングオブコントのような大きな大会でも結果を残すようになればと思います。先ほども触れましたが、やはり大学生の皆さんなので、プロとしてやっていくかどうかを悩んでいる人たちも相当多いんです。大学時代に自信がついたり、何らかの結果が伴えばお笑いの道に進めると考えている人も多くて。だから、悩んでいる人たちが「笑学祭」で結果を残してプロとして世の中に出ていくようなことがあれば。そんなきっかけの大会になるといいなと考えています。

インタビュー・文/釣木文恵
写真/ローチケ演劇部