2018年6月東京・兵庫にて上演!
『夢の裂け目』作品情報&演出・栗山民也からのメッセージ

2018.05.10

井上ひさし流 重喜劇
東京裁判、戦争の真実を問う

 

【作品について】
『夢の裂け目』は、2001年に「時代と記憶」シリーズのひとつとして書き下ろされ、続いて、03年『夢の泪』、06年『夢の痂』と、市井の人々の生活から東京裁判の、そして戦争の真実
を問うた「東京裁判三部作」が生まれました。その後、2010年に「人はなぜ戦うのか」をテーマに三部作を一挙連続上演、改めて、風化させてはならない記憶、国家と国民の関係を描き、今新たに「日本人とは」ということを問いかける作品として高い評価を得ました。そして、新国立劇場開場20周年の今シーズン、劇場の財産として継承すべき1本として、本作を上演いたします。今回はキャストをほぼ一新し、歴史的な裁判に巻き込まれてしまった庶民、主人公の紙芝居屋に段田安則を迎えました。笑いと音楽をふんだんに盛り込んだ、深くて面白い井上流・重喜劇、新生『夢の裂け目』の誕生です。

 

【あらすじ】
昭和21年6月から7月にかけて、奇跡的に焼け残った街、東京・根津の紙芝居屋の親方、天声こと田中留吉に起こった、滑稽で恐ろしい出来事。ある日突然GHQから東京裁判に検察側の証人として出廷を命じられた天声は、民間検事局勤務の川口ミドリから口述書をとられ震えあがる。家中の者を総動員して「極東国際軍事法廷証人心得」を脚本がわりに予行演習が始まる。そのうち熱が入り、家の中が天声や周囲の人間の〈国民としての戦争犯罪を裁く家庭法廷〉といった様相を呈し始める。そして出廷の日。東条英機らの前で大過なく証言を済ませた天声は、東京裁判の持つ構造に重大なカラクリがあることを発見するのだが……。

 

【栗山民也からのメッセージ】
この『夢の裂け目』の再演は、2010年4月新国立の小劇場において上演された。東京裁判を主題とした三部作の一挙上演の、一作目であった。その初日の終演後、楽屋でスタッフ、キャスト一同でささやかな乾杯があり、帰宅したのは深夜だった。まもなくして、一本の電話があった。そして、作者である井上ひさしの死を知った。だから、この作品のすべてが強く深い悲しみの記憶となって、今も全身に刻まれている。この作品のカーテンコールで、クルト・ワイルの「マック・ザ・ナイフ」が、歌われる。これは作者の指定で、その曲に「劇場は、夢を見るところ・・・」という劇場賛歌の歌詞が、井上さんによって新たに書かれた。だが、劇中では、夢のことごとくは、裂かれていく。そんな日本人の夢と、その後の日本人の罪、そして責任を綴った物語である。幾度となく、いろいろなことを思い返さねばならないと、歴史を刻んだ大事なモニュメントの前に立つような気分だ。