ふたりの作風を知っていれば納得か。それでもやはり驚きが勝つか。芥川賞作家の村田沙耶香と、岸田國士戯曲賞受賞作家の松井周が、共同でつくった原案をもとに、『変半身(かわりみ)』という同じタイトルで、松井は舞台、村田は小説を発表するプロジェクト=inseparable(インセパラブル)が始まった。
inseparableとは、「切っても切れない」「切り離せない」という意味。ふたりは初対面からinseparableな縁を感じていたようだ。
松井「僕はもともと村田さんの小説を読んでいて『ドッペルゲンガーか』と笑ってしまうくらい、物事の感じ方が似ていると思っていたんです。ゆっくり話をしたのは、僕が主宰している劇団名そのままの『サンプル』という雑誌で対談させてもらったときでした」
村田「『サンプル』の変態特集号と聞いて、なぜか私は雑誌名が『変態』だと勘違いをして、最初からすごい変態トークを展開してしまったんです(笑)」
松井「サンプル=変態で、だいたい合ってます(笑)。ふたりで話すと、お互い、『そうそう!』と話が止まらなくなってしまうんですよね」
すぐに意気投合したふたりだが、いくら感受性が似ていても、一緒に作品をつくるとなると話は別。それでも合作という挑戦に踏み出すことになったのは、『変半身』の企画・編集を務める筑摩書房の山本充氏の「こんなに気が合うなら何か一緒にやってみたら?」という提案がきっかけだった。
村田「山本さんから最初に出たアイディアは、私の小説を戯曲にして松井さんが演出するとか、もしくは私が戯曲をオリジナルで書き下ろして松井さんが演出するといったことでした。でも戯曲と言われたら松井さんの世界がバーッと浮かんでしまって『無理です、許してください』と。そうしたら『とりあえず取材旅行に行かない?』という話になったんです」
松井「一泊だったんですけど、ある島に行ったらすごくおもしろい旅行になったんです」
村田「夜中に散歩していたら血だらけのおじいちゃんと遭遇したりとか(笑)。私は怖かったんですけど松井さんが声をかけてお家まで送り届けたんですよ。翌朝、あれは夢だったんじゃないかって見に行ったら、やっぱり血痕が残ってた」
松井「おじいさん、酔っ払って転んだらしいんですけどね(笑)」
一泊でも平穏に終わらないのは奇才がふたり揃った面目躍如か。けれどもこの旅行で時間を共有したことで、それまでとは違った姿が見えてきたという。
村田「夜中にお墓にガンガン入っていく松井さんを見て、私はできないし、松井さんがそういうことをするからおじいちゃんが血だらけになるんだと思ったんです。そっくりな部分だけでなく、違いも感じました」
松井「僕の中で『これなら一緒にできる』と思ったのは、そのあと城崎での合宿でした。旅行をもとにそれぞれ架空の島について書いて、それを『せーの』で見せ合うというのを1週間ぐらいやったんです。地図を村田さんが描いて僕が年表をつくるとか。そのときに、リンクしていると思える要素がいくつもあった。ふたりの書いたものを整理して、プレイベントみたいな感じでリーディング公演をしたんですけど、そのときに『この島、本当にあるかもな』という感触が得られた。フィクションだし、村田さんとの認識もズレているところがあるかもしれないけど、この島だったら、自分なりに世界が描写できるという感じが確かにしたんです」
村田「そのときはリンクしているところ、驚くほどありましたね。私は普段、自分の創作ノートは絶対に誰にも見せないんですけど、松井さんには見せて、松井さんのつくった言葉もそこに入れて。無邪気というか、ちょっと子どもの頃っぽさもあって楽しかった」
『変半身』の舞台は近未来の東洋のガラパゴスと呼ばれている千久世島という離島。こうした設定は、ふたりのアイディアが合わさって生まれてきたものだ。
村田「わざと混ぜているのではなくて、松井さんの言葉や感覚が自然と混ざった作品になっている。自分だけでは思いつかない世界の小説を今必死に書いてます」
松井「固有名詞とか、どっちが考えたのかわからなくなっているものもあります。小説と舞台の違いや共通点を探してほしいと思います」
双子のような舞台と小説。二つ味わうことでより楽しめることは間違いない。
インタビュー・文/徳永京子
Photo/大橋仁
※構成/月刊ローチケ編集部 9月15日号より転載
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
松井 周
■マツイ シュウ ’07年に劇団サンプルを結成。作家・演出家としての活動をスタートさせる。’11年に『自慢の息子で』第55回岸田國士戯曲賞を受賞。
村田沙耶香
■ムラタ サヤカ 小説家、エッセイスト。’03年、『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞。’16年には『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞した。