写真左から、福崎那由他、佐久本宝
タカイアキフミが主宰、作、演出を務めるソロプロデュースユニットTAACが、福崎那由他、佐久本宝を主演に迎えてお届けする新作公演「GOOD BOYS」。アゴタ・クリストフの小説「悪童日記」に着想を得て、現代の日本で過酷な状況の中でも強く生きようとする双子の姿を生々しく描いていく。並々ならぬ覚悟で臨む、タカイ、福崎、佐久本の三人に話を聞いた。
――今回の作品は、アゴタ・クリストフの「悪童日記」にインスピレーションを受け、書き始めたお話とお聞きしました。タカイさんはどのような想いでお書きになったものなのでしょうか?
タカイ 「悪童日記」はフランス語で書かれた小説で、第二次世界大戦下のヨーロッパと思われる場所が舞台となっています。戦争中での貧困の中で生きる双子とおばあちゃんの物語で、過酷な状況の中でも非常に強く、めげずに生きる様が、現代のコロナ禍に生きる人々に、少し思いをはせるような感覚があったんですね。大きな渦に飲み込まれてしまう中で、人間の科学、倫理、モラル、道徳…そういうものが、進化していると思うんですけど、人間の動物としての弱さみたいなものが露呈したんじゃないかと思ったんです。小説内で強く生きる彼らが、僕にとってはセンセーショナルで、羨ましくもありました。双子は国のせいにするでもなく、周りにいる誰かのせいにするでもなく、ただ自分たちが強くなって、自分たちで生き抜けばいいと思っているんですね。人間として強く生きることは、とても大切なことだと思ったんです。この感覚を、現代の人にも演劇作品として届けたい。それが書き始めたきっかけです。
――主演の双子を演じられる福崎那由他さんと佐久本宝さんは、ご出演にあたりどのようなお気持ちでいらっしゃいますか?
福崎 僕はまず「悪童日記」の小説を読んでみました。小説でも双子であることがすごく大事なことでしたが、舞台でもそれは大事なんじゃないかと思っていて、一心同体な二人を舞台上でどう描いていくのか今から楽しみです。お芝居を一緒にするにあたって、寄り添わなきゃいけないと思うんですけど、違う人間同士だし、一緒に生まれたわけでもない僕たちが双子の役を演じるというのはプレッシャーみたいなものを感じます。僕らが寄り添ってやっているつもりでも、お客さんがどう感じるかはまた違う。僕らの感覚と乖離させないための見せ方は、どんどん勉強していかなきゃな、と思っています。
佐久本 タカイさんの舞台は以前から観に行かせていただいていたんですが、お話をいただいたときに、自分がタカイさんの想像するような形のお芝居ができるだろうか、と思ってしまいました。タカイさんは、人の営みというか、本当に繊細なところをめちゃくちゃ見ているし、考えていて表現したいと考えていらっしゃると思うんですね。でも、僕の今までの役って、荒くれものとか、すごい陰キャの男の子とか、どちらかというとキャラ立ちしているような役ばかりだったので、果たして僕がタカイさんの目指す方向のピースになれるかな、という不安はありました。でも「悪童日記」を読んで、それに着想を受けた話を描きたいと考えたタカイさんのことがもっと知りたくなったんです。なぜこの作品を今やらなきゃいけないのか、その覚悟を本当に知りたくなったし、そんな面白いことをやるならぜひとも一緒にやりたいと思いましたね。
――お互いの印象はいかがですか?
福崎 初対面はタカイさんのワークショップ。第一印象としては、やっぱり自分とは違う人間だな、と(笑)。でも、ワークショップをやっていく中で、何か通じているような感覚を共有させてもらったので“一緒じゃないけど、わかる”っていう感じにはなれるんじゃないかと感じました。
佐久本 芝居の仕方がちょっと違うんですよね。入り方とか。
福崎 本質的には一緒だと思うんですけど、僕は割とフラットな方で、僕が考えもしなかったアプローチで来るんですよね。一緒のセリフを言っても、出てくる感じが違うというか。きっと、佐久本くんは自家発電できるタイプだと思うんですよね。僕は、周りの環境から力を受け取って、その流れで出すタイプ。僕にないものを持っていると思います。
佐久本 僕は那由他くんの作品を見ていたので、めちゃくちゃクールな男が来るんだろうな、と思っていたんですよ。そしたら、めちゃくちゃ腰が低くて、しかも芝居をするときはずっと胸の内に熱いものが動いているような、そんな芝居をするんですね。彼自身が動いていない芝居の時でも、心がずっと動いているというか。受け取る方も、どんどんそれに引き寄せられていくんです。そこがすごく自然な感じがしますね。僕は野生って感じで(笑)。僕がやっていることに対して、決して大きなリアクションじゃないけど、ちゃんと変化を感じられるリアクションが返ってくるんですよ。だからこそ、こちらも次のアプローチに行ける。それが、やっていてすごく楽しかったですね。
――タカイさんは、お二人にどのような印象をお持ちですか?
タカイ ワークショップを一緒にやった時の印象だと、正反対の二人だなって思いました。芝居の質として、さっき那由他くんが言っていたようなニュアンスを僕も受け取っていました。二人がそれぞれ持ち合わせていないものを、それぞれに持っているわけなので、それが合体して一人に見えたら最高だな、と思いながらワークショップを見ていましたね。もともと、そういう考えだったわけでは無かったんですけど、ワークショップでそんな感覚が生まれましたね。2人が持ち合わせているものを、一つの人格として作れたら、持っていないものも相手側に作用させることができると思いますし、双子としての化学反応が生まれるんじゃないかと思ってワクワクしました。僕は基本的にいつも、当て書きというか、お願いする役者さんに向けてのセリフを書いたりして物語を書いているので、お2人が役者としても、人間としてもどんな人なのかを知った上で書きたいと思いました。
――今回は、お話もタカイさんの中ではかなり攻めた作品になるとお聞きしました。今はどのようなイメージを広げていらっしゃいますか?
タカイ 双子やおばあちゃん、そのほかの登場人物も、なかなか普通の人には理解しえない決断や判断を下していくので、そこに説得力を持たせるのは意識したいですね。現代に生きる人々に、その部分に説得力を持たせた行動は、鮮烈だったり、ショッキングだったりすると思うので。僕たちが今日生きている中では、なかなか馴染みのない、ニュースにも上がってこないくらいの出来事がたくさん起こっています。TAACは普段、人の営みや実際に起こった事件をモチーフにしていたりするんですが、今回はそれよりも過酷なものを突き付けることになるだろうと思っています。だからこそ、今までに描いてきたようなリアリティや営みが、ちゃんと物語の裏に流れているんだということを、明確に、色濃く描いていかなければと思っています。僕たち現代人が持ち合わせていないものを描こうとしているので、そういう意味では共感というのは難しいかもしれない。でも、痛いものを見る反動で、そこに憧れとか羨ましさとか、そういうプラスの感情にスイッチを入れ替えることが劇中でできればいいですね。
――双子を演じるうえで、大切になってくるのはどういうものだと思いますか?
佐久本 関西演劇祭2022にタカイさんが参加していらっしゃって、この「GOOD BOYS」のキャスト4人で45分のバージョンをやっていて、その稽古動画も拝見させていただいたんです。やっていることはすごくショッキングだし、普通の人間には理解できないし、その環境もすごく残酷すぎるんですね。それなのに、僕は観たときにすごくあったかいな、と思ったんです。この作品をやる上で、このあたたかさがあった方がいいなと思っていて、その方が明日につながる希望にもなるというか。本当にバランスも難しくて、一つ欠けてしまうだけですべてが崩れてしまうし、本当に言いたいことも言えなくなってしまうし、感じてもらえることが変わってしまう気もするんですけど、これでいいのか、としっかりと疑問を抱きながら稽古に臨めたらいいなと思っています。
福崎 僕はモチーフとなっている小説を読んだ時に、双子がすごく無機質に思えたんですね。残酷なことも平然とやってしまう。日記のスタイルで書かれていることもあって、残酷なこともまっすぐにやっているような、まるで心が無いかのように見えて。お芝居でそう見えちゃうのはすごく残念だな、と思ったんです。関西の通し稽古を映像で拝見した時に、すごく血が通っているように見えて、それはさっき宝くんが言ったようなあたたかさ、生きている感じがするってそういうことだな、と思いました。人間らしさが見えていたので、そこをちゃんと表現できたら、おもしろいものになるんじゃないかな。強くなりたい、ということがテーマになっているので、強くなるための自分なりの試練や壁を乗り越えるためにやっていること、その葛藤をしっかりと見せられたらと思います。
――強くなりたい、という気持ちがひとつのテーマになっていますが、みなさんが考える強さとは?
福崎 弱さを知っている人、だと思います。昔、仮面ライダーを見ていて、本当の人格はすごく弱いんですけど、弱いからこそ弱い人の心がわかるし、寄り添うことができると思ったんです。自分がそういう立場だからこそわかる強さ。自分の弱さを認めていることが、強さに通じていると思います。
佐久本 強い、って憧れでしかないんですよね。僕はどちらかというと弱かった人間なので、強くなりたい、って思っていました。でも、どうしても届かない。強い人をイメージした時に、一番に出てくるのは母なんですよ。母はメチャクチャ強くて、力も強いんですけど頭も良くて、女性としてたくましく生きているんです。でも多分、その倍くらい嫌なこともたくさんあったと思うんですよね。一人でも生きていく、あんたたちを守る、そういうかっこいい母を見ていると…そうなりたい、とは思わないけど、その生きざまは好きです。憧れるだけで、叶う気がしないんですよね。
タカイ 僕の場合は…あんまりできていないことで言うと、継続性ですね。続けることができる、って結構強いと思うんです。人生いろいろあって、いろんなことを続けていこうとするわけですけど、いろんな試練があったり、現実があったり、事情があったりでやめてしまうことの方がやっぱり多い。続けられるっていうのは、自分にとっての意思の強さだったり、好きのレベルの強さであったり、一定のものを超越していないと続けられない気がしますね。その強さを持つべきかどうかはわからないですけど。僕は結構、いろんなものを辞めたり諦めたりしてきた人生なので、継続への憧れもあるし、自分にない強さだと思ったりします。
――生きることももう一つのテーマかと思います。最近、自分が生きているな、と実感したことはなんでしょうか?
タカイ 難しいな(笑)。今、関西に来ていて、普段と違う環境でスタッフに頼ることもなく、結構自分でやっているんですね。東京にいる時よりも演劇をやっている時間が長いんですけど、演劇を役者たちと立ち上げる中で、いいシーンができたり、自分自身でも心が震えるような場面ができたりしたときは、人間として豊かに生きられているな、って感じますね。演劇って、絶対に生活に必要なものではないかもしれないんですけど、豊かな無駄というか。そういうものを自分が作れた時に生きている実感がありますね。あとは、お酒の1杯目です(笑)。
佐久本 お酒の1杯目は、めっちゃ同じです(笑)。僕はこの間まで沖縄に帰っていて、海を見ながら空けたオリオンビールは、本当にヤバかったですね。空も星がめっちゃバーンって広がっていて、あーたまんないな、生きていてよかったな、って思いました。もう景色だけで何杯でもいけるツマミになるし、ほっとできるし。オリオンビールって、本当に水代わりに飲めちゃうくらい軽いじゃないですか。沖縄で飲むと本当に美味しくて、ちょうどいいんだなって思います。
福崎 僕が最近思っているのは、朝起きた時ですね。起きてしまったとき、と言いますか(笑)。どれだけ嫌なことがあった時も、どんなに泣いた日でも、本当にお酒をめっちゃ飲んでめっちゃ気持ちが悪い日も、目が覚めて起きたときに、やっぱり生きているんだな、って思ってしまうんです。どれだけ人生最悪だと思った日でも、次の日は普通に明日がやってきてしまうって実感した時に、いい意味でも悪い意味でも、まだ生きているな、って思います。一つの踏ん切りになるというか、いい意味での諦めになるんですよね(笑)。
――最後に、公演を楽しみにしている人にメッセージをお願いします!
福崎 お話としてはハッピーな話ではないと思いますし、観ている中で心にウッと来てしまうようなところもあります。そういう場面もあると思いますが、作品として伝えられることをしっかりと伝えて、皆さんを楽しませることができたらと思っています。ぜひ劇場に足を運んでいただけると嬉しいです!
佐久本 この作品が一筋縄ではいかないことは、キャストもスタッフも全員がわかっていること。気合を入れて作っていきます!この作品がお客様に届いたときに、ものすごい演劇の力になると思っています。もしかしたら世の中を動かせるかもしれないぐらいに、心を揺さぶられる作品なので、本当に会場に足を運んでいただいて、生で僕たちの姿を見てほしいです。
タカイ 今のようなご時世で、あまり傷つきすぎず、笑って泣けるような物語を欲していらっしゃる方がたくさんいるのはわかっています。ですが、そんな時だからこそ必要な物語があるはず。ちょっと身構えて観ていただくことが必要なのかも知れないですが、その先にしっかりしたものを用意したいと僕自身は思っています。今回、那由他くん、宝くんを含め、素晴らしいキャストが集まりました。僕らは本当に真摯に、皆様に劇場から持って帰っていただけるものを作っていきます。すさまじいものを作ろうという気概でいますので、皆さんも期待して劇場に来ていただきたいですね。
インタビュー・文/宮崎 新之