大型アクション時代劇 舞台『巌流島』│中村隼人(佐々木小次郎 役)インタビュー

剣豪・宮本武蔵と佐々木小次郎が歴史に残る決闘をした巌流島。これまで多くの小説や映画などに取り上げられてきたこの物語を、舞台『真田十勇士』、『魔界転生』を手掛けたマキノノゾミ(脚本)✕堤幸彦(演出)によって2023年に舞台化が決定。新解釈、新設定による大型スペクタクル時代劇として公演される。

主人公・宮本武蔵には横浜流星、ライバルの佐々木小次郎には中村隼人が扮し、スタイリッシュで力強いまったく新しい武蔵&小次郎が誕生する。公演に先立って、佐々木小次郎役を務める中村隼人さんに、『巌流島』への想い、歌舞伎との違い、横浜流星さんとの初共演について語って貰った。

――先日、舞台『巌流島』への出演が発表されました

歌舞伎ではない舞台で、これだけ大きな舞台に立たせて貰うのははじめてのことになります。とはいえ時代劇。歌舞伎との親和性はあると思いますので、自分が培ってきたものがどこまで通用するか、そこはちょっと楽しみにしているところではあります。

――『巌流島』といえば、宮本武蔵と佐々木小次郎の対決ですが、隼人さんはどのようなイメージをお持ちでしたか?

最初にこのお話を頂いたときは、僕の大叔父である萬屋錦之介が武蔵役をやった映画5部作(監督/内田吐夢)を思い浮かべました。無骨で男臭い、カッコいいイメージです。『宮本武蔵 巌流島の決斗』も観ていますが、あのときの佐々木小次郎役は高倉健さんだったんですよね。なので、今回お話を頂いて、「え!? 僕が!?」と驚きました。

――出演にあたって周囲の反応はいかがでしたか?

やはり親戚からは「萬屋だからね」って話にはなりました(笑)。横浜流星くんと共演していた友人の俳優からは「一緒にやるんだね、絶対に観に行くよ!」と連絡が来たり、やはり反響は大きいなと感じています。

――今回の『巌流島』は、脚本がマキノノゾミさん、演出が堤幸彦さんという『真田十勇士』、『魔界転生』タッグによるものです。どのような舞台になりそうですか?

今回は新解釈、新設定と銘打っているとおり、現代にも通じるような人間ドラマになると思います。立ち回りはもちろんですが、人間的な掘り下げが大事になってくるんじゃないかなと思っています。

――新解釈ということは、ストーリー展開も私たちが知っているものとは変わってくるわけですね

そうですね。実際、佐々木小次郎は記録があまり残っていなくて年齢不詳なんです。なので今回の小次郎は、武蔵と同年代で、若い頃に同じ合戦を共にしていたという設定です。そこからいろいろなことを経て、巌流島へという流れなんですけど、なぜふたりは戦うことになったのか?男のロマンじゃないけど、譲れないプライドというか、根幹にある熱い部分が物語の軸として進んでいきます。

――武蔵と同年代の佐々木小次郎なんですね

佐々木小次郎は武蔵を刺激しつづける存在でなければいけないと思います。小次郎も武蔵を意識しているからこその想いもある。そういう熱量みたいなものを多く出せていけたらいいですね。

――宮本武蔵役の横浜流星さんについてはいかがですか?

今回、横浜流星さんとは初共演になります。スチール撮影のときにはじめてお会いしたのですが、それまでは繊細なイメージを持っていたんですけど、纏っているオーラがとても男臭くて、素敵だなと思いました。

――スチール撮影が初対面だったのですか? いきなり刀を持って対峙する撮影は大変だったのでは?

ハハハ。そうなんですよ。

――事前に顔合わせとか、談笑してから撮影になるわけではないんですね

ないない!「おはようございます。よろしくお願いします!」って挨拶してすぐに、刀を持ってバチーン!…って。あれはエグい。緊張しましたよ(笑)。でも、不思議だったのは、流星くんと刀を合わせた瞬間に、ワクワクしたんですよね。僕は歌舞伎でめちゃくちゃ立廻りをしているので、刀を合わせるだけでその人の人間性が伝わってくる感覚があるのですが、あの一瞬で流星くんの熱量が飛んできて、それを僕が受け取ったんでしょうね、すっごいワクワクしたんです。なので、スチール撮影の僕の写真、ニヤッとしてるんです(笑)。

――まさに宮本武蔵と佐々木小次郎が対峙している場面になっています。おふたりの“気”のぶつかり合いが伝わります

なるほど。自分で出しているつもりはないのですが、やっぱり刀を持ったら負けたくないとは正直思っているので、そういった部分が出たのかなと思います。

――歌舞伎と今回のような時代劇ではかなり勝手が違うものですか?

だいぶ違うし、勝手も違うと思うんですけど所作の部分だったり立ち回りの部分では通じるところはありますよね。歌舞伎は様式美を追求したカタチで残っているのですが、だからこそ、そこに嘘はない。僕は日本刀も習っていますけど、袈裟斬りとか真っ向斬りとかのカタチは変わらない。歌舞伎ではそれを遠くのお客さまに見えるように大きな動きにしていますけど、基本的な部分は同じです。

――佐々木小次郎には、“燕返し”や“物干し竿のような長刀”という特徴がありますけど、舞台でそれをやるのはかなり難しいのでは?

そうですね。今回の殺陣師は諸鍛冶裕太さん(映画『東京リベンジャーズ』、舞台『真田十勇士」ほか)なんですけど、偶然別の現場でお会いした際、あまり長い刀にすると立ち回りの際、周囲も気を使うし、殺陣に影響が出ると本末転倒だから、そこは意識しないでやろうということを話しました。僕はもともと歌舞伎でも長めのものを使っているので、そこは諸鍛冶さんと相談しながらやっていこうと思います。

――殺陣はかなり激しいものになりそうですね

諸鍛冶さんとは『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』、『新作歌舞伎NARUTO』でもご一緒しましたが、めちゃくちゃ大変でした(笑)。『~NARUTO』の通し稽古のとき、あまりにもハードすぎて脱水症状で倒れましたからね。とにかく場面、場面ですごい殺陣をつけちゃうんですよね(笑)。諸鍛冶さんにとっては『巌流島』というテーマは教科書のようなものだと思うので、今回も凄い殺陣になると思います。

――武蔵との決闘だけじゃなく、他の殺陣シーンも凄いものが観られそうですね。ワクワクしてきました

僕もワクワクしています。キャストの方も百戦錬磨の方たちばかりなので楽しみです。荒井敦史くんや山口馬木也さんとは以前から「いつか一緒に舞台をやりたいね」という話をしていたので、やっと夢が叶いました。

――来年2月10日~22日は東京・明治座での公演になります

明治座は歌舞伎でも馴染みのある劇場ですし、よく観に行っていた劇場でもあります。僕は、人形町の駅から明治座に行くまでの道のりも好きなんですよね。甘酒横丁ってところを通るんですけど、有名な玉子焼き屋さんやたいやき屋さんがあったりして、ちょっとタイムスリップしたような感覚を味わえるんです。間違いなくいい劇場なので、そこをどう活かすのかが楽しみです。

――明治座公演が終わると金沢・新潟・秋田・名古屋・神戸・高松・福岡と全国を巡ります。楽しみにしていることはありますか?

東京と関西ではお客さまの観劇スタイルが違うんですよね。東京の人はわりと物静かにじっくり観てくださり、関西は面白かったら手を叩いてくれるし、笑ってくれる。参加しようとしてくれる気がします。今回は行ったことがない地域でも公演するので、そこではどんなお客さまが観てくれるんだろうかっていうのも期待しているところです。

――最後に『巌流島』に挑む意気込みを聞かせてください

ひとつ言えるのは巌流島というのは、宮本武蔵と佐々木小次郎を軸にした物語だということです。この軸がしっかりしていないと、ブレブレになってしまうので、まずはその軸をしっかり演じようと思っています。流星くんとお互いを意識しあっている部分を表現できれば。そうすればあとはもう最後の決闘に繋がっていくと思っています。

―― どういう経緯を経てふたりが対峙するのか? そしてどんな決闘が見られるのか、期待が高まります

決闘までいってしまえば、、流星くんも凄いアクションができる方だし、見応えがある場面になると思います。お互いそれまでの人生で培ってきたものを舞台上で変換して、それがどう交わるのか?僕も今からワクワクしています。

――ありがとうございました

インタビュー・文/高畠正人
写真/村上宗一郎