温水洋一、入江雅人、中山祐一朗 インタビュー|「物理学者たち」

写真左より 中山祐一朗・入江雅人・温水洋一

スイスを代表する劇作家フリードリヒ・デュレンマットによる喜劇「物理学者たち」。彼の代表作でもある本作は、科学技術と核をめぐる倫理と欲望がシニカルに描かれている。精神病院のサナトリウムで看護婦の殺害事件が発生。犯人を名乗るのは物理学者の男で、院長は放射性物質の影響で常軌を逸した行動をとっていると考えたが、さらなる事件が発生し――。

上演台本・演出を手掛けるのは毒とユーモアを併せ持つノゾエ征爾。キャストには、草刈民代、温水洋一、入江雅人、中山祐一朗、坪倉由幸(我が家)らが名を連ねた。「物理学者」役に挑む、温水、入江、中山の3人に、作品への想いなど話を聞いた。

 

――出演が決まって、作品の第一印象はどういった感じでしたか?

温水 「物理学者たち」というタイトルなので、いったいどういうお話なんだろうと思いましたね。すごくインパクトがありました。僕がお話を聞いたときは、まだほかのキャストは決まっていなくて、ノゾエ征爾さんが演出されるということで、面白いものになるんだろうなという感じがしていました。台本を読んだときは、読み返さないと頭の中で整理がつかないくらいでした(笑)。出てくる人出てくる人みんなが、ちょっとヘンでおかしい。場所は精神病院なんですけど、それもウソなんじゃない?と深読みしたり。とりあえずそのあたりは、最初はボヤっとさせておこう、って感じでした。どの役も一筋縄ではいかない、簡単には演じさせてくれない印象でしたね。

入江 台本を読み始めた時はあんまり面白くないんじゃないかとか思ったんですけど(笑)、途中からひっくり返ったり、古い作品にもかかわらずあんまり見たことのない感じの展開だったりで、エンターテインメントしていると思いました。読み進めていくうちに、興味を惹きつけられた戯曲ですね。さらに、ノゾエくんがちょいちょいヘンなことを差し込んでくれているので…。ノゾエくんとは初めてなんですけど、なんとなく信頼してます。

中山 僕は、最初にオファーが来た時に、(物理学者の役が)僕と温水さんと入江さんだ、と聞いて、すごいところに誘ってくれたな、と台本も読まずに引き受けると即答しました。翌日、事務所に台本を取りに行ったときに、長年やっているマネージャーさんに「この戯曲、難しくないですか?」って聞いたら『難しくないですよ~、最後にちょっとガッとしたところがあるけど、面白いよ』って言われたんですけど…読んでみたら、全然そんなことない。これを難しくない、って言えるあの人の演劇力ってどんだけ?って思いました(笑)。入江さんや温水さんと一緒にやれる!ってテンション上がってたけど、それって結構ハードル高いぞ、ってその時になって気付きました。読んだ直後は恐怖です。でも、お2人にやさしくしていただいて、楽しくやれています。

――温水さんはニュートンを名乗る男、中山さんはアインシュタインを名乗る男、入江さんはソロモン王が現れたと語る男を演じられます。役どころについて、現時点ではどのようにとらえていますか?

温水 精神病院のサナトリウムにいる物理学者なんですが、本当に三者三様で、いろんな物理学者になっています。それに負けないように、というよりは、ぞれぞれの演じ方でやっている気がしますね。いろいろとある役なので、まだまだ探っている感覚です。丁々発止というか、3人で激論するシーンもあるので、気が抜けないですね。でも、楽しみたいと思います。

入江 3人のシーンでどれだけ、僕らが物理学者としてのリアリティを出せるか、みたいなところはあると思うんです。そこは、それぞれが抱えている気持ちをちゃんと提示すればできるんじゃないかな。スパイダーマンじゃないですが、大いなる力を持つ者には責任が伴う、みたいなことなので、そこがいかにちゃんと伝わるか次第。それが伝われば、ちゃんと面白いと思ってもらえるはず。その説得力がカギとなってくるので、頑張らないと、と思っています。

中山 最初に本読みをやったときに、結構早いスピードでやっていて、度肝を抜かれたんですよ。これはかなりセリフを咀嚼しないと、スピードについていけなくなるな、と。かと思えば、入江さんや温水さんはすごく面白く、のらりくらりと演じられているところも唐突にあったりします。”アインシュタイン”を名乗っているという役どころなんですけど、アインシュタインって、娘さんにすごくたくさん手紙を書いているんですよ。最近になってそれが公開されたんですが、その中で「愛をエネルギーに変えればさらに飛躍がある」って言っているんですね。夢物語を残しているのか…でも実際、その可能性もあると思って、すごく面白い考え方ですよね。名乗っている男ですが、そういう役を演じられるのは、すごく嬉しいです。

――ノゾエ征爾さんが演出をされますが、ノゾエさんらしいな、と感じる部分はどんなところですか?

中山 僕は、ノゾエくんの現場って、だいぶ昔に1回だけ呼んでくれただけで、その時はとても嬉しかったけど、その後全然誘われないなぁ?って思ってて(笑)。でも最近の作品も観ていたし、久しぶりに呼んでもらえてうれしいですね。もし、前の時に何か失敗をしてしまって、それで期間があいていたんだとしたら、今回は地雷を踏まないように頑張ります(笑)。ノゾエさんとの現場は、試しやチャレンジがあるんです。まずは決め込まないで、みんなにいろいろ提案をしていきながらやっていく感じなんですね。それをどうにか面白く伝えていきたいです。

入江 劇場でお客さんに観てもらう時に、最初に笑いをポンと生み出せると作品に入りこみやすくなるんですね。翻訳劇ってどうしても敷居が高くなりがちなんですけど、そこをノゾエくんが役の面白みになるように入れてくれている。そういうのをちゃんとわかっている人だと思いますね。

温水 僕はノゾエくんとは3回目で、2~3年くらいに1回でやっているんだけど、以前ご一緒したときは2人芝居だったり、セットがすごく無機質で抽象的だったりと、すごく面白かったんですよ。今回もどういう感じの舞台装置になるのかな?と思っていたら、すでに面白そうな感じになってます。演劇に関しては、厳しくない…っていうのもちょっと違うんですよね。「ちょっとやってみましょうよ」みたいにやさしく提案してくれるんだけど、反応がうまくハネないと、ちょっと違ったか?と思ってしまうような怖さがある感じ。怒鳴ったり怒ったり、そういう激しい姿は今まで見たことがないです。すごくわかりやすい演出をしてくださいますし、それに応えられるように頑張らないと、と思わされます。

 

――サナトリウムの院長を演じられる、草刈民代さんの印象はいかがですか?

温水 現場でよく笑っていらっしゃいますよね。

入江 笑ってる(笑)なんか安心する。

温水 僕は席が隣で、ご主人のこととかプライベートな話も少ししました。芝居に関しては、すごく真面目だよね。

入江 院長とはまだそんなに絡んでないんで…これからですね。

中山 元バレリーナの方なので、姿勢がものすごくいい。芝居が終わって、くたっとなるんじゃなく、スッと背筋が伸びるんですよ。草刈さん、お芝居の宣伝のために、いろいろな番組にも出ていらっしゃるじゃないですか。その時の印象とまったく変わらないと思いますね。

――コロナ禍は演劇にも大きな影響を与えていますが、みなさんはコロナ禍における演劇をどのように考えていらっしゃいますか。

入江 前の世界、というか、マスクをしないでもよかった稽古って、昨年の3月に千秋楽を迎えた作品が最後。その後は、お客さんが半分になったり、公演が中止になったり……まさかマスクをしながら稽古をすることになるなんて、思いもしなかった。

温水 フェイスシールドをしてやったこともありましたよね。

入江 結果、不織布マスクになって。正直息苦しいよね。

温水 でもセリフをしゃべっていると段々ズレてきたりもして…

中山 僕、舞台上でマスクしてないのに、マスクを直そうとしたことあります(笑)。稽古ではずっとマスクだったから、知らずのうちに癖になっているんですよね。

入江 リスクが無いとは言えないけど、演劇人は本当に真面目にやっているし、劇場もすごくしっかり対策している。

温水 演劇は、基本的に座って観ているだけだし、リスクは低い方だとは思うんですけどね。

入江 演劇で収益を上げるのは難しくなっている。でも乗り越えていかなければ、と思って続けていますね。僕はコロナ禍になってからもずっと演劇をやっていて、中止や無観客など、ずっとこれまでの移り変わりを現場で感じていました。無観客の後に、観客を入れることができるようになって上演したときの、拍手のありがたさは、胸に来るものがありました。今回のお芝居も見に来てくださる方に、応えられるお芝居をしたいと思いますね。

中山 僕は、去年のお芝居が全部無くなってしまって、やっと芝居がやれるようになってきたところ。1年以上、まったく芝居ができない環境だったので、単純に共演したことがある方と再会できる喜びとかは今まで以上に大きいですね。やっぱり、芝居をやり続けたいと思います。そして客席が半分になっていても、拍手を受け取る感動は変わらなかったですね。

温水 僕は、コロナ禍によって中止になってしまった芝居は、幸いにしてなかったんです。大阪でやったお芝居が、千秋楽のその日に緊急事態宣言になって、昼に芝居を終えて、打ち上げもせずに東京に帰りました。その次の作品は、ちょっと落ち着いた頃だったので全公演やることができました。コロナ禍になっても、映像の仕事はマスクなどいろいろな対策をして、比較的ずっと撮影されていましたけど、演劇は生なので、どうしても大変。やっぱり、お客さんの前で、生の感情、生の反応を受け取れるのはすごく幸せですね。

――温水さんと中山さんは、アフタートークにご出演の予定がありますね。芝居とはまた違ったお客さんからの反応がありそうです。

温水 アフタートークってたまにあるんですけど、実はモノによっては苦手なんです(笑)

中山 いや僕も…苦手です。けっこう黙ってしまったりします(笑)

温水 シリアスな芝居の後だと、お客さんのほうにもまだ役のイメージもあるので、冗談とか言いにくいですし。でも今回に関しては、裏話的なエピソードもお話できそうな気がしますね。

 

――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

中山 喜劇だなと感じる要素が多々あります。役者さんがこんなに豹変するの?っていうところがたくさんあるし、ナニやっちゃってんの!?と思っていただけるんじゃないかと思うので、ぜひご覧いただきたいです!

入江 翻訳劇ってセリフのせいなのか気取った芝居になりがち。それはそれでいい場合もあるんですけど、今回のはそうじゃない芝居を心がけています。そのためにはセリフをちゃんと覚えて自分のものにしないといけないんですけどね(笑)。ある意味、ものすごくスケールの大きな作品なので、きっと予想とは違う形になると思います。この3人の組み合わせも、たぶんもうないんで(笑)。ぜひ観に来てほしいですね。

温水 本当に、この3人以外も草刈さんをはじめ、最高のキャスティングだと思います。よくここまでそろったな、と。みんな、ちょっとおかしいんですよ(笑)。みんな高いスキルも持っていますしね。ノゾエくんは「最後にお客さんにわかって帰ってもらわないと」ってよく言うんですよ。だから、お客さんが戸惑うくらいの展開もあるので、そこを観やすく、わかりやすくしていくと思います。かしこまらずに、楽しんで来ていただければと思います。

 

取材・文/宮崎新之