舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」が1月7日に初日を迎え、東京・紀伊國屋サザンシアターにて幕を開けた。その公開ゲネプロの模様をお届けする。
本作は、数多くの作品に影響を与えた名著「フランケンシュタイン」に新たな脚色を加え、演出は錦織一清が手掛けたもの。主演となる元宝塚歌劇男役スターの七海ひろきが実験で生み出された怪物に扮し、元宝塚歌劇男役スターで退団後初めて女性の役を演じる彩凪翔、元AKB48で本作がソロとしての初舞台となる横山結衣らが出演。そのほか、岐洲匠、蒼木陣、佐藤信長、北村由海、永田耕一といった魅力的なキャストが名を連ねている。2役、3役と演じるキャストもおり、その演じ分けにも大いに期待してほしい。
――19世紀。科学者のビクター・フランケンシュタイン(岐洲匠)は暗い研究室に籠り、怪しげな実験を行っていた。死体をよみがえらせるという禁忌の実験に成功し、名もなき怪物(七海ひろき)が生まれ、低いうなり声をあげる。ビクターは実験の成功を大いに喜び、自らを父親と呼ばせるが、所詮は実験体と、非道な実験を怪物に行う。やがて怪物は言葉や知性だけでなく、コントロールできないほどの怪力を得るようになり、ビクターから見捨てられてしまう…。
冒頭の10分ほどは、岐洲の独壇場。ほぼひとり芝居で怪物を生み出すほどの狂気をはらんだ実験を観客に見せつけ、一気に物語の世界へと惹き込んでいく。観客のテンションを左右する重要な導入を、鮮やかに演じ切って見せていた。
ビクターのもとを離れた怪物は、街の酒場へと迷い込む。その恐ろしい姿に人々はおびえて散り散りに逃げてしまい、怪物は孤独を募らせる。そこに現れたのは、盲目の娘アガサ(彩凪翔)。盲目であるがゆえ、その姿におびえることはなく、怪物に優しく語り掛ける。そして怪物は、アガサが父や兄と暮らしている森にひとり隠れて暮らし、アガサから言葉や感情を教わりながら交流を深めていく――。
宝塚では男役スターだった彩凪だが、その柔らかな語り口は実に美しく華やかで女性的。そして、しなやかな強さもある。彼女の言葉が無垢な怪物の心にまっすぐに届くことに、強い説得力を感じさせられた。盲目であることで、アガサがたくさんの苦労をしてきたことは想像に難くない。だが、彩凪の振る舞いには、盲目である自分をきちんと受け入れられている強さがある。その強さが、怪物を受け止める強さでもあるのではないかと思えた。
ビクターの研究は、いつまでも少年の心のまま、心の成長が止まっている弟ウィル(佐藤信長)のためのものだった。富豪であるフランケンシュタイン家の屋敷には、ビクターとウィルのほか、養女として引き取られたリズ(横山結衣)も暮らしている。そしてリズとビクターは実は心を重ねており、ビクターらの母の急死をきっかけに2人は婚約。リズはビクターを支えていくと宣言するが――。
天真爛漫なウィルを演じる佐藤。突拍子もないハラハラするような仕草や振る舞いは、本当に幼い子どもそのもの。迷いやためらいを感じさせない、怪物とは違った無垢さを存分に演じ切っていた。また、コロコロと鈴が転がるような可憐さでリズを演じる横山の愛くるしさには、つい目を奪われる。この可憐さがあるからこそ、後半でリズが抱えていたものの凄まじさにも衝撃が走った。ソロになって初めての舞台とのことだが、今後の可能性を期待させる演技を見せつけた。
そして何より、フランケンシュタインのこれまでのイメージを打ち破るような、美しすぎる怪物を演じた七海。野生動物のように鋭い視線で唸る姿から、知性を得てスマートに話す姿まで、いろいろな表情を見せてくれる。人から拒絶されながらも人の営みに憧れる切なさ。孤独だからこそ、人に寄り添い甘えたい心。人に触れて少しずつ知っていく優しさ…。場面が変わるごとに変化していく怪物の表情から、目が離せなくなっていく。
七海が作り上げた怪物は、既成概念に囚われていない、今までのイメージを覆すもの。だが、この麗しい怪物の姿は、これまでにないほど怪物の内面をピュアに具現化しているように思えた。
舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」は、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで1月16日まで、1月20日から23日に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて上演される。
ライター:宮崎新之