バロック音楽劇『ヴィヴァルディ -四季-』│辰巳琢郎、高田 翔 インタビュー

2023年12月9日(土)・10日(日)に愛知・ウインクあいち大ホールで開幕し、2023年12月27日(水)~12月28日(木)には兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで、2024年1月6日(土)~1月14日(日)は東京・新国立劇場 小劇場にて上演される、バロック音楽劇『ヴィヴァルディ -四季-』。

バロック音楽で人気の高いアントニオ・ヴィヴァルディの『四季』は、誰もが一度は聞いたことがある有名なヴァイオリン協奏曲だ。1723年、ヴィヴァルディが45歳の時に作曲されてから、今年は300年の節目に当たる年となる。

本作では、アントニオ・ヴィヴァルディが父・ジョヴァンニ・ヴィヴァルディと育んだ栄光と挫折、そして希望に満ちた人生を代表曲である『四季』にのせて、サン・マルコ広場に近いカフェに集う人々との触れあいと共に描いていく。

本公演の稽古開始間もない時期に取材会が開催され、ジョヴァンニ・ヴィヴァルディを演じる辰巳琢郎とアントニオ・ヴィヴァルディを演じる高田翔が登壇。稽古が始まった手応えと作品への熱い想いを語った。

――稽古が始まりましたが、手応えはいかがですか?

高田 稽古が始まって間もないですが、順調に進んでいると感じています。1幕、2幕を通して細かく稽古をしている段階です。現場の雰囲気はとてもいいですし、アットホームな感じですね。

辰巳 出演者の皆さんは、それぞれの個性があって、とてもいいものができそうな予感がしています。高田くんと親子の役なので、この辺りをきちんと作っていかなければ…。

ジョヴァンニとアントニオは、非常に特殊な親子です。父親が息子のアントニオが天才だと気づいて、その才能を伸ばそうとします。あまり身分が高くない中で、息子を世に出すため神学校に入れて司祭にするのですが、時代が変わっても、洋の東西を問わず親子の感情、向き合い方、子どもを信じる親の気持ちは、変わらないと思います。

僕は40代後半の壮年期から70歳過ぎぐらいまでを演じますし、高田くんは25歳ぐらいから50代ぐらいまで演じ、2人の人生を春、夏、秋、冬になぞらえて書かれた脚本です。時代の流れをどう見せていくのかが課題になっていますが、いろんな登場人物に共感できる芝居になるのではないでしょうか。

――親子としての役作りはこれから…というお話がありましたが、今の時点でお互いの印象はいかがでしょうか

高田 第一印象は、辰巳さんはすごくいい声だなということです。とてもダンディーで心地良く、かつ力強さがあって重厚感もある。お芝居しながら「いいなあ」って素直に思いました。

辰巳 彼は見るからに好青年ですし、かつ芯もあるし華もある。高田くんのいいところをどうやって伸ばしていくかという作業になると思っています。とても女性にモテますが、そんな話も芝居の中に出てきます。柔らかさプラス男っぽさ、両方を兼ね備えているので、非常に楽しみです。

それぞれ干渉し合いながら良さが引き出されていくのが芝居の楽しいところです。どうやって出演者全員がお互いを理解しながらコミュニケーションを取っていくのか…というのが一番楽しいところですね。

――親子としての関係を作っていく中で、実際にお二人は現場でどのような点を心掛けていこうと思いますか?

辰巳 食事に行ったり、お酒を飲んだりしたいですね。稽古以外の話をする余裕がないんですよ。(高田に向かって)あまり飲まないんだっけ?

高田 行きたいですね、ただ最近急にお酒に弱くなってきたので毎日ウコンを飲んでます。健康のためにウコンでいいって母がくれたんですよ(笑)。

辰巳 こういう話を色々したいですね。

――本作はヴィヴァルディの曲が堪能できるところも魅力の一つです。辰巳さんはクラシックにお詳しいと思いますが、好きな作曲家はいらっしゃいますか? 

辰巳 誰が好きで傾倒しているというのはないのですが、僕は大学時代の卒論のテーマがピーター・シェーフォーの「アマデウス」の研究だったんです。先輩からLPをどっさり借りて聞きまくっていました。娘(辰巳真理恵)がソプラノオペラ歌手になったので、最近はオペラを観たり聞いたりすることが多いですね。クラシックもいろいろなジャンルがあって一つに絞れないのですが、今回はヴィヴァルディなので、きちんと聴いてみなければと思っています。そう言えば私生活でも音楽家の父親でした。

高田 クラシックからちょっとずれちゃうかもしれないですけど、僕は久石譲さんの曲をずっと聴いていて、歌詞がない音楽を聴くのがすごく好きで、舞台の本番前に絶対聴くようにしています。僕の中でルーティンになっています。きっと今回も作品をきっかけにクラシック音楽について知っていけるんじゃないかなと思っています。

辰巳 僕も全然クラシックに詳しかったわけではなくて、仕事を通じて沢山出会いがあり、だんだん知識が広がっていきましたからね。「いいな」と思ったらまず片っ端から聴いてみるといいよ。

――今回の作品は夢を叶えることを描いていますが、お二人は夢を追いかけることをどのように考えていますか?

高田 僕が仕事をしていく上で「一人じゃない」ということを大事にしています。自分一人の力じゃできないことですし、周りの人に支えてもらって感謝しながら力をいただいたり、力を与えたり、そういうお互いのキャッチボールが大事なんじゃないかと思っています。

僕はあまり人に夢を語らないタイプですが、「ああいう役をやりたいな」とか「こういう仕事がしたいな」って言ったほうがいいのかなと思う時があります。20歳ぐらいのときに「競馬が好きなんです」と言ったら、競馬の仕事をやらせてもらい、今に至っています。趣味が仕事になった、夢が叶ったって思ってます。

辰巳 まだまだ自分自身、やりたいことがあるけれども、今は若手や後輩、自分が教えている学生が夢を叶えるために成長していく姿を見ることが楽しいですね。この間40年ぶりに自分が学生時代に主宰していた「劇団そとばこまち」の作品に客演しましたが、全然違和感がなかったんです。劇団とずっとバトンを繋いできてくれたのが非常に嬉しかったし、楽しい日々でした。高田くんも言ってましたけれども、みんなで一つの作品を作ることが好きで、高校時代に芝居を始めたことを想い出しましたね。

「劇団そとばこまち」の舞台『贋作写楽』では、蔦屋重三郎を演じましたが、そのセリフに「絵や芝居や音楽が廃れ、人の心がささくれ立ち、余裕がなくなっちまった時に起こるのが戦だ。絵にはそれを止める力、争う心を溶かしちまう力があると信じてんだ」というのがありました。いい言葉でしょ?

明日も頑張ろうと明るい気持ちを持ってもらえるような芝居をやることが非常に大事なことだと思っているし使命感を持ってやっています。来てくださったお客さまが喜んで帰られる、そういう顔を見られるのが本当に嬉しくて、だからみんな舞台が好きなんじゃないでしょうか。改めて思います。

還暦を過ぎて初心にかえるといいますか、だんだんそういう方向に戻ってきたなと自分で思っています。まさにこれが若い頃見ていた夢なんですよね。世の中を明るくしていこうと、(高田のほうを見て)ね!そういう風にしたいよね!

高田 はい!

――最後に、本公演の見どころをお聞かせください

高田 最後に少し歌を歌うシーンが見どころですね。そのシーンは大事なのでぜひ注目してください。
そして生演奏も素晴らしくて、その中で芝居をお届けできるのが音楽劇ならではだと思います。すごく上品な作品になると思います。その中でちょっと笑えるところもあります。チームワークの良さが出せたらいいなと思いますので、ぜひ観に来てください。

辰巳 大きな仕掛けや濃い見せ場があるわけではないのですが、人が日常の会話をしている雰囲気を表現すること、リアルな空気を作れたらと思っています。

舞台がイタリア・ヴェネチアなので、その雰囲気を出したいですね。イタリアの方は、心底生活を楽しんでいるように見えるし、自分の生まれ育った地元を愛しているんですよ。

生まれた町で学校へ行き、仕事をして、恋人を作って結婚して、子どもができて、その町で死んでいくという雰囲気がイタリアにあるような気がします。作品の中にピエタという孤児院が話の中に出てきますが、親に捨てられたけど、地元の人たちに守られて育ってきた登場人物が何人も出てきます。そんな空気感を出したい。それができたら最高ですね。

12月上旬に名古屋公演が終わり、少し間があいて兵庫公演、そして年が明けて東京公演があります。それぞれホールの大きさも違うし、お見せするものが絶対に変わっていくと思います。まず名古屋公演を観に来ていただき、その後兵庫公演、東京公演とどう変化していき、ワインのようにどう熟成していくか…という視点で見ていただければ嬉しいです。

舞台はお客さまが観に来てくださって一緒に作っていくもの。ほっこりした楽しい気持ちで、「また来年も頑張ろう」「人生っていいものだな」と、思っていただけるようなお芝居になると思いますので、ぜひ劇場にお越しください。

インタビュー・文/咲田真菜
写真/谷中理音