ロロ『ロマンティックコメディ』三浦直之 インタビュー「話すこと、対話することをあきらめたくない」

2022年4月15日(金)よりロロの新作『ロマンティックコメディ』が上演される。丘の上にある小さな本屋「ブレックファストブッククラブ」に集まった人々が手にするのは、かつてそこにいた人が遺したある物語。読書会で彼らはなにを語るのか――。
コロナ禍での公演延期を経て2年越しの上演となった本作について、作・演出の三浦直之に話を聞いた。

――『ロマンティックコメディ』はコロナ禍で公演延期になりましたが、当初は2020年に上演予定でした。2年の時を経て、内容やモチーフに変化はあったのでしょうか。

2020年の時点でも、恋愛至上ではない“ロマンティック”について書きたいとは考えていました。その点については今回も変わっていません。ただ、僕自身が死生観についてあらためて考える大きな出来事があり、その部分は今回の台本に大きく影響しています。

――“ロマンティック”=“恋愛”とイメージしてしまいがちですが、そうでないところにフォーカスがある作品。

どうしても“ロマンティックコメディ”というジャンルだと恋愛至上になりがちですよね。パターンでいうと男女がいて、最初はそのふたりが反目し合っているんだけど、さまざまな出来事の中でいつしか惹かれ合って恋人同士になる、みたいな。でも、人生はそこで終わりじゃない。恋愛の先には暮らしがあるわけで、この作品では暮らしの中でふと感じる“ロマンティック”を見つめてみたいと思いました。僕が考える暮らしの中での“ロマンティック”のひとつが作中で大きな役割を果たす読書だったんです。

――1幕までの戯曲を拝読しましたが、喪失感を抱えている人たちのところに、これから消えゆくであろうものを追っている人たちがやってきて、それぞれの想いが交差する柔らかな様子が胸に残りました。

『ロマンティックコメディ』はある本屋が舞台で、かつては存在したけれど、今はいなくなってしまった人が遺した物語を登場人物たちが何度も何度も読み返して解釈し直していく作品です。その物語を開くのは家族だったり友人だったり、いなくなってしまった人のことをまったく知らない人物だったりするのですが。そんな風に、さまざまな関係性の人たちが集まって、かつてはそこに在った人が書いた物語を媒介に、対話を続けていきます。

――その小さな本屋さん「ブレックファストブッククラブ」では読書会が開催されますが、三浦さんご自身は読書会に参加なさったことはありますか?

1度だけあります、友人の紹介でオンラインで行われる読書会に参加しました。読書会って大きく分けて2つのパターンがあるんです。全員が同じ本を読んでその作品について語る場合と、それぞれ自分が薦める本を持ってきてそれについて話すバージョン。僕が参加したのは後者だったのですが、小説を持ってきたのが自分1人だけで「……あれ?」ってなりました(笑)。他の人はエッセイや新書なんかを紹介していた気がします。

――本作では20代から30代中盤くらいまでの比較的ぎゅっとした年代の登場人物たちが会話を紡いでいきますよね。

じつは、作品に同世代の人物が多く登場するっていうのは、僕にとってのコンプレックスでもあるんです。どうしてもそこに行き着きやすいというか。今後はもっと幅広い年代のキャラクターが登場する作品も書いて行ければと考えていますが、この『ロマンティックコメディ』に関しては、最初から同世代の人間たちが交流する展開にしようと決めていました。

――それはなぜ?

それまでやってきた「いつ高シリーズ」の終わりがみえていたことも理由のひとつです。「いつ高シリーズ」はさまざまな制約がある高校演劇での上演を前提に作ってきた作品なので、このシリーズで出会った人たちと、枠組みを外し、ロロのフルスケールの舞台を一緒に作りたいとずっと思っていました。それで今回、ロロのメンバー4人(亀島一徳、篠崎大吾、望月綾乃、森本華)に加え「いつ高シリーズ」にもよく出演してくれた大石将弘さん、大場みなみさん、新名基浩さんに声を掛けました。さらにオーディションにきてくれた堀春菜さんには、コミュニティの外部を担う存在として参加して欲しいと思い、出演をお願いしました。

――ここまでお話をうかがって、三浦さんご自身が過去を見据えつつ変化に向かおうとしている時期なのかも……と感じています。

変わっていかなければいけない気はしています。たとえば、ロロの初期って“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語をずっとやってきたわけで、そのことに対する反省みたいな気持ちも自分の中にはあるんです。あと、ロロ自体が大学で知り合った仲間で始めた劇団で、最初に強いコンセプトがあったわけではないので、それぞれが次第に年を重ねていく中でメンバーと話したりすると、みんな変わっていくのだなあ、と実感します。僕もロロ以外の仕事もたくさんやらせていただくようになる中で、演出家や劇作家として、いつの間にかついてきてしまった権力のようなものや、周囲が見る自分の立ち位置……みたいなことにも自覚的であらねばならないと考えたりもします。

――率直なお話、ありがとうございます。変化という視点でいうと、オンラインでの配信も増えましたね。

そもそも僕が演劇を観るようになったきっかけが、高校時代に見たWOWOW放送の舞台番組だったので、観客として演劇を映像で観ることには何の抵抗もありません。ただ、作り手として考えると、やはりオンラインで演劇を観てもらうことに抵抗や葛藤のようなものも正直あります……ちょっと変な話ですけど(笑)。この点、演劇と映像の関係性という点については、自分なりにもう少し深めて考えていかなければならないと思っています。

――恋愛とは違う形の“ロマンティック”、そこに在った人が遺した物語を愛おしむさまざまな人たちの対話。より劇場で観たいと思いました。

じつは今、僕自身が人と話す、対話することに結構くじけたりもしていて、でも、他者と話すことをあきらめたくないし、希望を持っていきたいと考えています。この『ロマンティックコメディ』は、これまでのロロのフルスケールの作品、時間も空間もどんどん飛んで、1人の俳優さんが複数の役を演じる構成とは違い、場所も固定、演じる役も1人が1役なので、初めてロロに触れる人含め、多くの方に観てもらえたら嬉しいですね。

――人と話すこと、対話をあきらめたくない。

僕は宮城県女川の出身で、昨年、NHKで震災を題材にしたドラマを書かせてもらったんですけど、その取材で津波で流されてしまった大川小学校にうかがったんです。そこでは児童のお父さんが語り部として当時の様子をお話しになっているのですが、昨日もそのことをずっと思い出していました。つらく、悲しい体験をエピソードトークとして語らない。毎回、その時の状況や自分の中に生まれたさまざまな感情をそのまま甦らせて人に伝える。僕は俳優さんって、そのことにとても秀でた人たちだと思っています。何回も同じせりふを語るけれど、その瞬間、新しくその言葉が生まれたように話す……感情を風化させない。『ロマンティックコメディ』もそうですが、そんな物語を作っていきたいです。


取材・文=上村由紀子(演劇ライター)