アメツチ怪談『番町皿屋敷』│安藤匠郎(アメツチ)×阿部快征 インタビュー

写真左から)安藤匠郎(アメツチ)、阿部快征

有名な怪談の一つである「お菊さん」を、明治時代の劇作家・岡本綺堂が脚色し、切なくも美しい悲恋物語に仕上げた戯曲『番長皿屋敷』。怖くない怪談が、10月6日(金)~9日(月)まで東京・渋谷区伝承ホールにて上演される。 本作のプロデュースを行うアメツチの安藤匠郎と、旗本・青山播磨を演じる阿部快征に話を聞いた。

――まずは意気込みを教えてください

阿部 久しぶりのアメツチさんの朗読劇への出演です。前回は仲間と一緒に大きな敵と戦う物語で、チームワークで挑みました。今回は個々のストーリーがあり、一人ひとりがじっくりと作品に向き合う部分が多いと思うので、どれくらい成長したか見せたいです。あと、僕自身怖いものがダメで、ファンの方もそれを知っているんです。意外と怖いのもいけるんだぞと。強気な快征を見せられるかと思います!

安藤 今回のキャスト、怖いの苦手な人が多すぎる(笑)。

阿部 この時期って怖いCMが増えるじゃないですか。そういうのを見ると夜寝る時に電気を消せないんですけど、本番後はちゃんと電気を消して眠って次の日の本番に臨めるように挑戦ですね。

――阿部さんは今回、3回目のアメツチさんの公演です。アメツチさんの魅力、阿部さんへオファーした理由をそれぞれ教えていただけますか?

阿部 アメツチさんの作品はストーリーが濃厚で、見た後に爽快感があるものが多い印象です。今回は怪談系ということで、今までのように綺麗な終わり方をするかどうか、お客様にも楽しみにしていてほしいですね。朗読劇だけど映像と一緒にやるのも魅力なので、そこも注目していただけたら。

安藤 基本、快征には劇中で一番おバカな役をやってもらっているんですよね。ピンチの時も笑っていたり冗談を飛ばしたりできる陽キャがいたら「これは快征かな」って(笑)。忙しいから中々毎回とはいかないんですけど。

――今回の播磨はだいぶ違う雰囲気のキャラクターですね

安藤 僕も演出の山田(英真)も元々役者をやっていたということもあって、「こういうイメージだからそれしかオファーしない」というのは失礼だと思っています。人間っていろんな側面を持っているので、快征は明るくていいやつだけどそうじゃない部分もあるはず。できるだろう!と。

阿部 配役が余っていたのかと思ったので安心しました(笑)。

――今回の戯曲の印象、この話を選んだ理由は?

阿部 僕は怪談が苦手で、耳に入れないようにしていました。ただ、今回は怖がらせるだけの話じゃない。人間関係やストーリーを読み解いてお客様にも伝えられたらいいなと思っています。

安藤 怪談や怖い話は、何か理由があって生まれたと思うんです。先日大学教授の方にお話を聞いたんですが、怪談はみんながこんなことがあったら怖いと思っていたり、ありそうだと思ってるから共感を呼んで語り継がれた。文化や想いが根底にあるのが魅力だと感じました。それで調べていくうちに岡本綺堂がこういった戯曲を書いていることを知って。ただの怖い話だと、いかに怖がらせるかが重要になって役者の芝居があまり関係なくなるから、しっかりお芝居をできるものにしようと決めました。

阿部 怖い話って夏の風物詩だけど、深く読み込む人って多くないじゃないですか。この作品を見たら、「実はこんな裏話があったんだよ」って友達に話せると思います。

――播磨の愛を試すために家宝を割ってしまうお菊さんと、自分の愛を疑われたことに激昂して家宝を全部割った上でお菊さんを殺す播磨。どちらに共感しますか?

阿部 僕は人を試すってことをやりがちなんです。「これをしたらこの人はどんな反応をするんだろう?」といういたずら心が湧いてしまうのでお菊さん寄りですかね。でも僕は怒られた後にどう誤魔化すかまで考えているので、生粋の天才いたずらっ子です(笑)。

安藤 一応序盤で播磨は激情型だと言われてはいるんですよね。だから怒るのもわかるけどやりすぎだとは思います(笑)。お菊さんが試そうとすることや、自分に好意があるけど不器用で他の方法を思いつかないっていうのは可愛いなと思うんですが。どちらかというと播磨寄りだけど、僕自身は身分違いでもいけるだろうと思うタイプ。キャスティングとかでも「どうせ……」とは思わず連絡しますね。

阿部 僕は結構考えちゃうタイプですね。立場を考えて無理だと思ったら他の道を探すので、チャレンジ精神はあまりないかも。

――演出のアイデアはもうできていますか?

安藤 今回のストーリーは場面転換が少ないので、どの部分をどこまで演出するか(山田)英真が悩んでいます。ただ、映像を使うことで生の良さが薄れるのは嫌。絶妙な補足をしたいですね。

――アメツチさんから阿部さんに期待することはなんでしょう?

安藤 一皮も二皮も剥けた姿を見せてほしいですよね。大きな劇場にも出ているし、売れてるので。最後に会った時から環境もいろいろ変わっているだろうし、まだ若くて成長も早いから。

阿部 若いって言っても27歳なんですよ(笑)。でも25歳頃からお付き合いがあるんで、ちょっと渋さの出た僕を見てほしいですね。僕から期待することは、怪談なので稽古は18時までにしてほしい。明るいうちに帰らせてもらって、怪談を忘れてゆっくりお風呂に入ってから寝たいです(笑)。

――まだ顔合わせ前だとは思いますが、共演者の皆さんの印象を教えてください

阿部 橋本全一さんとは何度か共演していますが、全さんの声って低くて落ち着く部分もあるし、話し方によってすごく怖くなることもあるんです。力強くて物語を伝えるのに適したいい声なので、朗読劇でどんな伝え方をするのか。学んで盗めたらいいなと思っています。あと、声優さんはやっぱり伝え方が上手いんですよね。息の切り方や間の取り方なども学びたいです。

そういえば、今回もアフタートークがあるんですよね? 僕にとってはそこが見せどころです。個人イベントのノリにならないように気をつけつつ、しっかりお客さんを楽しませられたらいいなと思います。

安藤 大丈夫、タブーはないから(笑)。

阿部 ストーリーと一緒にアフタートークも楽しんでください!

――この後ビジュアル撮影ということですが……

阿部 今回は着物なんです。個人的な話になりますが、同時期にちょうど別の朗読劇(『ハンサム落語』)にも出演していて、そっちも和。それぞれ違う和の阿部快征を楽しんでいただけたら。

安藤 マチソワで劇場を移動する日もあるんですが、劇場が近いので移動中もカメラ回したいですね(笑)。

――最後に、お客様へのメッセージをお願いします

安藤 歌ったり踊ったりはしませんし、テーマとしても割と地味だと思います。でも役者の力を信じて作っていますので、芝居や掛け合いの妙を楽しんでいただけたら。キャストの組み合わせによっても印象が変わると思うので、よければ何パターンか見てほしいですね。

阿部 今回、僕自身も苦手な怪談に挑戦します。この作品に向き合って読み解いた後にまだ怖いと思うのか、いい話だと思うのかを僕自身も楽しみにしています。お客様の中にも、「怪談=怖い」というイメージを持っている方は多いと思います。この作品を見て聞いて楽しんで、その先に待っているものを共有してもらえたら。ぜひ劇場に足を運んでください。

インタビュー・写真/吉田沙奈